浦和フットボール通信

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「スポーツは日本の元気玉」 さいたま市のスポーツ都市としての可能性を探る。 池田純(さいたまスポーツコミッション会長)ロングインタビュー全文記事

心を一つにみんなで目指せ!さいたまスポーツブランド都市化計画

UF:さいたまスポーツコミッションとして具体的に考えている今後の展開について教えてください。

池田:まだ私は着任したばかりで、働いている人は市からの出向の人ばかりなので、まずは組織が民間の思考や人材にどんどん変わっていき、守りから攻めに転じていかないといけないと思います。さいたま市、行政サイドのスポーツや自転車、それに伴う文化や収益づくりのための意識の底上げももっと必要です。その先に、さいたま市とさいたま市が産み落としたスポーツの会社であるさいたまスポーツコミッション、それらに関わるすべてのみんなが共有すべき「さいたまスポーツブランド都市化計画(案)」という大きなビジョンがあります。これはスポーツ先進都市としての大きな設計図です。それらをひろくさいたまの生活者に発信していき、市民に共感を生んでもらう必要があります。

設計図はすでに私の頭の中にあります。さいたま市や市長にも、少しづつ切り出しながら提言をし続けています。すべてをまとめていきなり話しても、今のままでは実現しないですし、片手落ちで部分的にだけ実現しても意味が薄らいでしまいます。私が考えていることをやるのではなく、関係するみんなで設計図を完成させていかなくてはなりません。

まずは、せっかく6年もさいたま市がツール・ド・フランスさいたまクリテリウムを実施してきたので、自転車文化を拡大させるために、さいたまクリテリウムのレース自体の拡大とともに、それだけではなくてパークを含めたアーバンスポーツ、スケボーなど色々な遊び場を作っていくこともさいたまの生活者やキッズのためにはのぞましいことだと思いますし、スポーツ都市ですので、地域密着型のローカルスポーツの拠点であるアリーナがもう1つ出来て、サッカーだけではない多様なスポーツがもっとプロチームも含めて三角形がさいたまの生活者で充足できるように発展していくことも望ましいと思います。

文化的な側面でもスポーツ図書館やスポーツ漫画図書館ができ、そこにカフェも併設されていて、さらにそれがアリーナの中にありそのままプロスポーツが見られるとか。スポーツブランド都市なのでスポーツ映画祭をやるとか、自転車の街になっていくのであれば BMXの草大会やRed Bullの大会を河川敷でやれたら面白い。そういったファッションに近いアーバンスポーツに関連するエッジのきいたお店ももっと増えていくとファッションや、あらたな層の人口流入や訪問にまでつながっていく。そして、様々なスポーツイベントが広がっていってそれを事業にできていければ良いというのが今後の設計図のごく断片的な一部です。

UF:その計画が実現するために必要なこととはなんでしょうか。

池田:さいたま市とさいたまスポーツコミッション、さいたまのスポーツ文化の発展と街づくりに関わるみんなの理解の底上げと、その中での行政との連携の成就と、しっかりと「経営」ができるための武器づくりです。関わるみなさんの意識改革が進み、その中で仮にアリーナが出来れば、色々なエンターテインメントを呼べますし、そこに本当の市民クラブのプロスポーツチームを作っても良いと思います。

私は経営をする人なので、経営するためには資金ないし“武器”が必要です。アリーナは一つの大きな経営の武器にもなるでしょう。私は魔法使いではありません。経営には武器が必要なのです。さいたまスポーツコミッションの経営のためにも、さいたまスポーツコミッションがその“武器”を持てるかどうかが大きなスタートを切れるかどうかというところに関わってきます。市長も公約として、スポーツの総合型新施設を造るということを掲げているとうかがっていますので、スポーツビジネスの理解が深い誰かがしっかりとビジョンを作って声に出していかないと具体的な話は進まないと思います。

