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VIPインタビュー「浦和レッズ 予測された窮地 [2] 島崎英純×豊田充穂 」(10/27)

5試合を残して降格圏内。J初采配までの準備期間は2日間のみ。相手は優勝およびACL出場を目ざすマリノスで、舞台は敵地・日産スタジアム……。考えうる限界を超えた悪条件下でレッズ指揮官の就任要請を受け、逆転で勝点3を手にするという“快挙”を演じた堀孝史新監督には最大級の賛辞と謝意を捧げるしかない。
だがクラブ内の混乱はいまだ沈静化されず、J1死守に向けたチーム状態も予断を許さない苦境にある。Jクラブ史上初のアジア制覇からわずか4年。ここまで浦和レッズを凋落させた要因は何か。そしてこの最大の危機を回避する道すじはあるのか。今季のレッズの最終局面を占う対談第二回をお届けする。
(浦和フットボール通信編集部)

【結果にかかわらず、この経験を糧に】

椛沢:非常に苦しい情況の中で堀孝史新監督が率いるレッズが始動し、敵地日産スタジアムで横浜Fマリノスを2-1で倒すという見事な逆転劇を演じました。しかし残留を目ざす厳しいチーム情況に変わりはありません。わずか2日間という限られた時間の中でフォーメーション変更を行い、一定のチーム連携を復活させた堀さんの手腕には敬服に値します。しかしプロリーグのセオリーから見ればおよそ考えられないタイミングでの監督交代劇は、混乱したままのクラブ事情を露わにする要因ともなりました。この難局を乗り越える術はあるのか……。先週に引き続き、豊田充穂さんから島崎英純さんにレッズ現況と危機脱出への方策を質していただきます。

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豊田:先週のお話で、こうして残留争いに引き込まれた後のレッズの経験値のお話しがありました。実戦の中で島崎さんが見極めた当面のライバルとレッズの戦術格差を整理してもらえますか。

島崎:ヴァンフォーレ甲府(佐久間悟監督)、アルビレックス新潟(黒崎久志監督)、大宮アルディージャ(鈴木淳監督)あたりが近しい勝点で並ぶライバルになるでしょう。それぞれが残留争いを視野に入れたチーム作りと戦術をキチンと用意しているクラブです。特にリーグ戦の戦法においてはこれが徹底している。まず守備から入って先に失点しないことがテーマ。守りのブロックを固めて0-0を維持し、あわよくば先制点も狙う。その筋書きのためには戦力を大幅に守備に割くことを厭わないのです。で、才能と経験を持つ特定のフィニッシャーを前線におき、勝負どころの攻めは彼らだけに託す。“理想のサッカー”なんてものは厳しいリーグ終盤戦に介在させないチームばかりです。

豊田:漠然と理解していたけど、改めて解説してもらうとイヤな相手ばかりだな(苦笑)。

島崎:この3チームの前線にはその手のゲーム展開を予想して外国籍の点取り屋が備えられ、トップスコアラーとして君臨しています。大宮には記憶にも新しいラファエル。甲府にはパウリーニョと日本人ながら助っ人級の高さを持つハーフナー。新潟にはブルーノ・ロペスとミシェウがいる。守備ブロックに8人までを注ぎ込んでも、彼らだけで得点できる可能性は高い。そこに賭ける「負けないサッカー」を貫徹する意識と体制もできている。これは甲府あたりは徹底してクラブ全体で共有していると思います。はっきりしてるんですよ、決断が。

豊田:対して浦和は、と言えば……。

島崎:なにしろ強化と結果の双方を追求し、目標は優勝ですからね(苦笑)。ペトロビッチ政権の名のもとで大きすぎる看板を掲げ、現実を見ない戦術、選手の力や特性にそぐわない用兵で実現できそうにないサッカーを目ざしてもがき苦しんだ。このギャップを修正する潔さを持てないままここまで来てしまった印象です。

豊田:あげくに分相応の「残留力」をわきまえたチームとのマッチレースに巻き込まれてしまったということですね?

島崎:そういうこと。相手は理想のサッカーとか魅力あるサッカーとかはできない立場を始めから自覚しているクラブばかりです。相応のチーム作り、ペース配分、戦い方を心得ている。レッズがかなり苦しいと思える理由はここにあります。

豊田:ただフロントと監督の責任は脇においたとしても、もう少しレッズのプレーヤーの能力で打開はできなかったのでしょうか。僕は椛沢編集長とのメルマガのトークでも、何度か選手自身の奮起も期待して来たのだけど……。

島崎:少なくともペトロビッチが監督で、その政権を選んだ現状までのクラブの意識では難しかったでしょうね。たとえばドローゲームの経過を見れば如実です。攻撃的サッカーをいくら標榜しても、1点先行されれば追いつくまでが精一杯。過酷なリーグ終盤戦においては甲府や大宮の方がはるかに勝つ可能性があるサッカーが出来ていました。前監督自身の戦術解説を聞けばそれはさらに明白です。選手たちにはバックラインを上げてコンパクトに、それぞれが前線から積極的に守備をして敵陣の深い位置でプレーさせると言う。これは無謀でしかありません。キープレーヤーを何人も移籍させたのに満足な補強をしなかったいまのレッズが、こんな戦法を採用し続けたらどうなるか……。リスクが高いことは明らかだったんです。先行されればそのまま負けパターンに陥る、絵にかいたような悪循環に嵌ってしまっていたわけですから。

