【2016シーズンを振り返るPart1】タイトル獲得のための課題を克服出来ず。チャンピオンシップ鹿島戦
今季も浦和レッズを丹念に取材してきた河合貴子さんと、2016シーズンを振り返ります。まずは10年ぶりのシャーレを目指して挑んだチャンピオンシップ鹿島アントラーズ戦を振り返ります。
後半のベンチワークに迷いが見えた
椛沢:今季は23勝5分6敗、勝ち点74。勝ち点74は昨年のサンフレッチェ広島に続く、Jリーグ最多の勝ち点でした。今季までは、年間勝ち点1を獲得してもシャーレは掲げられないというレギュレーションの中で、チャンピオンシップは、年間勝ち点1位というチーム全体の目標を達成して臨んだ大会でした。
河合:勝ち点74はすごい結果だったと思う。でも、それはプレッシャーが掛かっていない中での数字でもあるわけで、1シーズン制ですごいプレッシャーが掛かった時に、悪い癖が出ていたんじゃないかと、色々と考えてしまう……。
椛沢:そんなシーズンでしたが、まずはチャンピオンシップを振り返っていきましょうか。アウェイのカシマスタジアムで行われた第1戦は、手堅い試合を展開しましたよね。
河合:すごく大人になったなと感じる試合だった。アウェイゴールを決めて、勝ってホームに帰ってくるためには、どうしたら良いかということを考えて、すごく明確なゲームコントロールができた試合だったと思う。2-0に出来なかったことは反省点だったのかもしれないけれども、1-0で勝って有利な状況でホームに帰ることが出来た。でも、今振り返ると、逆にメンタル的に明確になったのは、鹿島だったのかもしれない。鹿島は、2点を獲って埼スタで勝てば良いという展開で、レッズは引き分け以上という形だったからね。
椛沢:第2戦では、興梠選手の綺麗なボレーシュートで、先制をしましたが、鹿島に2点を獲られたら意味がないという難しい状況でしたからね。
河合:第2戦でも2-0にレッズができれば、鹿島が3点獲らないといけない状況になって、鹿島が追い込まれたと思う。前半30分までは、レッズにすごく良い流れがあって、点を獲る可能性を感じさせる展開だった。しかし30分以降から、流れが変わって、鹿島に押し込まれるような展開になりつつあった。それでも鹿島はセットプレイでの可能性しかなかったとは思う。
椛沢:その中で、最初の失点のシーンは、簡単なロングボールの対応ミスからのものでした。
河合:宇賀神選手は、あそこで踏ん張りきれなかった自分が情けないと言っていた。試合後、見ていて胸が締め付けられるくらいに、すごく落ち込んでいた。サッカーは一人でやっているものではないから。あの時のボールの奪われ方はどうだったのか。あそこで前プレスが掛けられなかったのか。その後、抜かれた後の対応はどうだったのか。金崎にヘディングで飛び込まれた後の対応はどうだったのか。色々な部分での問題はあったと思う。ちょっと魔の時間帯だったと思う。
椛沢:それまで完璧の流れだったのに、あの失点から流れが代わり、バタバタとした印象を受けました。
河合:1-1でレッズはOKだったんだけどね……。サッカーはよく2-0の試合が怖いと言うけれども、180分のトータルでサッカーを考えると、2-0になった時に相手に1-2にされたら、もう1点獲ればいいと、追いかける段階のチームのほうが波に乗れる。次の45分間で、どう考えるのかという所で、ハーフタイムで波に乗ったのは鹿島であって、崩れたのはレッズだった。ゲームプランが明確だったのは鹿島だったと思う。レッズは引き分けでも良いという気持ちがどこかにあったと思う。
椛沢:ミシャはハーフタイムに攻めろというメッセージを選手達に伝えているんですよね。
河合:ではなぜ。そう言いながら、早い時間帯にクローザーとして青木を入れたんだろうか?
椛沢:青木の交代は守備のメッセージだったんですかね?
