浦和フットボール通信

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【2016シーズンを振り返るPart3】完成の域にあるミシャサッカー。その先に求められるもの

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今季も浦和レッズを丹念に取材してきた河合貴子さんと、2016シーズンを振り返ります。ミシャサッカー5年目で完成の域にある中で、さらに求められるものは何か。2016シーズン振り返り最終回となります。

完成の領域にある”ミシャサッカー”

椛沢:リーグ戦だけを見るとミシャサッカーは完成したのかなと見えました。

河合:それはそう見える。でもそれはメッキだったと言われてしまう結末になった……。

椛沢:リーグ戦ではプレッシャーが掛かってないですからね。

河合:はあ……。

椛沢:ACLも初めて予選を突破して、予選リーグではホームで広州恒大にも勝ちました。

河合:振り返ってみても浦和のグループは死のグループだった。浦項、シドニー、広州。よくここを勝ち上がった。もしソウル戦に勝っていたら、とんとんとACLを制覇していたんじゃないかという期待があった。ただ、ACLを勝ち上がっているとひどい日程になっていたんだよね。

椛沢:その時はリーグ戦が厳しい闘いになっていたかもしれないですね。実際にソウル戦で敗退してからリーグ戦でも引きずり連敗を喫してしまいました。あのソウル戦は相当テンションを上げていたんでしょうね。

河合:現地に行っていたけれども、まさに死闘だったね。これを埼スタでやって欲しいと思うようなゲームだった。延長に入って、最後はPKで勝負が決まり、あれは仕方ないかな……。もう足がパンパンだったからね。

椛沢:トータルすると今季は悪いわけではなかったんですよね。

河合:「終わり良ければ全て良し」という言葉があるように、終わりが悪かっただけで、シーズンを通して良いサッカーはしていた。実際にここでもコラムで色々と書いたけど、「大人になった」とか。「ゲームコントロールができるようになった」とか。「前からプレスをかけるだけじゃなくて、ブロックを引くことの使い分けができるようになった」とか。「無闇な楔を入れることがなくなった」とか。

椛沢:自分達のサッカーができない試合でも勝てるようになりましたからね。うーん、逆にむなしくなってきました(苦笑)。そこまで出来るようになったのに……。なぜ勝てなかったのか。その先は違う要因なのかもしれないですね。

河合:違う要因だろうね。やっているサッカーは素晴らしいものがある。フリックを入れて、コンビネーションでゴール前に何人も飛び込んでいく。ダイレクトで小気味良いリズムのパスワークで、こんなに相手を揺さぶって崩してすごい!というゴールが決まると、心躍るよね。ここでしっかりゴールを決めてこそ、サッカーの醍醐味だという試合もあった。それは5年間の積み重ねの賜物だと思う。だから、浦和を愛する人たちの中で74ポイントを獲ったからいいじゃないかと切り替えようとシている人はたくさんいると思うけども……。

椛沢:その素晴らしいサッカーが、プレッシャーが掛かった中で、出来るのかというのは、来季が1シーズンに戻るとしても疑問符がついてしまう。もちろん最後に勝っていれば自信をもって言えたと思うのですが。ミシャ監督は、もともと優勝を狙う監督ではないと思っているんです。カッペロ監督のような勝利至上主義のタイプではない。もともとは下位のクラブを率いて、ビッククラブに対しても素晴らしいサッカーをして打ち負かすことにカタルシスをどちらかというと感じる監督なのだと思います。その意味で、最初から浦和の監督をやるのはかけ違っている部分があったと思います。

河合:それはあったかもしれない。

椛沢:ミシャ監督は、後ろに守備的な選手を置かない。槙野選手、森脇選手は攻撃に秀でた選手で、遠藤選手はもともとボランチの選手ですから、そういうサッカーを志向する監督なんですよね。何を言いたいかというと、守備に重きを置く監督ではないから、タイトルを獲るのが得意な監督ではないのではないかと。ガチガチのCBを置いて、つまらなくても勝つという監督ではなくて、基本は美しくありたい。勝負時に守備の失敗が起きてしまうのは、ある意味しょうがないのかなと。純然たるCBを置いていたら、最後の失点がなかったんじゃないかと思ってしまう。そういうスタイルが影響をしているんだろうなと思います。

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河合:そうしたら、とことん攻撃的サッカーで貫くしかないんだよね。チャンピオンシップの第1戦は硬いサッカーをして勝って帰ってきたけれども、それは74ポイントを獲ったサッカーではなかった。

椛沢:メッキが剥がれてしまったというのは、そういうことで、出るんでしょうね。誰かが言ってましたが「サッカーは嘘をつかないと」。本当に出るんだなと。

河合:「練習は嘘つかない」というのと一緒だね。レッズは、あんなに努力をしてきたのに最後に崩れてしまった。私は5年間、傍で取材をしているとタイトルを獲らせてあげたいと思わせる監督なんだよね。でもここで獲らなければ男じゃないよというタイミングで自ら逃してしまう。今季はルヴァンカップこそ獲ったけれども、リーグタイトルこそ真の目標だったからね。

椛沢:本人が一番忸怩たる思いをしていると思います。

河合:どこかでスコンと抜ければ、黄金期が来ると思う。勝っていれば浦和の黄金期がこれからやってくる!と胸を張って言えたと思う。来年も連覇するよ!という夢が語れたはずなんだけど。

