浦和フットボール通信

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「あの国立でプレーさせるのが私の夢。」 野崎正治(浦和東監督) (12/28)

「二度とできない試合」。埼玉県予選を勝ち抜いて全国切符を手にした指揮官は、ファイナルゲームをそう表現した。多くの関係者が全国大会での躍進も予想した本命・大山武南を会心の逆転劇で退けた浦和東高校イレブン。だが、その陰には「浦和の高校」の血統を受け継ぐ野崎正治監督ならではの勝利へのこだわり、そして若い選手たちの掌握術があった。浦和フットボール通信編集部)

UF:見事、選手権への切符を勝ち取り、全国の初戦は那覇西に決まりました。県予選決勝の後、先生は「今回の全国では自分達のサッカーを貫きたい」という話をされていましたが、選手権への意気込みをお聞かせ願えますか。

野崎:全国に出場した過去4回とも相手を分析しすぎて、相手の良さも消しているけれども自分達のことが何も出来なかったという思いがあります。今大会は相手のビデオも見ずに、我々がやってきたことを作り上げてやろうかと思っています。過去4回全国に出たメンバーに比べると、今大会の選手は個々の能力が一番低いと思います。過去はJリーグに行くような選手を核にしてチームを作っていましたが、今回はグループを融合させたチームで勝ち上がれなければしょうがないと選手達にも徹底させています。その意味では高校サッカーらしいチームであるかと思います。

UF:武南戦は静岡勢を大一番で沈めてきた、かつてのURAWAの高校勢の戦いぶりを彷彿とさせるゲームでした。ある意味野崎先生には失礼な質問になってしまうかも知れませんが、個人技でも育成環境においても明らかに上を行く相手を、高校イレブンらしい組織力もしくは頭脳戦で封じ込める……地元のオールドファンにとっては見逃せない醍醐味が含まれていたゲームと感じたのですが?

野崎:選手たちを褒めてやってください。ああいうゲームは二度と出来ないと思う。個人の能力や自力においては相手が間違いなく上。しかし決勝で敗れるという苦しさ、準優勝という虚しさを徹底して彼らに強調し、できる対策をすべて積み上げてきた結果なんです。「決勝の敗者ほど悲しい敗者はないんだぞ」ってね……。2位は敗者の代表であって何も残らないと、なでしこJAPANの佐々木監督も良く知っていて常々、話をしていたんです。本当にイレブンは良くついて来てくれたと思います。試合については“コンパクトフィールド”でなければ続かなかったと思います。裏を取られるのを怖がって引くと余計に前を向いてやられるので、そこのチェックだけしっかりやろうという指示を出していました。さすがに先制点を簡単に獲られた時は、これは大量失点もあるかもしれないと正直思ったのですが、子供たちはやれるぞという表情で、その後に運良くPKで追いつけた。そして後半は武南の良さを全く出させなかったかと思います。

UF:大山先生にも夏のインターハイ後にお話を伺っていたのですが、武南も「総決算」とも言える修練を積んできたチームであったと思います。

野崎:間違いなく全国レベルのチームでしょう。地元指導者はもちろん周囲の方々も、あのチームなら選手権でどこまでやれるのか? という見方が多かった。対戦相手でなければ、私だってそれを見たいですよ。客観的にそう思わせるほどのイレブンを大山先生は作られたと思います。

UF:従来の浦和東は、プレーぶりから見ても武南に対してリスペクトが過ぎるという印象があったのです。それに比べて今年の野崎チルドレンからは違うインパクトを受けました。2-1で終盤に入った後も菅原悠平君や有野涼君あたりは武南攻撃陣を相手に敢然とボールキープし、股抜きのパスでかわしたりする図太さも見せた。

野崎:いやいや、そんな要素は奴らにはまったくないですよ。本当です。ただ先ほど言った「負けたくない。武南に勝ちたい」という気持ち、その前提に立ったプレーだけは表現していたと思います。しかしその気持ちにしたって年季をかけて蓄えてきたもの。ウチは3年生が多いでしょう? 卒業間近まで時間をかけて、血の滲むような練習をさせて、ようやく大山先生率いるイレブンと戦えるレベルになるということですよ。しかもスタメンのうちに半数の6人が中体連の出身選手なんです。クラブチームの選手よりは、素直でサッカーに飢えている原石のような子供たちを育て上げている。これがうちの強くなっている要素であるのかもしれないです。中体連の指導者の方にもあいつがレギュラーになったのかと驚かれることもあります。それは私にとっては嬉しいことですね。

