浦和フットボール通信

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URAWA TOWN MEETING 008『浦和レッズジュニアと、浦和の才能育成を考える』(1)

浦和レッズとホームタウンが膝をつきあわせて語り合う『浦和タウンミーティング』
浦和にはレッズ以前から歴史を積み重ねている、サッカー少年団組織が存在する。昨年から始動した小学生年代のレッズジュニアと少年団組織の連携を図り、より浦和の才能育成を推し進めるためには、どうするべきなのか。浦和タウンミーティング第8回目は『浦和レッズジュニアと、浦和の才能育成を考える』をテーマにして、語り合った。

■ゲスト:
村松浩(浦和レッズジュニアチームアドバイザー)、
近藤富美男、町田隆治(さいたま市南部少年サッカー指導者協議会技術委員)

■司会:
椛沢佑一(浦和フットボール通信編集長) 豊田充穂

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椛沢:浦和タウンミーティング第8回テーマは、『浦和レッズジュニアと、浦和の才能育成を考える』です。浦和レッズジュニアチームアドバイザーの村松浩さん、さいたま市南部少年サッカー指導者協議会技術委員から近藤富美男技術委員長、町田隆治技術副委員長にお越し頂きました。まずはレッズジュニア創設までの経緯を村松さんに解説願います。

村松:前アカデミーセンター長の矢作が地元指導者の皆さんと議論を重ね、地元の熱意と厚意によりチームを立ち上げるに至りました。浦和には36の歴史ある少年団があり、レッズはジュニアユースの入り口として地元少年団から才能を獲得をしてきました。このように歴史ある少年団がある中で、あえてレッズが浦和でジュニアチームを持つ必要があるかという議論を継続して参りました。昨今は、川向こうの黄色いチームや青いチームの小学生年代からの勧誘もあり、埼玉、浦和の才能流出を防ぐために、レッズがチームを持ち、多くの地元指導者の面々と一緒に少年のチーム育成のモデルケースを具現化する活動をやっていけたらという話をしてきました。つまり、育成をキーとしたレッズと地元の共存共栄という目標です。

椛沢:村松さんの育成アドバイザーというお立場は?

村松:近藤さんや町田さんとは旧知の仲で、地元との渉外担当、ジュニアのアドバイザーという役どころです。私はそもそもレッズが埼玉に拠点を置いた時点で浦和スポーツクラブの設立に伴うユース監督を仰せつかり、埼玉サッカーの大御所である浦和南高校の松本暁司先生や浦和西高校の仲西俊策先生から地域の指導法を伝授された身。その過程で近藤さんや町田さんとも交流ができる環境がありました。ジュニアの活動段階から私が間を取り持った経緯もあり、今回育成アドバイザーという立場を承ったわけです。

椛沢:活動開始から一年が経った所ですね。

村松:地元各団からセレクションという形で選手達を集めさせていただきました。実際の試合結果で言えば、全国少年サッカー大会の埼玉県予選ではアルディージャに負けて決勝進出はならなかったものの3位。4種リーグ戦でも準決勝敗退ながら同じく3位でした。地元の有望選手を育てて頂いての順位なので、想定内の成果と思います。子どもたちの一年間の成長振りを把握しましたし、地元指導者の方々にジュニアチームを見て頂くこともでき、順調なスタートが切れたと考えます。

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椛沢:実際のセレクションの方法や選抜基準、人数などを教えてください。

村松:シンプルですが、この年代でもボールがしっかり扱えること。加えて身体的要素、例えば足が速い、フィジカルや俊敏性がある等も大きな評価基準になっています。チーム創設時は6年生が12名、5年生が8名、4年生が2名の総勢22名のスタートでしたが、順次に4年生からの3年間で育成を一貫させ、その先にジュニアユースがあるという形式が理想。最長9年の下部組織の育成から、トップに繋がっていく才能を預かっていきたいと考えています。

椛沢:この年代で必要となるスキルとは何とお考えですか。

村松:来たボールを止める、運ぶ、最終的に蹴る、この3つが思い通りに出来ることが重要です。相手マークがいるか否か、相手の技術等でゲーム状況も変わるので、求められる選択や判断のスピードも重要な要素になります。

