浦和フットボール通信

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河合貴子のレッズ魂ここにあり!「感謝を籠めて」

J開幕から浦和レッズを追いかけている”タカねえ”こと河合貴子さんによる浦和レッズコラム。毎週、タカねえの独自視点の浦和レッズを語ります。

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陰で支えながら、大原のクラブハウスに関わる人たちの家族のような存在であった

一人の女性が、長年勤めてきた職場を退職した。年の離れた選手たちからは、いつも「ミサヨさん」と親しみを込めて呼ばれていた。笑顔が素敵な女性で、いつもニコニコしていて人を包み込んでくれる暖かさを感じ、彼女の顔を見ると安心感に包まれていた。大原のクラブハウスの清掃、洗濯など細かい雑務を担当していた平井ミサヨさんだ。

平井さんが、大原の練習場にやって来たのは、2000年10月17日のことであった。17年近くになる。

平井さんが大原に勤務した当初、クラブハウスと言うのがおこがましいぐらい古びた平屋のプレハブであった。玄関を入ると大きな靴箱があり、選手のスパイクや靴が並んでいた。スパイクに付いた泥や芝生を落とすエアーブラッシなど無く、玄関の入り口で選手たちがブラッシを使うならまだ良いが、階段の段差を使ったり、スパイクの裏をパンパンとぶつけて汚れを落としていた。雨の日など、もう泥だらけである。

それが、魔法のようにいつもピカピカでガラスの扉まで見事に掃除されていた。

「玄関はね、綺麗じゃなきゃね。玄関に入ったときに綺麗だと気持ち良いでしょ」とゴム手袋をしてこびり付いた汚れを落とすヘラを片手に平井さんが話してくれたことを昨日のことように覚えている。

平井さんは当時を振り返り「最初、清掃の仕事は一人だった。プレハブでねぇ~」懐かしそうな表情を浮かべた。そして「教えてくれる人もいないし、とにかく汚かった。だから綺麗にしようとオフの日に掃除したりした」と休暇を返上して掃除をしていたのだ。

平井さんがこの仕事に就いた切っ掛けは、募集を見て応募したそうだ。「浦和のファン・サポーターでないことが条件だったの。でも、当時は土田コーチが好きで大原の金網の外で見ていて、ヤジや檄を飛ばしていた」と当時現役の選手だった土田尚史GKコーチのファンだったことを隠して応募したのだ。

だが、採用されてからプロに徹していた。「ここのサポーターは違うから」と働いていることを内緒にしていた。「見ざる・言わざる・聞かざる」に徹していたのだ。

そんな平井さんが、退職するにあたり印象に残っている選手を「永井さん(永井雄一郎選手)はいつも有り難うって言ってくれた。小野くん(小野伸二選手)は、凄く優しかった。この人は上に行くなぁって思った。井原さん(井原正巳監督)も他の選手と違っていて向こうから挨拶してくれた。長谷部さん(長谷部誠選手)は口数が少ないが、すいません、有り難うって、長谷部さんが本を読んでいるときにお掃除していると足を上げてくれた」と少し照れながら明かした。挨拶や何気ない動作、選手たちの有り難うの一言が、平井さんは本当に嬉しかったのだ。

また、2006年に浦和が優勝の栄光を掴んだときに、二人目の孫が生まれた。

「その日、優勝の食事会があって、娘は出産で2歳の孫のお守りがあったから出席出来ないと断った。そしたら、ギド監督が、孫を連れて是非来て欲しいと言われて、孫と一緒に行った。監督が抱っこしてくれて一緒に写真を撮ってくれた」と優勝と共に忘れられない思い出であった。そして「優勝して、みんながオープンカーに乗っているところをもう一度見てみたい。孫を連れて見に行ってね。浦和の街を見て嬉しかった」と話した。

歴代の監督からも選手たちからも信頼され愛されていた平井さんであるが、ただ単に仕事だからと割り切って遣っていたからではない。長年の付き合いの中で、平井さんが話してくれた忘れられない言葉がある。

「私は主婦だから、家事しかできない」とポツリと言ったことがあった。

平井さんは「家事しか」と言ったが、それは凄く大事な言葉であった。日常生活が快適で円滑に過ごすためには、決して疎かに出来ない大切なことが『家事』である。平井さんは、自分の大切な家族と過ごす家と同じように、監督や選手、クラブスタッフ、報道陣が快適な時間を持てるように心を込めて大原のクラブハウスを大事にしていたのだ。陰で支えながら、大原のクラブハウスに関わる人たちの家族のような存在であった。

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退職する平井さんに、選手たちから花束と記念のユニホームが贈られた。背番号は、平井さんの名前を文字って「334」であった。また贈られたユニホームには、平井さんが大原に通い始めた日付と退職された日付がプリントされていた。

約17年の間で、沢山の監督や選手たちが平井さんに支えてもらった感謝が籠められていた。大原を離れても平井さんは、ずっと浦和を家族と同じように愛し続けるだろう。平井さん、お疲れ様でした。そして、陰で支えて下さり本当に有り難うございました。


川久保整形外科がリニューアル開院しました。平成28年5月6日(金)より新クリニックにて診療を開始しています。MRIなど最新施設を備えて、より良い環境の下での医療とサービスをご提供していきます。http://www.kawakubo-clinic.jp/

川久保整形外科

川久保誠 profile
1981年慶應義塾大学医学部整形外科教室入局。93年医学博士。94年英国リーズ大学医学部大学院へ留学、修士課程修了。96年より慶應義塾大学病院膝関節・スポーツ外来担当。東京歯科大学市川病院整形外科講師を経て2004年4月より川久保整形外科クリニック院長となる。浦和レッズレディースのチームドクターも務めた。http://www.kawakubo-clinic.jp/

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