浦和フットボール通信

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URAWA TOWN MEETING 008『浦和レッズジュニアと、浦和の才能育成を考える』(2)

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浦和レッズとホームタウンが膝をつきあわせて語り合う『浦和タウンミーティング』
浦和にはレッズ以前から歴史を積み重ねている、サッカー少年団組織が存在する。昨年から始動した小学生年代のレッズジュニアと少年団組織の連携を図り、より浦和の才能育成を推し進めるためには、どうするべきなのか。浦和タウンミーティング第8回目は『浦和レッズジュニアと、浦和の才能育成を考える』をテーマにして、語り合った。

■ゲスト:
村松浩(浦和レッズジュニアチームアドバイザー)、
近藤富美男、町田隆治(さいたま市南部少年サッカー指導者協議会技術委員)

■司会:
椛沢佑一(浦和フットボール通信編集長) 豊田充穂

豊田:海外で取材中のジャーナリストたちからも「浦和は地元トッププロとの連携でもっと大きな成果をあげられるはずとの指摘が届いています。以前も当会でご紹介しましたが、手短かに復唱します。欧米ではサッカーに限らず幾多のスポーツがクラブレベルでの運営が市民権を得て、地域密着の繁栄を実現しています。以下がその報告です。バイエルンミュンヘンの本拠地・アリアンツアレナ近くのヨハネスキルヘンのクラブ実例ですが、公営練習場でのトレーニング視察をバイエルンおよびミュンヘン1860両チームの地元ファン有志が担当し、クラブ育成部と連絡会議を続けているそうです。

オランダでも企業資本でロマーリオやロナウドを獲得して来たPSVアイントホーヘンを始めとするビッグクラブご三家への対抗策を徹底。中位以下のBクラスクラブは育成ベースの意識を高めるために、各チーム40人くらいのボランティアのスカウト部隊を結成し、地元才能の流出阻止のためにきめ細かいスカウティングを実施しているそうです。

イタリアからはご子息をフィオレンティーナのジュニアチームに所属させ、実情を深く把握されているライターさんからの報告があります。ご存じミランとインテルのミラノの2チームは、もはやイタリアが誇る地域密着の理念には戻れない状況。とりわけインテルはもとよりインターナショナルを標榜しており、ミラノにありながら地元色が全く消えた強化と運営のクラブ実態になっているとのこと。幾多の小規模クラブはミラノの2大クラブを反面教師とし、地域密着のクラブ組織を再構築しているそうです。イタリアは教会教区で地域行政が区切られており、その教会を起点に人的交流が築かれ、カルチョを頂点としたスポーツクラブ運営も堅持されている。そのライターさんの持論によれば、これは日本のお寺に非常に近しい文化形態に見えるそうで、現代の日本でこのような活動を100年レベルで続けられるのは浦和しかないのでは?との見解も頂きました。地元においては少年サッカーに関連するファミリー層のレッズに対する高感度低下が危惧されていますが、このような努力部分が周知されれば現状は乗り越えられるのではというメディアサイドからの提案です。

村松:非常に参考になるお話と思います。

豊田:村松さんにお見せしたかった写真なのですが、高校サッカー選手権が首都圏開催になった最初の年の決勝戦の模様です。浦和南vs静岡学園のファイナルに、両県のファン5万人以上が国立競技場を埋めました。ホームタウンごとの地域と人材の発展を目指した、いまのJにも通じる理念が、ここには現れていると思います。この時代から、年代にかかわらず人間形成を主眼として指導者を育て、選手を育てて来たホーム浦和の歴史。それを地元トッププロの浦和レッズと一体となって実現することが、大きな意味を持つのではないでしょうか。

椛沢:すでに前回タウンミーティングで登壇頂いた橋本前代表に、育成段階におけるレッズの育成方針を地元に向けて明示していただきたい旨お願いしています。内部でも検討議題に上げて頂いているとお聞きをしていますが、一方で地元サイドではこの件についてどのようなビジョンを持っておられるのでしょうか。

近藤:少年団の立場から私見を申し上げると、子どもたちが埼スタでレッズのユニフォームを着てプレーできる夢を抱ける状況をより強く具現化して行きたいと願っています。その面からも、交流がなければ接点はできない。我々サイドからもクラブへのアプローチを強化し、連携させていただく方針を強く打ち出したいと考えております。

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町田:才能の流出は続いており、地元サッカー少年団から他のJ下部組織や近隣のクラブチームにいってしまうケースは多々ある。FC浦和の全国大会出場が閉ざされている現状も影響していると思いますが、我々としては浦和で育ち、地元クラブであるレッズに入団できる才能の筋道をいかに固めるかが課題と感じています。クラブとの交流を重ねて取り組んで行きたいと思っています。

