浦和フットボール通信

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河合貴子×椛沢佑一 浦和レッズ2015ライブディスカッション 「浦和が目指す道標はどこにあるのか」

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浦和が描く道標はどこにあるのか

椛沢:かえすがえす、昨季は残念なシーズンでした……。

河合:でも最後まで夢は見られた。4月29日の横浜Fマリノス戦から8月2日の神戸戦まで無敗(13試合無敗)を続けることができた。それはシーズンを通して大崩をしなかったからだと思う。終盤以外は……。優勝したガンバは、序盤戦は16位だったのにね。そこからの追い上げはすごかった。いかにJリーグの実力が拮抗しているかということでもある。

椛沢:去年J2にいたガンバ大阪が三冠というのは世界でも珍しいことなんじゃないかと思いますね。

河合:それだけ、飛びぬけて強いチームがJリーグには、いないということだろうね。

椛沢:だからこそレッズにもチャンスがあったと思います。

河合:そう考えれば、今年もチャンスがある!最後に崩れなければ、選手層も厚くなったわけだしね。
椛沢:去年は、ACLはない、代表選手もいない、カップ戦は負けてリーグ戦のための状況が整っていただけに、リーグ優勝するための状況は揃っていたのではないかと……。

河合:ガンバは、三冠だからね。ちくしょう……!。本当にビックチームと言われるのは、どの大会でも寄せ付けないくらいの強さがあって、サポーターも多くいて財力を抱えているチームだと思う。

椛沢:アジア王者にまでなった、2007年のレッズはそこに近付いてはいましたよね。

河合:あの時でもまだ足りなかった……。ミシャ監督はあのような監督で、レッズがその監督に任せているわけだからね。信頼して信用をしてやるしかない。でも今年、同じことは続けられない。

椛沢:なかなか監督の考えは変わらないと思いますけどね。

河合:でも去年は広島時代にやらなかった守備の練習を、選手も言うようになってやるようになった。ミニゲームの流れの中で守備の確認もしている。必ずゲームで出た課題をミニゲームの練習の中で修正をしているからね。その部分は認めるところ。そこはすごい大事なことをやってくれていると思うんだけど、あとは選手起用だよね。

椛沢:ミシャが3年間率いて、確実にチームはベースアップをしていますよね。ただ、何か「浦和」として足りないという部分が見え隠れするのは事実……。

河合:それは生粋の浦和、浦和ユース出身とか、他所でプレーしたことがある選手が活躍をするんじゃなくて、高校ルーキー、大学ルーキーで入ってきた選手が活躍して欲しいという部分じゃないかな。

椛沢:生え抜きにこだわり過ぎるわけでもなく、阿部ちゃんのように千葉にいた選手でも、 生粋の浦和みたいな選手になる場合もあります。それは心意気の部分でもあるのかなと。まず、「浦和」というものを理解しないといけない。阿部ちゃんとか興梠とかは、すぐにそれを理解したんじゃないかなと思いますね。だからこそ多くのサポーターから信任も得ている。

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河合:彼らは「浦和」をよく理解をしていると思うよ。森脇もようやく理解をし始めたところだと思うし、その部分は大事だと思う。今は“サンフレッズ”とか揶揄されているけれども、浦和魂を背負っている選手が活躍することの意義はたしかにある。直輝、阪野、矢島が出てきて活躍するとか、関根、宇賀神だけではダメなんだという所にもあるんだと思う。浦和レッズを率いる難しさはあると思う。育成とリーグタイトルという部分のバランスをとるのも難しいんだろうなと思うけど……。

椛沢:一般的には、自分のチームの選手がいて、足りない部分の選手を補強しますよ。しかし全部を補強してしまうと、クラブの存在としてどうなのかなと思う部分があります。

河合:なってしまうよね。そこの部分で浦和レッズが目指すのは何なのかと考えさせられる。浦和が描く道標ってなんだろうと思う……。それが見えなくなってしまった……。優勝するんだったら、監督が言う、選手を掻き集めて、監督の目指すサッカーで勝つんだというのが、浦和レッズが目指す道なのか……。

椛沢:2006年は大型補強をしたけれども、こんな話にはならなかった。違いはなんだろうと思うと、あの時は、軸の選手に、長谷部がいて、啓太がいて、小野伸二が戻ってきて、プラスアルファの補強をする感じだった。

河合:監督の考え方があるだろうけれども、本来のクラブチームは所属している選手、育ててきた選手を大事にして、かつ優勝するためのサッカーはどういうものなのかということを監督が考えて、戦術、起用する選手を考える。所属する選手の素材を活かした上で、足りないところを補強する。これがクラブチームのあり方だと思う。今のレッズはミシャサッカーありきで、そのサッカーをするために、この選手が必要だ、この選手が必要だ、この選手は必要ないから契約をしないという所に違和感を感じる……。

