浦和フットボール通信

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「浦和の子、その育成の指針。」町田隆治インタビュー

 第1回タウンミーティングにおける橋本光夫代表コメントにも示された通り、浦和レッズとホームタウンが連携をとるジュニア年代の育成が模索されている。歴史を遡れば、浦和とレッズがJのスタート地点について以来のテーマと言えよう。地元ファンにとっては長きにわたって“残されてきた課題”が、レッズの「ホーム浦和への原点回帰」の発声によって大きな分岐点に差しかかっている。 浦和フットボール通信編集部

町田隆治(まちだ・たかはる) プロフィール
1964年旧浦和市生まれ。日大豊山高校、本太クラブ(埼玉県社会人リーグ)でFWとして活躍。浦和別所サッカー少年団、浦和トレセン、埼玉県南部トレセン、FC浦和コーチを歴任後、2008年にFC浦和監督に就任し、同チームを6年ぶり4回目の全国制覇に導いた。現在は、さいたま市浦和サッカー少年団指導者協議会 技術委員会副委員長、浦和別所サッカー少年団ではヘッドコーチを務める。日本サッカー協会公認C級コーチ。

UF:昨年から浦和レッズと浦和の少年団から選抜されたトレセンメンバーが参加するジュニアアカデミープログラムが始まっています。浦和の少年団と地元プロクラブである浦和レッズの交流は、URAWAのサッカーファンが注視を続けてきたテーマと思いますが、どのような進展があるのでしょうか。

町田:『浦和フットボール通信』には以前からこのテーマを取り上げていただいておりますが、段階的であるにはせよ進展しているといえるでしょう。

(編集部注:2009年Vol.28号 少年団現況を語る座談会「新星たちの原点」etc)

もちろんこれは浦和レッズの協力もいただいての経過。一例を挙げればプライベート大会(JFA未登録の非公式戦のこと)などに「FC浦和」を結成して遠征する際の活動ですが、浦和レッズがジュニアアカデミープログラムを始めて以降は土橋正樹さん、内舘秀樹さん、GKコーチの工藤輝央さんらにスタッフとして参加いただいています。

UF:なるほど。時期としてはいつ頃からの実績でしょうか。

町田:具体的には去年10月に開催された「ナイキカップ」という鹿島アントラーズ主催の大会から。折々の帯同可能な大会で活動を始めています。11月には甲府市サッカー協会が主催する大会に参加し、そこでも土橋さん内舘さんに参加いただいてFC浦和は優勝を果たすことができました。選手ともども喜びを分かちあえた次第です。

UF:制度化されたものではないにしても、地元指導者と浦和レッズのスタッフが意識共有のもとに育成の現場に立ち会うことは大きな意味を持つと考えます。また別の見方からすれば、プライベート大会とはいえ「FC浦和」が全日本少年サッカー大会(全少)を制するようなチームの参加大会で優勝を飾るという事実はURAWAの底力も感じますね。何やら、もったいないな、という印象も……。

町田:全少に出場しないかぎり、地元少年団の子たちは関東にあるJ下部組織のチームと対戦機会がありません。URAWAというサッカーどころの環境にありながら、地元の子どもたちがそのような高いレベルで試合ができないのは私も残念な現状と思います。FC浦和を復活させて欲しいという声を頂いたりもするのは、そのような背景があってのことでしょうね。

UF:その通りと思います。

町田:そこで我々もできる限りの機会を作ろうと考え、昨年から浦和サッカー少年団指導者協議会 技術委員会が主催する『浦和トレセン交流大会』という大会を開催しています。これはレッズの協力のもとにレッズランドで開催する大会なのですが、大宮アルディージャ、鹿島アントラーズ、柏レイソル、川崎フロンターレの関東のJ下部組織を始め、三菱養和SC巣鴨などを加えた実力チームが参加します。地元からの参加はFC浦和と、東西南北に分けた浦和トレセンの4チーム。かなりレベルの高い大会であることがお分かりいただけるでしょう。

UF:なるほど。いずれにしても地元のサッカー土壌で育まれた子が地元プロに入団する楽しみというのは万国共通。クラブチームならではの特権的興奮であると思います。J創設以来、残念ながらURAWAとレッズはそういう相互の育成環境を築く機会が希薄であったと思います。これは私たち地元メディアとしても重要な未来テーマと捉えているのですが、浦和タウンミーティングの初回には橋本光夫代表からジュニアチーム創設の方針を固めたというお話もありました。

町田:浦和レッズもジュニアチームを作るための準備を進めており、地元少年団への説明などがすでに始まっています。レッズが浦和に来た当初は森孝慈さんと浦和のサッカー少年団との間に「浦和はサッカー史のある場所。当面はレッズは地元基盤でジュニアチームは作らない」という取り決めがあったとのこと。しかし日本のサッカー環境の変化もあり、当時の少年団幹部の方からも評議会の席で「そろそろレッズのジュニアチームも創設されるべき時期なのでは?」という声が出ています。