新しいアリーナが本当にできるかどうかは、私自身がコントロールできることは限られていますので、私にはわかりません。ただ、誰かがビジョンや構想を具体的な声にしないと検討すらきちんと進まない。さいたまスポーツコミッションとしては組織自体が100%の民間ではなくて、さいたま市が産み落とした会社なので、行政の力を最大有効活用させてもらうべき立場にあって、それが強みでもあるべきです。その行政の資源をどうやって有効活用させてもらえるか、その上でさいたまスポーツコミッションの経営のために、アリーナをはじめとする武器を与えてもらう。一緒に作れないとさいたまのスポーツブランド都市という計画は、設計図だけでその先具体的に推進させることに限界が生じてしまうことになってしまいます。人口減少の時代、行政や補助金だけでは限界がある時代が目先にすぐにやってくるのです。これからはいつも、行政としっかりと連携したうえで、民間の思考で、「経営」がきちんと成り立つ状況を作らなくてはならないのです。さいたまスポーツコミッションはそのために生まれ、その役割をきちんと担える「武器」と「環境」をまずは行政と連携して作らなくてはこの先の「先進的スポーツブランド都市」にはなっていかないと私は考えています。

スポーツは日本の元気玉になる

UF:東京五輪を翌年に控える中で、これからの時代にスポーツで街を活性化させる意味、意義をどのように感じていますか。また、さいたまスポーツコミッションが目指すスポーツ都市とは、どのようなイメージになってくるのでしょうか。

池田:人口も減少していくこれからの日本にスポーツ以上に日本中が馴染みあり、共感を得やすく、成功事例を横展開可能な「元気玉」がありますでしょうか? 社会課題に対してどうやって世の中の共感を集めるかということが、私のマーケティングの極意です。例えば、少子化問題があり、高齢化社会になり、働き方改革で仕事外の地域で過ごす時間が増え、給料が減る。そうなると地域で過ごす時間が今以上に格段に大切になる時代がすぐにやってくる。医療費も減らさなきゃいけない。そんな状況の中で長生きが進むようになると、もっと地域で何がしかのコミュニティに属していないといけなくなります。どれだけのコミュニティに属しているかによって躁鬱病になるリスクも変わってくるとも言われている。そう考えるとそこに対して広く万能薬的に解決できるのはスポーツだと思います。

今まではプロチームを地域に引っ張ってくることが、地域活性化だと考えられていたと思うのですが、今多くの地域でプロスポーツチームの経営にすら、四苦八苦している。プロスポーツチームを引っ張ってくる時代は終わった。そうではなくて地域の人たちがゆるくスポーツをするような文化がひろまっていくほうが、スポーツを活用した地域活性化の有効策であり、時代は先に進むべきだと私は考えています。そうなると地域が元気になって社会課題が解決されてくる。

子供達も今は野球をやるとなると、土日は毎日来いとか一生懸命さが足りないから走れとか言われる環境で、それではやらないですよね。来たい時に来て良い。上手い下手に関係なく試合にも全員が出られるとか、その方が楽しそうと思うでしょう。そういうことに地域のプロスポーツチームも関わってくれれば良いなと思いますし、多様なスポーツをゆるくできるようになってくると地域の社会課題が解決されてきて、みんなが元気になる元気玉としての有効活用に拍車がかかると思います。

そんなスポーツで街を楽しませ、豊かにし、みんなを幸せにすることができる都市、そうした先進事例に、日本中で横展開されるようなモデルにさいたま市がなれたら良いと思います。そういった「みんながゆるくスポーツをやる」三角形の底辺をしっかりと整えて、同時に三角形の頂点であるプロやトップのスポーツ文化が多様に広まっていけば、さいたまはサッカーの街であるとともに、スポーツ先進都市として、さいたまの景色が変わっていくでしょう。

130万人都市で、まだまだ余地が多いのがさいたま。行政との連携の成就が鍵。私だけでコントロールできることは限られているので成功するかしないかは私にもまったく未知数です。日本の「スポーツを活用した地域活性化」の先進的事例に、日本中の地域のみんながあとを追ってくれるような地域になれれば、さいたまで生活する人々ももっともっと楽しく豊かで幸せになると思っています。

(2019年8月 さいたま市にて)

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