浦和フットボール通信

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守屋保(西武台高校サッカー部監督)インタビュー(1)

2年ぶり8回目の総体の舞台。今夏の埼玉県予選を通過し、地元サッカー界の悲願「全国制覇」への挑戦権を優勝で手にしたのは西武台高校である。率いる指揮官は、同校を主要大会で覇を争う常連校に育てた旧大宮市出身・守屋保監督。予選決勝では大山照人監督率いる武南高校を、自在な采配のもとに完封で退けた期待のリーダーに全国大会への思いを訊いた。浦和フットボール通信編集部


守屋保(もりや・たもつ)Profile
1961年、さいたま市生まれ。帝京高校を卒業し国士舘大学体育学部に進学。83年卒業と同時に西武台高校に赴任。87年にコーチから監督となり現在に至る。高校時代は、インターハイと国体に出場、国体では東京都選抜として優勝。大学では控えメンバーながら、大学リーグ優勝。監督としては、インターハイ8回出場。全国高校サッカー選手権に4回出場。2010年にはベスト8に進出。9名のJリーガーを育てる強豪に押し上げた。

UF:2年ぶり8回のインターハイ出場おめでとうございます。

守屋:ありがとうございます。

UF:県予選の手応えとしては、いかがだったのでしょうか。

守屋:予選から2、3人の怪我人がいた中で勝ち抜いたことはチーム力としては向上したのだと思う。欲を言えば怪我人が治ってくれて本大会に望みたいところですが、本大会までに回復は出来ない見通しです。選手たちにも今までやらせたことのないポジションに置き、どちらかというと自分達の良さを出す前に、相手を見て、相手のポイントとなる所を潰し、頑張ってもらった結果と感じています。そのため内容を悪くして勝ってしまったという部分がある。勝つということは、精神的には高校年代の子たちを大きく成長させる要素となるので、それで良しとしなければいけませんが……。

UF:勝つたびに成長するというパターンは、高校生には往々に見られます。

守屋:ですよね。サッカーの指導者として見れば、勝負の世界では4つの結末があります。「美しく勝つ」「美しく負ける」「美しくなくても勝つ」そして、「美しくなくて負ける」。この前提からすれば3番目の価値だったと思えるインターハイ予選でした。私としては美しく勝つことを目指していますし、そうでなければ練習もサッカーも楽しさが生まれてこないと思いますので、今はそのギャップにぶつかっている所ですね。

UF:高校年代は育成年代でもありますから、その中で結果を残すためにやる部分と育成するという部分があると思います。勝ちだけを重視して内容が薄くなると選手の育成として問題になってきてしまうでしょうし、勝たなければ育成に繋がらない部分もあると思います。その部分のバランスは難しいところでしょうね。

守屋:まず気持ちを強くさせます。精神的な部分でのタフさをつけるには、どれだけ苦しい所で何が出来て諦めずに出来るようにするか。それを感じさせるためには練習の中で追い込まなければならないのも事実だが、そればかりをやると技術的なところが疎かになる。そうなると負けはしないかもしれないけど、我々が描くようなテクニックだったり、発想を育てるには不足部分が出てきてしまいます。勝ちたいという気持ちでサッカーをさせるには華麗で綺麗でテクニックがあって、スペイン、バルサのようなイメージを持たせてサッカーをやらせる努力はすごく重要と思う。

UF:そう思います。

守屋:だが、そればかりを追求してしまうと、今度は紙一重のボールの奪い合いとか、タッチラインでボールを追いかけてマイボールにするとか、ルーズボールを先に拾うという部分が欠けてきてしまうのです。良いプレーをしようと考えながらやると、失敗した時の落ち込みが激しく、そうなるとルーズボールが拾えなくなる。負けないぞという気持ちで、ひたすら頑張っていると落ちているボールは拾える。そのバランスが確かに難しいです。高校年代で、高い技術の子たちに精神的なことを教えることが必要なんだろうと思います。どっちが優先というのは、その時のチーム状況や雰囲気を見据えてやらないといけない。勝って全国の舞台に立たせてあげないと、もっと上を目指したいとか、もっとうまくなりたいという気持ちが欠落してしまいます。だからこそ我々も「埼玉で勝つだけで良いのかよ」というハッパを合言葉に、仕上げのトレーニングに入っているわけですね。

UF:守屋先生は先に日本高校選抜のコーチとして欧州遠征も経験されました。いかがでしょう、そこで同世代の欧州の才能を見て“差”というものは感じられましたか?

