浦和フットボール通信

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浦和と三菱、フットボールの伝承2 新田博利インタビュー変貌する「浦和レッズ後援会」の新視界。

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激戦をのり越えたレッズはリーグカップと年間勝ち点1位の座の奪還を果たし、懸案の浦和レッズ株式は三菱重工を主体とした売却の可能性が報道されている。本誌読者と浦和レッズ支持者からは「現在のレッズ後援会の動向は?」との声も聞かれるシーズン終盤となった。ホーム浦和とレッズの絆を辿るなら、このキーマンの声は外せない。待望の地元復帰から二年半、新田博利氏に現状と展望を訊いた。

Text&interview by Mitsuho Toyota
Photo by Kazuyoshi Shimizu、Yuichi Kabasawa

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新田博利(Hirotoshi Nitta) プロフィール
1950年埼玉県生まれ。現役時代は、慶應大学サッカー部、日立でプレー。90年浦和青年会議所が中心となって発足した「浦和プロサッカー球団をつくろう会」のメンバーとしてレッズの浦和誘致に大きく貢献。2000年から浦和レッズのフロントスタッフ入りして、06年から同取締役、08年には同常務取締役となり、ホームタウンの活動などを主に担当した。09年から栃木SCの代表取締役専務兼GM。2013年から日本プロサッカーリーグ管理統括本部企画部J3準備室J3アドバイザーを経て、14年から浦和レッズ後援会の事務局長、16年に同専務理事に就任している。

勝っても会員と観客が減少する現状。

UF:浦和レッズ後援会は2016年から一般社団法人としての新たなスタートを切りました。次のステップに進まれた背景や意図をお聞かせください。

新田:私が地元に戻り浦和レッズ後援会に来てから2年半になります。当初の1年間は会の現状分析をさせて頂きましたが、まず気になったのは会員数減少、それも個人会員の低迷です。会員数のピークは創成期の「Jリーグバブル」の時代と、レッズがACLを制した2007~2008年前後のチーム全盛の頃のふたつに別れる。前者には地元プロの誕生を待ちわびていた個人会員が一気に登録くださり、後者の時期にはアジア王者のインパクトから法人会員を多数お迎えする状況がありました。ところが現在は……チームの成績が良いにもかかわらず会員数が減って行くという現実がある。ここは分析をしなければ、と考えました。

UF:結果や現状に応じての組織変化、ということでしょうか?

新田:データを見ても明らかですが、会員の方々の年齢は毎年1歳ずつ確実に上っています。それが意味するところは、金額は別にしても「とにかくレッズに協力したい」という気持ちのままに会費を負担して更新を続けている会員が多数おられるということ。裏を返せば、新規会員の獲得には苦戦を強いられている傾向が浮かび上がります。

UF:同様の空気は、観客動員やサポーターについても感じられます。

新田:とりわけ今年は会員数を大きく落としました。レッズの新たな会員サービスとして『REX CLUB』が創設されたことも原因の一つでしょう。後援会は会員特典の充実によって会員拡大を目ざし、それが結果的に浦和レッズを支えるという図式を旨として活動して来た。実情としてはファンクラブ的に解釈して入会される方も多かったと思います。そんな状況下で『REX CLUB』が登場すれば、後援会よりも多くの特典が提供される新サービスにファン、サポーターの目が移ることは当然の成り行き。では、そうなった時に後援会はどうなるのか……将来も見据えて会のスタンスや位置づけを見直すべき、古くからの会員の方々の要望に応えるためにもそうすべきという結論になりました。

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REX CLUBとのスタンス、主旨の違いを鮮明に。

UF:おなじみのスチュワードの貢献や話題を呼んだ後援会ツアーなど、サポーターと並んでJの先駆的な存在だったレッズ後援会がピンチに立たされていたわけですね。

新田:私たちの会則は筆頭が「浦和レッズが世界一のクラブなることを支援する」で、二つ目は「青少年の健全育成とスポーツを通したまちづくり」。これが2大テーマです。でも実体としては創設以来ずっと会則の一番目、レッズをサポートすることに主眼において来たことは間違いありません。しかしクラブがREX CLUBやレッズビジネスクラブなどを展開する現在にあっては、後援会も立ち位置を再考し、スタジアムに軸を置くクラブに対して、より浦和・埼玉という「地域」をキーワードに再出発すべきでは?という指針に至ったわけです。

UF:なんとも重要な場面での登板……というか、私見を言わせてもらえば新田さんの復帰が間に合って良かったなという印象がある(笑)。

新田:我々は今こそ会員の絆づくり、仲間づくり、生きがいづくりを実現する方法を模索しなくてはなりません。入って良かったと感じてもらいたいし、会のサービスや活動が結果的にクラブも支えていることをもっと実感できる組織にしたいです。

