浦和フットボール通信

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浦和フットボール交信 – Vol.13 ~『Talk on Together』が暗示した鹿島戦の結末~豊田 充穂

豊田充穂浦和フットボール交信 Vol.13
~『Talk on Together』が暗示した鹿島戦の結末~
豊田充穂(コピーライター)

発表された入場者数は51,177人。レッズゴール裏が発し、スタンドがそれに呼応する「Pride of Urawa」の合唱はゆうに40分間を超えていた。脈打ち続けるその赤い群集の中には、もちろん前回コラムで『Talk on Together』におけるクラブ首脳の現状を嘆いた椛沢佑一編集長がいるはずだった。そして、その論調に対し「その通り。いつから我々はあんなフロントの体たらくを許せる意識になったのか」と同意を示した旧友も含まれているし、「クラブはそれなり頑張っている。コラムとして感情に走りすぎでは?」との異論メールをくれた読者もいるはずだった。だが、この宿敵と戦う大一番。サポーター同士にそんな意識差は見えるはずもない。埼玉スタジアム客席はただ「レッズのために」声を合わせ、サルトをくり返す者たちの舞台に昇りつめていた。
苦しい時間帯にPKを献上するも、山岸が気迫のセーヴで跳ね返す。歓声の余韻が残る80分に、切り札ポンテが糸を引くような弾道の先制ゴールを決めて1-0。このところのホームゲームでは見られなかったイレブンの気迫も見え、願ってもない流れを掴んだレッズが鹿島をリードして終盤を迎える。久々に埼玉スタジアムが燃えている。サポーターからの厳しい質問も飛んだ『Talk on Together』に奮起したかのようなレッズ。果たして、酷暑のホームで意地を見せることができるのか。
「この一戦さえモノにすれば、流れを変えるチャンス……」
私も祈るような気持ちで、右手前方に広がる広大なエリアから降り注ぐコールのさなかで戦況に目を凝らした。ピッチ上は、両軍が文字通りの“総力戦”に賭けるロスタイムの攻防に突入していた。

(c)K.SHIMIZU

■『Talk on Together』、その壇上と客席。
 この鹿島戦の数日前、椛沢編集長とかなりの時間をかけて『Talk on Together』に対して送られてきたレッズ支持者の受信メールの照合作業を行なった。会の議事録は多くのサイトでアップされているので省略するが、結果は実に多様な意見のオンパレードだった。「成績は不満だが、改革中の猶予期間と考える」というクラブ擁護派あり。「先が見えないフィンケの成果に頼りすぎ。責任の重さを感じていないフロントに不信感」との厳しい指摘のグループあり。さらには「チームにもクラブにも改善への的確なメッセージができないファンの責任も大。いまは全力でサポートするのみ」という自省的な意見も……。一時期のピークを体験した後のレッズ援軍にはさまざまな意見が共存する余地もできたのかなと、妙に関心させられる結末だった。

私も聴衆のひとりとして『Talk on Together』の客席にいた。会全体を通して私自身が感じたのは、ステージと客席との間に深く横たわる“ギャップ”の存在である。
壇上に並んでいるのは我らが浦和レッズを取り仕切る代表、GM、そして監督の3人……。順番に言うと最初に自分の椅子に座ったのは監督のフィンケ氏で、2人の指揮官にNGを連発した前政権から既存の選手を抱えたままに「土台づくり」を託されて着席した立場にある。次に座ったのが代表の橋本光夫氏で、この会場においても「サッカーと浦和レッズについては勉強中」を自認しつつトップの責任を全うしなければならないスタンスだ(もちろん彼自身の責任ではないのだが)。最後に椅子に座ったのがGMである柱谷幸一氏で、改革の目玉であった信藤TDの想定外の離脱をカバーし、橋本代表とフィンケ監督の間に立つために呼び寄せられての就任である。
こうして列記していても感じるのだが、壇上の3人を繋ぐ背景には「一環した流れ」の匂いがなかった。ツギハギと言っては失礼だろうが、少なくとも「クラブ発展のための確固たる指針」に沿って召集され、責任を課せられた3人とは見えないのだ。客席にもそう感じるファンは少なからず存在したろうが、彼らもそれが“愛するレッズ”の一部分であることを体験的に知っているから容認するしかない。足並みの乱れがぽろぽろと見えても、それを標的にこの3人を責めたところで「彼ら自身のせいではない」ことは分かっているし、実のある議論がそこから始まるとも思えない。
よって、橋本代表が冒頭に発した「ホーム浦和への回帰」「そのために再びACLへ」という大号令にどう繋がるのか分からないフィンケ監督の解説が延々と続いても、黙って聞くだけの立場に追い込まれる。会が進むほどにこの客席との“ギャップ”について答えるべき責任者が、壇上の3人の中にはいないことも明らかになって来るからだ。
これは浦和レッズというクラブが慢性的に抱えている「体質」が、再び顔を覗かせつつある証しだと思う。最後に召集されたフロント構成メンバーが、レッズでの現役時代も過ごしたサッカー界のベテラン・柱谷氏であったことがせめてもの救い……だったとしてもである。その場に同席した連帯感からではないが、客席からの質問には適度な厳しさでこの“ギャップ”を指摘してくれる声も存在した。
「フィンケ監督ご自身の理想に対して、いまのレッズのサッカーは何パーセントの完成度?」
壇上からの回答の曖昧さを取り除くために、数字回答を迫った巧みな設問。案の定、監督からの具体的なパーセンテージ表示はなかったが、この質問は「橋本代表と柱谷GMそれぞれの理想に対する完成度」としても訊ねてみたかった。
「現状からリーグ3位にまで成績を盛り返すための具体的な対策とビジョンは?」
ACL出場というトップの目標提示と現場の責任者の説明が噛み合わない限り、これも厳しく質されるべき設問だろう。だがやはり、説得力ある達成への道すじは監督からは示されない。結果的に耳に残ったのは、他の質問に対して発せられた「レッズが目ざすサッカーの完成には2シーズンはかかる」という台詞……。
これ以上の指摘は不要と思う。件の“ギャップ”が何ら解消されないやりとりに一石を投じるという意味では、私は「橋本社長はこちらに降りて来てくれませんか」と激しく壇上に訴えた会終盤の質問者の言葉も、心情的には理解できる。

