浦和フットボール通信

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浦和フットボール交信 – Vol.9~ネット上では見られない。「仙台戦」、市井の声。~豊田 充穂

豊田充穂浦和フットボール交信 Vol.9
~ ネット上では見られない。「仙台戦」、市井の声。 ~
豊田 充穂(コピーライター)

レッズサポーターが起したトラブルが報じられた仙台戦から3週間が経つ。この間、『浦和フットボール通信』村田要代表が椛沢佑一編集長と私に示してきた課題はシビアなものだった。同誌が地元サッカーフリーク向けの媒体“ファンジン”を名乗る以上、クラブの公式HPに掲載されたサポーターの行為4項目に対する総括、すなわち「各自が責任を持って検証した見解」を避けることなく当コラムにおいて発信して欲しいという内容である。

わき道の話題から入る。レッズにかかわる諸活動をしている村田、椛沢の両君をサポートし、浦和フットボール通信の刊行に関わり始めてから3年が経つ。
「ヘンな組み合せですよね。浦議管理人のかなめさんとゴール裏にいる椛沢さん。そしてコピーライターの豊田さん。どんな雰囲気の打合せで作っているんですか?」
こんな質問も何度かされたが、とにかく村田要(ネット上でのフットボールネタと評論、競技としてのサッカーに詳しい)、椛沢佑一(現役でゴール裏で活動している)、そして私(浦和サッカー史と広い年代のファン取材歴があり、スポーツマスコミと接触する仕事場がある)の3名を軸とするスタッフ。そんな制作陣が、レッズのホームタウンの片隅からURAWA唯一のフットボール・ファンジン(*1)の発信をさせてもらっている。
私たちは立場や年齢から考え方まで相当に違う。対立することも珍しくない(一緒にされたくない?という思いも強いが)。それでもこの共同作業が続いているのは、私たちのような異質の3人が壁を超えて連携することが、結果的にはホームタウンの率直な意見を自由な雰囲気の中で拾うことに繋がる……という思いがあるからだ。私たちの結束はゆるく、取材も手馴れているとは言えない。とりわけレッズ関連ともなれば、私たちの記事の多くが他メディアとは違う見解や結論に行き着く。だがそれもまたウチの持ち味と納得している。様々なサッカーへの意見があって、時に激しくぶつかりあい、そんな「市井の声」が途絶えることなく続く場所。それがURAWAなのだから。

(*1 既存メディアとは一線を画した場所からの発信を……。『浦和フットボール通信』はURAWA唯一のフットボール・ファンジンとして、ホームタウンの意志を広く集めることを企図して刊行が続けられている。 ★フットボール・ファンジンとは?= football+fan+magazineから創られた造語。サポーターや支持者、ホームタウン住民の評論や創作を広く掲載する市民メディア。クラブへの強い影響力も持つ媒体で、リヴァプールFCのファンジン『raotl』(Red all over the land) http://www.raotl.co.uk/ は特に有名)

●「サポートの原点」を見直すチャンスに!。
前回コラムで椛沢編集長はクラブの公式発表のタイミングも計った上で、仙台戦で起きたトラブルの経緯をリアルに再現したと思う。当然、その論旨には反発も必至だろう。村田代表も私も言いたいことはあるが、まずは幅広い年代の「その後のURAWAの肉声」を優先して紹介したい。3人の立ち位置においても、まずはそれが私の役どころだ。

* yahooのニュースで知りました。報道通りの行為があったなら、それは許されるものではない。でも、何より僕が感じたのは『浦議』のコメント欄の不気味さです。このコメントのために久しぶりに覗きましたけど……よそのファンの煽り目的の投稿があることは知っていますが、一見正論を書いているような人の意見だって首を傾げたくなりますね。ゴール裏のリーダー氏が名指しで批判されて盛り上がったりしていましたが、こういう場所でスポーツの精神性なんかを得々と説く人を、僕は絶対に信用しません。同じ場所で反論できるはずがない個人を、名前も立場も明かさない大勢が寄ってたかって責める……ネット全盛の社会では、卑怯とかアンフェアーという概念は飛んでしまうのかな。レッズサポーターの大半がこういう人ではないことは分かっているし、要さんにも申し訳ないけど。僕が教えている子たちには見せたくない画面でした。
(30代前半・男性。さいたま市内在住。幼稚園からサッカーを始めたが、大学時代に負傷してプレーヤーとしてのキャリアを断念。仕事のかたわら県北部のクラブで少年たちの指導に当たっている)

「浦議」にとっては耳の痛い指摘だろうが、頷ける部分も多いと思う。今回の協力に際しては、積極的に名前も立場も明かしてコメントしたいとする人も多くいた。問題にからむ諸事情を考えればその希望には添えないが、古くからの知り合いとして紹介させてもらえば、この意見を述べた男性は旧浦和市生まれの32歳。大いなる熱意のもとに独自の立場からレッズとホームタウンのサッカー発展を見守り、支えてきた人物だ。そして発言や経歴からも分かる通り、彼がレッズ戦のスタンドを訪れることもネット上の掲示板に書き込みをすることも稀である(彼の土、日曜の予定は、大半がクラブでのサッカー指導に費やされる)。URAWAのサッカー好きの見識はネット上、あるいはクラブやスタジアム周辺にばかりあるものではないということだ。
次いで、宮城スタジアムに赴いていたベテラン支持者の証言も紹介しておこう。J発足以来の熱心な女性サポーターでレッズを紹介するメディア発信も多い著名人である。

