浦和フットボール通信

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【レッズはなぜ優勝できたのか/豊田充穂】「レッズ優勝」をめぐる楽観、悲観、そして傍観。(2015/7/1)

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6月7日、清水戦。

レッズ史に刻まれた痛恨の無観客試合(2014年3月8日)から1年余。レッズイレブンは同じエスパルスを相手に、同じ「明日のトップ記事扱い」を確信させる大報道陣を前にしてキックオフに臨む。

リーグ優勝がかかったホーム戦。1年前のあの沈黙を帳消しにするゴール裏のコールとか、あの屈辱を跳ね返す超満員のスタンドあたりは当然に期待した。だが、やはり埼玉スタジアムはサポートのアクセルを踏み切れない。バックスタンド上段で聞くゴール裏中心部の声も、かつての“神レベル”の音量をとり戻せない。見上げる二階席には、レッズの大一番なら許されなかったはずの空白・・・・・・と、ここまで思いをめぐらせたところで「いやいや、こういう思いを否定しちゃいかん」と反省した。現状をネガティブに見ていても、それにメゲずにレッズの現場に立ち会っている自分を認めてあげなくてはと、どうにか気分を立て直す。

2シーズン制になろうとも昨季と同様である。「わりきれない思い」を抱かせながらも、われらがレッズは優勝争いをそつなく演じてみせる。スタンドから見守る筆者は同志のサポーター仲間と示しあわせ、ちょっと自虐的なレッテルを自分たちに貼ることでステージ終盤にのぞむモチベーションを維持していた。

「とりあえず今のレッズは勝てばOK! まして優勝なら文句ない。埼スタに通う価値はありでしょ?」 これは楽観論者。

「埼スタの空席が埋まらない。長年のファンがシーチケ手放してる。去年もそうだったけど、優勝争いをしてもこうなる理由はマジで考えるべきでしょ?」 こちらは悲観論者。

同志たちの言によれば、ここまでは許容範囲らしい。20年以上も互いの耳目で確かめてきたレッズの「クラブの継続性がない」「先発メンバー大半が他クラブからの移籍組」「地域密着も不じゅうぶん」「アカデミーが機能していない」等々の課題をネタに、楽観論も悲観論も戦わせることができる。問題は、そのレッズにまつわる議論さえ諦めてしまった人。すなわち“傍観論者”であるというのだ。

「今日みたいなヤマ場には来るけどサポートはもうしない。あんな思いまでして支えたレッズがどうなったか。一緒にいた連中は今もいるのか。それを“見届け”に来るだけ」

某同志のクールな自己分析を聞いたとき、今度こそ立て直せない気分に襲われた。それって、私もほぼ同類ではないか? 埼スタ通いは続けても、いつの間にやら傍観論者になりかかっている自身の姿に行き当たった。

清水戦、後半キックオフ。

携帯電話が鳴り、記者席上部にいる知り合いのライター氏が情報をくれる。

「入場者数は44,424人。こちらメインのアッパーもここより後ろはずいぶん空いてます。うーん、レッズ戦としてはやっぱ寂しいね」

思い返せばこの手の問題意識も、自分の中で薄くなった気がする。ライター氏のようにレッズを憂う同意を自分に求めてくれる同業者も少なくなってきたような? 楽観であろうと、悲観であろうと、やはり現場に立ち会う同志は大切にしなきゃ・・・・・・。今さらの感慨を突き破るように、関根貴大の投入で活性化された右サイドからの崩しが興梠に繋がり、右スミに吸い込まれる巧妙なゴール! 客席がどよめく。とにもかくにも1点。先制点の意味合いばかりではない。この日の「浦和のゴールシーン」には、私自身の特別な思い入れがあった。

レッズ優勝の可能性を受けて日本テレビから連絡を受けたのは、この清水戦の数日前だった。レッズ降格が決まった11.27の駒場のスタンド最前列で「レッズは優勝するためにいるのだから!」の檄を飛ばした少女。彼女に連絡をとり、同局番組【Going!】において清水戦の一日と11.27のエピソードを紹介したいのだという。<https://www.urawa-football.com/post/11697/

「ウチの大事なヒロインですからね。やすやすと明け渡したくない気分」

「本人次第ですよね? 彼女だって迷惑かも知れない。フットボール通信に載った時だって仮名だったでしょ?」

「でもこっちが騒ぐほどには、彼女的にはレッズに醒めちゃってたりして(笑)」

悪友サポーターたちの反応には、それぞれ一理があった。だが、私の不安材料はピンポイント。あの頃の駒場を、あの時の彼女の声と表情を、いまのテレビ局は忠実に再現してくれるのか・・・・・・その一点である。

「いや、再現うんぬんは別にしてもさ」

長い観戦づきあいのオヤジが勢い込んで口を挟んでくる。

「例のシーンがTV放映されたら、それだけでも快挙だろ? あの時代の意義はもちろん、そういう歴史があったことさえ知らない若いサポが増え続けているんだから」

少女の取材が決定した旨は、【Going!】の番組担当者氏からのメールで知っていた。あとは今日の勝利と慎三のゴールシーン、そして11.27のスタンド・・・・・・肝心のその映像を16年ぶりに地上波全国ネットに呼び戻せれば、「傍観論者」たる自分の罪ほろぼしにもなるだろう。44,424人のスタンドで私はそう思った。

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6月20日、神戸戦。

W2番ゲートからの入場時には、おなじみの飄々とした表情で観客の動きを見まもる淵田敬三代表の姿を見ることができた。ドローの結末だったが、記念すべきミシャの初タイトルはノエビアスタジアム1階席で見届けた。試合終了18時2分。アウエースタンドの作法に倣って目いっぱいに闘ったつもりだったが、どうやらBSのハーフタイムの中継画面に映り込んでしまったらしい。

「見つけました」 「ご家族連れ?」 「あれれ、レプリカも着ずに!」

携帯端末が「傍観論者」の参戦を暴く証言コメントを受信し始める。だが、帰宅してから開封したPC受信の【Going!】の感想メールには、まるで異質な雰囲気が漂った。レッズ援軍ならではのメッセージの熱。それは16年前に感じた臨場感を鮮明に思い起こさせた。

「番組しっかり観ました。1st優勝も嬉しいけど、刹那的なスター選手推しばかりのTV界にあって、浦和が浦和であった頃にスポットを当ててくれた番組に感謝したい」

「すっかり綺麗になっちゃったけど(笑)どん底だったあの頃に優勝をコールしてくれた6歳の彼女なら、姿も声もママみたいに覚えてます」

そして、これらの読者反応を送った件の日本テレビ担当者氏からは「番組舞台裏」を明かしてくれる丁重な返信が届いた。11.27の少女の映像はテレビ朝日がオリジナルであったため、随分と気を揉んだのだが・・・・・・ 日テレは天晴れ!だった。当WEBの記事採用が決まるなり、自社の膨大な映像ライブラリーの中から彼女の映像を探し出し、当時の浦和のエピソードが描ける確信を掴んだのだという。

(この項、了)

豊田充穂プロフィール

旧浦和市出身。コピーライター&イラストレーター。広告、CM制作の傍、フットボールに関するドキュメント『浦和レッズJ1戦記 生還』『浦和レッズ新たな戦場へ 帰郷』など執筆多数。「親子で読む科学絵本」の『僕は46億歳。 親子で読む、壮大な「地球史」カレンダー』などがある。

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