椛沢:それはクラブにビジョンがないことに起因しているんじゃないでしょうか。この20年間なかった。フィンケの時に、レッズスタイルの構築と打ち出して、それをやろうとしたけれども、途中で挫折をして、レジェンドだった、ゼリコを呼び、サッカースタイルが全く違う監督が来たことで、チームがボロボロになり、新たな監督を探す中で引き受けてくれた、ミシャさんに全てお任せしますということになってしまった。そうせざるを得なかったのかもしれない。ミシャ自身は彼なりに仕事を全うして、成果を出しているかもしれないけれども、レッズの色はどこへいってしまったんだということになってきている。

河合:浦和レッズが目指すものって、監督がこのサッカーをやれば勝つんだ、優勝するんだという選手を集めてくることがレッズが目指していることなのかしら……。それだと本当に魅力あるクラブ作りができるんだろうかと思う。

椛沢:それには賛否両論あって、賛成している人はレッズのエンブレムをつけたら誰でも応援するんだ、何が問題があるんだという人もいるんですが、何かそれには違和感がある……。エンブレムをつける選手を応援するんだという意識は、その前提にあることがあるのだと思うのですが、その前提が今崩れているのではないかと思うのです。

河合:もし監督が去ってしまったら、浦和に残るものってなんだろうか。浦和スタイルの構築というものを謳いあげていたけれども、それがいつの頃かなくなってしまった。

椛沢:監督に任せて、その監督のやりたい選手を集めてくるのは、監督の仕事もやりやすくなるので、セオリーではあると思うのですが、クラブに何が残るのかというのが見えない。

河合:これは理想論だと言われるかもしれないけども、所属している選手の素材を活かすのが監督の仕事で、その素材を活かして優勝をする。それでも足りないところを補強する。例えば興梠が怪我をしたら足りないから、補強というのは分かるんだけども……。

椛沢:このような話になると必ず対極の存在として出てくる、鹿島は自分たちのサッカーがはっきりしているから、クラブが目指すサッカーをベースにして、監督を連れてきて、欲しい選手も分かって連れてきます。

河合:鹿島は、ジーコさんが来て、作ったジーコスタイルが踏襲されていてブラジル路線が一貫している。下からもそういう選手が出てくる。浦和はその一貫性がないからね……。

椛沢:新卒選手を取るにしても、鹿島は選手が来るのは、クラブが欲しい選手がはっきりしているからだと聞きます。だから、選手も本当に求められているんだと分かる。例えば、「君は将来小笠原のポジションに代わる選手として期待している」と言われるので、選手自身も加入後の将来も描きやすい。レッズは、言わないだろうけど、今はこういうサッカーをしているけど、監督が変わったら分からないという話になってしまう。そのように選手が思えてしまうと来なくなってしまいます。

河合:その道標がどうなのかなという問題になるね。今のやり方がレッズスタイルなんだと言われれば、納得せざるを得ないのかもしれないけども……。

椛沢:お金があるから、その時々に呼んだ監督にあわせて選手を集めてきますという、よく言えばレアル・マドリッド式ですかね(苦笑)。

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“浦和の子”が戻ってこれるクラブチームを目指して欲しい

河合:一番理想は、ピッチの中にユース出身の選手が11人中6人はいてくれたらなと思う。これは、理想論で、私が目指すレッズスタイルなのかもしれない(苦笑)。違う人が見れば、それは無理だろう。甘いという人もいると思うけども、いつかはそうなって欲しい。

椛沢:2008年の高円宮杯の決勝を見ている人は、なんで彼らが一人も輝かないんだというモヤモヤした所があると思う。あそこにいた選手全員がピッチに立つのは無理だと思うけども、軸になる選手がもっといてもおかしくないと思うくらいの試合をしていた。山田直輝、原口元気、高橋峻希、濱田水輝……。

河合:何年か経ったら、そうなるのかなという期待感はあったよね。岡本拓也もいたし、矢島慎也だって、現在アンダーの代表なのに、試合に出られない状況にある。それは彼に問題があるのか。全くないとは言わないけれども、それだけなのか……。いつかの試合で阿部ちゃんがサブチームに入って、慎也がシャドーに入った時に、すごく慎也の動きが良かった。この組み合わせで使ってやりたいなあと思った。慎也がトップチームに上がってきたばかりでデビューした札幌戦ではすごい活き活きしていた。今年関根が活き活きしていたように、それが何年か経つとくすんでしまう。大きな壁があるのかなと思う。越えなきゃいけない選手がいるのは確かではある。それは直輝もそうなんだけど……。直輝もガンバ戦の前の、川崎との練習試合では、すごい輝いていて、やっと怪我をするちょっと前に戻ってきたかなという動きだった。来年は爆発するぞと思ったからね。ミシャサッカーが難しくて直輝が求められることは難しいけども、直輝の本来の動き回ってプレーするスタイルとミシャさんの求めることは違うのかもしれないけど、彼の中で判断力とかプラスアルファもついてきているからね。

椛沢:直輝は浦和にとって、特別な選手ですからね。それだけ背負わせてしまったところもあるのかもしれないけど……。浦和出身でA代表まで入って、なんで彼を育てられないんだと思っている人は多いと思う。

