浦和フットボール通信

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「スポーツは日本の元気玉」 さいたま市のスポーツ都市としての可能性を探る。 池田純(さいたまスポーツコミッション会長)ロングインタビュー全文記事

楽しいことを発信することが本当の地域密着に繋がる

UF:5年間でベイスターズを大改革した実体験を基に「地域に根差し、地域のアイコンとなること」という言葉も書籍で残されていますが、スポーツチームが盛り上がる、輝きを放つために必要な第一条件はなんだと考えますか。

池田:単純ですが、“楽しいこと”“楽しいんだということ”。それらをもっともっと創造し、発信し、地域の共感と感動を得ることではないでしょうか?「楽しいところに人が集まる」のが世の常であり、持続力のあるスポーツビジネス成功の秘訣です。とかくJリーグは降格制度があるので、経営者の人たちも勝ち負けの話に偏ってしまう人が多い印象がありますが、極論それは間違っていると思います。勝ち負けは選手や監督が四六時中考えれば良いことで、経営陣は本来は大方の時間を楽しい場所作りや楽しい雰囲気作りを考える時間にあてるべきだと思います。経営者の仕事は競技ではなく、経営なのですから。それでお金を生み出し、チームづくりに還元させていくのが経営の仕事です。そのためにも、いかに地域の多くの生活者と心を通わせるか否かがスポーツビジネスの経営の肝です。

例えばレッズで言えば、埼玉スタジアムはもっともっと楽しくできると思いました。先日、イニエスタが出場しなった神戸戦の時に視察にうかがわせていただいて随所で感じましたが、ピッチの中は神聖かもしれないですが、ビジョンの使い方や音楽の使い方であったり、スタジアムの周辺でも遊べる場所をもっと作ったり、横浜スタジアムと比較しても、もっともっと様々な工夫の余地があるように私にはうつりました。当然勝ち負けも大切ですが、あとは地域を焚きつけるようなことをもっともっとたくさんやる。サッカーファンを超えて、地域の生活者があまねく、それで地域が楽しくなったとか、かっこいいなとか、地域が元気になったと感じるようなことをやり、それを伝えるニュース(新しい挑戦)をたくさん作る。そうすると、地域にもっともっと楽しい雰囲気が出てきて、既存のレッズファンを超えて地域全体に興味関心と応援の空気が生まれはじめて、今までスタジアムに行ったことがない人や、しばらく遠ざかっていた人も見に行ってみようという気になってくれる。勝ち負けなんか関係ないのです。

私自身がベイスターズで社長をやっていた時も当初、球団内は「球場で野球を見せてやる」という上から目線の感覚が強かったのですが、私はそうではなくて球場のコンクリの壁をぶっ壊そうという前提で、外から全部中が見えるぐらい自分達から街に出ていって、自分たちからオープンになっていかないといけないと常々考えてきました。どうやって自らが街の中に出ていって、地域とシンクロさせていくか、そのためには「オープン」「透明」「開く」が大きなキーワード。昔はコンサートでもYouTubeでは一切配信禁止でしたが、今の時代はどんどんSNSで発信してもらい情報を広げていくことが良いとされている。オープンにしていく時代だと思います。

そのためには、自分たち自身がまずオープンなマインドにならないといけない。そのうえで、地域のサッカー文化、ファンの気持ちを司る立場にあるプロスポーツクラブのリーダーがしっかりとビジョンを示して、自分たちのブランドを最大活用して、地域のまちづくりにまでコミットする、サッカーをきっかけに多様な楽しくてかっこいい文化を地域に新たに創り出すんだ!という姿勢が必要なんです。勝ち負け偏重の経営のベクトルに加えて、地域を楽しませる、地域を焚きつける経営のベクトルを加えることが、結果、みんなを幸せにするのです。

UF:当時ベイスターズでは様々な仕掛けが話題になり、その盛り上がりが伝えられていましたが、具体的に教えて頂けますでしょうか。

池田:例えば私がベイスターズでやったことはクラフトビールの文化に参入していって、「ベイスターズラガー」や「ベイスターズエール」を開発して、それらのベイスターズのビールを横浜の街中で宣伝広告して、街中の人が楽しめる横浜のクラフトビールのビジネスのベクトルで地域を楽しませたたり、かっこいいグッズを作るためBEAMS(ビームス)と組んでファッションの分野のベクトルを経営に加えたり、アメリカブルックリンのビースティーボーイズやファレルウィリアムスも出資していたBMXの自転車の会社と提携してベイスターズのかっこいい自転車をつくったり、スタジアムの周りで面白いイベントを行いイベント分野でも、野球ファンを超えて、地域の多くの人々がベイスターズをきっかけに楽しめる文化を多様につくっていきました。

