「苦境の前半戦を終えて」フットボールトーク Vol.180
椛沢佑一(本誌編集長)×豊田充穂(コピーライター)
気になった「試合後の選手とスタンド」
椛沢:Jリーグも前半戦が終わり、折り返しを迎えました。レッズはさいたまダービーに敗れてから公式戦8敗。監督の進退問題が噴出する事態になりました。新潟戦、天皇杯・熊本戦に勝利して燃え上がる炎は終息傾向にはあるものの、勝利した2試合を見てもまだまだ油断を許さない状況のように思います。
豊田:先日のトークでもお話したとおり、大宮とのダービーに際し、気持ちはもちろん戦術対応でも躓いたことが痛かった。その過失に対応できないまま、トラブル絡みで鹿島相手に嫌な敗戦を喫したことが尾を引いていると思います。で、こういう緊急時のベンチのリスク管理が、例によってクビをかしげたい動きになる。関根のビッグプレーで広島戦を勝ち抜けた後の大切な川崎戦……あの4バックへの突然の移行は理解不能だったな。プレーしている選手たちも、あの前半戦だけで連戦を乗り切るリズムを失ってしまったように見えました。
椛沢:先日、レッズを取材して頂いている河合貴子さん、轡田哲朗さんと対談をしましたが、今季は攻撃的サッカーを掲げて、よりアグレッシブに闘うことを標榜して始まったスタートとのことで、ある意味、不安定な闘い方になるのを覚悟でやっているわけですよね。それがペトロヴィッチ監督の理想とするサッカーです。点が取れなくなった時は当然苦しくなりますし、勝負時で隙が出ないように出来るか……。この辺りは多くのレッズサポーターがまたか……と思ってしまう部分ではないかと思います。
豊田:「対処療法」としての戦術とサブメンバーが整理されていない件は毎年指摘されることで、もはや明白でしょう。攻撃的サッカーを掲げていても、機能するのは大量得点で大勝する場合のみ。すでにポテンシャルがピークから下落し始めている今季は、頼みのラファエルシルバも興梠も攻める・得点することよりも攻撃パターンありきに縛られ、逆に硬直しているように見えます。
椛沢:苦しみながら勝利した新潟戦、終了後にはサポーター内でも『We are Diamonds』を歌うか歌わないかという所で、騒動が起きていました。1試合勝利しただけでは喜びきれない。次に向かうためにも歌わないというゴール裏の選択肢はストイック路線を追求してきた時代を知る自分としては理解ができます。
豊田:遠目から目視のみですが、合唱を拒んだのはゴール裏中心部ですよね。これは編集長に問いたいのですが、チームとゴール裏との関係にはそもそも指定席組と同じで「予定調和」などは無かったわけでしょう? 自論を言わせてもらうなら、私は勝ちゲームに必ず『We are Diamonds』を歌うというというセレモニーは慣例化する必要はないと考えますが……。
椛沢:もちろんレッズのスタンドに予定調和はありません。応援はほとんど全てその場の空気で判断をする。今まではそれに自然とスタジアム全体が一致できていた空気がありました。昔、清水サポーターがレッズサポーターはあんなに統制が取れていて、どこで練習をしているのか?と言っていたという笑い話がありましたが(笑)。もちろん、新潟戦後は苦しんで勝ったんだから喜び合いたいという気持ちも理解はできます。究極は歌いたい人が歌えば良いし、歌いたくない人は歌わなくていいのでは。スタンドの空気として、そこの合意が出来ていないのは、今のレッズの弱さにも繋がっているのかなとも思います。自分達が勝たせるという思いや、予定調和ではない応援などの空気が少しずつ変わってしまっているのかなと感じる部分があります。
豊田:「試合後の選手とスタンド」という空間は、客席とイレブン双方が積み上げてきた経験の上に醸し出されるものと思っています。個人的には「11.27」の駒場スタジアムのシーンなどは、レッズサポーターにとっての財産と思いますね。あの時は降格の事実も確認できないままタイムアップを聞いたゴール裏のサポたちが呆然自失で声を失った。無理もないんです、声もかれるほど敵地でホームでイレブンを支えてきたのですから。で、その重苦しい沈黙を破ったのが、年配の方たちやファミリー層が中心だったメインスタンド前方から始まった「We are Reds!」のコールだった。ふだんはヤンチャで手に負えない部分もあった若くて強気なゴール裏を、地元の大人たちが中心となったメインスタンドがさりげなくサポートしたあのシーンは、今も鮮明に憶えています。
椛沢:まさにあの11.27のシーンは、URAWAでしたよね。ホイッスルが鳴った後、クルヴァは声を出すことができませんでした。その後、その他のスタンドから「We are Reds!」のコールが拡がっていった。近年では2012年のホーム川崎戦で9人になったレッズを後押しするスタジアム中からの「We are Reds!」の大コールで勝ち点1をもぎ取ったような試合もありました。ゴール裏の発声だけが応援ではなく、スタジアム中がいざという時に一致して闘えるのがURAWAが持っている元々の強さだと思います。今回は「一致」の部分で少し方向性が違ってしまったのかなと思います。さて、本誌「浦和フットボール通信」の最新号も20日に発行をします。今号からシリーズ企画「育成型競合クラブへの夢」をスタートさせまして、第一弾は羽中田昌さんに登場いただきました。お馴染みバルセロナで学び、指導者として活躍されている羽中田さん。古くは韮崎高校のストライカーとして、埼玉が最後に全国制覇した81年度の武南高校と頂点を争ったメンバーであることも、この街の歴史として覚えている方は多いのかもしれません。
豊田:羽中田さんも当日の満員の国立競技場に歩み出たときの感動が、現在まで続くサッカー人生の原点になっているとのことでしたね。多感な少年時代のサッカー経験が、指導者を目ざしてスペインに渡るモチベーションになり、結果的に「ソシオに対する理解」によって結束するFCバルセロナに触れる伏線になったことが良く理解できる話でした。
椛沢:高校時代の原体験がバルサでの体験に繋がったお話は印象的でした。育成についての話だとレッズは常に結果が求められるから、育成をしている余裕などないという意見も聞かれますが、果たしてそうなのかという思いは個人的にあります。Jリーグを見てもガンバは数多くのアカデミー選手がピッチに立っている状況がありますし、現在上位の柏、セレッソ、横浜FMはアカデミーに強化をいれていますし、鹿島、川崎もアカデミーを整備しつつある。その中でアカデミー選手を育てて勝つのが難しいと思うのはどうなのかなと思う所はある。
豊田:つまるところ育成成果という部分も、クラブが積み上げてきた経験値を計るバロメータになってしまうということです。私たちが声援を送ってきた歴代のレッズ監督の指揮下で、育成を充実させる努力は充分だったか? バンディエラを先発メンバー要所に蓄える方策に間違いはなかったか? これらの問題点が正しく把握されていれば、あるいは現在のミシャ・レッズの苦境は違う意味を持っていたかも知れないと考えます。
椛沢:これは、単純に勝ち負けだけではない深く考えさせられる問題ですね。来週には鈴木啓太氏の引退試合も埼玉スタジアムで行われますが、現状で17000枚しかチケットが売れていない状況と聞きます。往年のレジェンドプレイヤー、当時のバンディエイラ、レッズの歴史を築いてきた選手たちが一同に介します。懐かしい雰囲気になるでしょうが、それ以外でも色々と感じて、考えるための会にもなるのかもしれません。