■鹿島サポーターとの試合後談話。
 レッズサポーターにとってあまりに長すぎるロスタイム。これ以上は望めない雰囲気のホームスタジアムでスーパーセーブとスーパーゴールで先行した「特別なレッズ」が、4戦未勝利にあえいでいた「いつも以下のアントラーズ」に、筋書き通りに追いつかれてしまう。本山雅志の同点ゴールが吸い込まれた瞬間、悲鳴に包まれた埼玉スタジアムのスタンドでは、SB席でさえアタマを抱えて崩れ落ちる観客が見られた。私も久々にうつむいたままスタジアムのコンクリートを見つめる時間を味わった。その数分間に、自分自身もこころのどこかで感じていた言葉が聞こえてくる。
「やっぱりネ」「ここが鹿島との差なんだよ」……。

あの『Talk on Together』の壇上で、橋本光夫代表が述べた目標は達成されるだろうか。熱弁を振るったフィンケの解説に真実があるのなら、現体制は一定の成果を収めるのかも知れない。安易な監督交代には辟易としている支持者としても、そう祈るしかない。だが、仮に彼の手法が功を奏したとして……それは確かな財産としてレッズに生き続けるのだろうか。それは橋本代表以下の現フロントから誰の手に引き継がれ、誰の責任のもとに浦和レッズに反映されて行くのだろうか。
「傲慢になってしまったレッズサポーターを象徴する質問」
「そういうクラブ運営にまで1ファンが言及するのはおかしい」
いまや珍しくなくなったクールなサポーターの反論も聞こえてきそうだが、私はそうは思わない。サポーターの提言に端を発して創設された『語る会』を前身とする『Talk on Together』は、浦和とレッズが手を携え、意思表示を交わしてきたプロセスを象徴する存在だ。そこに横たわる“ギャップ”を解消するために、勇気あるアプローチがステージ側から発せられた実例は何回もある。「凄まじいまでの勝利への執念を」というスタンドの思いを代弁した言葉とともに立ち上がってくれた代表がいた。レッズランドの構想や三菱自工からの損失補填契約解除など大胆な改革の宣言と推進を連発し、目に見える努力で“ギャップ”に挑戦してくれた代表もいた。何かと糾弾される前代表でさえ、ACLに向けてのフロントの実行項目を明示して壇上から結束を訴えた。そして、そのような『Talk on Together』を実現させた後のレッズは、鹿島打倒はおろかアジア制覇さえ実現しているのだ。
結びに、かくなる浦和レッズの歴史を「羨ましい」と形容する15年来の知り合いである鹿島サポーターとの試合後談話を紹介しておこう。

― また鹿島にはやられてしまいました。
「うーん、確かに一時期のレッズとは違いますね。勝ち続けるしかないウチとの差を感じる」
― やはり勝ち続けることが第1目標?
「はい。それしかウチは生きる道がないですから」
― じゃあ、2番目は?
「何回聞かれても同じ(笑)。浦和に負けないことです。浦和が勝つことの意味をマジで知ってしまったら、ウチはやばい」

(第13稿 了)

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