浦和フットボール通信

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レッズ戦、無観客試合の衝撃Vol.2 『浦和レッズ、暗澹たる決断。』 大住良之(サッカージャーナリスト)インタビュー(2014/9/9)

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ワールドカップ明けの鹿島戦。ホームゲームにもかかわらず、かつて熱狂の舞台の名を欲しいままにしたレッズ本拠地の埼玉スタジアムは4万人の客席も埋めることができなかった。それでも大住良之氏は「クラブからあの様な決断を下された後でも、まだこの数のレッズサポーターが支え続けるのか」と、胸を熱くする思いだったという―――
「3.23」の示唆と教訓を質す本誌第二弾は、本場のフットボールとプロクラブの意義と魅力を日本サッカー界に提唱し続けてきた第一人者。そして、長きにわたって浦和レッズを追ってきた重鎮ジャーナリストに見解を質す。(浦和フットボール通信)

Text Mitsuho Toyota
Photo Kazuyoshi Shimizu Yuichi Kabasawa

スタンドの表現はフットボールの不可欠要素。

浦和フットボール通信(以下UF):提言シリーズ前回はアナウンサーの上野晃さんにお願いしました。レッズ史を振り返る環境がクラブ周辺から消えている現状が「3.23」の本質が検証されない遠因となっていると……。

大住良之(以下大住):レッズはまさに「今までを振り返るべき時」を迎えていると思います。W杯が終ってJ取材に戻り、ホーム鹿島戦のゴール裏と客席を見た時は、その意味からもため息が出ました。これがあの一件を収束させる結末か。こんな空気のホームゲームなのか。レッズのいままでを支えてきたクラブサイドの人間も、浦和の支持者も、こういう埼スタを受け容れるのかと……。

UF:単なる差別根絶やスタジアムマナーの向上だけでは解決にはならない。そこはベテランのサポーターやメディア関係者であるほど深く認識しています。

大住:現状のクラブの対応は理解できない。率直に言わせてもらえば、暗澹たる気分になったとしか言えません。

UF:地元メディア、というより地元民として我々も同意です。

大住:誤った事態の収束が行われていると思います。差別発信が論外であることは当然だが、そのインパクトに振り回されて本質を見失ってはいけない。客席が「チーム支持者の自由な表現の場」であることはプロサッカーの常識。このスポーツの一部分であると言って良い。レッズはそのポイントを基点としてJを牽引する成功を収めてきたクラブであることは周知の事実でしょう。クラブ側もサポーター側もそこを確認し合って連携し、いまあるレッズに成長してきたはずです。

UF:それがこういう事態に陥った後は……。

大住:収束の策を「クラブによるスタンドへの規制」という観客サイドへの規制のみに求めている。これは私が考える浦和レッズというクラブの理想から見れば、根底を揺るがしかねない選択と思いますね。

UF:非常に表面的な判断しか見えないまま中断期間に突入。連続無失点記録の更新で一息をつき「いざ、首位に立っての鹿島戦」と意気込んだホーム戦は、いかにも空席が目立つスタンドでした。ああやっぱり、というか……。

大住:偶然ではありませんよ。スタンドの退潮は歯止めがかからなくなる。これは成績とも補強とも関係はありません。遠からず加速する傾向となって行くでしょう。サポーターから見放され、大規模スタジアムの半分しか埋められない他の大都市クラブと同様になるのです。それでいいのですか。僕は絶対にいやです。

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サポーターとの信頼関係を後回しにする安全策。

UF:発表されたオフィシャル発の対応は、シーズンチケット保持者から希望者を募ってミーティングを開催するといった動き。例によって、ピンチに陥るほどに対応が局地的で硬直化している印象があります。

大住:厳しい指摘になってしまうが、そういう対応でも「まだ観客は来る。スタンドは埋まる」という見通しがあるからではないでしょうか。しかし「サポーターは信じてないよ」というような現在の態度で、サポート活動に力がはいるでしょうか。

UF:同意なのですが、スタンドにおいてもトラブルに対する管理意識が増幅したことも事実。「次に問題を起こせばレッズが消滅する」との危惧から、サポーター同士が互いに行動を抑制する機運が高まっているようです。