UF:一般社団法人の法人格取得もひとつの節目になると思いますが……。

新田:後援会スタートから20年、レッズというブランドも広く認知されたいま、会の理事長責任なども考慮すると公的団体にすべきと判断しました。一般社団法人の組織として名称は「浦和レッズ後援会」。浦和の文字を入れています。その名の通り後方から支援する会ですから、地域の皆さんにレッズをどう活用して頂くか、Jクラブのレッズが浦和・埼玉にあって良かったと思ってもらえるのはどんな場面か……つまるところレッズを地域にどう落とし込むか、レッズをどのように地域の存在にするかといった模索を、地元の力も拝借しつつ続けていく枠組みです。

UF:ファン、サポーターの目からは見えにくい部分もありますが、我らがレッズの将来を考える上で欠かせない役どころと思います。

新田:他クラブならクラブスタッフ主導が当たり前という状況の中で、当会のように独立採算、一般社団法人の立場で活動を維持する会はほとんどないと思います。その意味からも事務局機能の強化は重要。新たに常勤スタッフも置き、クラブの状況とも連携した運営ができる体制作りを固めている最中です。

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クラブの地元史の象徴・レッズランドを輝かせたい。

UF:当面でスタートする具体的な活動を伺います。

新田:後援会とレッズランドの関係がより強固になり、レッズファミリーの集合場所的な地域拠点として活性化するプランを考えています。たとえばレッズ選手OB組織化と、連携したのイベント等は当面で始められるはず。以後の当会のキーワードは「地域」ですから、たとえば健康をキーワードにコミュニティー、ソサエティーを作り、浦和・埼玉の人々が集えるスペースを提供することもできる。ただ、これは近しい地元感覚を持ち合せなくてはできない仕事ですね。チームが世界を目指す目標を掲げる中で、我々がそういう部分を補完して行ければ、と考えています。

UF:クラブとホームタウンのコミュニティーとして、レッズランドはレッズ史を象徴する財産と思います。

新田:以前の会則にはレッズが「世界一のサッカーチーム」となるため、と書かれている。それを「世界一のサッカークラブ」と改訂しました。チーム成績のみならず、クラブ運営もサポーターを含めたレッズファミリーが総力あげて世界のトップを目指そうという会の意思表明です。そんな流れから、青少年の健全育成とスポーツを通じての街づくりに関わる手始めとして『レッズランドカップU-10』の大会をレッズランドとの提携で開催したりしています。

UF:レッズランドがらみのお話で言えば、「Jリーグの理念を実現する市民の会」幹部として活躍されている井原正さんは井原勇さん(旧与野市市長)の長男で、新田さんの小・中学校(埼玉大学附属)の後輩です。

新田:本当ですか? いや、ご縁が深いなぁ(笑)。勇さんの借地提供のご努力がなければ、この地元にレッズランドが生まれることはなかったと思います。よろしくお伝えください。レッズランドはJのホームタウンにあって日本初の”スポーツシューレ”を具現化する施設になる可能性がある。近隣に秋ヶ瀬公園や桜区体育館もあり、身近なスポーツエリアとして魅力あふれる日本のスポーツシューレになり得るでしょう。これもJの理念を具現化する目標と思います。

UF:その「Jリーグの理念」に照らしても、Jクラブが地域に溶け込むためには絶え間ない相互努力が必要なことが分かります。アカデミーに関しても親御さんや指導者が安心して子どもたち、つまり地元の若い才能を預けられる環境をクラブ、地域が一体となって作っていく必要があると思うのですが。

新田:それは重要な要素です。たとえばレッズのアカデミー出身者でJ2、J3で活躍している選手は数多い。当人たちの言を聞いても、浦和に在籍していた経験が貴重な財産になっていることが分かります。大切な将来人材である彼らのためにも、レッズランドを中心に「戻ってこれる場所」があるということが理想だと思います。こういう活動はレッズファミリーの再構築に欠くことのできない役割を果たすのではないでしょうか。

UF:それはレッズのホームタウンでありながら、浦和・埼玉のサッカー界が達成できなかった永年の夢でもあると思います。

新田:私はクラブのホームタウン部に所属していたこともありますが、クラブを離れてみて浦和レッズの魅力を深く再認識しています。清水勇人さいたま市長とは「自転車もマラソンも良いけど、やはりここは゛サッカーの街さいたま”ですよね」という話をさせていただくのですが、これだけ熱くクラブを支える雰囲気がある街は他にはないのです。だからこそ浦和レッズはJを牽引する存在になることは使命だと思っている。後援会のテーマである「スポーツを通じたまちづくり」は、地域の方々とレッズの絆があってこそ達成されます。それはレッズのためだけではなく、日本のスポーツ文化醸成にも直結する将来ビジョンと言えるのではないでしょうか。

(2016年10月 埼玉スタジアムにて)

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