浦和フットボール通信

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大住良之ロングインタビュー(1) 「タイトル獲得よりも、成長を感じるレッズを観たい」

元サッカーマガジン編集長で、サッカー黎明期から長くフットボールを見続けてきたサッカージャーナリスト大住良之氏。言わずと知れたサッカージャーナリスト界の重鎮で、浦和レッズについてもオフィシャルイヤーブックの監修に創刊から立ち会われるなど、愛情深くJ開幕からレッズを見続けてきている。氏に今季の浦和レッズについての期待。理想のクラブ像に近づく方策などを訊いた。(浦和フットボール通信編集部)


成長過程を踏まえてどうタイトル争いをするかを見つめるシーズン

UF:昨年はなかなか監督が決まらない中、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督がチームを指揮してくれることになり、一年という早さでチームを再建して雰囲気を変えた印象があります。

大住:去年のレッズは満点ではなくとも合格ラインでしょう。ミシャ自身が言うとおりチームが常に右肩上がりで改善されつつシーズンを終えられたということが大きい。波があり、この時期は良かったけど、最終的にはバラバラになったという話ではなくて、試合を重ねるごとに内容が良くなってきて、選手たちも前向きになったシーズンだったので、クラブ自体もこの流れを継続するという体制に固まった。そして、ミシャとしても去年と同じように今年も成長をして行くんだと言っていましたが、その発言は地に足がついた話だと思う。

UF:その中で、今季の浦和レッズは各ポジションに代表経験者の選手補強をして、例年にない積極的な動きをみせて、周囲の期待も高まるシーズンになりましたが、大住さんの印象としてはいかがでしょうか?

大住:去年は札幌に負けていなければタイトル獲れたかもしれません。そのタイトルを今年は獲りにいき、もうひとつはACLというタイトルがあるシーズンになる。ただ、タイトルを獲るか獲らないかという評価ではなくて、成長の過程として、どのようにタイトルにチャレンジをして、どのように迫ったかということを皆が見て行かなければいけない年になると思います。

UF:今年の期待は補強等もそうですが、昨年のエンディングは素晴らしかったというポイントもあると思います。

大住:あんな最終戦は久しぶりだったよね。昔は「終わりだけ良ければ、全て良し」というシーズンもあったけれども(苦笑)、ここ数年は良い終わり方さえ出来なかった。そういう意味では、みんながニコニコしてハッピーになってシーズンを終えることが出来たのは良かったです。

UF:具体的に期待するラインはどのあたりになりますか?

大住:タイトルが獲れるか獲れないかは運も左右することです。それよりも真剣にチャレンジして、どの試合も力を抜かずに闘って欲しい。一年間で、どのメンバーでも力が落ちないチーム力が出せるようになってきたのですから。なにより去年の“札幌戦”のような試合はNG。そういうチャレンジをみんなでしているかを我々は見ていけば良いと思います。自分たちのサッカーをやろうとして、やり尽くして優勝出来たら素晴らしい。違うことをやって何振り構わずに優勝をしても何も残らないということ。それは過去の経験からも分かることです。結果だけ出せば良いというチームでは何も残らないのです。

チームをどのようにステップアップさせていくか

UF:大住さんのおっしゃる通り、ここ数年、レッズはチーム作りに苦労をして、なかなか継続してチームをステップアップさせることが出来ませんでした。

大住:私は2004年後半がサッカーとしては一番良かったと思っている。オフトが若い選手を教えこんでパスが繋げるサッカーを作って、その後にブッフバルトが来て、オフトが規制をかけていた部分を開放して、選手たちがオフトの作ったベースを保ちながら、自由にプレーをすることで、力を存分に発揮をした。そして素晴らしいサッカーを展開したけれども、私の印象としては、そこから徐々にサッカーのレベルとしては、落ちていってしまったと思っています。最後はワシントン、ポンテの個人技頼みのサッカーという形となってしまった。

UF:彼らがいなくなってからは低迷が顕著になり、降格争いを演じるまでになってしまいました。

大住:そのような個人技に頼った場合、頼れる個がいなくなれば崩壊するのは当たり前だよ。チーム力というものがある程度あれば、崩壊はしないけれども、頼るものが個であれば、その選手がいなくなれば崩壊をする。今年、ミシャにインタビューをした時に「補強はうまくいったか?」と質問をしたら、ミシャは「素晴らしい」と言ったけれども、私は「9番の存在が必要ではなかったか」と返した。シーズンで20点を取る存在がチームにいれば優勝に絡めると思う。昨年、優勝したサンフレッチェも佐藤寿人が22点を獲り、得点王を獲ったからタイトルも可能になりました。サガン鳥栖の躍進は、19得点を決めたストライカー豊田の存在がある。昨年のレッズはそのような選手が不在で、勝ち切れない試合も増えてしまいました。ミシャは「もちろん欲しい選手がいたけれども、高くて値段にあわなかった」と正直に答えてくれましたがね。さらに「得失点差がプラスで、最多得点のチームがJ2に落ちるようなリーグで、どのようにクラブ間の差を出すのか?」と聞いたら、「それはチームだ」とミシャは言った。チームとして何が出来るかを考えていると。「誰かだけに頼るサッカーはしたくない」と。私もその考えにはまったく同意ですね。

(C)Kazuyoshi Shimizu
UF:個に頼るサッカーから脱却するために、ドイツからチーム作りに定評がある、フォルカー・フィンケ監督が来て、スタイル構築に挑んだわけですが、それが頓挫。サポーターの信用を大きく失墜させる原因となっていると思えます。

大住:フィンケの時は多数の怪我人が出たという不運がありました。フィンケ自身のプライドも高すぎたのかなという面もありましたね(苦笑)。ただ、その後のゼリコの就任には「何だかなあ?」という空気がクラブ周囲やファンの間にも広がった。その反応は正しいし、その後にミシャ監督が来てくれたのは本当に幸運だったと思いますよ。彼の役割の大きさからにらみ合わせれば、森孝慈さんが『浦和フットボール通信』で言われた通り、GMという存在はすごく大事なんですね。その人材が現状はいないということです。

UF:ミシャ監督が自ら「チームの向かう道標」を描いてくれた印象はあるのですが。

大住:極端な話、GMもミシャに任せたら良いんじゃないかと考えますね。今年、さらに期待できる仕事ができたら、そんな役割も与えた方が分かりやすいのでは? ミシャは昨年の就任時に「サポーターの信頼を取り戻さなければいけない。このクラブはサポーターとクラブなどレッズに関係する人間が一丸となってやっていかないといけないクラブなんだ」と言っていたのは、もはや経営者の発言ではと思ってしまうくらいだった(笑)。そこをクラブは最優先で改善しないといけないことをミシャは理解をしているのです。近年では一時期、才能ある選手が数多く出ていたけれども、育成の部分でも最近ではうまくいっていない印象を受けますね。

UF:トップチームのサッカーが定まっていないので、クラブとして、どういう選手を育てるかというビジョンも描き辛いのではないかと思います。

大住:アヤックスのようにトップチームがやっているサッカーを7,8歳の子にもやらせて、そのシステムに合う子を作っていく。そのやり方は、システムが変わった時に対応ができないので、多くの犠牲者を出すような気もします。重要なのは、サッカー選手としてのベースを作っていかないといけないわけで、クラブとして型に決めた育成が全て正しいとも言い切れない部分はあると思います。

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