椛沢:「大会で勝ち上がらないと拮抗した相手と試合ができない。どのような相手と練習試合をしているのか?」という質問を頂いています。

村松:公式大会以外に関東ベースで下部組織のリーグ戦に参加することもあるし、ヴェルディ、レイソル、FC東京などJ下部組織とやったり、浦和の少年団とも交流を深めるための対戦を励行しています。6年生送別会でも親御さんから色々なご意見とともに「レッズに来なければこのような対戦を経験できなかった」とのコメントもいただきました。

椛沢:「能力の高い女子選手なら受容するケースはあるのか?」との質問も来ています。

村松:ジュニア年代は男女の差なく扱うので可能性はありますし、私自身も一昨年までレディースに籍を置いていたので状況は分かります。レディースのジュニアユースもあるので、小学生で有望な選手ならそこで活動をするという選択肢もあるでしょう。

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椛沢:では、サッカーの街・浦和の36少年団について、近藤さんからご紹介を頂きます。
近藤:ご紹介あったように現在、浦和には36の少年団があります。年間スケジュールは4月に入ってから春の大会、4月下旬から全国大会予選、夏休みには我々、指導者評議会主催の浦和近県招待大会を2日間開催。秋には埼玉県大会があり、1月、2月にかけては冬の大会も開催されます。浦和のトレセンはその合間に開催され、各団優秀選手を集めて月2回の練習。そのトップチームであるFC浦和が県外の大会に派遣されるという仕組みです。FC浦和は全国大会に関しては以前は参加をしていましたが、規定変更に伴って現在は参加できていません。

椛沢:これだけの大きな組織が地域の中で活動を継続していることは特別なケースなのでは?

近藤:個人的意見ですが、40年以上続いている少年団史は浦和の一番の財産と思います。

椛沢:さらに北部には江南南、西部に新座片山と全国優勝を狙えるチームがいくつもあるなど、県内4種は全国レベルにあると思います。中でも浦和36団出身のレッズの選手は山田直輝、矢島慎也が現役、OBでは、本日ご来場の堀之内さんや内舘秀樹さん、阿部敏之さん、室井市衛さんなど多数。町田さんのご子息もジェフで活躍中で多士済々です。レッズジュニアと少年連携では、アカデミープログラムが行われています。これは地元のトレセンで選んだ子どもたちをレッズのコーチ陣が教えるというものですね。

近藤:丸3年におよぶ活動です。選手は我々が選んでレッズにお預けし、平日夜に大原グラウンドで練習をして頂いています。もちろん彼らにとっては大きな刺激でしょう。憧れのトップ選手、指導陣と同じ環境で練習ができるのですから。

村松:毎年、まだまだ子どもという印象の少年たちが集まるのですが、活動を進めるごとに成長を感じます。子どもたちの吸収力が我々のアプローチよりも早い感じ。このような経験を経てトップチームを応援をしてくれたり赤いユニフォームを着たいという思いも抱いてもらえるよう指導に勤しんでいます。

椛沢:少年団出身の山田選手や矢島選手がトップにいることも連携の証と思います。ここからは、クラブと少年団がどのように連携を図り、地元の才能育成ができるかを話し合っていきたいと思います。前回ミーティングでもレッズ主催の大会を作り、地元少年団との対戦、レッズと地元指導者での各地域研修ツアー、トップチームの戦評会などを催したい等々のアイデアが出ましたが……。

村松:レッズの育成ダイレクターの立場にいた時期から考えていたのは、我々の指導で良い選手の能力を高めていくことは出来ても、浦和エリアで子どもたちを継続的にトップレベルに引き上げる作業は難しいということ。むしろ地元に指導者が携わりやすい環境を整え、コーチングがレベルアップする施策をしたり、我々の理念を共有できる環境をつくることが先決では?という結論です。クラブサイドだけでは限られた人数しか指導できませんが、地元指導者なら我々の目が届かない子にも接しており、同じ理念や指導を伝える環境が作れる。そのためにも、前回のタウンミーティングで吉野さんが言われていたように、研修会や勉強会など指導者同士が顔を合わせる機会を増やしたい。私は指導者養成事業にも関わっていますので、ライセンスの講習会を行なって様々な指導者に取得のための指導する立場なのです。そこでは資格がゴールではなく、将来を見すえてのリフレッシュ講習などもやる。このような組織や機会を地元に増やすことで、多くの指導者と直接膝を突き合わせる環境が作れると思います。