UF:精神的にも相当に鍛えられている雰囲気がありましたね。

野崎:実は、選手権を前にきっかけが何度かありました。プリンスリーグは残念ながら降格が決まったのですが、前期が全く勝てなかったのですが、後期にあるきっかけで勝てるようになってきたんです。それは山梨学院に行って、1-3から4-3に10人でひっくり返した試合があるんです。それまでは、子供たちとディスカッションをしながらやっていたのですが、その時はこちらか“ここまできて何やってるんだ!”と昔式に強く指導をしました。そうしたら逆転をして勝ってしまった。その後の試合も勝てるようになってきて前期の借りを返してきて、これを勝てれば3位以内に入れるという試合が、2週間後に選手権のトーナメントに控える時期にありました。相手は湘南ベルマーレだったのですが、0-3で負けてしまった。その時はベルマーレの選手に対してビビって何もやれなかった。それが逆に良いきっかけになりました。そこで勝ってしまったら何も見えなくなってしまったかもしれない。負けから学ぶことがあり、そこである課題が見えた。そこも大きな転機でした。プリンスリーグにとっては大きな負けだったのですが、選手権予選を前に、原点に戻ってビビらずにやろうという試合になりました。

UF:そして武南を退けて、いよいよ全国切符です。

野崎:当然、責任を感じています。「武南が出ていれば」と言われないように大会までに全力で仕上げて行くしかありません。

UF:初戦さえ突破すれば期待は大きいのではないでしょうか。

野崎:いやいや、そうはいかない。全国は難しいんです。場慣れした大山先生に本番までの選手の気持ちの上げ方とか教えていただきたいくらいですね。

UF:そういえば野崎先生はかねがねそうおっしゃっていましたね。

野崎:で、実はね。大山先生にお願いして教えを請いに伺ったんです。こころよく会って相談に乗っていただくことができ、貴重なアドバイスを頂戴しました。ありがたいことに大山先生もうれしそうな顔をしていましたね。

UF:それは貴重なエピソードです。本誌もそのような地元内のノウハウ共有あたりに活路を見出さないと、現状の埼玉の閉塞状況は打破できないと考えていましたので……。

野崎:こういうケースは自分自身も初めてですし、セオリーから言えば考えられない要望と思う。でも大山先生も埼玉の現状には危機感をお持ちですし、進んで協力してくださいました。感謝するしかありません。

UF:本誌に明かしていただける“大山アドバイス”の内容はありますか?

野崎:せっかくの秘策なので多くは明かせないのですが、これからのチーム作りだとか決勝戦の内容についても話をしました。大山先生と共通したのは選手達に自信を持たせることが必要だということですね。そのためのコミュニケーションの時間を合宿などして深めるべきだと言われました。あと、ひとつ挙げるなら「初戦突破にピークを持っていくような情況では勝ち進めない」というポイント。まさにその通りと思います。でも当然のことながら、これは大山先生のように全国に名を響かせた指揮官でなければ作れる流れではない。自分なりにこの部分を消化し、なんとか選手に還元しようと努力している最中です。初戦を勝つと2回戦、3回戦が連日の試合となるのですが、鹿島学園とベスト8をかけて戦った時が同じ状況で、我々は後半のチームだったのですが、前半に先制点が取れて、これは行けると思ったら、後半に完全に足が止まってしまって逆転されてしまった。この経験を選手達には伝えようと思います。日程的ハンデを如何に克服するかは重要になります。

UF:埼玉の高校サッカー復権については、大山先生ともお話をしました。浦和レッズと高校サッカー部の連携などが、まだまだ足りないという状況があると思います。サッカー先進国でも地元の指導者とクラブの指導者が交流を保ちながら、どんなビッククラブでも地域と密着してやっているのは事実なので、それが浦和に出来ないわけがないだろうと思います。