大住:クラブに聞くと「いろいろな意見を聞いているが、いまの状態に賛否両論があって決めきれない」と言う。そんな馬鹿な話はありません。ファン、サポーターの自由な表現の可否なんて元々検討する必要もないこと。多様な意見があっても、決めるのはクラブ自身のはず。多数決で決める問題ではないでしょう。ここは非常に重要な分岐点なのです。レッズがレッズであるアイデンティティを考えれば、過剰な危機感をサポーターばかりに募らせる行動は将来に繋がらない。本末転倒と思います。なぜならレッズは、今回に匹敵する状況をクラブとサポーター一体となって乗り越えて来たではないですか。むろんサポーターの問題行動を肯定はしませんが、暴言・暴走は今までにもあったし、それに対する制裁もあった。

UF:そんないざこざの中で、J2落ちも経験しました。

大住:でしょう? そういう状況から這い上がるのがレッズなんです。クラブ消滅への危機感というなら、それはサポーターとの絆が切れることではないか。クラブを消滅させるのは、勝ち点15の削減や2部降格などというペナルティーではないのです。ユベントスを思い出してください。サポーターがいなくなれば「浦和レッズ」という存在も消滅する。

UF:なるほど。

大住:地域に根ざすプロクラブであれば世界共通の認識ですが、チームを支えるいちばんの原点は「地元とクラブの信頼関係」のはずでしょう。レッズはJにおいてそのテーマを、地元からもスタンドからも熱く体現して来たクラブであったはず……このあたり、クラブ内部はどう考えているのかな(嘆息)。事件の重さは深く考慮しなければならないが、その対応が事件当事者のみならず「クラブによる全客席への規制」という決着に行き着いてしまっている。こういう選択は、レッズ自らが「サポーターが信頼できない」というメッセージを広く発信している図式に見えます。

UF:大住さんが考える現状での解決策は?

大住:クラブは早急に規制を全廃し、「自由に応援してください。気持ちを表現してください。サポーターを信じてます」とメッセージを発信すべきです。「もういちど同じようなことが起こったら?」と聞くメディアには、「サポーターは、私たち浦和レッズと不可分の一部。サポーターがトラブルや間違いを起こさぬよう細心の注意を払っていく。万が一問題が起こっても、それは浦和レッズというクラブの問題。結果は我々が引き受けなければならないと考えます。無観客試合以上に重いペナルティーも考えられますが、仕方がありません。サポーターがいなければ、浦和レッズは浦和レッズではない。これからもサポーターとともに私たちは歩んでいきます」と応えれば良い。それが最も強いメッセージになります。

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URAWAに根がおろせなければ、レッズはレッズでなくなる。

UF:何度も大住さんに代弁していただいたクラブへの愛ある提言ですが、現状のクラブには高いハードルになると思います。

大住:浦和には縁もゆかりもない、住んだこともない私が思い入れを抱く熱、「プロサッカークラブの理想像」がこれまでのレッズには存在していました。そういう歴史を知りつつも離れていく支持者を振り向かせるのは、難しい作業になるでしょうね。しかし、地元に根ざすその努力を続けなければ、今度こそレッズは本当にホーム浦和から消えてしまいます。私の提言より、浦和フットボール通信からのレッズへの提言とすべきでは?

UF:僭越ながら「10年後、どんなレッズでありたいか」の本誌テーマを掲げ、橋本元代表以下のレッズ首脳に同席いただくタウンミーティングを折々にしてきました。しかし、たとえばレッズ創成期の森孝慈さんの功績を語り継ぐ企画、ミシャ監督退陣後のクラブの経営ビジョン、育成年代における統一された指導指針等々のテーマでシリーズ化したのですが、残念ながら必ずしも具体的な回答をいただけたわけではありません。

大住:いずれも地域とクラブが不可分の存在となっていく重要なアプローチです。『浦和フットボール通信』の活動は的確と思う。レッズ復活のシナリオの入り口を、地元やサポーターと連携してねばり強く探すしか道はありません。浦和レッズにプロクラブとしての覚悟を促すことは、地元メディアの使命でもあると思いますので。

(2014年8月 都内にて)

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