浦和への伝言2013 大原ノート – vol.14 盆栽町(ぼんさいちょう)
浦和一女高OGのおふたりが、駒場~大原~浦和美園を巡る郷土の自然や史跡を楽しく散策します。
■ 今年の5月は気持ちのよいお天気が続きましたね。レッズも負けなしで、大変気分がよろしい。でも、同じ市内のチームに負けたのは残念でした。そこで、今回はもっとも近いアウェイの地に赴いてみました。青葉の美しい盆栽町です。
■ とはいえ、私、実家は旧大宮市なので、ちっともアウェイではなく地元民でもあるのです。ただし、すぐ近くに住んでいて自転車や車で周辺をよく通っていたのですが、町内に足を踏み入れたのは初めてです。
■ 浦和駅や大宮駅に比べると一気にローカルなイメージの土呂駅から、まずは盆栽美術館に行ってみました。直近の新聞記事によるとわざわざドイツから来館された方もいるそうです。2010年3月開館の美しい美術館です。盆栽町の歴史・盆栽の種類や見方などが、最新のデジタル映像などで展示されています。でも、なんといっても圧巻は「実物」のすばらしい盆栽です。
■ いや、本当に、これはすばらしいです。父が育てた盆栽だってそれなりに風情はありましたけれど、ここに表現されているのはもう「別世界」です。すばらしい絵画や音楽と同じ「芸術」です。限定された「鉢」のなかで表現される世界。それを見ている自分がなぜか別世界の造物主に、その世界の所有者になったように感じさせてくれる不思議なスケール感。切り取られて、限定されているのに、その外側に広がる別の空間、「在るもの」よりも「無いもの」をより感じさせる不思議な存在感。そして、もっともすごいのはその芸術品が生きているということです。
■ 本来、野放図に伸びていきたい枝を切り詰めて造り手のイメージに従わせながら、一方、その木の個性や生命力を失わせていない。命というのは常に変化する「無常」なものだと思うけれど、ここでは「無常」なる命に芸術家の美意識にかなう「常」を表現させている。これは大変な作業ですね。ドイツから見に来ていただく価値があります!
■ そして、さらに私が驚いたのは、この町が作られたときの「コンセプト」です。関東大震災後、被災した都内の盆栽業者が新天地をここに求め、山野にいわば「盆栽特区」を作ったそうですが、移住者に対して、盆栽を十鉢以上所有する、平屋にする、生垣にする、門戸は開け放つ、などの条件をつけたとのことです。そのコンセプトゆえに盆栽町は美しい町並みを持つ、さいたま市内有数の高級住宅地になりました。盆栽を造る方たちは鉢の中の景色だけでなく、町の将来像も見ることができたのでしょうか。
■ 残念ながら、そのコンセプトも都市化の中で維持が難しいようで、数階建てのマンションもあり、本来の敷地を小さく塀で仕切った住宅も増え、かつての盆栽町の面影は失われつつあるように感じられました。30ほどもあった盆栽園も今は5~6園しかないそうです。難しいこともあるのでしょうが町の魅力をなんとか持続してほしいなあと思います。「生きている芸術」盆栽の精神でなんとかならないでしょうか。
■ とはいえ、町内にはまだまだ雰囲気のある場所がいくつもあります。「盆栽四季の家」は「平屋」の日本建築で無料で休憩できる「門戸の開かれた」場所です。盆栽園はどちらも見学可です。今回は女性が当主の「清香園」にお邪魔をしました。盆栽美術館展示の堂々たる作品とはまた違う、やわらかいイメージの作品が印象的でした。一般の人向けの盆栽教室も開かれています。
■ さらに、町内には日本近代漫画の先駆者北澤楽天(大宮出身)の邸宅「楽天居」跡に建てられた「漫画会館」もあります。こちらは盆栽とは逆のイメージ、伸びる枝をどんどん伸ばして世の中に切り込んでいく、動く世の中をさらに動かしてやろうという精神を感じる場所です。
■ 「盆栽」と「漫画」、世界に発信すべき日本の文化を二つも持っている盆栽町、アウェイだなんていわないで、一度訪れてみてはいかがでしょう。でも、電信柱に飾られているのはオレンジ色の旗…。やっぱり、ちょっぴり、アウェイかなあ。
盆栽四季の家 http://www.city.saitama.jp/www/contents/1188960462534/
清香園 http://www.seikouen.cc/
さいたま市漫画会館 http://www.city.saitama.jp/www/contents/1245128492178/
文/百瀬浜路(ももせ・はまじ)
東京都生まれ。埼玉大学附属中学、浦和一女高、多摩美術大学卒業後、(株)世界文化社に入社。保育園、幼稚園のための教材企画、教材絵本、保育図書の編集に携わる。ワンダーブック等の副編集長などを経て、現在同社ワンダー事業本部保育教材部副参与。保育総合研究会会員。蕨市在住。
写真/黒木葉子(くろき・ようこ)
川口市生まれ。埼玉大学附属中学、浦和一女高、千葉大学工学部写真光学科卒業。大学在学中から研究テーマとしていた撮影技術を生かしフォトグラファー、イラストレーターとして活躍。セツ・モードセミナー勤務を経て、現在フリーランス。川口市在。