UF:時代も変わった、という解釈なのでしょうね。

町田:そう思います。浦和レッズのジュニアとなればプロクラブのジュニアチームですから、地元少年団に所属する子供たちを対象としたセレクションはある。ジュニアアカデミープログラムとは異なり登録制チームにもなるわけですから、浦和以外のエリアからも選抜が行なわれるチームになると思います。

UF:URAWAというサッカーの街に、いよいよレッズのジュニア年代の下部組織……上手く地元少年団との連携を取った活動が行なわれることを希望します。

町田:伝統ある地元少年団とレッズのサッカーを、どう融合させていくかという作業が必要と思います。ジュニア年代ということを考えると、例えば試合時の選手の移動はどうするのか。何より問題になってくるのは、ジュニアチームから全員ジュニアユースに上がれるわけではないので、昇格できない子のモチベーションをどうしていくのか。他のJチームでチャレンジしたいかもしれないし、街クラブに行くかもしれない。そのフォローやバックアップがどの程度、出来るのか。これはジュニアユースでも同じことと思いますが、中学から高校に上がる場合は、高校サッカーという受け皿もあるのですが、小学生が中学のサッカーをやるのでは異なるケースも配慮しなくてはならないでしょう。赤いユニフォームを着た実績を持つ選手が、中体連の中学サッカー部で活動を続けるケースは、なかなか難しいかも知れません。他の地元クラブチームなど、受け皿の選択肢も必要と思う。夏くらいには昇格の可否が決まるそうですが、決めたあとの子供たちのモチベーションをどう維持するかということも問題になると思います。

UF:ジュニアチームならではの問題、課題というものがあるのですね。

町田:少年団の場合は、小学校を卒業するまで面倒をみて卒団式までやるのですが、レッズの場合はどうなるのか。そのようなことも含めて怖がらずに活動をするしかない。やらなければ分からない部分もあると思います。現状では、我々はそれを側面からサポートするしかないと思います。

UF:浦和のサッカー史には「人間教育を根本とする」という動かせない理念があると思います。広島も静岡もそういう背景を基礎としての歴史と思うので、その思想部分は外すことなく共有した上で活動を始めて欲しいと考えます。

町田:先日、東松山で研修があって、そこで仙台戦をたまたまテレビで見ていたのです。ハーフタイムにミシャ監督が選手ひとりひとりの労をねぎらっていたのですが、指揮官に対する若手選手のマナーに少々気になる部分が見えてしまい……。なにか残念な気持ちになったのですが。

UF:サッカーが上手ければOKというサッカー選手のイメージは、ホーム浦和のサッカー観として許容されないものでしょう。真のトップレベルの選手になるには人間力が問われてくると思います。

町田:浦和レッズのエンブレムをつけてサッカーをする。その背景において若い選手は自覚なしに道ならぬプライドを抱いてしまう危険はつきまとうと思います。レッズの指導者は、その気持ちを端折らせるくらいの志を持って指導者に当たっていただきたい。そう考えますね。

UF:下部組織のチームの中で、どの程度人間教育まで出来るのか、これは難しい問題でしょうか。

町田:学校生活は長くて練習をしている時間は短いのです。レッズも高校とタイアップするなどの方策は必要になってくるかも知れません。例えばサンフレッチェ広島は吉田高校との提携を続けています。地元大学との提携もあって然るべきかと思いますね。アルディージャは東洋大学と提携し、去年まで大学体育会で監督をしていた方がアルディージャの下部組織の監督に就任。横浜マリノスも関東学院大学と提携を始め、クラブ内にスタッフを送り込んだりもしています。そのようなサッカーを通じた交流を高校や大学を使って行なっていくことも方策のひとつでしょう。レッズと比較するとマリノスあたりはアカデミーにかなりのスタッフ数を割いている現実があります。

UF:本誌も在欧のライターの方々などを通じて海外事情の収集に入っているのですが……バイエルン・ミュンヘンの超強豪クラスでも、クラブオファーを受けた地元のボランティアが在住エリアの練習場で少年選手をチェック。クラブ主催の地元育成集会に月1くらいで参加をするそうです。オランダでも各クラブには、地元の育成のために活動するなかばボランティア待遇の地元スタッフが40人体制で置くことが不文律となっており「地元の才能発見を怠らない」意識徹底がなされているとのこと。このような実例から比較すると、ホーム浦和とレッズの連携はまだまだ稀薄であると思えます。

町田:なるほど。そのような活動はどんどん活性化させていただきたいですね。

UF:加えてそのような連携基盤をベースとして、プロへの道すじを閉ざされた子どもたちのケアもなされているとのこと。先ほどお話に出た「昇格できなかった才能の受け皿」を大人たちが用意するセーフティネット的地域活動にも繋げているそうです。

町田:そこは“サッカーの街”として真摯に考えていかなくてはならない育成の基本と思いますね。プロクラブとホームタウンの指導者連携という作業は、単純に才能発掘のためのシステムと捉えるべきものではないはずですから。

(2012年6月 浦和区内にて)

 

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