野崎:ジェフやサンフレッチェは、講習会を地元の高校とやっているという話は聞きますが、埼玉においては、ほとんどそのような交流はないのが事実ですね。

UF:埼玉県サッカー協会の星野副会長にお話をした時は、2種委員会などが主導して動かねばならないだろうとおっしゃっていました。クラブチームはサッカーの指導がメインとなっており、高校は教育のプロである先生達が指導をしているので、お互いのストロングポイントがあるので、相乗効果があるのではないかというお話も頂きました。

野崎:今のクラブの指導者は高校サッカー部出身だと思うので、教育的なことが分からないことはないと思います。近年は、高校のチームのようにしっかりと教育をしているクラブチームも多いですよ。そうなると我々はクラブチームには敵わないなと思いますね(笑)。高校は一緒に生活をしていて教室内の授業があったり昼休みも一緒だったり、目が行き届くので一緒にいる時間の長さでしょうね。クラブチームはクラブチームでそれぞれが個性をもって選手達がプロを目指せば良いと思います。メンタリティは個人の問題で、我々は全員に求めますけど、クラブチームは一人一人の問題で、自分がプロになりたければ自分が頑張らないといけないところがあります。もちろん我々も学びたいし、我々が持っているノウハウを知りたければ、いつでもオープンに話をしますし、向こうはどんなビジョンでやっているのか、施設面も含めて交流が出来れば、埼玉として浦和として良いものが構築できる可能性があるかと思います。やってみなければ分かりませんから、悪ければ違うことをやれば良いわけで、何もやらなければ何も生まれないですからね。その意味では浦和レッズとはもっとコミュニケーションが必要ではあると思います。高校との連携についてはおっしゃる通り、具体的に行うとなると2種委員会なりの組織が最終的に橋渡しを出来るようにならないと具現化するのが難しいかもしれないですね。

UF:浦和レッズとの連携という所では、既に浦和東と浦和レッズが協力して開催している「GO FOR 2018 CUP」の開催が5回目となり、今年もJユースから浦和レッズ、大宮アルディージャ、横浜FM、柏レイソルなどが参加し、高校からも藤枝東、前橋育英,野洲などの強豪校が参加をする大会になっていますが、改めて開催のきっかけ、成果などを教えて頂けますでしょうか。

野崎: これは5年前に浦和地区で盛り上げたいということで浦和東が顔となって、浦和レッズにも協力をしてもらって、ほとんど自前で大会コーディネイトをして開催をしている大会です。新チームの1、2年生のための大会で、次のワールドカップに選手をこの大会から輩出したいという思いがあります。この時期は選手権に出られないと我々も各地で開催されている大会参加のために行くのですが、予選リーグで大敗してしまうことがある。お金を払って遠征までして、ためにならないようなことになるのであれば、新チームを作って、浦和の地で、高校とクラブの融合でやりたいという話を浦和レッズと話をして、当時のアカデミーセンター長であった村松さんが大いに賛同をしてくれて、レッズランドや駒場、与野八王子などの旧浦和市地区を中心とした会場をメインにして始まりました。審判も一流でなければいけないと思って、埼玉県サッカー協会の審判部に話をしたら、1級を合格したばかりの審判を見極めるためにこの大会を使いたいという話をして頂いて、審判インストラクターとして審判部長の松崎さんや西村さんが試合を見ていて、審判も本気でやってくれています。最高の舞台を整えることで、過去4回、選手権に出られなかった全国の強豪校にも賛同してもらって参加して頂いています。加えてJユースも参加をしていてレベルの高い大会が出来ています。

UF:これは素晴らしい企画になっていますね。浦和レッズが地域に根ざす中で、様々な還元をしながら埼玉サッカーのレベルを相対的に向上させて、その中でトップレベルの選手は、埼スタのフィールドで活躍をする。そんな光景が出来てくるとホームタウンの本当の喜びになっていくのではないかと思います。浦和東は6年ぶりの出場となる選手権での活躍を期待しております。

野崎:公立高校には厳しい状況とは思うけれども、私が経験した“国立”を経験させてやりたいと思っています。それが私の夢ですね。

UF:心から健闘をお祈りしています。

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