浦和フットボール通信

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【This Week】週刊フットボールトーク Vol.157(9/19)

数々の思い出を作った”国立” Jリーグの2ステージ導入に対して物申す。

椛沢佑一(浦和フットボール通信編集長)× 豊田充穂 (コピーライター)

椛沢:先週末は、FC東京戦が国立競技場で行われました。“国立”は、先日、開催が決まった東京五輪2020にあわせて、建て直しが決定しており、レッズのリーグ戦ではラストとなる国立での試合でした。このスタジアムは、レッズとしても数多くの思い出があります。レッズ初のタイトルとなる2003年のナビスコカップもここでの試合でしたし、二つの天皇杯タイトル。鹿島戦においても記憶に残る試合は、ここ国立で行われました。個人的には、レッズの試合を初めて観戦したのも国立での名古屋戦でした。入場ゲートからスタンドに入った時に、スタンドが真っ赤に染まっていて、真ん中に青々と茂ったピッチがある、という光景は今でも目に焼きついていますね。

豊田:私はJ初年度の清水戦から。サッカーの聖地で行なわれる埼玉・静岡の初めてのプロクラブ対決にはぜひとも立会いたいと考えていましたので。しかし当時のエスパルス主力・澤登正朗さん(現浜松大学監督)に縦横の活躍を許してしまい、森レッズは完敗……。ナビスコ制覇前年の2002年大会も印象深いです。直前に行なわれた日韓共催W杯を凌駕する「初タイトル獲得」を目指したレッズサポーターの熱気が最高潮。徹夜の並びの列が延々と伸び、千駄ヶ谷駅近くの東京体育館にまで到達してしまった。テレビクルーが取材に殺到する騒ぎになりました。それに驚いた鹿島サポーターが「レッズサポーターが馴れない国立競技場で有頂天」とネット上で揶揄したのですが、さっそく浦議メインに反撃の書込みが上がりました。いわく「浦和が国立競技場をホームに静岡と選手権ファイナルを戦っていたころ、鹿島の連中は鹿スタ建設予定地で畑仕事をしていたはず」……。あの両年のファイナルの国立風景は、URAWAの記憶に深く刻まれたと思います。

椛沢:あの2年連続の鹿島戦決勝では、1年目は初の決勝の舞台に、平静を装うとして、逆に浮かれていた部分があったかもしれないですが、2年目は、試合前に国立スタンドの8割を染めた赤白黒のレッズトリコロールビジュアルが展開されて、その瞬間でこの試合は勝ったと思えたものでしたね。そんな国立での思い出、感慨にふけっていると、東京のスタンドからはお馴染みの『You’ll never walk alone』の大合唱が始まります。それをかき消すようにレッズのクルヴァからは「好きにならずにいられない」の大合唱が始まります。

豊田:千駄ヶ谷駅周辺はガールズファッションのイベント引きで大混雑。女性のオーデコロンの空気をかき分けて歩く異様な参戦でした。両軍支持者のその合唱最中に入場するタイミングだったのですが、東京支持者の仕事仲間との観戦だったので例によって着席はアウェー席。連中の言葉を借りれば「カップ戦を除くリーグ戦では浦和に13連敗中。もういいかげん勝って欲しい。豊田さんのくやしがる顔が見たい」とか言っていましたが、東京応援席には「KAGAWA」ネームのマンUの赤レプリカ姿で入場してスチュワードに呼び止められている人も……。加えてあのユルネバ、何回聴いても音痴な気がするのですが(苦笑)。

椛沢:「おもてなし東京」や「祝東京五輪2020」の横断幕が拡がり、まあ、いつもの東京らしい雰囲気、そんな浮かれムードを打ち消す、レッズゴール裏からの歌声。そんな熱狂の雰囲気の中、FC東京戦はキックオフされました。3バックの真ん中に、山田暢久を入れて、阿部と那須のダブルボランチを組む布陣で、レッズは試合に挑みました。彼らのビルドアップからゲームを作り、試合の入り方としては決して悪いものではなかったと思いますが、今季幾度となくやられているリスタートから“安い失点”を前半だけで2つしてしまいました。マンツーマンで守っているわけですから、完全に相手が外れている中でヘディングをされているのは、選手はいい加減自覚をしないといけない。ゲームを自ら難しくしてしまったと思います。前半終了と共にレッズスタンドからブーイングが起きるほどのフラストレーションの溜まる前半戦となりました。

豊田:そうそう、ハーフタイムに東京のキャラ「ドロンパくん」がボランティアスタッフとと共に五輪のポーズを取ってバックスタンドからの撮影に応じたあげく、レッズサイドの客席に向かって最敬礼。拍手を受けるシーンがありました。でもそのサポーターたちは直後には切り替えて、後半に向けての「We are Reds!」を発声。セカンドハーフの立ち上がりにしかつかめないパワープレーの雰囲気を作っていたわけです。

椛沢:はい。気持ちを切り替えて、レッズ側のクルヴァからは、俺たちの力でこの試合を引っ繰り返すという強い意気込みと共に『ララ浦和』のチャントが続きます。それに押されるように、槙野、那須がリスタートから汚名挽回のようなゴールを決め、電光石火のごとく2-2の同点に追いつきます。

