浦和フットボール通信

MENU

VIPインタビュー「浦和レッズ 予測された窮地 [1] 島崎英純×豊田充穂 」(10/21)

「私とGMと監督以下、何よりもコミュニケーションを心がけてレッズのこの難局を乗り切りたい。改めて皆さんのご助力をお願いする次第です」―――記憶に新しい真夏のTalk on Together(以下TOT 9月7日)でサポーターに向けて発せられた橋本光夫社長のメッセージ。だが、そのわずか5日後に同じ壇上にいたGMは解任され、1ヶ月後には監督もまた唐突な辞意表明の後に解任された。ちなみにその間の浦和レッズのリーグ戦成績は、計らずも「残留争い」のライバルとなったモンテディオ山形戦、大宮アルディージャ戦の敗退を含む4敗1分である。各方面から再三指摘されてきたレッズとホーム浦和の狭間に存在するミゾ。それはJ2降格という大きすぎる代償となって私たちの前に迫って来ている。(浦和フットボール通信編集部)

【ピッチ上にも見える「迷走」】

椛沢:近年のクラブ情況を憂うレッズへの提言は、本誌がさまざまな角度から識者に質して来たコンテンツです。それだけにいま迎えている「残留争い」という現実は痛恨と言うしかありません。今日は99年降格当時にはレッズのドキュメントも執筆していた豊田充穂さんに、レッズ現状に最も精通する立場にあるジャーナリスト・島崎英純さんへの検証インタビューを担当していただきます。

豊田:島崎さんに確認したいことを山ほど抱えたまま、こんな大変な局面にまで差しかかってしまいました。時間は大丈夫ですか? こうしているうちにも、またぞろ想定外のクラブからの発表があるのでは……。

島崎:本当ですね(苦笑)。まさかの降格危機ですが、こうなり得る伏線はこの数年にわたって見続け、感じ続けてきただけに私自身も何ともやりきれない。GMが代わるにしろ監督の去就にしろ、重要な決定事項は内部でも予測ができない現状の様です。

豊田:サッカーはフロントまで含めた組織の縮図がピッチ上に現われます。たとえば先日のリーグ戦、大宮とのリターンマッチ(10月15日 29節)。入場シーンとかCKを蹴るためにフラッグまで来る場面で、スタンドから見える選手の表情や動きに前向きな覇気が感じられないのです。むしろわれわれ客席の方が緊張モードに入っている様な……。目がうつろというか、ネガティブな硬さばかりがチラホラ見えて「これはチームとして足場が固まっていない部分を抱えているのでは?」と思わざるを得なかった。そこを跳ね返すサポートが埼玉スタジアムの持ち味なのでしょうが、夏のTOTを皮切りに状況証拠が出そろい過ぎていますから。こうなるとスタンドサイドとしても熱い雰囲気を作ることが一気に難しくなってしまう。

島崎:そういう現象は当然にクラブ状況が影響していると思いますよ。先日のペトロビッチの表明にまでいたる一連の内部の動きを見ていると、率直に言ってプロクラブを運営する体をなしていないと思える部分があります。その現状に照らせば、大宮戦の負けというのは今あるレッズの限界を象徴していると考えますね。

豊田:僕はリーグ戦の緊張が加わるとしても「大宮とは悪くても引き分け」くらいに思っていたんだけどな。なのに観客の大半を味方にしているはずのレッズが不完全燃焼のまま0-0で進み、終盤も終盤の83分に警戒していたはずの敵エースに決められる。ある意味レッズらしいのでしょうが(深い嘆息)、まるで絵に描いたような……。

島崎:大宮のゲームそのものだったでしょ? いや豊田さん言われたように、記者として客観的にレッズを見続けてきた僕から見ても、戦力と現状から分析すればあの時点のレッズとアルディージャはドロー予想が妥当ですよ。でも現実は違った。こういう(残留争いという)ケースの経験があり、想定もして準備してきたのは相手の方。そんな展開予想もスカウティングも組織として蓄えて来なかったのがレッズ、ということなんです。10年以上も残留争いとは縁が無くJ2を経験している選手となれば暢久だけ。長いスパンに立てばそこを補う選手補強は何としても必要だったことは見えていたのに。

豊田:実際には出してしまったキープレーヤーだけが2人、いや3人……。

島崎:それも豊田さんや相良さんが言われている「URAWAへの思い」に満ちた田中マルクス闘莉王や長谷部誠といった駒ですよ。そこで穴を埋める補強が明らかに必要だったにもかかわらず、結末はご覧の通り。こういう衰退の流れの中で「予算縮小でも黒字へ」というソロバン勘定の号令だけが割り込んでいたわけです。いまさらですが、残留を争うようなピンチにあって現場にリーダー的存在が欠けている現状は本当に痛い。

豊田:ファンの間で燃え上がってた「スタイル継承」云々どころではない不手際を重ねてしまった、ということですかね……。



島崎:ペトロビッチ監督招聘の議論はもはや出つくしていますが、彼が目ざしているサッカーは当初から去年までのスタイルとはまるで違うものでした。これはファンが見ても明らかだったはず。でも何となく選手は(元代表や年代別代表が)揃っているようだし、ペトロもオランダのライセンスを持つプロ。「大丈夫なのでは?」という雰囲気がクラブ内にあり、この期におよんでもイレブンに何が何でも勝つ気概がかもし出せない遠因になっているかも知れません。まあ、僕たち取材サイドだって「まさかここまでとは」という気分もありますが(笑)。