椛沢:逆に鹿島の黄金期が来てしまうかもしれない(苦笑)。そのくらい、あのチャンピオンシップの勝ち負けで、分岐点ができてしまう可能性があります。

河合:一番心配なのは、興梠選手がリオ五輪から帰ってきて燃え尽き症候群になったように、今回このようなシーズンの終わり方をして選手達は燃え尽き症候群になっているんじゃないかということ。

椛沢:悪いシーズンの終わり方をすると、来年に響くことってありますからね。

河合:ある。選手達は、メンタルをしっかりと切り替えることが出来るだろうか。キャンプが始まれば自ずと上げてくると思うけれども、それまでの間、本当に大丈夫かなと心配になってしまう。

椛沢:サッカーが完成していただけに、それでも勝てないということの怖さがありますよね。
これでも勝てないのかと選手が考えた時に、自信を失うのではないかと。何かが足りないから勝てなかったんだということであれば、それを改善して頑張ろうということになりますが、完璧なサッカーを見せていただけに、来季のモチベーションは難しい。もちろんその中でも足りないことがあったから勝てなかったわけですけど。

河合:来季に向けてメンタルケアが出来るか出来ないかは大きいと思う。

椛沢:そう考えると、来年に期待と簡単に言えないですね。

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クラブとしての積み上げも求められる

河合:でも来年こそ獲らないと。もし来年獲れなければミシャ監督は責任を獲って頂いても良いと思っている。ただ、怖いのは後のことをしっかりと準備をしておかないと、良かったチームがガタガタと崩れてしまう危険性がある。

椛沢:この5年間はチームは積み上がりましたけど、クラブの積み上げはあったのか。ミシャ監督に丸投げしていませんか?と思う部分はある。ミシャ監督がいなくなった時にクラブに何も残らないとなると、いなくなった時にガタガタときてしまいますよね。

河合:それでミシャ監督が他にいけば、選手が一人ずついなくなってということになってしまうかもしれない。段々レッズの選手達も年齢が上がってきているからね。世代交代という部分も課題になってくる。阿部ちゃんには、シャーレを掲げてもらいたい。もうダメだと思って浦和を愛することを辞めてしまう人がいるかもしれないけれども、あと一年だけ我慢してもらって……。来年、クラブは5年間、チームが積み上げてきたものと、クラブとして積み上げていくものを考えてもらって。

椛沢:レッズがクラブとして何がしたいのか、どういうクラブにしたいのかをもっと考えて、発信をしないと、レッズが何を考えているか全く分からないという人はいるんじゃないでしょうか。

河合:今年は、親会社も変わり、新会社が出来た中で、クラブとしてはそこから考えないといけないと思う。株の増資も考えています。クラブハウスも新しくします。それは分かったけれども、そこの中で、何のためにそれをしているのかという根本を明確にして欲しい。そこを明確にしてシャーレを掲げる!

椛沢:それは連動しているんだと思いますね。根本としたものがないから、最終局面で力が出ない。金メッキが剥がれるというのは、そこにも繋がっているように思えます。

河合:2006年の優勝時にはサポーター発信で駅前でメッセージを書き込んでいたけれども、今はクラブ発信で行われている。やらなくなっちゃった?できなくなっちゃった?どっちなのか分からないけど、そのような所も含めて、もう1回、根本の一番大事な所をクラブがしっかりとしないと、結果も伴ってこないかもしれないね。

椛沢:ミシャ監督がせっかく作ってくれたものがもったいないものになってしまいますね。ミシャ監督はある意味時間を作ってくれている。降格しそうなチームからここまで立て直した中で、クラブは5年間何を考えていたのかなと思ってしまう部分がある。

河合:クラブハウスを新しくするとか、環境整備をやっていると行っているけれども一番大事な、どうすればスポーツを通してみんなが幸せになれるんだろうかということを考える必要があるかもしれないね。2006年当時はクラブも選手もサポーターも街の人も同じ方向を向いていた。浦和の街で知らない人同士がおめでとうございますと言い合っていて、正月が早くきたようだった。県庁の駐車場でサポーターが発煙筒を炊いて、かっこよかったよね。今はバラバラになっているような気がする。もう一回原点に帰ってもう一回みんなで幸せになろうよ。嬉し涙を流そうよ。

椛沢:みんなが幸せになる形を考えたいですね。

河合:このシャーレを掲げれなかった悔しさは忘れないからね。74ポイントもとって優勝チームじゃないという、恥ずかしい歴史が刻まれてしまった。なんでこの強いチームが優勝できなかったのかと。CSも1勝1敗の引き分けだったんだけどね。アウェイゴールで決まるなんて……。ルールは決まったことだから、文句は言ってはいけない。レギュレーションにそって圧倒的な力を見せて勝てばよかったんだよ。

椛沢:レギュレーションに文句を言うと逆にレッズが惨めになってしまう。優勝して意味がなかったと文句を言うのは良いと思うんですけど、負けて言うと負け犬の遠吠えに聞こえてしまう。勝てば2ステージの意味もなかったと言えた。

河合:去年は広島がそれを言ったからね。来年は明確なビジョンをクラブが示して、優勝するために、みんなこうしようと、それぞれが考えて、みんなで幸せになりたいね。

(了)

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