豊田:あの連続弾に繋げたレッズサポーターのヤマの作りどころには熟練を感じた。でも残念なことに、いまの浦和ではそれがピッチに反映されません。五輪決定の地元ムードに押された東京は、まなじりを決してこの一戦に臨んでいました。中位以下に甘んじている相手で日程的には自分たちの方が不利……という例によっての難しいパワーバランスを、サポーターが辛うじて支えたゲームだったと思います。

椛沢:振返ると、ここで一呼吸を置かずに畳み掛ける必要があったのかもしれません。

豊田:例によって選手には手厳しい意見に聞こえてしまうでしょうが、あれほどの守備連携の拙さから先行された2点を取り返しながら、追いついた時間帯を境に逆に攻守の切り替えがスローダウンしてしまう。これは流れを掴むべきゲーム運びとして、どうにも考えにくい展開なわけです。

椛沢:ここからは一進一退の展開となり、レッズも原口の突破からカットインでのシュートと決定的チャンスを迎えますが、決め切れなかったのが悔やまれます。試合終了間際に、またしてもリスタートからフリーになった平山にヘディングを決められて万事休す。1試合に3回も同じミスから失点を繰り返してしまっては、勝利の女神も微笑んではくれません。

豊田:タイスコアで迎えた終盤、原口に代えての鈴木啓太投入はピッチ上のイレブンに随分と消極的なメッセージとして受けてしまったように感じました。

椛沢:試合後、レッズサポーターからもブーイングが起きました。この安い失点をいつまで繰り返すんだというメッセージです。

豊田:はからずも他の上位チームも取りこぼしてくれています。残念ながらレッズも含めてのことですが、憎らしいほどしたたかなクラブがいまのJには不在。こういうシーズンを何とか拾い切る粘りを見せて欲しい。したたかにレッズの未来に繋げて行って欲しいです。

椛沢:またこの試合後には、Jリーグの2ステージ&ポストシーズン導入に対する抗議の横断幕やゲート旗などが数多く掲出されました。甲府戦に続くレッズサポーターの強烈な抗議ですが、今回は、川崎、広島、名古屋、仙台など、数多くの他チームサポーターも同様の抗議の意思を各地で示しました。「Jリーグは右肩下がりの現状で、厳しい。共に戦って欲しい」と言いつつも、それを支えているファン・サポーターに対して真摯に向き合っているようには、どうにも感じません。これまでも土日分催など一方的な変更で、被害を被ってきたのはサポーターです。コアサポーターと新規サポーターを両方満足させるのは難しいという言葉も聞かれますが、足を運びやすい日程に考慮をしたり、スタジアムなどの環境改善などを図ったりすることは、コアも新規も関係なく改善することで喜び人の方が多い。露出についてもコアサポーターがそれで嫌がることはないでしょう。そのようなことよりも先に、レギュレーションを変えて盛り上がりを作ろうという策は、安易に感じてしまうし、スタジアムに通い続けたサポーターを裏切ることにはならないのか。ポストシーズンまでのリーグ戦の価値が落ちれば、その試合にわざわざ足を運ぶサポーターが減る可能性も無きにしも非ずです。ユーザー視点がリーグ側には欠けていないか。そもそもそのことが、この右肩下がりを作り出してきているのではないかとさえ思ってしまいます。「Jリーグを再び輝かせるためにサポーターも強力して欲しい」ということであれば、それに対して拒否するサポーターはいないはずです。それでも反対されている現状は、なぜかリーグ側はしっかりと考えてもらいたい。昨日、Jリーグ理事会で正式承認をされましたが、この議論はまだまだ収まらないでしょう。読者の皆さんからも、これについての意見や、Jリーグを盛り上げる案などをご意見頂ければと思います。

豊田:折しも『オシムの言葉』でおなじみの木村元彦さんよりお誘いを受け、業界内でも熱烈サポーターとして知られる杉江由次さんの『サッカーデイズ』(白水社刊)の刊行記念パーティに行ってきたのですが、この問題に関してはJ各チームの支持層はもとよりフットボール系ライターの方々も怒りおさまらず……という風情ですね。改定案の中身の煩雑さやリスクは追い追いに検証するとして、このような拙速な手順で20年をかけて構築したトップリーグを揺るがす決定が下されてしまう現行のシステムに違和感を覚えます。沈静化でも待つつもりなのか、なぜか実施までに1年が空いている。再考を促す発信を試みたいと考えます。

椛沢:この2ステージに対して反対の意を唱え続けている浦和レッズの橋本代表もサポーターとこれについて語り合いたいということを、メディアを通しても、私もスタジアムでお会いした時にも伝えられているので、『タウンミーティング』としてその場をセッティングできればと考えております。東京戦に負けてしまいましたが、上位チームも総じて勝ち点を取りこぼし、立ち位置は変わらず、優勝へのチャンスは、まだまだ残されています。残り試合、本気で優勝したいと思えるか、どうか、これも目標到達への条件と考えます。まずは、埼スタの甲府戦からその意思を示したいところです。

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