浦和フットボール通信

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【This Week】週刊フットボールトーク Vol.116拡大版 (12/6)

浦和らしい最終戦。

椛沢佑一(浦和フットボール通信編集長)× 豊田充穂 (コピーライター)

椛沢:先週末は、リーグ最終戦となる名古屋戦が埼玉スタジアムで行われました。今季初となる前売り完売で、56,000枚のチケットが発券されたとの情報でした。実際の入場者数は若干少なくなりましたが51,879人と今季最高の観客動員数となり5万を越えた時のスタジアムの熱気は独特なものがあって、久しぶりの感じをうけました。

豊田:ACL出場権を賭けての直接対決。加えてタクティクスの面白さは別にしてもとことん攻撃的なグランパスが相手。激しい展開になることは必至で、スタンドの熱気は今シーズンきってのものがありました。良い時間帯に点を取って行けたし、ゴールの歓声に混じって聞こえてくる“途中経過のささやき”には久方ぶりのスタンドのスリル感を味わいました。「おっ、鹿島が入れた!」「すいません、いま1-0で間違いありませんか?」「はいはいその通り。このまま行けってヤツ……」「鳥栖はどうなってます?」「いや、こっちはまだ動きがない」等々、隣席同士の情報交換がバンバンと飛び交っていた……やはり昨季みたいな残留争いではなく、ポジティブな他会場ニュースが良いです。盛り上がりのボルテージが違うから(苦笑)

椛沢:前線に闘莉王を置いた名古屋のスクランブル体制に対して、ベテラン山田暢久が闘莉王を完全にシャットアウト。彼の潜在能力の高さを改めて知ることとなりました。本当に暢久はすごい……。バランスの悪い名古屋に対して、暢久、阿部、啓太のバックラインからボールが面白いように供給されて名古屋を圧倒し続けました。

豊田:暢久が取って阿部勇樹と啓太のコンビネーションを軸に供給する配球の意図は鮮明で、妙味があったと思います。それに対して名古屋は闘莉王を最前線というフォーメーションはもちろん、誰もが予想した通りの攻めしか仕掛けて来なかった。前後半の開始直後のパワープレーさえ凌げば、その後のアプローチも淡白なものでしたね。危険な場面でボールロストしても、奪った名古屋攻撃陣の凡ミスにはずいぶん助けられました。それだけ阿部を中心にした浦和の守備網が破綻しなかったとも言えるのでしょうけど。

椛沢:阿部がいることでの守備の安定は、今年の補強の成果でしたね。そして攻撃の起点として鈴木啓太が新たな能力を覚醒させたかのような働きを見せてくれました。名古屋戦ではそのプレーぶりを存分に発揮してくれました。そしてこの試合は、先制点の柏木のヘッドに始まり、前半ロスタイムの大ピンチを槙野が身体を投げ出してのクリア。槙野は後半にも自ら強烈な弾道のシュートをゴールに突き刺して追加点を奪うなど、随所に強い気持ちを感じるプレーも出ていました。

豊田:槙野のフリーキックは2階席までキック音が聞こえてきそうな勢いだった。すぐにビジョンに再生映像が流れましたが、枠の手前でグッと沈むファインゴール。柏木とともに、やはりミシャ監督の弟子たちが最終局面の“修羅場”で先頭に立って得点と勝点をもぎ取りました。それぞれのゴールには、何が何でもレッズを勝たせたいという人たちの気持ちが乗り移っていたように見えます。名手・楢崎のファンブルみたいなミスといい、野球のドロップボールのように沈んでゴールインした槙野のキックといい・・・・。

椛沢:槙野のゴール時は、ゴール裏もギアを入れ替えてアレ浦和が歌われて、追加点を促す中でのゴールの最中でした。スタジアム中が爆発するゴールで、浦和らしいカタルシスがあの時にあったと思います。槙野選手も本当の感情の爆発というものをあの時に感じたのではないでしょうか。試合終盤は、ラストマッチとなる達也の登場を多くの人が待っていたと思うので、願わくば、彼の舞台を用意して欲しかった。ミシャが勝負にこだわった中での采配として難しいことは重々承知していますが……。試合終了後のセレモニーの中での、達也を送り出す雰囲気はレッズならではの時間だったと思います。ゴール裏にサポーターが誂えた2003年ナビスコ決勝で彼がゴールを決めた時のゴールパフォーマンスを表現したビジュアル。達也が見せた男泣きの姿。そして彼の挨拶。作られた演出では表現できない、人間臭さというか、レッズを愛している人たちが気持ちを確かめ合う時間は、レッズ特有の雰囲気だったと思います。レッズを愛し、レッズのために死力を尽くしてプレーをしてきた達也の気持ち。それがヒシヒシと伝わってきて、これこそレッズのスピリット。彼の背中を見てきた選手がそれをしっかりと繋げて、これからも大事にしてもらいたい部分です。

