浦和フットボール通信

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浦和への伝言2011 大原ノート – vol.6 天道虫

浦和一女高OGのおふたりが、駒場~大原~浦和美園を巡る郷土の自然や史跡を楽しく散策します。

vol.6〜天道虫

 

■「もうすぐ春ですね、と月並みなご挨拶ができるぐらい」と3.11前日に仕上げた原稿は始まっていました。読み返すと、そうした「月並みな」できごとの全てが遠い日々に思えます。ありふれた日常というものがいかに有り難いものであったか、すでに様々なところで様々な方が語りつくしているので、もうここではやめようと思います。■大原の周りではこんなときであっても、「月並みに」いろいろな植物や昆虫が目を覚ましています。枯れ草のなかに見え隠れする赤いものはテントウムシ。刺さないし毒もないし、逃げ足もさして早くないこの虫は子どもたちの良き遊び相手です。ぎゅっとつかむとオレンジ色の臭い汁を出すので、そこだけちょっと注意。さいたまでよく見かけるのはナナホシテントウ、ナミテントウでしょうか。

■ナナホシテントウは名前の通り、赤地に黒の星が7つ、頭のあたりにちょっと白いところがあります。ナミテントウはナナホシと形、大きさはそっくりですが模様はなぜか固体ごとに違い、黒地に星2つ、赤地に星たくさん、その他いろいろです。けれども色は必ず赤と黒、頭のあたりに白が少しという大原にぴったりの虫です。テントウムシはつかまえて手のひらにのせておくと、指を伝ってどんどん上に登ります。てっぺんに着くとしばし身を震わせ、赤と黒のぴかぴかした鎧の下に格納した茶色の大きな羽をひろげぶーんとお日様めがけて飛んでいってしまいます。

■飛び立ったテントウムシはその後どうするのでしょう。お日様に届くわけはなく必ずどこかに降りるのですが、それでも捕まえるとまた、せっせと登っててっぺんから飛び立ちます。見果てぬ夢を追ってせっせと応援に行くどこかのサポーターと似ているなあ、なんてね。まあ、でもそれでいいんです。夢は見果てぬからこそ夢なんで、手に入れたらその瞬間から現実になっちゃいますからね。

■ナナホシテントウとナミテントウは幼虫も成虫もバラなどに付くアブラムシを食べます。アブラムシが不足すると共食いしてしまうほど食欲旺盛だそうです。ナナホシは野原に多いのですがナミテントウは林や庭でも見かけます。この寒い冬の間、テントウムシたちはどこかで集団越冬していたはず。テントウムシもサポーターも待ちわびた春がもうすぐのはずでした。私たちにとってはかつてない苦しい1年になりそうですが、これから初夏まではテントウムシたちには最適の季節。アブラムシをたくさん食べて、飛び立って、恋をして、卵を産んで、私たちの身近で元気に生きのびて欲しいと思います。

■欲望と希望は紙一重。テントウムシが枝を登るのはアブラムシが枝先に多いことと無関係ではないでしょう。私たちだっておいしいものを食べて家族をもって幸せに暮らしたいと願ってきました。そうしたささやかな欲望をかなえたいという努力が3.11の午前中まで、1億数千倍に膨れ上がって、豊かな日本を作り上げてきたのではないでしょうか。その欲望と震災を結び付けて「天罰だ」などと否定するのは、少し違うのではないかと私は思います。

■登って登って枝の先に着いて、でもそこに望んだものがなかったとき、テントウムシはすごすごと後戻りしたりしません。もう登る枝がない、その先の虚空に、必ず飛び立ってゆくのです。テントウムシに枝を登らせるものが欲望なら、枝の先から飛び立たせるもの、それを希望というのではないでしょうか。だから昔の人はこの小さな勇気ある虫に「おてんとうさまの虫」、天道虫と名付けたのだと思います。

ももせ・はまじ
東京都生まれ。埼玉大学附属中学、浦和一女高、
多摩美術大学卒業後、(株)世界文化社に入社。
保育園、幼稚園のための教材企画、教材絵本、
保育図書の編集に携わる。ワンダーブック等の
副編集長などを経て、現在同社ワンダー事業本
部保育教材部副参与。保育総合研究会会員。蕨市
在住。

くろき・ようこ
川口市生まれ。埼玉大学附属中学、浦和一女高、
千葉大学工学部写真光学科卒業。大学在学中から
研究テーマとしていた撮影技術を生かしフォト
グラファー、イラストレーターとして活躍。現在、
セツ・モードセミナー勤務。川口市在住。

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