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椛沢:吉川団長、現場からのご意見などありますか。

吉川:36団のスケールを考えると、レッズジュニアへの道は狭き門。他に行くという意味での流出は避けられないかも知れませんね。そのあたりはどのようにお考えでしょうか。

村松:解決策としてまずは地元指導者と連携し、ジュニアアカデミーをベースにレッズサイドが関われる環境は維持していきたい。私自身、JFAナショナルトレセンコーチとしての役割も担っていますので、各団に出向いて練習環境を見たり、指導者や選手と接することができる立場にあります。県内の才能の情報確保は当面のテーマですので、多くの方々との交流ができればと思います。

椛沢:浦和の指導者評議会が掲げる育成方針というものはあるのでしょうか。

近藤:子どもが対象ですから、スポーツを通じて健全な魂と体を養い、良き大人になって欲しいという理想は当然です。チームごとにまずは強化か、はたまた成長を優先かというテーマの差異はありますが、両立を目指す姿勢に変わりはありません。

豊田:そういう部分においては、特に育成年代においてレッズと地元が一致している部分は多いはず。橋本前代表のタウンミーティングでご依頼した事項は、まさにそれです。浦和東高・野崎先生、北浦和少年団・吉野先生ともに「レッズからサッカーのスタイルや戦術、こんな才能を欲しているという条件を出していただけるのなら、そこを指標に指導をする人材は浦和の中から出てくるだろう」というリクエストが提示されました。そこには「レッズは監督によってサッカーが変わってしまう」という印象も確かに介在するのですが、少なくとも育成年代の地元指導者たちはレッズを支えたいと考えている。自らの教え子にレッズのユニフォームを着せたいという意思表明があります。

村松:わかりました。では少し具体的な話もさせてもらいましょう。選手に何をアプローチするかは年代ごとに変わるとは思うが、少なくとも小学生年代に特化するなら、選抜基準のキーワードは「止める、蹴る、運ぶ」です。簡単なポイントのようですが、4年生を集めてやらせるとボールは扱えても身体を使いこなせる子は少ない。他競技でテストすると、足を使うのはうまいのに手が使えない。足さばきができても手は連動しないというケースが非常に多いのです。これを乗り越えられないと、カテゴリーが上がるにつれて頭打ちになる。そういう子を現場で多々見てきました。フィジカルトレーナーとも検討しているのですが、この年代だからこそ色々な運動経験をさせて欲しい。それが結果的にサッカーに繋がる、というテーマは折々に感じますね。育成年代のうちにこのような身体のコーディネートの基礎を作らないと、技だけでは通用しない世界が目の前にあるという現実がある。こういう部分は地域の指導者とも情報共有をしながら、統一された指導理念としたいと考えます。

豊田:この会場だけで聞くのはもったいない気がします(笑)。たとえば今のようなお話をレッズアカデミーの村松さんが若い地元指導者たちとテーブルを挟んで伝え、討論する場を作ることが最大の目標となるのではないでしょうか。

椛沢:まとめさせていただくと当会で提案させていただきたいのは、ホームタウンとプロクラブに必要なのは「人材と価値の交換」なのでは?というテーマです。背景としては「クラブと地元がサッカー観と人材を共有し、交流も維持すること」「自治体、行政等がその重要性を認識し、サポートしていること」「育成に関し、選手の将来選択肢が地元で確保されていること」、これらのバックアップの立脚点が成立していることが条件になると考えます。

豊田:そこで浮かび上がるのが、我らが浦和レッズには「レッズランド、レッズレディース、ハートフルクラブ」という目に見える3要素が継承されているポイントです。ここを核として地元の指導者、選手との交流の場を拡げていければと……。厳しい財政状況も乗り越えて、クラブがサポーターやホーム浦和と手を携えて維持してきた財産なのですから。ぜひとも未来に向けて有効活用して欲しいです。

村松:ハードとソフトがバランスよく整うこと。それがJクラブとしても、地域と一体化する局面で欠かせないという思いは私自身もずっと抱いております。子どもたちを介した関わりに、大人同士が関わる部分を絡め、共存共栄していく環境作りを進める。そんな努力が必要ですね。クラブも当然にレッズランド等を有効活用する検討を進めなくてはなりません。本日お話した中でもそういう部分からも「新しい浦和の力」が育っていくのではないかと感じます。

