浦和フットボール通信

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浦和への伝言2012 大原ノート – vol.11 龍神

浦和一女高OGのおふたりが、駒場~大原~浦和美園を巡る郷土の自然や史跡を楽しく散策します。 久しぶりの青空がまぶしかった5月13日の日曜日、緑区南部領辻の獅子舞を見学させていただきました。南部領辻は以前このコラムでもご紹介した緑のトラスト第1号地があるところ、埼玉スタジアムと見沼田んぼの間の台地といえば見当がつくでしょうか。今回はその第1号地に隣接する鷲神社で5月と10月の年2回、さいたま市の無形文化財に指定されている「南部領辻の獅子舞」が行われているという情報を黒木カメラマンが見沼田んぼの朝市で仕入れてくるという、まことにローカルな展開となりました。

五月晴れの見沼田んぼは、車や自転車を走らせるのにこれ以上は望めないほどの気持ちよさです。鷲神社は見沼代用水東縁の橋を渡って、台地を少し登った奥にひっそりとたたずんでいます。普段なら誰もいない静かな境内と思われますが、今日は保存会の方々が集まってにぎやかです。とはいえ小さなお社の前、二間四方を竹と注連縄で囲って清めた空間はささやかで、一つ二つ踊りが奉納されるのを見学できれば十分かなと思ったのです。

とんでもありませんでした。「竜頭の舞」という別名どおり、獅子というよりは龍神の被り物を付けた3人の方々は、笛や太鼓の音に乗って跳んだり跳ねたり、中腰で激しく動き回ったり。10時ごろ始まった舞が終わったのは11時過ぎでした。サッカーはハーフタイムまで45分。それ以上を交替しながらとはいえ踊り続けるのは大変です!

見物客も徐々に増えて100名ほどになり、さらに奉納舞が最高潮に達するとその見物衆からおひねりが次々と飛んで大盛り上がり。う~~ん、さいたま市は広いです。何十年も住んでいるのに知りませんでした。ローカルな気分満点で楽しいです。

でも、パンフレットを読んで納得。この行事は一度1969年5月を最後に途絶えてしまい、地域の皆さんのご尽力で2000年10月に30年ぶりに復活したのだそうです。30年って1ジェネレーションといわれます。1世代が過ぎてしまってからこうした無形の文化財を復活させるのは非常に困難なことだったのではと思います。Jリーグが始まって今年で20年、それですら始まった当初の情熱を今の時点で共有するのは難しいのですから。

さて、10月は鷲神社境内での奉納舞だけだそうですが、今回は午後から地区内のお宅を回わるということなので、それまであたりを散歩してみることにしました。散歩中、ちょっと驚きのある場所に遭遇しました。鷲神社の裏手にちいさな低湿地があるのですが、そこで「小川」に群れるオタマジャクシ、小魚(絶滅が心配されるようになってしまったメダカでしょうか?)を30年ぶりくらいに見ることができたのです! いや、オタマジャクシやメダカは見たことがありますが、コンクリートのU字溝で護岸されていない小川を見るのはとても久しぶりです。

「となりのトトロ」のメイのように水の中を覗き込むと、目の前をシオカラトンボが飛びすぎていきました。ああ、そうですよね、トトロはこんな場所にこそ棲んでいるはずですね。さきほど舞っていた龍神様たちも、ここにずっと棲んでいるなにものかの化身なのでしょう。

午後からはその龍神様たちのあとをついて、2軒ほど個人のお宅の庭先におじゃましました。どちらのお宅も皆さんが記念写真を撮るかのごとく、庭先に席をしつらえて丁重に神様一行をお迎えします。舞の装束一式というハード、舞というソフト、そして地域のコミュニティーという三つがそろってこの行事が成り立っています。そして、さきほどの小川のような、ここに龍神様が棲んでいると感じられる環境があるということも重要に感じました。

南部領辻はさいたま市の最深部のようなところ。トラスト地や見沼たんぼなどがよく保全されています。だから、大きな自然はある程度残っていくのでしょうが、こうした小さな自然はどうなのでしょうか。残念なことに開発のお話もあるそうです。耕作機械も入りにくい小さな低湿地では、仕方ないことかもしれません。でも、せっかく獅子舞が復活されたのだから龍神様の棲家もセットで残すことができたら最高です。帰りにトラストの会のパンフレット、いただいてきました。


文/百瀬浜路(ももせ・はまじ)
東京都生まれ。埼玉大学附属中学、浦和一女高、多摩美術大学卒業後、(株)世界文化社に入社。保育園、幼稚園のための教材企画、教材絵本、保育図書の編集に携わる。ワンダーブック等の副編集長などを経て、現在同社ワンダー事業本部保育教材部副参与。保育総合研究会会員。蕨市在住。

写真/黒木葉子(くろき・ようこ)
川口市生まれ。埼玉大学附属中学、浦和一女高、千葉大学工学部写真光学科卒業。大学在学中から研究テーマとしていた撮影技術を生かしフォトグラファー、イラストレーターとして活躍。セツ・モードセミナー勤務を経て、現在フリーランス。川口市在。

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