浦和フットボール通信

MENU

「 レッズ2012月刊ライブディスカッション 」Vol.8 2012シーズンを総括す。(2)

レッズ密着取材を続ける河合貴子氏に、本誌・椛沢編集長が浦和レッズの現状や選手達の思いを毎月訊く「レッズ2012月刊ライブディスカッション」。先週に続いて2012シーズンを振り返る。今回は田中達也選手の退団秘話など、各選手にスポットをあててシーズンを振り返ります。(浦和フットボール通信編集部)

背中で語り、チームを引っ張ったキャプテン阿部勇樹

椛沢:今季、イングランドから復帰した、阿部勇樹選手はキャプテンも務めました。プレーぶりは前回振り返って頂きましたが、ピッチ以外での見えない部分での貢献というものもあったのではないでしょうか。

河合:阿部ちゃんは、阿部ちゃんなんだよね。メディアでの囲みの取材で多くの前で話をするのが、あまり好きじゃない(笑)。彼は背中を見せていくタイプの選手。それはチームにとって、大きな存在だったと思います。彼がいつも居残ってみんなと練習をして、それに続いて槙野、元気、柏木などの選手はいつも居残って練習をしている姿が見えました。山岸、梅崎、宇賀神も必ず練習が終わってから走っていましたね。

椛沢:阿部、槙野と違ったタイプの彼らが両方いたのは良かったのではないでしょうか。

河合:それはそうだね。阿部ちゃんは槙野とはタイプが違う。チームの引っ張り方も違った。阿部ちゃんで印象的だったのは、最終戦に勝利してACLが決まった瞬間、選手が一斉にベンチを見ていたのですが、阿部ちゃんがすごく結果を気にしている様子で、手を身振り手振りで確認をして、ベンチから大きな丸が出て、それを見た時の阿部ちゃんの顔は忘れない。溢れんばかりの笑顔だった。「えー!本当?」みたいな声が記者席まで聞こえたような感じでした。

椛沢:復帰の会見でも「レッズで成し遂げられなかったことをするために帰ってきた」と言っていました。彼が前回入団した時はACL出場が決まってからでしたから、出場権獲得ということでは成し遂げたひとつなのかもしれないですね。

河合:あとは阿部ちゃんが成し遂げられなかったのは、クラブワールドカップ優勝だよ(笑)。コリンチャンスはうちが叩いてやる。

田中達也退団の秘話

椛沢:あとは、最終戦では田中達也の退団が発表をされていて、試合後には自然発生的に起こったセレモニーでの、達也の挨拶は素晴らしい挨拶でした。彼の気持ちがすごく伝わってくる内容でした。

河合:試合に出て活躍をしたかったし、得点を決めたかった。ずっとやってやると達也は思っていた。でもチャンスが来た時に求められるプレーが出来ずに、「ミシャ監督の求める選手になれなかったのは悔しくて残念だ」と言っていた。赤いユニフォームの11番を脱いで他でプレーをするということは、彼にとってはすごく迷いがあったみたいです。それでも頑張っている達也が見たい。達也、頑張れという声に応えるためには違う所でJFLでもJ2でもどこでも良いから、恩返しのために引退はしないと決めた。私も「達也がゴールをして、指に口づけをして拳を高々あげる姿を見たいんだよね」と言ったら、達也は「でもそれは、赤の11番での姿じゃないんですよ……」と言った。それでも私は見たいと思うと伝えたんだよね……。

「レッズに来て、ずっと先輩の姿を追いかけてきて自分が11番を着た。その赤の11番は次の世代に譲らなければいけないんだと言われた時はすごい寂しさを感じたけども、そうやって僕もやって来たんです。見てきたでしょ、たかねえ?」と達也に言われた時は何も言えなかった……。

椛沢:レッズのために死力を尽くして、私生活でもサッカーにマイナスになることはやらなかったという姿勢が愛されてきた所以だなと思っていたし、挨拶を聞いて、それが確信できた。だからこそ彼の「怪我で貢献できずに歯がゆかった」という想いを、本人から聞くとグッとくるものがありました。

河合:達也はどんな時も自分のことよりも他人のことを考える。怪我をした時もそうだった。土屋選手のことを考えていた。すごく考えて「お願いだから土屋選手には言わないでください。僕が違うプレーをしていたら……」と自分を責めていたこともあった。ここでサッカー人生を終わらせることも出来たと思うけど、プレイヤーの人生を続けるのは、活躍している姿をみたいと思う人がひとりでもいてくれるから、そういう人たちのために、今まで応援してきてくれた人のために頑張ろうと思っている。達也はそういう奴なんだよね……。

