浦和フットボール通信

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【This Week】週刊フットボールトーク Vol.101拡大版(8/16)

ロンドン五輪での日本の活躍をイングランドはどう見たのか?神戸戦について

椛沢佑一(浦和フットボール通信編集長)× 豊田充穂 (コピーライター)

椛沢:ロンドン五輪もあっという間に終わってしまいました。サッカーは、男子が4位。なでしこジャパンが銀メダルという結果に終わりました。男子はメキシコに敗れて3位決定戦に周り、韓国と対戦したわけですが、残念な結果に終わりました。結果こそ全ての試合で、結果を出すためのサッカーをしてきた韓国に対して、日本は成す術もなかったという印象です。良いサッカーをしたり、パスが繋がれば芸術点が貰えるわけではないので、勝つためにどうするべきかということも状況に応じて判断出来るようにしないといけないと思います。厳しいようですが、銅メダルで終わるか4位で終わるかは大きく評価が変わってしまう。そんな一戦だっただけに、勝負に拘る姿勢がもっと見たかったと思いました。豊田さんは現地で今回の五輪を観戦してきたわけですが、現地はどのような状況だったのでしょうか。

豊田:男子サッカーの予選リーグ・スペイン戦はロンドンのユーストン駅近くのパブでTV観戦。前日深夜に着き移動もあったので、ホテルから持ち出したスーツケースを抱えたままTV観戦しました。規約上の制限があるためTV中継をおおっぴらに行なっている飲食店は少なく、探すのにひと苦労。現地はまだ陽が高い夕刻でしたが、かなりの数のサッカーマニアの男性たちがビール片手に日本をサポート中でした。ソフトドリンクなんて飲んでたのは私だけ(笑)。ニューカッスルでのモロッコ戦もそうだったのですが、自分が日本人であることを差し引いても「JAPAN贔屓」のイングランド人がやたらと多かったですね。あのカードに関していえば現・欧州王者でユーロ2012も簡単に獲って行ったスペインに対する母国としてのヤッカミがあるのだと思う。加えて3.11で被災した日本に肩入れする心情を感じる機会も多かったです。ロンドンでは現地のなでしこ人気にも触れる機会がありました。スタンフォード・ブリッジを訪れていたサッカースクールの少年たちの多くが「ミス澤」を知っていた。やはり欧州のサッカー好きにとっては、フィジカルがない日本が機敏にプレーし、パスワークや献身的な動きで大柄な欧米チームに打ち勝つ姿は共感を得ていたようです。

椛沢:ははあ、欧州勢としては当然そういう意識はあるでしょうね。その意味も含めて、浦和レッズのプレーヤーもあのイレブンの中に残っていて欲しかった。初戦のスペイン戦は、日本国内でも注目度も期待感も低かったのは否めないですね。五輪前最後の壮行試合でも嫌な終わり方をしただけに、なおさら男子チームへの期待感は低かった。それが逆に戦いに集中させる環境を作ったのかとも思います。

豊田:タイムアップで日本の勝利が決まると店内ではひと騒ぎ起こりました。「もっと派手に喜びなよ」とばかり何人かが握手も求めてきたけど、レッズのプレーヤーがいない寂しさは否めなかった。ボルトンに移動して会ったマーク・ラッセルも、その件は非常に残念がっていました。「レッズサポーターの有無は、日本サポーターの勢いに影響を与えたに違いない」と……。

椛沢:レッズサポーター内では特に盛り上がりは低かったかもしれないですね。スペインに勝ったことで、やるじゃないか日本!という雰囲気は多少は出てきたかもしれないですが……。翌試合のモロッコ戦はスタジアムで観戦したそうですが、雰囲気はどうでしたか?

豊田:会場はニューカッスルだったのですが、案の定マンチェスターやリバプール、またボルトンやニューカッスルなど北部の地方都市においては「オリンピックはロンドンがやっていること。我々には関係ない」のスタンスが濃厚。試合会場となったセントジェームスパーク(5万2千人収容)も2階席はクローズだったし、目立つメディアクルーは日本のテレビ局ばかり。なのにサポーターのコールだけが、モロッコの方が数も多いしコールもでかい、という非常に悔しい情況でした。これはW杯ドイツ大会から痛切に感じていることなのですが……「現場での雰囲気作り」というポイント現状を放置すれば、日本サッカーは難しいカベに直面してしまう気がします。

椛沢:試合自体はスペイン戦の勢いそのままに、モロッコに完封勝ちし、勝点を6にアップ。予選突破を決定的にした好ゲームでした。地元やマーク・ラッセルの日本サッカーに対する評価はどうだったのでしょうか?

