浦和フットボール通信

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「あるべき総括」は為されるのか。 上野晃ロングインタビュー・完全版(後編)(2014/7/15)

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J史上初の無観客試合…… ホーム浦和のスタンドの未来を揺るがすアクシデントを検証する努力は、ワールドカップ終盤とJ再開への喧騒にかき消されたままだ。ホーム浦和のサッカー好きにとって、この問題の風化は、惨敗を喫した日本代表チームの状況よりも深刻な問題のはずである。この屈辱の試合の実況を「URAWAの足跡」を知る人物が担当してくれたことは、私たちにとってせめてもの救いだろう。おなじみのベテランアナが体感した「3.23」の示唆と教訓をウェブ用完全版でお届けする。 浦和フットボール通信編集部

「あるべき総括」は為されるのか。 上野晃ロングインタビュー・完全版(前編)

UF:上野さんの前回の本誌登場に際し、印象に残ったのは「“くさいものには蓋”という部分を残しておかないと周辺のマスメディアとして生き残れない」いう言葉でした。これは誕生以来のレッズの経歴を見続けて来た人にしか分からない部分でしょう。圧倒的な取材歴に照らし、改めてお訊ねします。何がここまでの事態を招き、レッズとURAWAの意識乖離に繋がっているとお考えですか。

上野:歴史を振り返っても、自身の発信を振り返っても、クラブとホーム浦和の行き違いは残されたままの部分があることは事実です。チームも変わる、ファン・サポーターも変わる。メディアも変わらないといけない。綺麗ごとだけではなく本音の部分の意見交換です。しかし、それを出す難しさも当然ある。望まない衝突や混乱は避けたいという思いもありますからね。そのさじ加減が非常に難しい。

UF:上野さんのキャリアに照らしてみれば、そこはお察しします(苦笑)。

上野:たとえば3.23を前にした淵田代表の表明にも、この問題に真摯に対応して行く決意は見えました。就任直後の新代表にすれば、古き慣習は根絶したいという思いがあることが分かる。新しいレッズになるというのは、そういうことと思います。ピッチ上にルールがあるようにサポーターにもルールはある。ホームタウンの財産であるレッズ観戦の場は楽しい環境を作り、家族ぐるみで楽しく応援できる雰囲気もなければいけない。

UF:しかしそこに至る「本質的な問題の処理」、すなわち総括を新代表以下のクラブは実行できるでしょうか。もちろんサポーターやホーム浦和の支持者サイドも、同じ重さの責任を負っているポイントを抑えての質問ですが……。例えばJ2降格が決まったシーズン後、大晦日の討論番組の件です。上野さんの「ファンと膝を交える舞台にクラブサイドも来てください」という呼びかけがありました。あれから十数年が経ちます。

上野:そう、そういう経緯を抜きにしては語れないんです(しばし沈黙)。たとえば我々のようなテレビ関連の人間、いわゆるメディアは、クラブとは「持ちつ持たれつ」の関係が避けられません。多かれ少なかれ運命共同体の立場にある。よって本音をぶつけ合うようなシビアな場面は、できれば避けて通りたいと考えます。存亡がかかる、たとえば今回事件のような問題に直面するまでは何とも持ち出しにくいテーマでしょうね。ただ、結論としてはこのハードルを超えなければ「レッズの熱」はよみがえらない。紆余曲折があった中で、地域密着を唄いながらホームタウンと距離や真摯に向き合うビジョンが足りない部分もあったかも知れないし、逆に曖昧さを良しとして残してきた面もあったかも知れません。

UF:本誌がこの指摘をくり返すのは、幾多の同様の危機に瀕しても「あるべき総括」がないまま過ごしてきた傍証を取材してきたから。クラブ、サポーター、メディア、そしてホームタウン自身も、深く認識しているはずのギャップが解決されていない状態が見えます。

上野:テレビメディアの立場からすれば、自省すべき点は多いですね。差別云々で盛り上がる時は一気に盛り上がるけれども、何を究明するわけでもなく発信を終わらせる。改善に向けての貢献など望むべくもない傾向は情けないと思えます(苦笑)。

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UF:それらレッズ周辺の要素が動員減少、ホーム浦和との一体感欠如という深刻なクラブ危機に繋がっているという危惧が拭えません。まあこれはレッズに限らず、多くのJクラブが抱えている問題ですが。