守屋:実際のパワーとか技術の差はそうはないのでは、と思う。ただ守備面でのタフネスとかの要素は凄く強い。負けたくないという気持ちの出し方を強く感じる部分でしたね。長谷部誠にしろ内田篤人にしろ、欧州で活躍しているプレーヤーは一様に「欧州では練習からハードだ」と口にしますが、その習慣がついている子たちなのだと感じました。それと比べると日本の子たちは戦うサッカーではないのかなと思える。海外の子は、色々なチームのカテゴリーで振り落とされているわけですから、常に生き残るためには負けてはいけないという環境の中で練習をしている。そのプロセスの中で最終的に18~19歳の時点で、もうプロになれるか否かという境遇に置かれるわけです。高校選抜の子は大学でプレーをすることになって、上手く行けばその後にJリーグに行けるかなという子たちなので、意識は高くありますけど、夢は遠くに置かれている。片や海外の子たちは、もう今プロにならなければならないという境遇において死に物狂いでやっている。日本の子は大学に行って先があるという感覚でいると、現状では技術レベルでは変わらないけれども、21歳、22歳になった時に差が出てきてしまう……というのが現状でしょう。遠征時に内田、吉田、チョンテセ、安田、大津ら欧州組のメンバーが訪問してくれたので、高校生の選手たちにアドバイスをお願いしたのです。チョンテセ選手は、「高校サッカー選手権にも出られなかった。大学でも芽が出なかった。でも、仲間がパチンコや麻雀を始めた段階で、自分は筋トレやったり本を読んで勉強してた。これだけは自信をもっていえる」と……(笑)。インパクトは大きかったと思います。

UF:サッカーに対するひたむきさというものは、プロを目指す上で欠かせない姿勢と思います。

守屋:彼らはゴール前などの局面で平然とダイビングヘッドをしてきたり、そこでスライディングをするのかというタイミングで身体を張ったりもします。日本でそれをやると根性サッカーだとか言われてしまうけど、その部分でのサッカーの勝負に対する姿勢というのは強く感じました。日本でも高校サッカー出身の子が未だに日本代表でも活躍しているのは、理不尽な(部活生活の)中でも認めてもらおうと頑張る環境の中でやって来ている蓄積があるからではないでしょうか。代表の試合でもJリーグの試合でも、局面での気持ちの強さを出せるのは高校サッカー出身の子だったりする。そういう部分は無くしてはいけない部分なのかと思います。

UF:Jユースはプロの環境の中でサッカーを教えるということがメインになっていますから、人間教育という所までの指導は目が届かない部分があるのかも。

守屋:それはあるでしょうね。その遠征の際に、吉田麻也選手にもコメントしてもらったのですが、高校生たちはストレートに質問もぶつけてきます。「同じ代表選手で嫌な選手はいますか?」とか(笑)。すると彼は「日本代表のレベルになると、嫌な奴なんて今までいなかったです」というんです。内田選手に聞いても当然同じ内容を答える。まあ、代表選手ともなるとただサッカーが上手いだけじゃダメ。人間性ということも求められることを無理なく選手に伝えられた象徴的エピソードでしたね。それは学校に戻ってきてウチの選手たちにも伝えました。技術だけではなく、人間性も上げていかないと高いレベルには決していけない。私としても戦術的な面はもちろん勉強になったことは多々ありますけれど、それ以上に海外の子たちと競わせ、日本の子供たちを戦わせるためにはまだまだやることがたくさんあることを実感した次第です。

UF:これはサッカーに限ったことではないのですが……。今の子は言われたことしかやらないということを言われますが、それは選手たちを指導していて、感じる部分なのでは?

