浦和フットボール通信

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浦和レッズ2011シーズンを振り返る 河合貴子(後編)(12/21)

浦和レッズがここまで低迷した原因はどこにあるのか。そしてここから立ち上げるためにはどうするべきなのか。長く浦和レッズを取材する“タカねえ”こと河合貴子さんに訊いた。(浦和フットボール通信編集部)

UF:土台を作ると招聘したフィンケ監督を2シーズンで諦めて、今シーズンはペトロヴィッチ監督の下、土台の下での3年目ということで優勝を掲げたわけですが、結果としては残留をするのに必死の状況になってしまいました。クラブはどこを目指しているのか疑心暗鬼になっているサポーターも多いと思います。

河合:そもそも2007年にACLを獲ってクラブワールドカップに出た後、翌シーズンすぐにオジェック監督を解任したのが事の始まり。あの監督ではやれないと選手の不平不満があったのは事実。監督の言うことを一生懸命聞こうとする選手。監督の言うことを理解しているけれども自分のプレイスタイルを変えるつもりがない選手、監督に言うことを全く理解しない選手の3つに分かれている中で「あなたはどうするんだ?」とオジェックに突きつけたことがあります。

そうしたらオジェックは「そうなんだ。その状況をよく理解している」と言った。1回目に浦和レッズの監督を引き受けた時(95年)と選手の状況が違って、2回目に就任した時はレッズには代表選手が多くいたり、プライドの高い選手がいた。昔のオジェックだったら、強く選手に対して言ってサテライトに落としたりすることもあったと思う。それでもオジェックは昔と状況が違うことを理解もしていたし、勝つために自分を曲げてでもその選手を使うということをしていた。その結果ACLを獲れたと思う。あんなバラバラのチームで最後までリーグ戦も優勝を争った。そんな中でオジェックを解任した、あの辺りからクラブはおかしくなってきた。

Photo by (C) Kazuyoshi Shimizu

犬飼元社長は選手達を納得させる術をもっていたと思う。それは犬飼さんに選手経験など色々な経験があったからだと思う。藤口さんもボールを蹴っていたけれども、人が良すぎた部分があるのかと思う。だからチームがバラバラになってしまった。その後に、これからは育成だと言ってフィンケ監督が来たけれども“育成、育成”と大旗を振りすぎたと思う。勝つということを疎かにし過ぎた。フィンケ監督が去り際に、「次の監督は誰がやっても優勝できるチームを作った」と言ったけれども、そうはならなかった。それは違うサッカーを今年、展開してしまったからだと思う。

Photo by (C) Kazuyoshi Shimizu

UF:優勝を狙うどころか、最終戦の柏では完全に力の差を見せつけられてしまいました。

河合:最終戦は、優勝を争う柏との差をまざまざと見せつけられた。これはしっかりと受け止めて、分析をしていかないといけないことだと思う。正直、直輝の1トップは見ていられなかった。直輝自身も良い経験になったと言っていた。「出来るかと言われて出来ると言ったけれども、ああすれば良かった、こうすれば良かったと思うことがあった。前線の選手達が、距離がありすぎて無理だと言うことが肌身を見て感じることが出来た」と言っていました。

UF:J1昇格一年目の柏とこれだけの差が生まれてしまったのはなんでしょうか。

河合:柏レイソルはJ2に落ちてもネルシーニョを解任せずに、そのままの体制で1年間J2を戦って、J1に復帰してネルシーニョを続投させて、復帰して一年で優勝をした。すごいことですよ。その差がある。レッズはJ2に落ちても監督を変えないということを我慢できるクラブなのかという議論はあると思う。橋本さんは「ブレないブレないと言っていたが、実際はブレていたのかもしれない」と最終戦の後に言っていました。問題は、そこなのではないでしょうか。ここ何年かの経験を活かしていくようにクラブはしないといけないと思う。あいつがダメ、こいつがダメだとお互いが責任をなすりつけているのではなくて、しっかりと検証をして、みんなで考えないといけないと思います。

UF:最終戦終了後のゴール裏には「20年でこのザマか」というメッセージが掲出されました。これはクラブだけに押し付けるメッセージではなくて、浦和レッズに関わる全ての人が感じ取らなければいけないのではないかと思います。メディアも、どこか今のクラブの現状は変わらないと白旗を掲げているような風潮がある。河合さんは、この辺りをどう感じて、来年以降、変えていかなければいけないポイントは、どこにあると思いますか?