椛沢:レッズで愛される選手はこういう選手だなと、最後の挨拶で改めて思いました。残る選手たちはこれを感じて欲しい。

河合:きっと感じていると思うよ。矢島慎也とか元気は、達也を見て育ってきた。元気にとって達也と永井(雄一郎)は特別な存在で、ああいう二人みたいになりたいとずっと思ってきた。でも「俺が11番を継承します」と言ったら周りの選手から「お前にはまだ早い!」と言われたみたい(笑)。でも、私は元気が11番をつけても良いと思っている。矢島もほとんど達也さんと話したことはないと言っていた。達也は人見知りが激しいんだよね……。元気もそれを心配していたくらい(笑)。でも達也自身もエメとか福さん(福田正博)の動きを見て、盗んでいた。見て学べという姿勢なんだろうね。慎也もずっと達也のことを見ていたし、達也から学ぶことが多かったと言っていた。達也にはどこでも良いから、ボールを蹴って欲しいと思います。

椛沢:勝手な希望と欲を言えば、横浜FCで永井と2トップを組んでもらいたい(笑)。
達也といえばエメルソンとのエメ達の2トップも印象深いですが、永井との2トップも思い出深い。

河合:それはみたいね!(笑)J1に上がってくる甲府に入ってくれたらなあ……。甲府と対戦する時に愛情をこめてブーイングをする!

椛沢:達也はブーイングをされない選手かもしれないですよ?

河合:いや、絶対にサポーターはブーイングするよ(笑)。

椛沢:福永さんは、仙台に移籍した時にレッズサポーターからブーイングをされた時に、愛情があると分かっていても理解出来ない。去年まで仲間だった人達にブーイングされるのが、頭で分かっていても心が理解できなかったと言っていましたね(笑)

河合:ヤスはずっと言っていたね(笑)。仙台時は、俺がなんでブーイングされなければいけないんだ、なんで、どうして?と言っていたね(笑)闘莉王も俺はレッズをいたかったのにクビになったのになんでブーイングされなければいけないのかと言っていた。

椛沢:達也のリーグ戦最後となった名古屋戦では、最後の交代は水輝じゃなくて達也を出して欲しかった……。

河合:あれは啓太がバッテンを出して、代えてくれとお願いをしたからしょうがないね。私も啓太!もうちょっと頑張ってよ!と思いました。サンフレッチェ戦に達也が出てきた時に達也は「あれが僕にとっての埼スタかもしれなかった。あれはミシャ監督の僕に対する温情でした。だからゴールを決めたかったんですよ……」と言っていました。

ピッチ内外で新しい風を吹かせた槙野智章

椛沢:今季から加入して、来季は完全移籍することが決まった、槙野智章については、ピッチ内外で雰囲気を変えた選手でしたね。

河合:槙野は新しい風を浦和にもたらしたよね。広島風お好み焼きというのがあるけど、槙野風浦和だったかな(笑)。彼はすごいよ。私もなかなか認めなかったんだけど、最後の試合で見せた、前半終了間際のシュートブロック、思いを込めて決めたFKで、浦和の男になったと認めた!あと槙野が変えた部分は、みんなで歌う『We are Diamonds』。その時に着ているTシャツ作りも選手たちがサッカー以外のコミュニケーションを取るということでは、すごく大きな役割を果たした。想像してみてよ。山岸のようなすごく大きな手の人がはさみで切っているんだよ。大の大人の男が工作をしている。それを着るためには勝たないといけないわけだから、それでコミュニケーションをとってみんなで勝って歌おうと盛り上がった。槙野にとっては、サッカーに興味がない人も知ってもらってスタジアムに行ってみようとつながってくれるんじゃないかとか、それが新聞に載るということを考えていたみたい。

椛沢:正直、最初は小手先の部分が見えたから違和感がありました。浦和には浦和のやり方があるし、それを大事にして欲しい部分を強く感じていました。でも、それがようやく馴染んできたように思えます。

河合:そういった中で、槙野風に苦労して紆余曲折しながら、意見を聞きながらやってきた。槙野の言動や行動、ピッチでのプレー。ピッチ内外での姿勢、練習後のファンサービスの姿を見ていて、この選手はすごいやと思った。そして最後の34試合目に結果を引き寄せてくれた。初めて浦和の男として認めることが出来た。パフォーマンスについても、実は槙野自身に伝えたことがあって、「今までの過去の歴史で『We are Diamonds』はサポーターが心から湧き上がってみんながマフラーを掲げて歌っていたものなの」と。それを槙野に話したら「勝ったら歌えば良いってもんじゃないのか。もっと早く言ってよ」と言われたことがありました。