守屋:その通りで、とにかく鍛えるとなると泥臭いサッカーになってしまう。ボール技術だけでワンタッチも無しで、スリータッチだけで変化を入れろというと、今度はもうちょっと持っても良いよなという場面だったり、ダイレクトで入れると面白いという場面でも癖がつきっぱなしになってしまう。で、繋げというと、全てが繋いで足元、足元になって後ろでボールをつないでいるだけになってしまう(笑)

UF:選手たちの判断力をいかに向上させるかという面では、指導のプロセスで何か工夫やコツがあるのでしょうか。

守屋:日本の部活は、同じ基本の練習を徹底的にやっていくというスタンスと思う。自分的には選手たちに付き添って、練習を毎回変えていかないといけないのかとは思います。練習は一緒でも内容を変えていく。出来る限り、練習内容を変えて、パスの距離やスペースが生まれる現象を作って練習させるとか、同じワンタッチでも、狭くしてやったり、人数を増やしてやったり、逆にフィールドを広くし、3対3で繋げというと、動かなければいけなかったり、追わなければいけなくなるので、見る目が少し変わる。でもそれは元をたどれば同じサッカーの原理なのだと……。ちょっとした工夫でシチュエーションを変え、選手たちに考えさせなければいけないということでしょう。

UF:西武台は2010年の選手権において全国ベスト8進出。聖地・国立まであと一歩、という位置まで漕ぎつけました。試合を見ていても全国とのレベルの差というものは、ほとんどなかったと思えるのですが。

守屋:経験から率直な印象を言いますとね。うん、西武台に出て全国に出たいという子供たちがようやく集まってきたという感じかな。10年前は、県のベスト8くらいまでに行ければ良いなというこの地域の子が集まるチームでした。ただ、埼玉の中で全国優勝をしたいとか、絶対にプロになりたいという子たちが、まだ来ていない。その差だけと思います。技術的な差ではないと思っているんです。気持ちの差だけで、そんなに技術レベルは変わらない。市船、流経、前橋育英のような学校でも十分通用するだけの才能をもっていても来る段階での意識が違う。そこを芽生えさせるのが、埼玉の現状の中で不足しているんじゃないでしょうか。武南、浦和東に行って全国に行きたいと思っても全国優勝をしたいと思っている子はほとんどいないのでは? その気持ちがある子は流経に行くのではないですかね。意識が違うだけで、中身のレベルはほとんど変わらないのではと思います。

UF:件の才能の県外流出。それは意識の高い子が外に出ているだけ、ということなんでしょうか。

守屋:気持ちが違う。そこが最大の差と思いますね。過去にも市船に勝てるガタイの良い選手が、浦和東などに所属していた。実際に野崎先生が芽生えさせて、昨年の菊池とか日本代表GKの川島とか、三島(水戸)がいた。うちにも清水慎太郎(大宮)とか、島田(水戸)、片岡(大宮)、杉本(草津)などJでやっている子がいました。その子たちが卒業した時に「在学中に、もっと全国で勝ちたいという気持ちがあったらな」とか言うわけです(苦笑)。日本代表の岡崎を擁する滝川二高ともインターハイで対戦したのですが、岡崎よりも他の子たちのほうが上手かったという印象がやたらと強いのです。彼よりもデカモリシ(森島康仁)だったり、サイドにも速いプレーヤーがいた。私もデカモリシは代表選手になっていくような選手だと思っていたら、岡崎は熱い気持ちを継続させて、日本代表でも活躍する選手に成長しているわけです。ウチの選手たちと「気持ち」以外ではサッカーに関する素養の大差はなかったということでしょう。

UF:なるほど。

守屋:埼玉県代表として出場するウチと武南が(高校総体で)勝つんだという意識。私はそれを県内で強く共有する素地を作る必要があると考えます。例えば20年前なら、国見と鹿実に勝てばベスト4に行ける。滝二に勝てばベスト4にいけるという時代でしたけど、今は1回戦、2回戦でも底のレベルが上がっているのでどこにもチャンスがある時代。そうなると地方で毎回全国に出場できるチームが有利です。鳥取の立正大淞南とか、福島の尚志が学校数は少ないですから、絶対に出場できる。そうなるとベスト8、ベスト4に進出する戦いのスパンが次第に分かってくるんですよね。うちもベスト8に進出した折は、選手権に出て、インターハイに出て、また選手権に出ての3回連続の全国の舞台。こんな所で絶対に負けられない、という思いが続いたからこそあそこまでいけたのだと思う。さらにそういう時期に在籍した選手たちは、大学に行っても最終戦の敗戦を抱き続け、そこをバネに活躍している子もまた多いのですよね。

≪以下、次号(7月12日配信予定)に続く≫

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