河合:臭いものには蓋をしろ。見てみないフリ。そんな保守的な考えが多くなっていて、新しいことをしようとしても前例がないと辞めてしまう。前例がないのであれば作ろう。やってみてダメであれば、どこがダメか検証をして、進んでいこうよと思いますね。メディアの話をすると、ここ何年か、レッズに対する批判に対して批判するのは敵、悪という雰囲気になってしまっている。その批判にはクラブが良くなってほしいから、強くなって欲しいからだと言っても受ける側が、しかめっ面をするようになってしまっている。ヨイショ記事、ちょうちん記事ばかりが認められてしまう。昔は、クラブの人ともお互いの意見をぶつけ合うことが出来ていたけれども、愛するクラブに対しての提言を私なりに提案をしても、批判に取られてしまうことがある。最近はレッズの記事が新聞から良い記事も悪い記事もどんどん出なくなってしまった。それは、クラブ側もそうだし、サポーターもそうだけども、拒絶する反応があるために、排除をしようという雰囲気になってしまったので、誰も言わなくなる、言えなくなってしまったと思う。すごく悲しかったことがあって、レッズ担当の記者が、J2に落ちてしまえと言う人がいた。選手は凄く好きだけれども、このクラブは落ちないと分からないことが多すぎるんじゃないかと言われた。これはひとりふたりの記者ではないんですね。こういう関係になってしまっていることが、そもそも良くないことだと思います。

UF:具体的に、どう変わるべきでしょうか?

河合:小さいことかもしれないけれども、見る人も伝える人も発信するクラブも変わらないといけない。見る人は色々な意見に嫌がらずに耳を傾けて欲しい。悪い記事もただの悪口だと思って見ないで欲しい。“マスゴミ”なんて言い方があったけれども、なんでも排除で、良いことだけ信じていこうというのは辞めて欲しい。もちろん伝える側も愛情をもって勇気をもってここをこうすればチームは良くなる、選手は良くなると思って伝えることが必要だと思う。クラブ側もちゃんと発信したら、メディアも誠意をもって書いてくれるという姿勢を持って欲しい。メディアは敵だという姿勢ではなくて、うまく付き合って欲しい。Jリーグが始まった頃は、レッズが勝てなくても地元メディアも必死になって頑張ろうと伝えていた。サポーターとクラブが揉めた時も入り込んでみんなと話をした時もあった。今はそれも排除されてしまった。昔は新聞記者もクラブ愛をもって書いていたと思うけど、担当記者が愛するクラブにならなくなってきているのだと思う。私は以前、浦和フットボール通信のWEBサイトで、『サポーターも選手もクラブスタッフも地元のメディアもレッズの担当記者もレッズを愛することはどういうことかと考えた方が良い』と書かせてもらったのですが、今でも変わらない思いですね。

Photo by(C) Kazuyoshi Shimizu

UF:2008年以降は、メディアとの関係が良くないせいか、レッズに対する記事に悪意を感じるようなこともあり、サポーターが毛嫌いしてしまう風潮になったのはあるのかもしれません。

河合:皆さんは賢い消費者になって下さい。今の時代、色々なメディアがあり、オフィシャルがあって、テレビ、新聞、ラジオ、インターネット、選手のツィッターなどもある。色々な情報ソースがある中で、色々な情報を集めて、どれが正しいのか、どれを自分は信じるのか、どれが自分の考えに合うのか、感性に合うのかを踏まえた上で、試合を見て欲しい。全てはピッチの中で見ていれば見えてきますと、そうサポーターにはいつも伝えています。

