「愛されるクラブ」フットボールトーク Vol.178
クラブとサポーターの距離が近いのはJ2クラブだけの特権ではない
椛沢:気がつけば、リーグも序盤戦が終了。レッズはリーグ戦開幕で横浜に敗れたものの、セレッソ大阪、甲府に連勝して、ガンバ大阪には引き分けて2勝1敗1分けの6位。ACLもシドニー、ソウルに大勝して、上海には破れましたが2勝1敗で2位と順当な立ち上がりをみせた印象です。一番のインパクトは新加入のラファエル・シルバ選手ですね。新潟時代のイメージでは強引なまでのドリブル突破のイメージが強かったので、ペトロヴィッチサッカーに融合できるのだろうかという心配がありましたが、見事なまでのフィットで、これまでリーグ戦トップの5ゴールを挙げています。
豊田:新潟時代の録画を検索したのですが、正直別の選手にさえ見えます。それほど違うプレースタイルで得点をものにしている部分がある。Jリーグをよく知っているし、ストライカーとしての技術と素養が高いレベルで調和している選手なのでしょうね。かつて「レッズ入団という選択は成功のシロクロがはっきりつく」と福田正博さんがコメントしましたが、彼は第一関門を順調に突破したように思います。
椛沢:不安要素としては守備の緩さですね。今季はよりペトロヴィッチ監督の志向するサッカーを実現させようと攻撃的な色を強く推し出していこうという意図が見えますが、その分、守備が疎かになってしまう部分がある。ペトロヴィッチ監督のサッカースタイルの一貫性を貫く意味では問題はないと思うのですが、そうなった場合の最終局面での勝負で、その隙がどう出てくるのか、過去の経験を振り返ると老婆心ながら大丈夫なのかという思いがあるのも事実です。
豊田:守りの原点はいうまでもなく意識共有にあるわけで、完封ゲームが少ない事実は気になります。あいかわらずポゼッションからフィニッシュまで攻めのパターンは鮮明ですが、ゲーム中のリスク対応も遅いまんまですね。マリノス戦とかは相当いらいらした(笑)。キックオフされた後の90分間、現場レベルの対応がスタンドになかなか見えてこない部分には手を打って欲しい。レッズがリーグを戦い抜くには「ゲーム中の修正能力」が欠かせないことは身にしみているので。
椛沢:日本代表も先日、アウェイでのUAE戦がありました。中東での戦いは厳しいものになると予想されていましたが、2-0の快勝。キャプテン長谷部の欠場も2年ぶりの代表復帰となった今野泰幸選手が追加点のゴールまで奪う、見事に穴を埋めてくれました。
豊田:勝ててホッとしましたが、長谷部選手の負傷が気になります。今野選手についてはガンバ、FC東京時代を通じて浦和戦には頑張る選手だったからレッズサポーターにはおなじみでしょう。30代も半ばに達したいまが最高潮のコンディションなのではないでしょうか。夜中の中継映像に彼が映りまくっていましたが、とにかくアウェーの大舞台で動きが落ちないしゴールする決定力もキープしてる。代表監督を退いて札幌を率いていた頃の岡田武さんが「楽しみな素材なんだ」とくり返していましたが、本当に息の長いプレーヤーになりました。
椛沢:この試合に負けたりでもすれば、非常に厳しい状況になると思っていたのとは裏腹に、久しぶりに逞しさを感じることができる日本代表でした。さらに、これまで世代交代が問題視されてきましたが、前線では大迫勇也選手、久保裕也選手、原口元気選手が起用されて、活躍を見せてくれました。若手の台頭を感じることが出来たのも明るい材料だと思います。
豊田:敵地でのハリル戦術で制約も多い中、しっかりと「自分らしさ」を見せた彼らは、やはり現地で出番を確保している実績が大きいと思います。特にDFラインからの抜け出しを次々やってのけた大迫選手は噂どおりの成長と思った。テンポをずらし、かつ高速で入ってくる長友選手(インテル)のクロスに、フリーのダイビングヘッドでぴたりと合わせた場面は個人的にはベストシーンでした。
椛沢:浦和視点ですと、原口元気選手の活躍ですよね。海外挑戦から長くフィジカル改造に取り組んでいるようですが、激しい上下動での攻守に渡る献身性と、彼の持ち味であるゴール前での個の力がバランス良く出てくると、さらに怖い選手になっていくのではないかと期待しています。欲を言うと、ここに浦和のサッカープレイヤーも絡んでくるとホームタウンの盛り上がりが違いますよね。