椛沢:意義ある討論をありがとうございました。では最後に参加者からの質問タイムです。挙手にてお願いします。

参加者:レッズジュニアは4年生からということでしたが、4年生から始めるということはJリーグで規定されている事項でしょうか。さもなければ4年生からという線引きに理由はあるのでしょうか。

村松:Jリーグ規定は特にありません。実際に1年生からというクラブもある。レッズの場合は主に活動スペースの問題です。現状でジュニア、ジュニアユース、ユースという3カテゴリーがあり、ユースとジュニアユースには学年で分けたA、Bのグルーピングもあるので、場所が足りない実情があります。当面は少人数で有益かつ密度の濃いものが与える方針ということですが、環境が整えば、下の年代も広めていく可能性もあるでしょう。

参加者:レッズサポーターです。正式な指導者経験はないのですが、幼稚園でサッカーを教えるD級ライセンスの保持者です。レッズのトップチームにおいて地元出身の選手の扱いに懸念を感じています。原口選手、山田選手、矢島選手らは、元より才能にあふれた選手と思うのです。才能をレッズジュニアに預けたいと思うには、アカデミーに入れた後にトップで活躍できる環境が保たれていることが必要ですよね。この部分、現状はいかがでしょうか。もちろん埼玉・浦和だけに特化するわけではなく、日本サッカー全体を考えているという理想も理解した上での質問です。

村松:セレクト段階で同レベルの子がいれば、まず我々は住んでいるエリアに注目します。埼玉県の中でも西部地区、南部地区、南部地区でも川口に住んでいる子、浦和に住んでいる子などなど同じレベルの選手であれば、選ばれるのは浦和の子でしょうね。その前提は育成段階の所ではできる限り内部で共有をしています。ただ、そこからトップレベルに上がるには厳しい競争の中で揉まれる段階があります。最終的には試合に出る、出れないは、個人の力に行き着く。時の監督によって若手を使うタイプもいるし、安定を求める監督もいる。私は前者ですが、経験ある獲得選手を配置しなければならないケースはトップに近づくほど多々あることと思います。面白いデータがあるのですが、去年のJの全クラブ所属選手でレッズ下部組織に関わったキャリアを持つプレーヤーは36名います。人数を聞いて「それだけ残ってくれているのか」と、良い意味で驚きました。でもレッズ内にどれだけのメンバーが残っているかという側面から見れば、それは当然満足できるデータ結果ではありません。質問者の方がおっしゃる意味を受け止めて、若くても監督が使いたくなる魅力的な選手を育てることが我々の使命と考えています。

参加者:春日部在住で子どもにサッカーをやらせております。既存のスクールはレイソル、フットパル、江南南などですが、父兄の間では「レッズを目指したいが、育成の部分でいまだに信頼が持てない」という見解が多い。熊谷の子はクマガヤSCに行ってしまうし、春日部方面で見れば例えば佐藤寿人選手はライバルクラブに流れてしまいました。外から見ていると「レッズは浦和だけのチームなのか」と思えてしまう。対費用効果からもスクールの拡大は難しいと思いますが「サッカーがうまくなりたい」と考える埼玉の子が多くいる中で、ハートフルだけでは活動対策が足りないのでは? たとえばレイソルは各幼稚園に循環でプロ指導者を派遣したり、違う少年団をアライアンスグループとして創ったり、すごく工夫をしていると思います。浦和に子どもをあずけたい親としては、レッズに受け皿を作って欲しいのですが。

村松:いちおうハートフルは県全般を網羅していますけども、競技レベルのスクールを県全体に拠点を作って活動をする必要があるのかも?という議題がクラブ内に上がったことはあります。もちろん財政的な制限ももちろんあるが、まずは目前のホームの地場を固める段階が必要です。将来的な課題として、方向性が見えたところで議論して行きたいと思います。

椛沢:長時間ありがとうございました。最後は今回出席いただいた三室少年団出身、トップチームでも活躍した堀之内さんにメッセージをお願いします。

堀之内:この会の存在を知らなかったので非常に貴重な経験をさせていただきました。私の三室少年団時代はプロクラブも無く、少年団で子ども時代を過ごすのが当たり前でした。いまレッズジュニアができてプロ下部組織でやれる環境があることは、可能性も拡がり羨ましい気がします。ただジュニアに行けない、または行かない子どもたちのためにも少年団の存在は貴重と思います。少年団とジュニアの連携、協力は必須であることが、皆さんのお話を聞いてよく理解できました。

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椛沢:浦和タウンミーティングは、これにて終了です。この後はご登壇頂いた皆さんと直接お話を頂けれる時間を用意しております。ありがとうございました。

 

(2014年2月、さいたま市浦和区TINA ROUNGEにて)

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