河合:私はそう思った。
椛沢:青木は攻撃的な部分もあるとは思うのですが、ただテレビ中継で解説だった岡田武史さんも「あの交代で重心が下がった」という話をしていましたね。
河合:重心は下がったと思う。あの時、鹿島ベンチも動いていたんだけれども、レッズベンチの方が先に動いて、青木と李が呼ばれていて、ビブを抜いて準備をしていた。この2枚替えだったら、守備の部分と攻撃的な部分が出来る。李は前からプレッシャーをかけることもできる。彼はハートのある選手だから、このような球際の争いには勝てる選手。中盤の真ん中でバランスを考えて締めるという青木で、OKだなと思った時に、鹿島ベンチが先に交代カードを切った。鈴木優磨選手が入って、点を獲るぞというメッセージを送った。それによって、李を下げてしまった。
椛沢:それはなんででしょうね。
河合:鹿島が攻めてくるという意味合いを感じて、守るというメッセージを強めようと思ったのではないかな。あそこでベンチワークの迷いを感じてしまった。こういう時にベンチが迷いを感じると、ピッチにも伝播して1-1で守るか、獲りに行くのかというチーム全体の共通意識が崩れてしまうことがある。
椛沢:実際に、そこから崩れた感じを受けましたよね。
河合:そこからガタガタガタときた。
椛沢:その2分後に、関根選手から駒井選手の交代がありました。
河合:私は関根選手を残しておいても良かった気がする。駒井選手も仕掛けることが出来る選手だけれども、メンタル的になんとか取り返そうとしている宇賀神選手をピッチに残す選択があったのかもしれないけれども、ここは外して左に関根選手をもってきて、右に駒井選手で仕掛けて点を獲りに行くという判断もあったと思うけれども、それはなかった。攻撃的にするならば、そもそも李を入れていたと思う。
プレッシャーが掛かった時に統一の絵を描くことができなくなってしまった
椛沢:ミシャさんは、宇賀神選手、槙野選手、柏木選手など、絶対的な選手を外さないという采配が感じられますね。
河合:それでも、今季は悪い時は外していたと思うよ。
椛沢:重要な場面では信頼を置く選手は信じたいという気持ちがあるんじゃないかと思いますね。逆に鹿島は小笠原選手を外しましたよね。あの差があったのかなと。ミシャだったら小笠原選手を外していなかったと思う。それはミシャさんのマネジメント方法なんだと思いますけど、あのような場面で、この判断が仇となっている感じがする。チャンピオンシップを通して、柏木選手も良くなかったですからね。あそこで柏木選手をシャドーに入れるのではなくて李選手を投入しても良かったのかもしれない。
河合:チャンピオンシップは、失点シーンが悔やまれる試合だったね。鈴木優磨選手が消えるような動きをしていたのが、うまかったのかもしれないけれども、槙野選手が浮き球をスルーして、ボールウォッチャーのような感じになってしまった。
椛沢:あの場面で、槙野選手はキープを考えたのですかね。今まではシンプルにクリアーしていた所を、鈴木優磨選手に掻っ攫らわれた。あの場面で隙が出てしまったように思います。
河合:ボールの失い方も悪かったよね。
椛沢:さらに、その先に鈴木優磨選手を倒さなければ、シュートを打たせても西川選手が止めれていたのかもしれない。
河合:記者席から見ていて、ゴール裏から正面で見ているわけではないけれども、シュートコースが切れていたような気がする。GKのポジショニングの基本は、ゴールの中心とボールを結んだライン上に立てというのが基本だけれども、西川選手はしっかりと守って、間合いの詰め方も良かった。西川選手のシュートストップの間合いだったと思う。
椛沢:正直、西川選手はPKよりもそのほうが止める可能性があったと思うんですよね。
河合:槙野選手もヤバイ!と本人が一番ピッチで感じていたと思う。西川選手に任せる事ができたと思うけれども、自分がなんとかしなければいけないという気持ちが強すぎて、あの形になってしまった。
椛沢:あそこで冷静になって、ここは蹴らせても良いという判断は出来なかったのでしょうね。
河合:PKも金崎選手はチームメイトだから、癖などは分かっていたと思うんだけど・・・。方向は読んでいただけにね・・・。そして最後は、なんでパワープレーをやっているの?と。
この試合は何をしているんだろうという感じになってしまった。
椛沢:リスタートの時に、西川上がれー!と叫ぶミシャと、ベンチメンバーは下がれ!というシーンがあったようで、そこが全体が描く統一感がなくなっている象徴的シーンとなってしまいました。
河合:まるで統一感が全然なかった。1点入れればレッズは勝ちだった展開だったのに……。レッズは今季からずっとやってきた積み重ねは、前からしっかりとプレッシャーを掛けて、ディフェンスラインを押し上げて、その中でボールをポゼッションをするという形だった。さらに今年良かった部分は、ポゼッションしながら、無闇に縦パスを入れたり、相手のプレスが早くてパスコースがない時は、後ろに下げて、3枚で回したり、4枚で回したりとか、色々ボール回しをしながら、相手を威嚇して、オフザボールの動きで、フリーランニングをして空いたスペースを作って、そこを突いて攻撃のスイッチを入れていくということが、すごくうまくできていたのに、最後はその形が見られなかった。
椛沢:シーズン終盤になって、フィジカル的な問題もあり、そのようなプレスが掛けられなくなったということもあったんでしょうか。チャンピオンシップ第2戦も前半30分までは、かなりリズムが作れたのが、段々オープンになってプレスが緩くなった感があります。
河合:それはシーズン終盤にどのチームも言えること。どの選手もケガがあって、色々な所に選手が痛みはある。李選手が肋骨を骨折していたのも全然知らなかった。確かに前日練習で途中で練習は切り上げていたけれども、大事をとったくらいにしか思わなかった。李選手も、チャンピオンシップに掛ける気合がすごくあった。
椛沢:そうなると肋骨のケガがあったから出場しなかったのではなくて、戦術的な意味合いで起用されなかった可能性が高いんですかね。
河合:私は肋骨のケガが問題だったわけではないと思う。用意していたけれども使わなかった。そこの迷いが、いつも大事な試合やプレッシャーが掛かるゲームで出てしまう。
椛沢:今季は悪い部分が全く出ていなかったのに、最後の最後に出てしまいました。逆に言うとプレッシャーが掛かるゲームは、チャンピオンシップにしかなかったんですよね。
河合:ルヴァンカップ決勝はあったけれども、それでもね……という所だよね。
椛沢:ルヴァンカップで勝ったらから今季はいけるんじゃないかという期待はあったけれども、結果的にはリーグにプレッシャーは別だったんだというものになってしまった。
河合:そうだよね。今季、5万人入った試合は一回も勝っていないでしょ?
椛沢:ルヴァンカップ決勝では、PK勝ちしましたけれども、リーグ戦では一回もなかったみたいですね。
河合:ものすごい重圧を選手は感じていたんだと思う。負け試合から学ぶということがあると思う。
椛沢:この何年間か、このような負けに学んできたと思うのですが……。今季は年間勝ち点1位を獲得して素晴らしいシーズンだったのですが、10年ぶりのシャーレを掲げることは出来ない残念な結果となってしまいました。