河合:怪我も大きかったと思う。でも彼は絶対に乗り越えられる。だって小野伸二が、私に太鼓判を押したんだよね。「直輝と話してきたけど、彼はずっと俺より大人だし、すごい選手になると思う。大丈夫だよ」と言ってくれた。私はその伸二の言葉をずっと信じている。昨年の夏頃は、最低だったけどね。何を考えてピッチに立っているんだろうという状況だった。

椛沢:それだけもがき苦しんだんでしょうね。

河合:直輝の口から「ボールを受けるのが怖かった」と聞いた時の衝撃はなかった。選手がそうなるのはすごく悲しい言葉。それを乗り越えて、良い動きをするようになって嬉しくなった。

椛沢:湘南に移籍しますが、爆発して欲しいですね。

河合:優勝するピッチに直輝がいないといやだな。浦和でいつか爆発して欲しい。直輝もそうだけども、海外にいる選手も戻ってくるクラブになること、長谷部や細貝が最後に戻ってこれるようなクラブになっていて欲しい。そうでなければ浦和じゃないよ、と私は思う。それがレッズが標さないといけない道しるべじゃないのかな。それがあれば戻ってくるよと思う。これを考えると悔しくて情けなくて涙が出てくる……。

椛沢:そこでモヤモヤしているサポーターは多いと思います。

河合:この明かりを絶対に消してはいけない。例え、ミシャさんが優勝するために補強をしたのならばそれはそれで良いけども、浦和の魂を宿して明かりを灯してくれればいい。ただ、今の補強の中で、ミシャさんがきっちりとしたものを創らないと、何のための道標なのか、わからなくなる。

椛沢:クラブがもっと示してくれれば、サポーターも納得できる部分はあるのかもしれないですけどね。

河合:そこを灯してくれるだろうと信じるしかない。私はうるさいと言われても、言い続けるから、そういうクラブにならないといけない。直輝が言った言葉で「最後はユースのみんなが集まってここでプレーしたい」という言葉が印象的だった。今年、岡本や大谷は戻ってきたけれども、他に契約がないから戻ってきたというのであれば出ることは出来ない。戻ってきた彼らには覚悟をもってプレーをしてもらいたい。森脇が広島から愛媛にレンタルされた時に、もうだめなのかなという複雑な思いがあって、活躍をして広島を見返してやるんだというハングリー精神をもって成長することができたと言っていた。その後、広島に戻って、ミシャさんがいなくなってから優勝をしたけれども、ミシャさんから「俺の下でやらないか」と声を掛けられて「それなら行きます」と浦和にやってきた。彼も優勝するためにきたんだよね。だからこそ、今季こそは結果を残して欲しい。

椛沢:選手達の「監督のために優勝したい」という言葉が誤解を呼ぶんですよね……。

河合:そういう思いプラス、森脇も柏木も槙野も西川、李も「サポーターのために、浦和のために」ということは言っているんだけど「ミシャのために」ということだけがクローズアップをされている。そこは全部使って!と思う。西川は「浦和のサポーターはなかなか応援してもらえないと聞いているから、プレーで認めさせたい」とシーズン前に言っていた。そういう思いがしっかりある。そこはサポーターにも理解して欲しい。

椛沢:ミシャが名古屋戦のあとの監督会見で、記者にケンカを吹っかけられて、「私は、広島の選手を呼んでいるわけではない。俺の子供を呼んでいる」と言った発言もサポーターの気持ちを逆なでしてしまったと思います。

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河合:ミシャさんは自分が関わった選手は全て子供だから、直輝も坪井。元気も子供なんだよね。そこはクラブ側がはっきりと示さないといけない部分なんだと思う。育成とタイトルを取ることを両立させることは難しいかもしれないけども、今はこの状況で、この監督の下で、タイトルを取りますと、そのためにこの補強をしましたと。ただ浦和の本当の道標は、みんなが戻ってきてくれるクラブになることですと。レッズがJ2に落ちたら、元気や長谷部が戻ってくると思う?来ないでしょう。そんなチームに戻したくもないから。「浦和で育った選手がいつか戻ってこれるチームになるために、いま頑張りましょう」と。社長がこういうことを言ってくれたら良いんだよね。

椛沢:今のレッズのやり方では、誰のためにやっているんだという話になってきます。札幌の社長をやっている野々村さんは「コンサドーレは札幌のためにやっているんだ」とはっきり言っている。その言葉が活動に結びついているように思えます。

河合:実は、野々村さんとは、Jリーグアウォーズでちょっと話をするタイミングがあって、「俺に浦和の社長をやらせてくれれば色々なことが出来るのになあ」と言っていた(笑)。 浦和を率いるのは大変なことだと思うけどね。

椛沢:夢が語れないといけないですね。その部分が欠けているように思います。

河合:浦和を愛している心があれば、それは出来ることでしょうと思うでしょ?ミシャさんも浦和を愛していると思う。選手を信じて闘っている。今年は去年より厳しいと思うから、勝負になるね。今年結果が出なければ、来年はないでしょう。

椛沢:これだけ選手を集めてきて、監督がいなくなると大変なことになりますから、レッズにとって重要な一年になるような気がしますね。河合さんには今年も密着レポートをお願いしたいと思います。

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