上野:メディアである我々はクラブとのホットラインを優先させてもらっている立場。しかし現状のままでは〝参考意見”を発信するだけの構図です。これは非常にデリケートな問題。自分の経験からいえば、窮地にあれば当然のことながらクラブのホームタウンや地元メディアへの依存度は増します。逆に勝って注目度が上がれば管理体制を強め、ハードルを高めざるを得なくなる。そう考えれば、逆にこの事態をバネにしなくてはいけません。さもなければ、これほどの問題を起こして制裁を受けた意味も無くなってしまうでしょう。

UF:もちろんクラブやメディアだけではなく、ホームタウンにも責任や求められる部分と思います。現実的な話をすれば、クラブとホームタウンが「有効な意識共有」を諮る舞台は、いまも昔もURAWAには存在しなかった……ということでは?

上野:そう思います。ホーム浦和自体のアプローチも始まらなくては……。日本人特有の〝ことなかれ主義”はレッズの改善には繋がらない。今回の教訓が生かされないと思います。

UF:たとえばアクシデントを教訓として改善に向かう動き、つまり十数年前の上野さんの番組企画の様な試みにはサポートが望まれるのでは?

上野:事なかれ主義では変われないでしょう。日本全体の空気感でもあるのかもしれないですけども。白黒つける時に結論を求める動きが出てこなければね。

UF:ホーム浦和にもそういう動きを後押しする空気やサポートする環境が必要と思います。周辺のフットボール好きたちからは「URAWAでさえプロクラブサッカーを支える環境が作れなかったら、Jリーグはどうなってしまうんだ」という声がある。

上野:改善に向かう行動を後押しする空気は不可欠。サポーター、チーム、メディアが一体となって、本当に「生まれ変わる」気持ちで進めていかないと先は見えません。

UF:ホーム浦和の「当事者意識」も気になる。その意識低下がホームタウンにもサポーターにもあって、相互の「おまかせ気分」の中で今回の事態が起きてしまった気がします。

上野:支持層がリピーターだけになっている危惧があります。Jリーグが地域密着や百年構想をうたう中で、真意はどこにあるのか疑問を感じます。我々テレビの世界で言えば「地上波の縮小」は痛手です。相撲のテレビ放映も疑問視されましたが、やれば支持層は拡大しました。テレビ観戦してこそ、スタジアムにも行こうと思う。行けば支持層、リピーター増加は望めるはず。固定客を守るばかりでは将来が見えません。レッズ戦が4万人で喜ぶような状況になってしまっては……(笑)。テレビを見ることで距離感が縮まり、信頼関係も築けるのでは?

UF:スタジアムの位置関係からも距離を感じる部分があります。勝たないと人が増えないという説を聞きますが、負け続けて人が増えていった浦和史もあるわけで。

上野:パスの出し手と受け手がいてシュートまで行けていたけれど、今はパスを出しても精度や方向が合わず、届かない。シュートまで行けない空気がある。

UF:99年の降格時にも動員は減りませんでした。現在にそこまでの雰囲気があるかは疑問です。駒場時代の試合後、サポーターの飲み会に選手がやってきて「負けて、すまなかった。次も応援をしてください」と語りかける場面が普通にありましたが。

上野:悪い慣習は断って、良い部分は継続して盛り上げる。そういう空気が距離感を縮めるテーマに繋がると思います。大原の取材の楽しみも低下しました。囲み取材がメインになるばかり……(苦笑)。回顧趣味ばかりでは前に進めませんが、回顧ばかりにさせる雰囲気も変えなくてはいけません。

UF:そのためには地域密着の理念のみならず、スポーツに対する価値観やフットボール観を共有する意識が欠かせないのではないでしょうか。

上野:それこそ懐古趣味ではないのですが……「スポーツ文化は歴史である」。前にもお話したとおり、これは私の持論なのです。レッズを蘇らせるにはプロセスを知るべき。その意味を皆で共有することがとても重要なことと考えています。

UF:となれば上野さんが実況するレッズ戦のテレビコンテンツは、ずっと地元に継承されて行かなくてはなりませんね。J2に降格した時も、トップリーグに戻った時も、そして「あの無観客試合も上野さんが実況をしていたんだよ」という逸話が、このホーム浦和のお茶の間では語り継がれて行って欲しいと思います。

上野:ありがとうございます。

<2014年4月、さいたま市浦和区にて>

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