豊田:その通りと思います。これからのレッズに望みたいのは、このゲームの槙野・柏木のような頼れる現場人材を自前のクラブシステムの中で育てる道すじをしっかり構築して欲しいということです。未整備ではあったが、かつてのレッズは苦難を抱えつつも、こういう土壌はファンと共に継承して来た経緯がある。達也はもちろん、この名古屋戦で活躍した山田暢久、かつての岡野雅行や永井雄一郎などはそんなキャリアを体現する面々でしょう。対戦相手だった名古屋グランパスの不満点もそこにあるようですね。木村元彦さんがよく指摘されるのですが「補強強化の限界」というハードル……。もっともな情況と思いますね。ピクシーを求心力としての名古屋のパフォーマンスやチームカラーは、もはや各対戦相手も認識済みなのですから。

椛沢:最終戦に勝利して、鳥栖、柏が負けたことで3位に入り込み。来年のアジアチャンピオンズリーグ出場も獲得をしました。ACL出場は2008年以来の出場となります。気がつけば久しく遠ざかっていたアジアの舞台。厳しい条件の中での戦いであることは多くの人が経験をしていると思いますから、難しさも分かった上でしっかりとした準備をもってシーズンに挑まなければいけないことは理解していると思います。まずはアジアの舞台に出ることで何か雰囲気が変わるような気もしています。アジアの舞台もレッズを待ちわびていたようですので、またアジアを赤い軍団が盛り上げていきたいところです。

豊田:先日、5年前のレッズACL出場時に韓国ラウンドでお世話になった成田貴子さん(元日韓文化交流基金スタッフ)とお話しする機会があったのですが、アジア各国クラブの「レッズ待望論」は依然として熱いものがあるようですね。中でも韓国の各クラブは特別だとか。そもそも今月10日に決まった今季のACLチャンピオンは、私たちが再三取材して来た蔚山現代。2年連続でアジア王者を獲得している韓国勢としては来季に望むのはズバリ、浦和レッズとの対戦なのでしょう。そのACL出場に関しては、都内のメディア関連のサッカー好きからは「降格したガンバにホームであれだけやられたのに、何で出れるの?」と散々言われました。でも終盤に至る戦歴を振り返ってみれば国立での柏レイソル戦とか、ホームでの広島戦とか、重要戦の勝利だってゲットしてはいるんです。このあたりがミシャの評価すべき1年間のマネジメント術と言えるのでは? 確かに浦和らしいサプライズの出場権獲得なのかも知れませんが、言わせてもらえばガンバの降格だってハンパじゃない衝撃。わずか4年前に私たちを蹴散らしてアジア王者を獲得し、マンチェスターユナイテッドと火花を散らしたクラブが一気にJ1から姿を消してしまう事態なのですから。

椛沢:その点から見ても、問われるのはチームだけではなくクラブ力であることが証明されたシーズンでしたよね。しっかりしたビジョンを持てたチームが成果を出し、降格したチームはクラブの迷走がピッチにも悪い形で出てしまっていたように思えました。選手だけを補強しても勝てないことは神戸とガンバが表していると思います。昨年まで優勝争いを続けたガンバが西野監督からの脱却を図りながら、しっかりとしたビジョンを持てなかったことでここまで崩れてしまうということはサッカーの怖さを感じました。今季のJリーグを振り返りますと、優勝はサンフレッチェ広島。ベガルタ仙台、浦和レッズがACL圏内に入り、降格はヴィッセル神戸、ガンバ大阪、コンサドーレ札幌の3チームでした。日本代表クラスの選手の海外流出。圧倒的な外国人選手の少なさにより、各チームの戦力がより拮抗したシーズンだったと思います。

豊田:西野朗さんを含め、都合4人の指揮官が登場したヴィッセルを見れば一目瞭然でしょう。ひとたび座標のない場当たり的な人事やチームハンドリングが行われれば、クラブは現場のチームまでを巻き込んでとことん迷走してしまいます。これは我々も見てきた、プロクラブが陥る恐ろしい罠です。リーグ戦終了後の各メディアの中でひとつ目立ったのが、降格したガンバの主力である元日本代表DFの加地亮選手のコメント。さまざまなインタビューの中で「スタイルの継承と発展がクラブ強化のカギを握り、そこには組織全体の合意が欠かせない」という要旨のことを述べています。深く同意し、拡散したい名言と思いますね。

椛沢:リーグ戦も終わり、残すところは天皇杯の戦いです。来週末は熊谷での横浜Fマリノス戦です。チケットも既に完売の試合ですから、多くのレッズサポーターがスタジアムに集結するかと思います。ミシャが腰の治療で帰国をするということで、堀代行監督の下、1試合でも多く達也の勇姿も目に焼き付けたいところです。

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