浦和フットボール通信

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【番記者が見た、直輝、慎也の今季】曺監督が感じる直輝の可能性(隅元大吾) (2015/11/25)

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いままでのプロ生活でいちばん激しく練習を行い充実感を感じた一年

いまなお印象に残るトレーニングの一幕がある。とある夏の日、照りつける陽射し以上に熱い1対1を山田直輝は繰り広げていた。対するは永木亮太、チームでも屈指の球際の強さを誇るキャプテンだ。めぐり合わせの偶然がふたりを幾度も引き合わせ、そのたび真っ向勝負がピッチの上に描かれた。

観る者を釘付けにする攻防に、「僕もやっていて面白かったです」山田自身もまた楽しげに振り返ったものだ。
「いままでは、気持ちは闘いたいのに、アレ? みたいなのがありました。でも、だんだんゴリゴリ行けるようになってきて、そういう自分らしさが出てきたかなと感じます。きょう初めて亮太くんとゴリゴリやって、『うわ、もっとこのひととやりたい』と思えたので、疲れましたけどすごく楽しかった。でも今日の感じだと僕はまだ負けていたので、亮太くんともっともっとガチガチやりてぇなと思いました」

自分らしさを取り戻し、さらにプレーの幅を広げたい。僕にプレーする場を与えてくれたチームに恩返しをしたい。開幕を前に、山田は思いのたけを口にした。だが気持ちとは裏腹に、2012年以降遠のいていた試合勘を回復するための時間は短くなかった。浦和との開幕戦に途中出場し、移籍後初出場を果たしたものの、以降コンスタントに出場機会を得られたわけではない。「怪我が続くなど長いこと出場機会がなかったことで、大きな意味でのゲームの感覚――ボールをどこに置き、パスをどのように出して、どうディフェンスするかといったゲーム勘と言われるものが、シーズン当初は少し欠けていた」曺貴裁監督も指摘する。

初めての移籍と環境の変化のなかで、しかし「試合に出られないことに悔しいという気持ちはありましたけど、そこにストレスを抱えたりすることはなかった」と山田は振り返る。

「今年1年は必死で、自分のことに精一杯だった。最初から試合に出られると思っていたわけではないですし、試合に出ていなくても練習試合は毎週のようにあるし、練習は厳しい。いままでのプロ生活でいちばん激しく練習をやっている。そういう環境のおかげでストレスを感じずにできているのかなと思います。怪我をしてサッカーができない時期を、誰よりもとは言わないですけど知っているだけに、試合に出られなくても、ボールを蹴れる幸せを感じています」

この毎日の練習を繰り返していけば自然と自分の感覚やプレーは戻ってくるんじゃないかと、シーズン当初に語ったとおり、タフなトレーニングと日々向き合った先に、かの夏の日の一幕はあった。

曺監督が感じる直輝の可能性

月日が経ち、季節を越え、いまその存在感はさらに増している。縦横無尽にピッチを駆け、ボールに多く係わる背番号8に指揮官も目を細める。

「ここ1,2カ月すごくいい。頭で考えてこなしていくと、ワンテンポ判断が遅かったり、ミスを気にしてしまったりするものだけど、最近は無意識でプレーできるようになった。合わないことはあっても、非常にチームのテンポをつくれるようになったなと思います」

曺監督はさらに、山田の可能性にも言及する。

「ひとと違う直輝のいちばんいいところは、出し手と受け手の両方になれること。普通、選手は出し手か受け手にハッキリ分かれるんだけど、直輝は香川真司や清武弘嗣のように間違いなくどちらもできる可能性のある選手です。だから代表にも一度呼ばれたのでしょう。チームのなかでよく動き、ボールを出して走り、受けてゴール前に行ってまた戻るというプレーがシンプルにできるようになれば、選手としての伸びしろは非常にあると思います」

ところで、攻撃に前向きな変化をもたらすことのできる山田にあって、途中からピッチに入る際は同点もしくは追いかける状況が多い。劣勢を覆せなければ歓喜は訪れず、実際、勝利の瞬間をピッチで迎えられなかった試合も少なくない。

スタメンに対する意欲は言うまでもないが、一方で難しい役回りにも自覚はたくましい。
「同点か負けている場面で出ることのほうが多いので、そこから勝ちに持っていけなかったら自分がいいプレーをしても意味がないと思っています。その意味では、僕が出てチームと一緒に喜べる回数や確率は限られますけど、でもその確率を1%でも上げられるようなプレーをしないとチームのためにならないし、自分が出ているあいだに絶対1点はチームとして入れたいなと思っている。それができなければ自分が出た意味はないというぐらいの気持ちでやっています」

そして最近の好調を指し示すように、第2ステージ第16節新潟戦では2-0とリードした終盤に送り出された。「それまでずーっとよかったのに、あの試合のときだけよくなくて、なんか自分ではがっかりしました」思わず苦笑いも、「でも勝っているときに出してもらえたのはこれまでやってきたことの積み重ねだと思うので、プラスに捉えています」と苦みを消した。「直輝はボールキープできるしアイデアのある選手なので、みんなも信頼して預けることができ、すごく力になってくれました」たとえば永木が語ったように、そのプレーは紛れもなくチームの無失点勝利と今季初の3連勝の一助となった。

「学ぶことは多かったなと感じています」山田はあらためて今季を振り返る。

「いままではゲームをつくったりチャンスメイクが自分のよさだと思っていたので、結果ボールを取られないようにとか、後ろにフォローに入ってあげることを心掛けていました。でも第一の選択肢が前というプレースタイルのこのチームに来て、自分がボールを持ったら前に運んだり、ちょっと難しくても前へのパスを選んでみたり、また受け手になったときに前に走ってあげるとか、以前の自分にはなかったことが最近自然にできるようになってきた。少し時間がかかってしまったのが残念ですけど、そういう面で自分のプレースタイルは広がっているのではないかと思っている。自分の気持ちと体がいますごくマッチしてきているので、やっていて楽しいです」

ふと、始動して間もない今年1月に山田が口にした言葉が脳裏をよぎる。

「長期離脱してから、体がふわふわして自分の思うとおりにいかないことが多かったので、厳しい環境に身を置きたいという想いが自分のなかにあった。その期待どおり厳しい環境で戦えているので、この移籍が間違いではなかったということを1年後に思えたらいいなと思っています」

気持ちと体がいますごくマッチしてきているので、やっていて楽しい――あのとき未来の自身に投げかけた期待の答えは、ピッチで躍動する現在の姿が示している。

隈元大吾 profile

湘南ベルマーレを柱に取材・執筆。クラブオフィシャルの刊行物をはじめ、サッカー専門誌や一般誌、J’sGOAL等に幅広く寄稿。WEBマガジン「縦に紡ぎし湘南の」でもベルマーレ情報を配信している。

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