浦和フットボール通信

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「”浦和”を考えさせられた連戦」フットボールトーク Vol.179

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椛沢佑一(本誌編集長)×豊田充穂(コピーライター)

ダービー、鹿島戦の連戦で感じたこと

椛沢:GWには、さいたまダービーの大宮戦と鹿島戦というレッズにとってのビックゲーム連戦がありました。結果は皆さんご存知の通り、共に完封負けでの連敗。「試合内容では・・・」という毎回お決まりの試合後の言葉を聞くにつけ、「結果」を目指すチームと「理想」を追い求めるチームの差を大一番で感じてしまいます。素晴らしい内容で勝利することが最高の結果なのだと思いますが、大一番に対策を練られたチームに屈する展開は未だ続いている状況です。開幕からここまで圧倒的な強さを見せていただけに、逆に歯がゆい連敗となりました。いい加減一皮剥けて欲しいというのが、試合後のゴール裏からのスタンドから発せられたブーイングの反応でもあるのかと思います。

豊田:私は内容でも完敗、と認識しています。スコアから見ても「相手のイメージ通りの絵」を描かせてしまったことは明白ですから。典型的な0-1パターン。この結末は「ポゼッションを高めれば勝利とタイトルは付いてくる」というミシャの理論に照合すれば、次には繋がらない敗戦だと思う。試合スケジュールとか自分たちの理想のサッカーとかに縛られたレッズに対して、相手の大宮はシンプルにホームのダービー戦という大一番に賭けてきた。こういう台詞を口にするのは悲しいのですが……この一戦に関しては、ポゼッションで試合は支配されても、結果だけは譲らないアルディージャの意地が際立ったゲームでした。

椛沢:“ダービー”のような様々なものを背負って戦う時に、クラブ、チームの背景も問われてくるのがフットボールだと思います。残念ながら今のレッズには背景を語れる選手がピッチ上にあまり存在しない弱さがある。2011年のシーズンにアカデミー出身の原口元気選手が倒れ込みながら気迫で決めたゴールなどは背景を感じることができたシーンでした。誰もが首位のレッズが最下位のアルディージャに勝利すると思っていた所での番狂わせはダービーっぽい試合といえば、そうなのかもしれません(苦笑)。さいたまダービーが盛り上がるという意味では、今年も「Jリーグの理念を実現する市民の会」がさいたま市内にダービーを啓蒙するポスター掲出を始めましたが、次はホームでレッズが負けられない一戦になるという意味でより盛り上がる展開になるかもしれません。

豊田:いや、背景というなら、永年ともにJリーグ見続けてきた編集長なら実は「レッズはまたやらかすかも」と内心危惧していたのでは? 圧倒的な浦和有利ムードで迎えた今回でも、けっこう大宮サイドには悲観的ではない雰囲気もあったと聞きます。事実、そのあたりが渋谷監督の起用や布陣にも現れている。レッズを知り尽くしているベテランの金澤慎選手が興梠選手マークで復帰し、決勝点をあげたのは柏レイソル時代から痛い目に遭わされてきた茨田陽生。ダービー要員と思えるほどの経験者がキャスティングされ、しかもプラン通りの結果を出しています。アルディージャの方が、分かっていたのかなあ、と……(苦笑)。

椛沢:有利な状況で挑むチームの方がやりずらいというのはサッカーの定石ではありますね。それに例に漏れず、乗ってしまうのもレッズなので嫌な予感はしていました(苦笑)。今までの話に通ずるものだと思いますが、5月から市内に設置配布がスタートしたフリーマガジン「浦和フットボール通信Vol.67」では、埼玉・浦和の育成を考える号となりました。今号では矢島慎也、山田直輝などの出身である北浦和スポーツサッカー少年団の吉川団長、吉野監督のお二人に登場を頂きました。この街の文化の1つでもあるサッカーの育成は地道に行われていますが、レッズのトップフィールドを頂点としたピラミッドが綺麗にできているかといえば、それはイエスとはいえない状況です。

豊田:お二人のインタビューに備えて2007年時点の取材資料を見返していたのです。そこに北浦和小学校で行われていた少年団の練習試合に、U-16日本代表としてアジアジュニアユース選手権を制したばかりの山田直輝選手が現れたという記述があった……懐かしい思いももちろんありますが、こういう実績や経験を着実に糧にしたいと考えます。前に進めなくてはならない育成の課題を、我々はこの10年間でどのくらいクリアできたのかを検証する意味でも。

椛沢:浦和の子どもたちは、自然とサッカーの街でプレーするプライドを背負ってプレーをしていると思います。2008年に全国優勝を果たしたFC浦和は、まさにそれを感じさせるサッカーを展開してくれていました。その伝統は今もしっかりと受け継がれていると思います。サッカーの街の子どもたちがしっかり育成をされていき、レッズのトップフィールドで活躍した時に色々な問題が解決されるのではないかという期待もあります。

豊田:実際に地元育成の現場に立ち会われている吉野さんと、元FC浦和監督の町田隆治さんのコメントと証言からは、変わらぬ地元の育成マインドが伝わって来ました。本誌はこれからも、このテーマに変わらぬスポットを当てて行きたいと思います。

椛沢:クラブアイデンティティの問題では、鹿島戦で起きた問題も避けることができません。鹿島の選手との小競り合いの中で、森脇選手がレオシルバ選手に差別的行為を行ったという鹿島側の抗議により単なる小競り合いに留まらず、問題が肥大化しています。Jリーグの規律委員会で森脇選手、鹿島の小笠原選手が既にともに聴取を受けたとのことで、この問題の白黒はここではっきりつけられるのかと思います。鹿島戦での敗戦以上にこのような問題が起きたこと自体が残念だという声も多く聞かれます。差別撲滅を掲げて進んでいるクラブで起きた問題だけに、この対処については、皆が注視している内容だと思います。

豊田:スタンドの遠目からですが、現場と経緯は見ていました。まずは、こういうトラブルの舞台が57000人を集めたレッズ戦の埼玉スタジアムであったこと……残念と口にする前に、我々はこの点を深く心に刻まなくてはなりません。私たちのホーム浦和を象徴する場所で起きてしまったことなのですから。そこを踏まえるなら最後まで注視し、見届けるべきは「この一件に対するクラブの対応」ということになります。周辺のサポーターからの声を忠実に再現するなら、「当分は“サッカーの街”なんて封印しなければ」、「あの無観客試合の経験は何だったのか」などの厳しい声が上がっていることを申し添えます。

椛沢:問題をうやむやにすることなくはっきりさせて、皆が心に刻んで考えるということが必要でしょうね。レッズが「速く、激しく、外連味なく」というスローガンを掲げていたことがありましたが、今思うと、あの言葉は浦和レッズの目指すべきサッカーに合致していた言葉だったような気がします。それに照らすと今のチームは何を大事にして何を掲げて戦っているのかが見えづらい。そんなことも今回の問題を引き起こしている1つの要因になっている気がしてなりません。

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