「クラブのスピリッツを体現する育成を」水沼貴史インタビュー
10年ぶりのアジア制覇を果たしたレッズイレブン。しかし来季はACLへの出場権は得られなかった。今季は5年半指導したミハイロ・ペトロヴィッチ監督も交代となり、新たな指揮官として堀孝史監督が就任した。転換期を迎えた今、レッズはどこへ向かうのか。クラブ指針も踏まえ、浦和出身で、サッカー解説者の水沼貴史氏に訊いた。(浦和フットボール通信編集部)
Text/Mitsuho Toyota、Interview&Photo/Yuichi Kabasawa、Photo:Kazuyoshi Shimizu/Yuichi Kabasawa
水沼貴史 Takashi Mizunuma
1960年、埼玉県浦和市出身。本太中、浦和市立南高では全国制覇を経験。法政大入学後、79年にユース代表としてワールドユースに出場。83年に日産自動車サッカー部に入り木村和司、金田喜稔らと日産の黄金時代を築き、95年で現役引退。国際Aマッチ32試合出場7得点。引退後はメディアで活躍。06年に横浜F・マリノスのトップコーチ、監督に就任。その後、法政大で指導を行い、現在はサッカー解説などを行っている。
プロとしての継続が「勝利至上」を生む。
UF:その結末は地元メディアとして指摘してきた「レッズの継続性」という問題点にも行き当たります。戦術の完成形が近づく頃には指揮官が去り、主力たちの年齢的なピークも過ぎてしまう……等々の状況です。辛くも残留した2011年からペトロヴィッチ体制を5年半継続させて一定成果は出たと考えますが、問題はこの後では?
水沼:無冠のまま継続させる可否を考えれば解任は致し方なかったでしょう。スタイルや戦術よりもまずは勝利、現有戦力の特性を考え直すなどの監督選びのポイントがあったが、まずはタイトルを獲るためにアプローチしていくしか以後の方策もないと思います。
UF:勝つためにどうするかの基準ありき。やはり「勝利至上」からでしょうか。
水沼:レッズがビッグシティにふさわしいビックチームになるためには、やはりタイトルが不可欠です。鹿島はタイトルコレクターの強豪ですが、ジーコ伝授の勝利へのリアリズムが選手から選手、スタッフからスタッフへと内部で確実に受け継がれている。鹿島も社長は3年で代わりますが、強化セクションの人間はずっと変わっていません。社長の椅子が定まらない多くのJクラブにとってこの点は目標となってくる。レッズも「サポーターの熱い思いに応える」とコメントする以上、勝利至上は当然。常にスタッフに強化のプロフェッショナルを中枢に置く経営が求められると思います。
クラブのスピリッツを体現する育成を。
UF:プレースタイルの継続についてはどうでしょう。
水沼:レッズに限ったことではないが、生え抜きの主力選手も必須です。そういう人材が覚悟をもってピッチ上でもマネジメントでもクラブを牽引しなくてはチームのプレースタイルは作れない。選手に限って言えば下部組織からの育成はまだまだこれからです。レッズはジュニアが出来て4年。名実ともに自前の選手を育成して欲しい。そこには手腕も必要になるから、もっと育成部門の人材強化にも励むべきと思います。バルセロナのジュニアを2年連続で見る機会がありましたが、サッカーの基本やトレーニングメニューはトップチームと共有されている。「バルサの選手たるものこうあるべき」というスピリッツが受け継がれているからだと思います。指導者に加えて内部体制も欠かせないということ。浦和もこの部分はしっかり改革しないとプレースタイルは確立できないでしょう。
UF:レッズは浦和のフットボールクラブ。浦和サッカーの歴史に根ざし、浦和は強くあるべきというサポーターの意識にも反映されて来ました。レッズイレブンにはサッカーに真摯に取り組む姿勢が求められると思います。
水沼:求められているのは熱いプレーヤーかも知れないね。私はサッカーにスマートなプレーを求めましたが、南高時代に松本先生(松本暁司監督)にそうじゃないと強く教え込まれた(笑)。確かにJでも海外でも、勝ちあがっていくチームはやはりイレブン全員が100%を出し切っていますよ。サボったり隙を見せたら絶対にやられる。頂点に届かずに終ってしまう。真摯なプレーや姿勢は今のレッズに強く求められる部分かもしれません。
UF:私たちもまさにそこをレッズと共有したいですね。
水沼:浦和・埼玉の才能流出は昔からの課題ですが、育成人材に関してもそれは同様。時間はかかっても、私たちは指導者たちがレッズに行きたいと思える環境も作らなくてはなりません。そういう素地もポテンシャルも浦和にはあると思うので。その意味からも連携をとる埼玉の高体連も頑張って欲しい。時代や状況が変わったとはいえ埼玉の高校がもっと全国で上に行き、タイトルを獲得する姿が見たい。
UF:同意です。かつての高校勢のように埼玉のサッカー全体が底上げされ、その頂点にビックチームの浦和レッズが輝くことが理想です。
水沼:サッカーがある場所に生まれて育つという経験は人生を変えると思います。そのホームタウンに街を代表するクラブがあって、そこに関わる人を育てられる環境があれば理想的です。レッズは是非ともアジア王座を奪還して欲しい。私が浦和にいたのは南高を卒業する18歳までですが、サッカーに出会いサッカーを知った原点は浦和にほかなりません。長い時間サッカーに携わって来たけど、この年齢になっても機会あれば「浦和のサッカーために」という覚悟は持ち続けています。
(2017年11月 神奈川県内にて)