* 混雑を避けて早めにスタジアムを出たのでトラブルの件は帰るまで知りませんでした。ペットボトルにバス包囲に差別発言? 事実ならば許されないことでしょうけど、仙台の警備と場内誘導だってひどかったけどなぁ。客席に巨大な緩衝帯を設けているのにそれを挟んで両軍サポーターが混在し、肩を寄せ合って座らされている。ちゃんと分けて誘導しないのですかと現場担当の方にたずねても、「私に聞かれても分からない」という回答でした。ユアスタの客席配分をそのまま宮城に当てはめたための混乱と聞きましたが、こういう運営の不手際はニュースネタにも問題にもならないのでしょうね。帰宅後、浦和系のネットの掲示板を見ていて悲しくなりました。初タイトルのナビスコ決勝でピッチに降りてしまったサポーターが攻められていた図式にそっくり。サポーターが代替わりして巨大化すれば、信頼関係を保つのは難しい。これで裁定次第ではまた「浦和はサポーターに甘い」ということになってしまうのかも。でも……私は今でも自分の目で見たわけではない報道内容やネット上のウワサよりも、ずっと一緒にレッズを応援してきた浦和のゴール裏を信頼するスタンスです。

そして、以下に紹介するコメントは……ホームタウン周辺で集めた意見の中でも、こころに沁みた。URAWAの思いを深く投影した意見と思う。

* レッズが戦い、レッズサポーターがサポートする。そういう素晴らしい場所が私たちのURAWAにある……この事実に対する謙虚な喜びとか感謝の思いが私たちの中で薄れてきているのでは?という危惧がありますね。この原点を忘れてしまったらレッズはレッズではなくなり、レッズサポーターはレッズサポーターでなくなります。クラブの弱小時代から自然発生的に継承されてきたゴール裏の『スマートな不良性と熱狂』という矜持も、ホームタウンに理解されなくなってしまうでしょう。浦和サイドに言い分があるのは分かっているけど、私たちのそれぞれが“サポートの原点”を見直すチャンスにできたらと思います
(40代前半・女性。旧浦和市生まれ、都内在住。J創設以来のレッズサポーター)

■「ひわい」「罵倒」「罵声」「暴徒」「野卑」、そして「見苦しい」……。
広告と出版という自らの職域に照らして「差別発言」についても触れなくてはならない。各国のスタジアムで、それこそサッカーの風物詩のように聞いた自身の体験があるが、むろん愉快なものでも許されるものでもない。W杯イヤーに改めてFIFAの通達が確認されていることには理由があり、今日のこのスポーツの国際的な位置を考えればレッズ支持者が今回決定を重く受け止めなくてはならないことは当然のことと思う。
ただし……私のホームグラウンドであるマスコミ界においての“自戒”も込めて、今回報道に関してこういう業界内部からの肉声もあることを付け加えておく。特殊なエリアとはいえ、これも「市井の声」である。

* 「ひわいな罵声」に「監督を罵倒」に「“暴徒”」「野卑な狂想曲」そして「見苦しい暴動」「弱腰」に「殺ばつ」ですか。ううーん、恨みでもあるのかしら。「差別発言」の告発なのに、記事の方にも差別意識があるような……。コミュニケーションのビジネスに携わる立場から言えば、原稿用紙1枚ちょっとの文章中にこれほど攻撃的なフレーズを並べた記事というのはめずらしいですね。これ、普通のスポーツ紙が出した記事なんですか? ○○スポじゃなくて? どんな「差別発言」だったんだろう。すごい正義漢クンで熱くなってるのかも知れないけど、客観的に事実を伝えるという私たちの原則を考えたら、どんな場面を見たとしても私はこうは書かないなぁ。 (30代女性)

* 差別発言への指摘がなぜ今回で、なぜレッズ戦なのか。加えてその言葉がどのようなレベルのものだったかも永遠に当事者にしか分からない。まあ、レッズについてこう書けばアクセスは上がるという背景があるから……微妙ですよね。スポーツのためとか、日本サッカーの未来のためとか、能書きならいくらでも後付けできる。しかし、レッズとともにJ人気を盛り上げた超名門クラブが窮地に陥っている折も折、その原因の大半を作った親会社グループの記者がよく言うよね(笑)。浦和サイドはアタマに来るだろうけど、それだけレッズは注目度が高いということ。キミらが大人しくないことも確かなんだし、有名税と思って諦めなさい! ガンバの事件の時にも学習したでしょ? (50代男性)

二人とも有名出版社で活躍中のマスコミ人。いずれもレッズ支持者というわけではない。ただ、「注目度や部数アップだけに邁進している現状の日本のマスコミでは、スポーツもスポーツ文化も育てられない」という共通認識のもと、普段から意見交換等をさせていただいている方たちだ。私のような一介のサポーターの取材を、本件ソースを発信した記者氏の報道と並べるのは礼を失するだろうが……。記者氏が宮城スタジアムで取材した事実と同じく、私が都内有数の出版エリアで確かに耳に収めた言葉である。

(第9稿 了)

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