浦和フットボール通信

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浦和レッズ、「魅力あるプロクラブ」への指標。 湯浅健二 ロングインタビュー(1)(2014/4/9)

ドイツサッカー協会スペシャルライセンスコーチ、全盛期への端緒についた読売サッカークラブ(現ヴェルディ)での指導歴、レッズの紆余曲折を追ったキャリア……。幾多のジャーナリストの中にあっても湯浅健二氏のプロフィールには、日本サッカーにおける「プロクラブの履歴」を検証する視点が満ちている。新シーズンを前に我らがレッズの現在位置、そしてその魅力の未来像を訊いた。 interview by Yuichi Kabasawa /text by Mitsuho Toyota /Photo by Kazuyoshi Shimizu IMG_5999
湯浅健二 Profile

1952年生まれ。プロサッカーコーチ。 ケルン体育大学に留学し、1981年にドイツサッカー協会公認スペシャルライセンスを取得。 1982年に読売クラブのコーチを務めた。現在はサッカージャーナリストとして著書多数。

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内容を持って勝利する……ミハイロの志向は正しい

UF:昨季終盤の失速、レッズサポーターの落胆は小さくありませんでした。

湯浅:分かるけれど、あの状況だけでミハイロ・ペトロヴィッチの手法が間違っているとは言えません。昨年のJは上位陣の得点・失点が少なく、逆に浦和、鹿島、川崎のそれは多かった。ただ肝心なのはどういうテーマで戦った結果かということ。メディアは結果のみで見解を出してしまうから、そこは早計に結論を出すべきではないと思います。 UF:どういうことでしょうか。

湯浅:内容も伴って勝利する。これが理想的なバランスのプロとしての成果です。往々にして「攻撃型では勝てない。まずは守備ブロックから」という論が先行するが、それじゃサッカーが楽しくならないでしょう。メディアが賞賛したイビチャ・オシムはジェフでも代表でもプレーヤーの運動量を1.5倍レベルに持って行きました。事実1キロ近く(ゲーム当りの走行距離が)伸びたらしく、そこを評価されている。(攻撃型の)現代サッカーにおいてなら13キロも走るのが当たり前の世界になってきた。ただ守るのではなく、しっかり攻めた後に守備も稼動させるためには何が必要か。それを考えなければなりません。

UF:その意味では、ペトロヴィッチ監督は攻撃的なサッカーを目ざしていると……。

湯浅:結果は伴わなかったが、浦和のサッカーは魅力的と思う。対して個の魅力を押す広島や横浜のサッカーはどう?つまらないでしょ?(笑)サッカーの魅力は究極にはパスにあって、それがコンビネーションの美しさを生む。マラドーナのドリブルは凄いけど、パスが繋がって予想外のところにボールが出てそこに受け手がいれば客席は沸く。それを魅力のリソースとして捉えられないのは、日本サッカーの成熟度に問題があるんです。最強を誇る現在のブラジルでも、美しさとは何かと聞けば一貫して「パス」というのがサッカー好きの答え。そのブラジルだって70~90年代前後までは、足元パスだけの個人技のゲームをしていた。彼らが欧州サッカーに遅れをとってボールの無いところでもサボらず走る組織プレーへの変貌を迫られる結果となり、現在に至っているわけです。

UF:「走らなければサッカーではない」という湯浅論は、そこから来ている?

湯浅:美しさは組織プレーにありということ。少なくともミハイロはそれを目指しているし、完成への途上にあります。ただ(昨季の)浦和は運動量が尽き、イージーなプレーで失点を重ねてしまった。楽して金儲けはできないんです。オシム指揮の日本代表を見て、DFの攻撃参加と攻めの駒の戻りの早さに誰もが驚いた。ミハイロの戦い方はその流れを汲んだ同質のサッカーをやっていると思います。

UF:いずれにしてもレッズは結果は残せませんでした。その理由をもう少し。

湯浅:ミハイロは選手に「戻れ」や「前に行くな」を言わないらしい。逆にチャンスでは「みんな行け」で、しっぺ返しが来る危険を口にしない。現場で指揮官が言えば選手は10倍萎縮してしまう危険があるから言わないのでしょう。それが失速に繋がったことは事実。でも、そこで折れてしまってはミハイロのサッカーの魅力は出てこないんです。逆に広島の森保監督は後ろのバランスを取った。合理的な手法だけど、これではサッカーは美しくならない。美しく勝つことを目指さなければ、21世紀のイメージリーダーになるサッカーなんて出来ませんから。

UF:美しく、しかも結果を出す方策は?

湯浅:攻めの姿勢を保つバランスを考えながら、選手たちがハードワークを徹底するしかない。2シーズンで自分たちのサッカーを貫徹した価値を、レッズは認識すべきなんです。選手たちのプレーイメージも残っているはず。この2年は今季レベルアップのために投資をしたのだと……。その先に「ピンチに5メートル先まで戻る集中力」を積み上げれば良いんです。出来るか否かは、選手たちの志向と監督・コーチの指導力にかかって来る。私もヴァイスヴァイラー(元ボルシアMG監督)に叱られたが、人の力って怒りから出てくるんですよ。そこから生まれた1メートル、何十cm、足を先まで出せるかどうか。ミハイロはこういうことを今までうるさく言わなかったけれど、意識付けが必要と感じているのでしょう。合理的にやろうなんて100年早い。バルセロナだって世界レベルの連中がみんなこのハードワークをやるんだから。

<続く>

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