浦和フットボール通信

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浦和フットボール交信 – Vol.10~恩師が語った川島永嗣のURAWA時代~椛沢 佑一

椛沢佑一浦和フットボール交信 Vol.10
「恩師が語った川島永嗣のURAWA時代」
椛沢 佑一
(浦和フットボール通信編集長)
 
ワールドカップ南アフリカ大会での日本代表の活躍には目を見張るものがあった。正直、日本代表がここまでの活躍をするとは誰も予想をしなかったのではないだろうか。大会直前までの最悪の状況による岡田監督、チームに対する厳しいプレッシャーが、逆にチームを一体にする力になり、選手達にやるしかないという開き直り的な気持ちにさせたことがプラスに作用した気がしている。今回は、ワールドカップについて語っていきたい。
 
■大会直前に阿部をアンカーポジションに大抜擢。
大会開催前は、南アフリカ大会は最も盛り上がっていない大会だとサッカー界隈では話されていた。ワールドカップ壮行試合では、ライバル韓国に完敗を喫して、日本代表は絶不調の状況であり大会での期待感が薄く、大会前はメディアに取り上げられることも少なく話題にほとんどなっていない状況だった。浦和レッズからは阿部勇樹が順当に選出されるも田中達也はギリギリのところでメンバーから外れ、「阿部ちゃんも試合に出ることはまずないだろう」とレッズサポーター的な期待も削がれたところがあった。
そんな中で状況が変わってきたのは、大会直前に行われたテストマッチのイングランド代表戦だった。岡田監督は大会直前に守備的スタイルに変更し、そのキーマンとして阿部勇樹をアンカーポジションに起用する形を取った。闘莉王が先制点を奪い、その後逆転を許したものの阿部ちゃんの起用がハマり、兆しが見えてきた。GKも楢崎の不動のポジションかと思われたが、川崎Fの川島がこの試合からポジションを任された。川島といえば、さいたま市出身(旧与野市)であり、浦和東高校OBの選手だ。大宮サッカー場で開催された高校サッカー選手権の埼玉県予選で、長距離のFKを蹴っていたシーンが今でも強い印象として残っている。恩師である野崎正治監督にお話を聞いた時には、「当時はGKコーチがいない中で、川島はグラウンドに夜遅くまで一人で残り、大声を一人で出してシャドーでGK練習をしていたくらいストイックな選手だった。」と語って頂いたことも印象深い話だ。埼玉で育った選手がワールドカップで活躍しているのは、埼玉のサッカー少年にも夢を与えているのではないだろうか。ちなみにDF中澤も埼玉県出身プレイヤーである。

 *浦和東高校にて野崎監督を取材した本誌vol.2号。
装丁タイトルは、いまだにURAWAに大きな課題を投げかけている。

■勝利至上主義から生まれた自信。
大会に入り、初戦のカメルーン戦は、徹底した守備を固めるフットボールを展開し、本田の虎の子の1点を守り抜き、勝利を奪った。
決して面白いフットボールを展開したわけではなく勝利至上主義に走った試合展開ではあった。しかしフットボールは不思議なものだ。この勝利が自信となり、チームの一体感が増して、次のオランダ戦ではよりアグレッシブな戦いを行い、スナイデルの強烈なミドルシュートの1発で0-1と敗戦を喫することとなったが、日本代表がオランダ代表と互角に近い戦いを演じた。そしてデンマーク戦。誰もが予想だにしなかった予選突破を決める3-1の快勝。勝利至上主義により結果を残すことで、逆に日本のフットボールの可能性を世界に知らしめるまでに至ったような試合内容を最後には見せていた。
フットボールにおいてメンタルの部分が非常に重要だということを再認識させられた。各国の試合を眺めてみても総じていえるのは、チームが一体になっているチームが結果を残し、問題を抱えているチームはピッチにそれが反映されてしまっているケースが多いように見受けられる。
5月号の特集で語ってくれた、ワールドカップの初出場を決めるゴールを決めた、岡野雅行選手も「戦術だのシステムの前に、選手達の戦う気持ちがなければ、戦術以前の問題で、話にならない。」と語っていた。如何にチームが一体となってチームとして戦えるか、よりコレクティブなフットボールが求められる今後においてもこのポイントは重要になってくると思う。

地元の才能育成への思いを語る野崎正治氏。「たとえばジャンケンにさえ“勝ち方”を考えさせる判断力を育てたい」……氏の持論も育成年代からのメンタリティの醸成の大切さだった。

■フットボールの楽しみ方をワールドカップで知る。
日本代表の活躍により、世間も一気にワールドカップモードとなり、民放各局で毎日フットボールの話題を耳にすることができる。私の周りでも「そんなにサッカー好きではないのに、日本代表の試合に白熱して本気で応援をしてしまった。自分は日本人なんだな」と語っている人もいた。それこそがサッカーが盛り上がる要素のひとつなのではないかと思う。
サッカーは、代理戦争と言ってもいいスポーツ。国と国がお互いの誇りをかけて戦うことに人々は熱狂をするのではないだろうか。これがJリーグに落とし込まれると街と街の戦いであるからこそ、面白いわけだ。どうしても一般ファンやマスコミは、熱しやすくて冷めやすい傾向があるので、ワールドカップが終わってしまえば盛り下がってしまう一過性的な盛り上がりの部分もあるだろう。
だが、これをきっかけにフットボールの楽しみ方を知り、Jリーグを見てみようと思う人々を増やすことができれば、フットボールの盛り上がりに換えることができるはずだ。もちろんJリーグのクラブ、選手はワールドカップの必死の戦いで興奮したファンをがっかりさせないような必死のプレーをJリーグでも表現して、国内で見ることが出来るんだということを示さなければ、スタジアムに足を運ばせることは出来なくなるだろう。しかし単純にゲームを楽しむだけでは、フットボールの楽しみ方の一部を知ることしか出来ない。その背景にある、街の歴史、クラブの歴史、人々の感情を受けて、フットボールクラブがピッチでそれを表現するからこそ、フットボールは世界の人々に長く愛されているのだと思う。
このことについては、各クラブ、サポーターも考えていかなければ、欧州、南米のような伝統、歴史は作られていかないと思う。最近、考えるテーマは「浦和らしいクラブ」。これを常に表現できれば、勝敗だけに左右されない熱狂が作られていくのではないかと思っている。豊田さんに、この辺りについてテーマを投げてみたい。

(第10項 了)

Profile
川島 永嗣 Eiji Kawashima
1983年3月20日埼玉県与野市(現さいたま市中央区)生まれ。
浦和東高校卒業後、大宮アルディージャでプロデビュー。名古屋、川崎フロンターレに移籍し、今夏にベルギー1部リーグ、リールセSKに移籍した。
日本代表としては、各世代の代表選手として活躍し、2010ワールドカップ南アフリカ大会の正GKとして、日本代表のベスト16進出に貢献した。

 

 
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