西川周作が、浦和に来て初めて大谷幸輝とユニホーム交換した理由【河合貴子のレッズ魂ここにあり!】
J開幕から浦和レッズを追いかけている”タカねえ”こと河合貴子さんによる浦和レッズコラム。毎週、タカねえの独自視点の浦和レッズを語ります。
共に過ごした仲間だから
大差の6-1で浦和の勝利を告げる笛が鳴った瞬間、大谷幸輝選手はガックリと肩を落とした。
初めての古巣対決、大谷選手は「6点獲られた後なので・・・」と俯き「良いプレーして・・・。見せたかった」とポツリと呟いた。
その声は、試合中に仲間を鼓舞して指示を出し続け必死にゴールを守っていたことを裏付けるほどガラガラであった。
浦和の人々の前で、もっと自分らしい良いプレーをしたい思いが強かった。それが故に力んでしまったところもあった。
試合後、浦和のゴール裏へ深々と頭を下げる大谷選手へ「頑張れ~」と暖かい声と拍手が沸き起こり、敗戦によって荒んだ大谷選手の心を暖かく包み込んだ。「こんな僕を見守ってくれている。有り難かった」と大谷選手は感謝の言葉を口にした。
高校1年生の時に、親元を離れて浦和へとやってきた大谷選手。U-21代表にも選出され、手足も長くキャッチングはもちろん守備範囲も広くいずれ浦和のファンデルサール選手(元オランダ代表GK)になるのではないかと思われるほどの逸材であった。
しかし、たった1つポジションであるGKのプロの壁は厚かった。トップチームに昇格しても、都築龍太選手や山岸範宏選手など日本代表経験のある選手たちがいたのだ。
そして、西川周作選手も浦和に移籍した中で、2014年には試合出場経験を求めて北九州へレンタル移籍をした。北九州では正GKの座を射止めたが、浦和に復帰してもリーグ戦の出場機会を得ることはできなかったのだ。
大谷選手は、サブのGKに甘んじていた訳ではなかった。先輩のGKたちを見ながらさまざまなことを学んでいたが、もう若手は言えない年齢になっていた。
そして長年過ごした浦和を離れて、今シーズンから新潟でプレーする道を選んだのだ。あどけなさが残る高校1年生だったが、すでに27歳を過ぎていた。浦和を飛び出すのには、新潟からのオファーは、またとないチャンスであった。
自分が育った浦和との対戦は、楽しみであり、成長した姿を見てもらいたかった。しかし、大量失点・・・。試合後、大谷選手はお世話になった土田尚史GKコーチに挨拶へ出向いていた。
土田GKコーチは「お前らしくやれよ。前向きにやっていけ!!」と声を掛けた。高校1年生の頃から大谷選手を知る土田GKコーチは「独特な感覚だった。幸輝とは付き合いが長かったからね。山岸(北九州)や加藤(大宮)に無い感覚だった。なんか息子みたいな感覚だったな」と目を細めた。
そして「後半は、何本かスペースに飛び出して良い判断があった。いつも周作中心に観ているが、幸輝が何をしているかなって気になったよ」と話し「頑張ってくれるよ!あいつなら大丈夫!!」と独り立ちした息子を思う父親のように大谷選手をみていた。
「ずっと一緒にやってきた仲間。幸輝の良さを一番近くにいた僕は知っている」と西川選手は、試合後に自ら大谷選手に歩み寄り敬意を表してユニホーム交換を申し出たのだ。
西川選手は「僕はあまりユニホーム交換しないけど、幸輝は快く受け入れてくれて良かったです。浦和に来て初めてユニホーム交換した」と嬉しそうに話していた。
リーグ戦では、ユニホーム交換する姿は、他の選手でも滅多にない光景である。西川選手は、2010年に名古屋が優勝したときに憧れの楢崎正剛選手にユニホーム交換をお願いしたことがあったそうだ。
森重真人選手と水本裕貴選手ともユニホーム交換をしたことがあるそうだが、同じポジションのGKとしては大谷選手が二人目であった。それだけ、西川選手は大谷選手のことを思っていたのだ。
西川選手は「幸輝は、守備範囲が広い。キックの精度は上手い。鈴木武蔵選手など高い選手をターゲットにして、DFが競りにくいボールを蹴っていた。質が良いなって思いながら観ていた。積極的なところはチームを救っている」と大谷選手の良いプレーをしっかりと観ていた。
そして「僕自身も幸輝自身も思うことはたくさんある。GKとしてゴールを守ると言うことが、最優先されるポジション。意識付けしていきたいところだ。失点が続いている中でクリアーにしたい」と自分のプレーを顧みて身を引き締めて話した。
そして「僕も経験がある。残留争いの経験の方が多いかな。やっと優勝争いの経験が追いついてきた。大分時代にデビューした年は、いきなり残留争いだった。神戸と残留を争っていた時に神戸に負けて、泣いた。サポーター前で情けない姿を見せたこともあった。でも、素晴らしい経験をしたと胸を張って今では言えるし、自分がしっかりと活躍して、同じ経験は二度としない。サッカー人生は短い。優勝経験が多い人生にしたいな」と積み重ねてきた経験を西川選手は生かしてきたのだ。
きっと、大谷選手もこの浦和戦での経験を生かしていくだろう。西川選手は「彼の能力的にチームを背負っていく力がある。次、ホームで幸輝と闘いたい」と目を輝かせていた。
共に過ごした仲間だから、例えチームが違っていてもお互いを思う気持ちは決して捨てきれない。大谷選手のファインセーブで浦和が苦戦を強いられて敗戦をするのも嫌だが、大谷選手がボコボコに失点するシーンも見たくない複雑な心境が正直なところある。
ならば、GKが防ぎようのないような素晴らしいゴールの数々で浦和が勝利を収めたい。それが、大谷選手への餞となり、大谷選手はファインセーブや守備範囲の広い自分らしいプレーを魅せて浦和を阻止することが恩返しになるだろう。
7月9日、浦和を愛する人々は埼玉スタジアムのピッチに立つ大谷選手を待っている。
Q.精神的な疲労について教えて下さい。
A.運動をし過ぎることにより精神的に疲れると、身体の中のホルモンのバランスが崩れて筋肉の回復を遅らせてしまいます。オーバーユース症候群中には、精神的疲労もあります。意欲が落ちれば、ホルモンの分泌が悪くなりパフォーマンスが落ちてしまいます。軽いトレーニングをしながら、リフレッシュすることが大切です。トレーナーさんたちが、メニューを作り食事管理し、乳酸値を図ったりケアーをしていきます。40℃ぐらいのお風呂にゆっくりと浸かりリラックスして疲れを取ると良いでしょう。
川久保誠 profile
1981年慶應義塾大学医学部整形外科教室入局。93年医学博士。94年英国リーズ大学医学部大学院へ留学、修士課程修了。96年より慶應義塾大学病院膝関節・スポーツ外来担当。東京歯科大学市川病院整形外科講師を経て2004年4月より川久保整形外科クリニック院長となる。浦和レッズレディースのチームドクターも務めた。
川久保整形外科がリニューアル開院しました。平成28年5月6日(金)より新クリニックにて診療を開始しています。MRIなど最新施設を備えて、より良い環境の下での医療とサービスをご提供していきます。http://www.kawakubo-clinic.jp/