豊田:マーク・ラッセルはとりわけ日本に対する思い入れが深いので、五輪代表チームの実情も深く理解していましたね。以下、彼の日本評要旨を抜粋します。
「TV観戦もあったが、日本の男子五輪チームの予選リーグは全部観戦させてもらいました。初戦と第二戦を見るかぎり、監督のミスター関塚はゲームのペースメイクに大きな成功を収めている。まず攻撃陣から相手ボールを追い回す連動した動きは、失点の危険を大きく低下させ、確実に予選リーグを勝ち抜く前提になっていました。メディアはこれを“守備的”とか“面白みがない”などと評するのだろうが、これは選抜された選手の個性や心情を掴み、強い連帯感を植えつけないと出来ない手法。その意味で予選突破を果たした日本代表の指揮官が果たした役割は大きいと思います。とりわけ初戦のスペイン戦は最後まで追い込みの足が衰えることもなく、大した集中力とスタミナと感じた」

椛沢:その日本代表の中で、マークのお気に入りの選手は誰だったのでしょう?

豊田:当然、永井謙佑を挙げるだろうなと思っていたのですが、とにかく大津が気に入った模様。以下、抜粋の続きです。

「日本選手の中で気に入ったのはナンバー7の大津です。スペイン戦の決勝点も見事だったが、場面、場面の状況判断が良く、自分の仕事ができるチャンスを次々と予測できる選手と感じた。しかもそれを得点に直結させる決定力も持っている。こういう能力は持って生まれた要素で、なかなかトレーニングで養える能力ではない。よって体格や運動能力とは違う次元でプラスαを持つ、ヨーロッパ市場でも注目を集める選手になるのでは?と感じました。現在はボルシアつまりブンデスリーガでプレーしているとのことですが、フィジカルの要素が欠かせないドイツよりも活躍できる舞台が他にあるように思います。彼に欧州各国リーグの特徴やチームメイトと上手くやっていける能力と努力が備われば、香川とおなじようにトップレベルの活躍ができるタレントと感じました。もちろん永井も良いです。ただこの五輪代表チームにおいては(守備のタスクも含めて)彼にかかる負担が大きすぎ、持っている特長を出し切れずにいたように感じました」

椛沢:なるほど、大津選手に注目をしていたのですね。彼は元日本代表の宮内聡監督率いる、赤羽の成立学園出身と、実は高校サッカー出身プレイヤーなんですよね。マークは、日本のこれからの課題については触れていましたか?

豊田:フットボールを巡る環境やサポーター文化の課題は彼のインタビューに譲りましょう。(マーク・ラッセル ロングインタビューは8月23日、30日号で掲載) 五輪代表チームに関しては、やはりこのところの日本サッカーのテーマを指摘しました。

「克服すべきポイントは“攻守の切り替えのスピード”と思います。これはチーム全員の連動性を含めての課題。近年の日本のチームはボールポゼッションが格段に高まり、かつてのように欧州のチーム相手に一方的に押し込まれるというケースが少なくなりました。これは個人能力のスキルアップの成果と思う。ただし、ここぞという場面での効果的なサイドチェンジが少ない。チャンスなのに非常にスローな横展開やバックパスでタメ息をつかされる場面が多かった。確かに決定力不足という要素もありますが、ストライカーが欲しいという情況はどの国も同じ(笑)。まずは勝負どころでの“攻守の切り替えスピード”を克服すれば、日本の五輪世代は飛躍するのではないでしょうか」