豊田:ううーん。伺うほどに責められるは前任監督ばかりではないということですね。チーム現状を完全に見誤るミスを犯す。そのミスに気づいても改善策を見つけられない。見つけたとしても組織として舵を切る決断がない……。こういう連鎖があったとなれば、レッズおよびレッズ周辺はやはり根ぶかい問題をいまだに抱え続けているということでしょう。

島崎:実はリーグ再開の頃の展望で福田さんと意見の対立がありましてね。対戦日程を見ながら「少なくとも仙台には勝たなくては」と私見を言ったら、福田さんに「ジャーナリストとして簡単にそんなこと言って良いの?」と叱られた(笑)。「相手は何年もチームを手塩にかけてきた監督が率いるチーム。新米監督で臨むレッズが、そこに簡単には勝てるという意識を持つこと自体が間違い」と。実際に福田さんの懸念した通りの結果になって来ているわけですけど……。まあ、サポーターもホームタウンも私たちメディアも含め、浦和レッズとその周辺は今季の経験を糧にしなければいけないということだと思いますよ。

豊田:『浦和フットボール通信』らしいテーマに入って来ました(苦笑)。では島崎さんの見るところ、このミスをミスと分かっていながら修正できない浦和レッズというシステムを、どのように捉えておられますか?

島崎:先週お話に出た「ピッチ上で頼れる選手」がいなくなったのと同じことが、組織内についても言えるのだと思います。三菱には三菱重工時代から誇るべきサッカーの伝統がありました。代表経験者も数多かったしコネクションもあり、そもそも日本サッカー界全般へ影響力を与える立場のクラブだったはず。なのに、その経験値やブランド力を象徴する人材や継承部分を次々と失なっている事情があると思います。

豊田:森孝慈さんが亡くなったシーズンにこういう状況を迎えたことも、何やら象徴的ですね。

島崎:本当にそう思います。さらに言えば、椛沢編集長と豊田さんが『浦和フットボール通信』で取材されて来た通り、“サッカーの街”浦和には育成年代の優秀で意識の高い指導層がある。なのに、そういう人材との協調体制も築けて来なかった。まあ、この部分はクラブだけの責任だけではないと思いますが……。

豊田:そこは共有して欲しい最たるポイントだし悔やまれますね。ホーム浦和とレッズの双方の努力は、「あったとしてもすれ違っていた」というのがホームタウンの歴史認識となっていますから。ただ将来的に解決しなくてはならない案件なので、相互の歩み寄りを進めなくてはなりません。その見地に立ったときにホーム浦和と浦和レッズが同じテーブルにつく貴重な機会である「Talk On Together」が、何とも初期の目的とは趣向を変えた催しになってしまっていることも気になります。

島崎:司会を仰せつかりましたが、正直サポーター、ホームタウンとクラブの意識格差が大きくて苦戦しました。

豊田:でも島崎さん司会の進行でもなければ、ファンやサポーターも納得できない局面まで来てしまっていた……というのが実情でしょう。

島崎:開催の意図がいま以上に崩れるような結果になれば「レッズと周辺の関係にまで影響するかも」というアドバイスしてくれる方もいまして……。こういう危機的状況に正面から取り組む姿勢も、これからはメディアサイドの私たちからクラブへ要求していかなくてはならないのかも知れません。

豊田:まだリーグ戦の結末を見ない直近にも、そういう危うさは露呈されましたね。当面の浦和の危機を救う采配を見せた堀さんには敬意を表するしかないし、支持者の一人として感謝するばかりです。でも逆の面から見れば、5試合得点なしの降格圏。そこでJ初采配の監督に采配を預けるという人事は……(嘆息)。これはいかにサポーターサイドであっても十数年それなりJを見てきた人にすれば、運を天に任せるような政権交代であったことは判別できると思います。

島崎:残留を祈るばかりですが、今季のクラブが犯した過失は結果にかかわらず検証されなければならないでしょう。そういう場を積極的に私たちメディアサイドも設けて行きたいと思います。

豊田:なにとぞよろしくお願いします。逆説的ですが、レッズ周辺もメディアもレッズサポーターも、「レッズが構造的に抱える問題」を共有できたとしたら、それは将来的に大きな意味を持つはずですから。

≪2011年10月 さいたま市内にて≫

-島崎英純- Profile
1970年生まれ。東京都出身。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊
サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当記者を務め
る。2006年8月よりフリーとして活動し、現在は、浦和レッズ、日本代表を中
心に取材活動。浦和レッズマガジン編集長としても活躍。2010年から個人メデ
ィア「浦研」を立ち上げ、2011年には浦和レッズOB福田正博氏を迎え入れた
「浦研プラス」を立ち上げ、浦和レッズを詳細分析している。

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