豊田:予選の連続試合ゴールは途絶えましたが、存在感はキッチリ示してくれた。編集長言うとおり、彼に続く素材を育てることは地元の使命と思います。原口が出なかったら寝る……などというサポーターの言葉がW杯予選の夜にホーム浦和から出てくるのは、何とも残念な事態ですので。
椛沢:Jリーグのニュースでは、J2のV・ファーレン長崎が経営的問題が起こり、J3降格の危機とも言われていましたが、最終的に筆頭株主で、地元佐世保を拠点にする通販大手のジャパネットたかたが、3年を目処に10億円の融資。さらに株を取得して経営再建にも乗り出すというニュースがありました。地元に資金のある大手企業があり、地元視点でなんとかしたいという想いがあるらしいジャパネットが手を差し伸べたのはラッキーなことだったのかなと思います。ただ今後を考えるとジャパネットの予算だけを頼りに運営していく形では、いけないと思います。一部の企業が支えるだけの形ではいつ何時どうなるかは分からない。ホームタウンとなる人々がクラブを支えたい、応援したいという想いになる存在となれば、支援の体制はより強固になり、クラブを永続的な存在にさせるでしょうし、クラブを応援する盛り上がりも変わってくると思います。これはどのクラブにも課せられた課題でもあると思います。
現在、世界の中でも成功しているドイツ・ブンデスリーガは、その点においてクラブを支えるための構造は参考になるものだと思います。フォルトゥナ・デュッセルドルフの日本デスク瀬田元吾さんが書かれていたコラムは参考になるものだと思いますので、ご紹介させて頂きます。https://sports.yahoo.co.jp/column/detail/201702240004-spnavi
(Jに求めたい「フェライン」のマインド 瀬田元吾、ドイツサッカー解体新書(6)スポナビ)
豊田:瀬田さんは『Jの理念を考える市民の会』主催の講演で初めてお会いし、講演の内容に深い感銘を受けました。折しも3月25日(土)放映のJリーグタイムがJ2特集で、「J2ならクラブとサポーターの距離が近い!」という出演者のコメントが盛んにくり返されていることにちょっと違和感を感じた直後に上記コラムを読ませてもらったのです。「Jクラブが地域密着を目指す上で重要なことは、ビッグネームの選手を連れてきて、ファンを喜ばせることではないと私は考えている。そういったスター選手による一時的な観客数の増加よりも、その地域の方々に、本当の意味で自分のクラブだと思ってもらうことの方が重要だからである」……あたりの記述は、ホーム浦和の皆さんとしっかり共有したい方向性ですね。
椛沢:何も「クラブとサポーターが親しく存在すること」はJ2だけにある姿ではないです。Jリーグが創設以来、「地域密着」を掲げてスタートしたのは、まさに瀬田さんが提言する話であり、リーグが大原則の姿として掲げているものだと思います。レッズもJリーグ開幕時は、浦和のお店や居酒屋など街中に監督や選手が自然と存在していて、「昨日は負けて申し訳なかったけれども、次に頑張るから応援してください」「分かった、次は頑張って。応援するよ」という自然の関係性が出来ていたと聞きます。その時から応援するようになったというサポーターが浦和の街中には数多く存在しています。今のレッズの盛り上がりの根底には、サッカーの街で、レッズの選手が関係性を築いたということがあると思います。規模が大きくなると、その関係がクラブの大小によってなくなってしまうというのであれば、本当に地域に根ざしたクラブ作りは難しいと思います。ビックネームを呼んで世間の注目をサッカーに集めるというのも日本の中では、まだ必要な1つの手法ではあると思いますが、並行してホームタウンの人々が永続的に『自分たちのクラブ』を支援するという存在になる努力をクラブが続けなければ、瀬田さんの言う一過性の盛り上がりしか作れないということになってしまうのだと思います。それぞれのホームタウンにあったクラブカラーで、各地域が盛り上がった時に、Jリーグは文化としてしっかりと根付き、価値あるものとなると思います。