浦和フットボール通信

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河合貴子のレッズ魂ここにあり!「小さな1歩~山田直輝選手」

J開幕から浦和レッズを追いかけ、ケーブルテレビのパーソナティなどで活躍をしている”タカねえ”こと河合貴子さんによる浦和レッズコラム。毎週、タカねえの独自視点の浦和レッズを語ります。

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失った時間は、試合に出るために必要だった時間へと変わって行く

試合からもベンチからもずっと遠ざかっていた。

練習が終わると『背番号6番』が寂しげに見える日々が続いていた。怪我をして長期にわたるリハビリ生活をしていた時とは全く違う胸の内の苦しみが、その背中から伝わってきた。

そして、やっと苦しい日々を乗り越え、8月2日神戸戦のサブメンバーに山田直輝選手が入った。試合出場のチャンスは巡って来なかったが、約2カ月ぶりに選手紹介で山田選手の名前がスタジアムに響いた。

山田選手は「ベンチに入らないと、試合に出るチャンスは無い。小さな1歩ですが、試合にでるために必要な時間だった」と笑った。久しぶりに見た山田選手の笑顔であった。

今シーズン、山田選手はチームの始動共にベストコンディションでスタートを切ったはずだった。失った時間を取り戻すかのように山田選手は「僕は、試合に出て自分のプレーを取り戻すタイプ」と言っていた。しかし、長期離脱していた山田選手に突きつけられた現実は、想像を遥かに超えた厳しいものであった。現時点での試合出場は、僅かに3試合。3月29日神戸戦で途中出場を果たしたリーグ戦とナビスコカップの徳島戦と名古屋戦。ピッチにたった時間は、81分とアディショナルタイムを合わせると約1試合分であった。

「こんなはずでは・・・」と思う気持ちが、どこかにあった。山田選手にボールが渡ると胸がときめくことが、今までに何度もあった。意表を突くパス、不思議なフェイント、ゴール前に出て行く推進力など観ている者を魅了する。絶好調の山田選手は、ピッチの中で独特な輝きを放つ。だが、焦りからなのか、残念なことにその輝きを失っていたのだ。

7月6日に行われた国士舘大学との練習試合に出場した山田選手は、攻撃の起点になることも出来ずにいた。試合後の山田選手の悲しげな表情は、居た堪れなかった。

後日、山田選手は「国士舘戦、最悪でした。空回りしてて、ボールを貰いたくなかった。恐かった。ボールを貰うのが、恐いからミスが起きる。上手くいかないし、取られたらどうしようと思う。調子が良い時は、俺にくれくれとなるのに・・・」と話してくれた。

小さい頃からフットボールが大好きで、ボールが大切な友達として過ごして来た山田選手から「ボールを貰うのが恐い」と初めて聞いた衝撃的な言葉であった。その時、輝きを失った山田選手が抱えていた心の深い闇を知った。

怪我をして長期離脱した選手たちは、ピッチに戻って来ても頭の中のイメージと身体がついて来なくてそのギャップに苦しむ。そして、闘える身体が出来てからも、今度は試合に出場するためにアピールしないといけないと苦しむ。「良いプレーをしないといけない」とか「ミスしたらダメだ」などと思い本来のプレーを見失ってしまう。まさしく山田選手が陥ったのは、負のスパイラルであった。もがけば、もがくほど闇は深くなって行き、抜け出せなくなるのだ。

だが、山田選手は国士舘戦が深い闇のどん底だった。国士舘戦後、山田選手のプレーをみていると「こんなところで立ち止まってはいられない」と思える気迫が感じられた。中盤でボールを貰って、味方に叩いてゴール前に侵入して行く、隙があればミドルシュートを狙う。まだ絶好調と言う訳でないが、失った輝きを取り戻しつつあった。「僕の中では、6~7割ぐらいかなぁ?!」と手応えを山田選手は話してくれた。

深い闇から抜け出して、やっと掴んだ神戸戦のベンチ。その神戸戦の翌日、山田選手はジュニアユース時代からずっと一緒にプレーしてきた高橋峻希選手のゴールを思い出して「まさか峻希が点を決めるとはねぇ」と言いながら、まるで自分が決めたように嬉しそうに笑った。そして「試合前に、ユニフォーム交換しようと言っていたのに出来なかった。また、次の神戸戦だ」と話すので、思わず「えっ!次の神戸戦だと・・・来年?!天皇杯かナビスコカップは?」と突っ込みを入れると、山田選手は「出来ればリーグ戦が良い!天皇杯やナビスコカップなら、決勝の舞台でね」と高橋選手とのユニフォーム交換出来る日に思いを馳せた。

「チャンスを掴める。何かを得るために出来ることをやる!」山田選手は自分自身に言い聞かすように力強く言った。失った時間は、試合に出るために必要だった時間へと変わって行く。神戸戦のベンチ入りは、山田選手が言ったように「小さな1歩」なのかも知れない。焦らず、慌てずに、自分自身を信じて確実に1歩を踏み出した。その「小さな1歩」を積み重ねることで、「小さな1歩」はやがて「大きな1歩」となり、ピッチで輝きを放つ時へと続いている。

Q.山田直輝選手のように前十字靱帯損傷など大きな怪我をした人は、水が溜まり易いのですか?

A.前十字靱帯を作り治す手術をするのですが、正常に近くてもやっぱり水は溜まり易いです。前十字靱帯を切ると同時に半月板を損傷することがあります。または、後から半月板を損傷することがあるのですが、半月板が損傷しているので運動負荷がかかると水が溜まってしまいます。手術直後は、水が溜まり何度も水を抜く処置をすることもあります。

川久保誠 profile
1981年慶應義塾大学医学部整形外科教室入局。93年医学博士。94年英国リーズ大学医学部大学院へ留学、修士課程修了。96年より慶應義塾大学病院膝関節・スポーツ外来担当。東京歯科大学市川病院整形外科講師を経て2004年4月より川久保整形外科クリニック院長となる。浦和レッズレディースのチームドクターも務めた。

川久保整形外科クリニック 整形外科・スポーツ整形・リュウマチ科・リハビリテーション
http://www.kawakubo-clinic.jp/

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