豊田:私もシーズン前にペトロビッチコネクションを探って、昔スポーツナビゲーションでご一緒したことがある中田徹君(サッカージャーナリスト)に連絡を取り、彼のレッズ監督就任に際しての原稿をお願いしたのです。そうしたら単数年契約で応じるまでの経緯やペトロ自身の就任を喜ぶインタビューは臨場感たっぷりにリポートしてくれたのですが、中田君自身がどういう予想をしているかに関しては回答なし。無遠慮にそこを突っ込んだら、「レッズのサッカーの指針が見えないし、何を求めてペトロビッチにオファーを出したのかが理解できません。よって成績は予想できない、としか言えないんです」という追伸コメントをもらってしまいました(笑)。

島崎:いやぁ、分かるというか、在オランダのライターとしては当然の回答と思いますね。

豊田:ヨーロッパでの監督の受注発注を現場体験しているジャーナリストから見れば、レッズのペトロビッチへのオファーは予想や評価の範疇から外れているものだった様です。

島崎:いまやレッズの現状の煽りを受け、浦和周辺では「オランダサッカーは駄目だ」なんていう声まで高まってますからね(苦笑)。あれはオランダサッカーではなく、ペトロビッチの心に描いているサッカー。ファンハール監督がアヤックス時代に作っていたスタイルに近いのではないかな。いまのレッズのサッカーを例示してオランダサッカーが否定されたりしたら、それこそ現地リーグの戦術の変遷を追っている中田さんにとっては耐えられないことでしょう。

豊田:ううむ、過失の余波がさまざまな方面に及んでしまう。

島崎:こういう内部経緯を公にすることは問題解決にならないし、ジャーナリズムのあり方とは思わないので僕は記事にはしません。でも、クラブに面と向かって厳しいことは言い続けてきました。そういう役回りにはいい加減疲れてもいるけど(苦笑)。ただ先ほど豊田さんも言われた通り、オフィシャルの決定がギクシャクしてゲームにまで影響が見えるとなれば、我々が書くまでもなくレッズを見続けているサポーターであれば誰にでも実情は見えてしまうでしょう。逆に古くからの浦和のサッカーファンでもある豊田さんに伺いたいのは、こういう現状をベテランのレッズサポーターたちがどう捉えているかという点です。

豊田:いや、それはもう冷めた見方ですよ。椛沢編集長の世代なら福田や岡野に憧れて応援した原体験があるから思い入れも熱くキープできるのかも知れないが、僕らくらいの世代になるともう駄目ですね、僕以外は(笑)。気持ちは強く持っていますが、「落ちたのに学んでいない」「相変わらず何をやっているんだか」という同世代の声にさらされるのはこたえます。ただね……彼らもクラブとの一体感を実感できれば立ち上がる。そういう時のパワーはご存知の通りですよ。編集長以下の世代にも負けていない。返して島崎さんに伝えたいのは、それが出来た時の浦和レッズは記者の方々が拠り所にする戦術やフォーメーション、監督論といったものを超越したスケールを見せます。

島崎:そこは納得ですね。自分もレッズに関わるジャーナリスト経験を積むにつれ、そういう面が前にも増して看過できない要素だということを感じるようになりました。いままでのレッズの歴史を見ればそういう側面が試合結果の中に確実に存在しますし、福田正博さんもいまだに強調する部分ですから(笑)。

豊田:しかし私にとっても久方ぶり、それこそ降ってわいたように戻って来た「降格の恐怖」です。埼玉スタジアムのスタンドで実感したのですが、やはりカップ戦のイメージなんてそうそう継続することはできないですね。代表戦に例えるならキリンカップとワールドカップ予選くらいに違う雰囲気にさらされてしまう。戦術的なものは島崎さんのメールマガジンで深く理解できたけど、それにしても勝点ありきのリーグ戦というだけで、あそこまで対策を講じられてしまうものですか?

島崎:いや、リーグとカップ双方で戦った大宮は別として、その後にぶつかって退けたセレッソとガンバの両大阪勢。あの2チームの戦術が今にして思えばアダとなっていると思います。あの2チームはカップ戦という事情も踏まえ、守備ブロックを固めることなくボールを回しながら攻めて来てくれた。つまりレッズにすれば中盤でボールを奪い、例のデスポトビッチとセルヒオの2トップへ素早くボールを供給するチャンスが与えられたわけです。逆に今年のレッズは、守備ブロックを固められてボールを持たされたらおしまい。攻め手を失って得点が望めなくなってしまうんです。

≪以下、次号に続く≫

-島崎英純- Profile
1970年生まれ。東京都出身。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当記者を務める。2006年8月よりフリーとして活動し、現在は、浦和レッズ、日本代表を中心に取材活動。浦和レッズマガジン編集長としても活躍。2010年から個人メディア「浦研」を立ち上げ、2011年には浦和レッズOB福田正博氏を迎え入れた「浦研プラス」を立ち上げ、独自に鋭い発信も続けている。

ページ先頭へ