浦和フットボール通信

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浦和への伝言2015 大原ノート – vol.16 県立浦和図書館

浦和一女高OGのおふたりが、駒場~大原~浦和美園を巡る郷土の自然や史跡を楽しく散策します。

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また、浦和の街に変化があるようです。高砂の県立浦和図書館は3月末で閉館、埼玉会館は改修工事のため10月から休館となります。久しぶりに再開のこのコーナーで、ちょっぴり寂しい話題になってしまうかもしれません。県立図書館の思い出は、家庭に冷房など普及していなかった中学生時代、自習室で勉強と称して実は気になる誰かと会えるかな、なんて考えたり、中学校の図書館にはないちょっと大人の本を開いてみたり。つまり家、学校から少し離れて、中学生が小さな冒険を始める場所だったように思います。ゲームセンターなどなかった時代の話です。

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3月19日には大人向けの最後のフィルム上映会が催され、参加してきました。最後にふさわしく、県立図書館に関する記録フィルムが上映されました。県立浦和図書館の現在の建物は昭和35年落成。設計は著名な建築家ではなく県の建築課担当だったとのことです。あのコンクリート打ち放しの外観から埼玉会館と同じ設計者かと思っていたので、意外でした。(余談ですが、その時解体された初代の県立浦和図書館の建物が、レッズのエンブレムにもある鳳翔閣でした。埼玉県師範学校、女子師範学校などののち、最後に県立浦和図書館として使用されたそうです。)

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2代目として最初から図書館として設計された建物ですが、現在、東口にできたさいたま市立中央図書館に比べると古さは否めません。入口は2階ですし、受け付けは3階です。映画「北のカナリア」のロケで、吉永小百合さんが図書館職員として最後の仕事をする場面に使われた回廊も素敵ですが、バリアフリーとはいかない作りです。こども室は今も変わらず1階ですが、親子連れの姿が絶えない中央図書館とは違い、3月19日の午後、利用者はいませんでした。中学生時代、夢中で読んだアーサー・ランサム全集も1990年代の17刷り、小口が黄ばんでいます。

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そんな状態ですから、記録フィルムの上映会も先着50名まででしたが失礼ながら半分も埋まらないかなと思っていました。ところがこの図書館が地域に愛されてきた象徴のように、席は順次埋まり、最後はほぼ満席。図書館が本だけではなく、映像や音楽など様々な情報にみんながアクセスできる大事な場所であったことを示しています。フィルム内容もまさしくそうしたことを映していました。文字というものが発明されて、石や粘土や木、最後に紙というメディアに記され、情報は時間と空間を越えていくことができるようになりました。さらにレコードやフィルムの技術が発明されて音や映像も同様になりました。それでも、何千年もの間、その入れ物を運ぶことが情報を運ぶことの中心でした。記録フィルムの中でも、移動図書館としてバスが何千冊もの本を積んで、県内各地へと向かいます。ほんの半世紀前まで、情報とはそういうものでした。インターネットなどなかった時代の話です。

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20世紀と21世紀の大きな違いは、ここにあるように思います。情報の入れ物を運ばなくても、どこでも文字も音も映像も受け取り、さらに発信することができます。私だって、このコラムを書くのにまず「県立浦和図書館」とGoogleに打ち込んでいます。そして、デジタルの情報は文字も映像も音も古びることがありません。図書館の本の黄ばみに思う過ぎた時間、外国雑誌のインクのにおいに感じる憧れ、劣化したフィルムゆえに誘われる思い出、それも情報の一部でした。いつでもどこでも誰でも世界の情報に接することができる、それは21世紀の社会の大きなパワーです。けれども、モニター越しのそうした情報にはどこか現実味が薄いのも事実ではないでしょうか。様々な形の情報と、これからどう付き合っていったらいいのでしょうね。

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生きているということは変化し続けるということ。それが「無常」ということであり、無情でもむなしいでもありません。「常」とは変化しないことで死んでいると同じとも考えられます。だから「浦和」という名前の付いた図書館が消えてしまうことを悲しまないことにします。変化することを楽しむことにします。鳳翔閣の「鳳」は不死鳥、フェニックスにもつながります。浦和の知を受け継ぐものは、きっとまた別の形で生まれて羽ばたいてくれるでしょう。時は春! 変わり続ける街へ出かけましょう。そうそう、スタジアムもね! やっぱり生の情報は格別です。

文/百瀬浜路(ももせ・はまじ)
東京都生まれ。埼玉大学附属中学、浦和一女高、多摩美術大学卒業後、(株)世界文化社に入社。保育園、幼稚園のための教材企画、教材絵本、保育図書の編集に携わる。ワンダーブック等の副編集長などを経て、同社ワンダー事業本部保育教材部副参与。2015年1月をもって退職。保育総合研究会会員。蕨市在住。

写真/黒木葉子(くろき・ようこ)
川口市生まれ。埼玉大学附属中学、浦和一女高、千葉大学工学部写真光学科卒業。大学在学中から研究テーマとしていた撮影技術を生かしフォトグラファー、イラストレーターとして活躍。セツ・モードセミナー勤務を経て、現在フリーランス。川口市在。

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