UF:全体的な風潮がどこかに責任を押し付ける雰囲気で、あいつが悪い、こいつが悪いだけになってしまっている所はあると思います。浦和レッズに関わる全ての人間が自分達に責任があったと思って、各々が考える必要があるのではないでしょうか。

河合:柱さんがこうだった、ペトロがこうだった、社長がこうだったと言うのではなくて、みんな細かい所でも責任がある。もちろん私にも責任があると思っています。随分昔、駒場スタジアムの時代に、大野勢太郎さんが駒場スタジアムの観客数が減った時に「これは俺達地元メディアの責任だぞ。責任を感じろ」と言われた時に胸が痛かった。これは私たちの責任なんだと。今こそ、みんなでもう一回原点に戻ろうよと思う。私は誰から、でしゃばりババと言われようが、口うるさく自分が気になったことを声に出さないといけないのかと思う。それでクラブに出入り禁止になっても愛するクラブのために正しいと思うことであるならば、言わなければいけないのかもしれない。

今、観客が減ったのは、チームが勝てないからだ、華がある選手がいないからと言われているけれども、そんなんじゃないと思う。色々なことがあってレッズへの愛が薄れてしまった。それはクラブの中でもそうかもしれない。私は薄れた愛を取り戻したいと思う。私がクラブスタッフだったらシーズンチケットを辞めた人に、なぜ辞めたのかを一件、一件電話をかけて理由を聞く。経済的に苦しくなった人もいるだろうし、レッズ愛がなくなった人もいるかもしれない。転勤で行けなくなった人もいるかもしれない。そのような拘りある活動をしていかないといけないと思います。6万人以上が入る埼玉スタジアムを満杯にして、満杯だからこそ出来ることがある。それが魅力だったりする。その中の一員なんだとみんなが思える雰囲気。それで勝てるのが至福の時だと思う。そういうことが無くなって来ているのかな。

Photo by (C) Kazuyoshi Shimizu

UF:サポーターも僕たちはどうすれば良いのかという気持ちをもった人も多いと思います。

河合:私も良くサポーターにも何をすればいいのかと聞かれるのだけども、自分がやりたいことをやれば良いと言っているんです。自分ひとりで出来ないと言うのであれば仲間を見つけましょうと、見つからないのならばお手伝いしますと伝えています。

UF:来季の監督が決まったわけですが、新しい監督を連れてきました。選手を揃えました。あとは新チームの応援をよろしくというだけでは、クラブはサポーターに対して十分なメッセージを伝えられていないと思います。それだけ多くのサポーターがクラブへの信頼を失ってしまっている状況です。

河合:このクラブの大黒柱をしっかりと作って、そのくらいの物をチーム側から見せてもらなければ、来年、一緒に頑張ろうよ!サポーターに伝え難いのは確かです。Jリーグの最初は勝てなくて情けない想いをしていたけども、今は違う情けなさを感じます。昔もクラブフロントに対する批判はあったけれども、それでも応えようという姿勢が見えた。ぜひ、クラブはサポーターの思いに応えて欲しい。

UF:新たな監督の下、サッカーの構築が始まるわけですが、正直完成までの道のりは長いと思います。普通は新たなスタートから3年はかかるのがフットボールの常識です。古くからのサポーターと話して、そうだなと思ったことがあるのですが、長い時間かかることでも、サポーターは我慢する必要はないのかなと。その中で、時間がかかるということの理解はする必要があるのだと思います。

河合:チームとのパス交換が必要ですね。勝てないことがあれば、サポーター側からなぜ勝てないんだという声があがれば良い。それをクラブ側がしっかりと受け止めて、説明をして、今はこのような状況だから、クラブはこう考えていると、だから一緒にチームを育てよう。次の試合は勝とう、勝つための応援をして欲しいという姿勢を貫ければ良いと思う。チームもサポーターのことをもっと理解しないといけないと思います。

UF:浦和レッズを再生のために、浦和レッズに関わる全ての人間が変わらないといけないですね。

河合:浦和を愛する覚悟をもって、各々がどうするのかということを考えて欲しい。みんなで変わりましょう。

(さいたま市内にて)

Photo by (C) Kazuyoshi Shimizu

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