椛沢:最終的には、レッズの歴史を知る選手たち、阿部ちゃんとかクラブの中の人とか、たかネエなどメディアの人間からも、そういうことを伝えてくれたということでしたから、それを槙野はしっかりと汲んでくれたのかなと思います。名古屋戦で見せた、最後のゴールパフォーマンスは、心からの喜び方で、でもしっかりインナーにメッセージを入れていたのは、槙野風浦和だったのかなと思う(笑)。あのようなカタルシスは浦和にしかないと体感した選手たちからは聞きますし、浦和の雰囲気を感じながら、作られものではなくて歓喜、感動が自然と出てきた姿だったなと思います。

河合:槙野は頭が良い。取材を受けていてもこの人は何を求めているのかを瞬時に察知して答えています。槙野はみんなの絆というテーマに真剣に向き合って取り組んできたと思う。だから最終戦のハーフタイムで他会場の結果について、みんなに知りたいか知りたくないかを聞いた上で、伝えた。そういう槙野だから、みんな耳を傾けたし、ついていった。鳥栖が引き分けていて、柏は負けている。だから絶対に勝とうという話になった。槙野が浦和に溶け込んでくれたことがあるのかもしれない、浦和風槙野なのかもしれないね。

ミシャサッカーの申し子、柏木陽介

椛沢:その他の選手では、今季キープレイヤーとして活躍をみせた、柏木陽介については、どうでしょうか。

河合:終盤は、足の具合が悪いのに頑張った。彼は足の具合を言い訳にしたくないと言っていた。間違いなく今季のキープレイヤーだったし、柏木と槙野が監督のことを一番理解していたと思う。柏木は監督のことも監督が求めるサッカーもよく理解しているからキープレイヤーになった。阿部ちゃんが大黒柱だとしたら、柏木は大きなはりだったと思う。そういう意味ですごく貢献をしてくれた。広島戦は出たかと思うんだけど、川崎戦が勝負だと彼は考えて無理をおして試合に出て、結局、広島戦と鳥栖戦で出られなくなってしまった。柏木は誤解されやすいけども、ピュアな選手だと思う。そこを私は声を大にしていいたい。

椛沢:分かりました(笑)。こちらも初シーズンフル稼働で活躍した、梅崎司については、どうでしょうか。

本来の動きが戻ってきた梅崎司

河合:梅ちゃんは良かったね!守備の部分でも攻めの部分でも、シャドーの位置でもよくやった。梅ちゃんはえらい。サンフレッチェ戦での活躍とかは最高だった。

椛沢:決定力をもう少し高めて欲しいというプレーもありました。ただ、サイドにいると上下動の動きも激しいので、上がった時の体力がなくてシュートを打つパワーがなかったようなのですが、力の抜き具合が分かってきて、シュートも打てるようになったとも言っていましたね。

河合:来年の梅ちゃんはもっとすごくなるよ。“梅咲く”だよ。うちの梅ちゃんはまだまだこれからだと思う。来年はもっと充実したシーズンを送ると思います。私は断言します。本人もあのような離脱はもうしたくないから、身体のケアをしっかりやってきた。今季は、本来の梅崎の姿だというものを取り戻してきたと思う。

ベテラン勢も躍動!坪井、啓太、平川

椛沢:ベテラン勢では、復活を遂げたと言っても良い、坪井慶介はどうでしょう?

河合:坪井は成長したでしょう!元々ポテンシャルが高くてアンリと負けないくらいのスピードを持った選手だったけれども、彼のドンピシャのクロス、楔のパスを見たでしょう?
あんなプレーは今まで見たことがない(笑)。

椛沢:その意味では、鈴木啓太も大きく成長をしましたよね?

河合:啓太の視野の広さ。特に最終戦の啓太はすごかったよね。

椛沢:最終戦の啓太はもう違う人でしたね(笑)

河合:啓太は本当にすごい。昔は働き蜂のようにボールを追い掛け回すプレーで、動きすぎてバランスを崩すようなこともあったけども今の啓太は違う。経験というのはこういうことを言うのかと思う。一時期、働き蜂だった啓太が病気をして体力がなくなって運動量が落ちた時にリスクを避けるような安全なプレーしかしなくなってしまった。それがやっとスーパーになって帰ってきた。ベテランで言えば、平川もコラムでスーパーサイヤ人だと書いたと思うんだけど、彼もすごいよ。今年は本当にスーパー平川だったと思う。

<第3弾に続く>

ページ先頭へ