椛沢:海外のチームに比べて、まだ日本が良いサッカーをするけれども“勝負する”という姿勢が弱いのは、その部分によるところなのかもしれない。なでしこジャパンの決勝戦についても似たような印象を受けました。アメリカはワールドカップ決勝で日本に負けて以来、日本に勝つことを目指してやってきて、決勝の舞台でもとにかく勝つことを最優先にしたサッカーをしていたと思います。なでしこジャパンは決勝戦でも素晴らしいサッカーを展開して、何度もアメリカを崩す素晴らしい攻撃を仕掛けていましたが、勝負に拘る姿勢で少しだけアメリカに上回られたかと思います。それが最終的な結果に繋がった。それでも、なでしこジャパンの強さをこの五輪でも十分に証明したと思います。男子よりも先に、世界の強豪に完全に肩を並べたなでしこジャパンが、これを次世代にどう繋いでいけるかが重要です。彼女らの活躍で女子サッカーの様々な環境が整備されていけば、強化に繋がっていくでしょう。

豊田:注目したいのは佐々木監督以下、首脳陣の大会に向けてのプロセスですね。大会前のテストマッチや予選リーグでの仕上がりをお決まりのメダル要請や誘導質問で窺って来るマスコミに毅然として対応し、選手たちには余波を及ばせない。あの対応ぶりには感心しました。やはり“なでしこ”の看板はダテではないな、と(笑)。こういう日本サッカーの成果を未来へ繋ぐ提言に関しては、マーク・ラッセルが熱弁をふるってくれましたので回を改めてコメントします。

椛沢:五輪では他競技を見ていても感動させられるシーンが数々ありました。マイナースポーツなどは特にその競技を背負っていて、自分の活躍によってその競技の扱いが変わってくるということもあるので、必死さ、ひたむきさ、というものがすごく伝わってきて感動するのではないかと思いました。コメントにおいてもどの選手も素晴らしい受け答えをしているという印象を受けました。サッカーはメジャースポーツになって、その部分にひたむきさなどが少し欠けてきているのではないかという気もします。この部分は他競技に見習うべき姿勢だと思いました。

豊田:フットボール通信には私と世代が近い読者の方もいるそうですので、個人的に注目していた種目を言わせてもらいましょう(笑)。実はその昔、日本は「体操、水泳、卓球」が国技と言われるほどに強く、鉄板の得意種目だったんですよ。
椛沢:そうだったのですね!

豊田:学校の体育館で練習できる体操、川や海があれば親しめる水泳、狭いスペースと手軽な道具で追求できる卓球……いずれもまだ貧しく、欧米へのひたむきな挑戦過程にあった日本が選んだ種目ばかりなんですね。これらの競技が3~40年もの歳月を経て、見事な復活を見せていることに感銘を受けました。サッカー取材をさせてもらったせいで今回五輪は後半しかTV観戦ができなかったのですが、とりわけ自分の独創性にとことんこだわった体操の内村選手や、武道のような一瞬勝負で無敵の中国に挑んだ女子卓球の選手には、お家芸のスポーツに甦った日本人のDNAを感じる思いでした。

椛沢:なるほど。五輪の余韻冷めやらずの夏ですよね。しかし肝心のJリーグにとっても、勝負どころの季節です。先週末は敵地神戸にてヴィッセル戦でした。非常に蒸し暑い中での厳しい環境での一戦。しかもホームズスタジアム神戸では相性が悪く2008年以降勝利がありませんでした。前節、FC東京に2点差を追いつかれて引き分けているだけに、この試合では是が非でも勝利が欲しいとサポーターも意気込んでのアウェー戦でした。序盤からレッズがポゼションをしてリズムを掴みましたが、23分に槙野が大久保にラインの裏を取られ、そこに野沢がしっかりとパスを通されてしまいました。果敢に加藤が飛び出しましたが、大久保を倒してしまいPKを取られてしまい先制点を許す格好となりました。この失点で神戸は堅守速攻の形を明確にさせて、それをレッズが追う展開になりましたが、神戸の守備を最後まで崩せず0-1で敗戦となりました。このような展開になった時は強烈なストライカーの存在などがないと試合を引っくり返すのは正直難しいかなという印象です。これからも続く夏場の試合で勝ち点を拾っていくためには、先制点を与えないことが求められてくると思います。強烈なストライカーが不在の中では、なるべく有利な試合展開に持って行き、勝利を手繰り寄せていくしかありません。今週末は、鹿島アントラーズとの一戦です。今季は下位に沈む鹿島ですが、鹿島は鹿島です。リーグ戦の悪い流れを引き戻すためにも負けられない一戦です。勝利を引き寄せる雰囲気を作って、選手たちを後押ししましょう。

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