椛沢:地元指導者はボランティアベースなので、モチベーションを上げるためにもそのような試みは必要でしょうね。

町田:大事な案件です。レッズランドを提供してもらっての浦和トレセンのテストマッチもやっていますが、昨年からレッズジュニアも参加している。高いレベルが経験できる場となるでしょう。

近藤:就任から3年が経ちますが、村松さんに来ていただいてアカデミープログラムをきっかけとする交流は今後も右肩上がりとなるのではないでしょうか。

椛沢:北浦和少年団の吉川団長にも客席においでです。ご要望などありましたらどうぞ。

吉川:大会の会場が不足しています。会員優先を緩めて頂けるとありがたい。我招待試合なども自分の学校に申請しても取り難い状態です。環境を提供して頂き、その中で地元とレッズとの交流を深めていただければと思います。

椛沢:前回、町田さんからハートフルクラブのコーチ陣が各少年団に周ることで交流が深められるという提案もいただいています。

町田:はい。期待したいです。

豊田:いずれにしても村松さんはレッズのトップチームのコーチからアカデミーセンター長、レディースの監督などを歴任をされてきたキーパーソン。クラブ内部でも最古参で現役時代は落合弘さんともプレーされ、浦和の黄金時代も体験された人材です。浦和スポーツクラブ時代から地元を熟知している村松さんが育成幹部におられるのは「地域とクラブが融合する大きなチャンス」との声も高まっています。浦和と三菱にはそれぞれのサッカー文化があり、お互いの事情が交流を活性化できない理由ともなっていたと思いますが、現状に至るまでのご苦労など聞かせていただければ。

村松:浦和は少年団組織が40年以上も活動を続けており、高校サッカーでも浦和の名がつく学校が何度も全国優勝を経験しています。我々にも浦和サッカーに一目置く気分がありました。双方がサッカーを育てたという自負の歴史の中で、レッズの場合はやはり東京から浦和に足を踏み入れる気兼ねのようなものはあったのではないでしょうか。

豊田:昨年11月16日にこのティナラウンジで「Jの理念を実現する市民の会」の懇親会が開催されました。松本暁司先生、仲西駿作先生、磯貝純一先生と、浦和の高校で全国制覇をされた指揮官たちの列席を仰ぎましたが、浦和のサッカー文化をレッズとともにどのように継承していくかというお話がありました。浦和においては「サッカーは教育の一環」であり、プレーとともに人間性を育てる意識が強かった。プロリーグのJ所属となった三菱が入ってくるアレルギーのような気分は、多少はあったかも知れません。現場を取材させて頂く中で、たとえば北浦和少年団の吉川団長さんあたりの世代は、浦和サッカーの意味合いをしっかりと継承し、「子どもたちはプロになる前に一人の小学生かつ浦和の子。まずは地元の子らしい子どもをしっかり育てる」という気概を強く感じました。対して近藤さん町田さんのような次世代の指導者の皆さんに接すると、地元の学校教育に精通していることに加えてJ創設以降の浦和に望まれるプロの育成環境も肌身で知っておられる。教育とプロ育成の双方の視点を持つ方々が指導者になられた現状は、少年団とレッズジュニアとの連携を図る大きな節目と思うのですが。

村松:松本暁司先生が県サッカー協会会長で仲西先生も事務局におられた当時、私は技術委員としてご一緒させていただいていた時期がありました。お二人は埼玉サッカーの復活とリニューアルすることに力を注いでいて、それに順じて私も色々なことを県内でやれる環境を与えて頂いていた。そんな流れの中で近藤さんや町田さんなどの地域の核となる指導者の皆さんが中心となって世代交代が進み、現代の子にあったサッカーの教育環境は何が良いのかを理解して頂いてトップに立たれていることは幸運なことと思います。トップレベルの選手になるためには人間性が欠かせないという認識は、レッズの小中高のカテゴリーの中でも同様です。サッカーよりもまずは生活指導というコーチが主流で、サッカーを通じた人作りの意識は徹底しています。その意味でも、スポーツを通じて人作りをするという浦和との連携は、しっかりと地固めができているのではないでしょうか。

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