野球の会社なのに色々なことができる。野球の会社なのに、野球の周辺にある仕事ばかりに時間を使っていたわけです。それらが地域の多様な趣味趣向を持つ方々との「接点」になっていくのです。そして、地域の人をもっと楽しませ、地域をもっともっと焚きつけることにつながっていくのです。そうして地域の人とファンの人に評価された結果として収益があがり、それをチームの強化に投資していくことができたわけです。

サッカーの周りにある市民との接点を多く作って、もっと楽しませることをやれば地域が焚きついていくので、サッカーファンだけではない本当の地域密着が始まると思います。日本のプロスポーツチームの多くがまだまだ地域密着という言葉の理解が浅いのはその“競技の普及活動をやることが地域密着”だと思っていること。それは「当たり前のこと」で、そうではなくて、例えば浦和レッズであれば、もっとサッカーの周りにあるもので地域を楽しませられるかどうかだと思います。

そういう事を多様にやっていくともっと「日本一のサッカーの街」になるのではないでしょうか。そして、もっともっと地域密着が進みファンが格段に増えるのです。そうしてもっともっと利益があがり、100億円超えの日本初のサッカークラブなどになって、とんでもない強さも手にしていくことにつながるのかもしれません。そういった、地域をスポーツをきっかけに楽しませる文化がもっともっと広まれば、それがサッカーだけではなくて様々なスポーツで起こってくると、さいたまがもっともっと元気になって、楽しくなって、先進的スポーツ都市に発展していく契機になって良いと思います。

さいたまスポーツシューレ構想

UF:さいたまスポーツシューレ事業共同発表では、浦和レッズ、大宮アルディージャなどの市内のJリーグクラブや埼玉大学、NTTデータなどの教育機関や企業が参画すると発表されました。この事業のイメージとはどのようなものでしょうか?

池田:その発表の際は、私はまだ就任してすぐだったので、具体的なことはあまり分かっていなかったのが正直な所ではあるのですが、もっと戦略的にやらないといけないと思います。補助金を出して色々なイベントを呼ぶというのが旧来からのスタイルですので、何人呼べたとかが効果測定の指標で、あまり収益のことを考えないで良かったと思うのですが、これからは人口減少の時代、税金も減る中で補助金も出せなくなってくることも予測されますので、本来は自分たちできちんと収益をあげる、最低限トントンにできることが大切だと思います。

さいたまには、ホテルもたくさんありますし、飲食店もありますし、スポーツチームもあるのでスポーツをやる施設も各所にある。当初発表していたとおり、そういうものを繋げるネットワーク型で様々なスポーツ大会などを誘致開催する形で良いと思いますが、どういう大会、イベントをやればどういう人が県外から来てくれて、さいたまの経済効果が上がるのかということもマーケティングを軸に考えながらやっていかなければいけない時代に突入していると思います。マーケティングの基本はターゲットです。まずはターゲットをしっかりしていけば形になりはじめていくと思います。

UF:具体的にはどのようなアイディアがありますでしょうか。

池田:私が完全な民間企業思考でやるのであれば全部一気に変えてしまいますがそれをやると公益的なこれまでの流れを一刀両断することになってしまうので出来ませんし、やりません。たとえば、これまでのマーケティングデータの中で発見したのですが、50代から60代のおばさまがどこかよその地域に行くと、家族や近所のためにお土産を買ったり、観光をしたり、お財布の紐が大きくゆるくなる傾向が多いと知りました。そして家族への投資も自分への投資もする。そういう方は健康寿命を伸ばすことに興味関心も高く、色々なスポーツをやる傾向も高いこともわかりました。人とのつながりを老後も保有するためにはコミュニティに参加しなくてはなりません。なにがしかのコミュニティに参加するためにもスポーツ型のコミュニティ参加の加速度がついている時代背景もあります。

色々なスポーツの草大会の全国大会などがさいたまで開催されて、それも主に50代から60代の女性がやっているスポーツの大会を誘致すれば、そういう方が全国から来るようになり、有名なお土産を作ったり全国的に有名にすれば、そのお土産を買ってくれると思います。今はディズニーランドやスカイツリーを見に県外に行ってしまうけれども、もっとさいたまの全国的に有名で、流行で、興味ある美味しいお土産をつくったり発信したり、さいたまのもっと面白い場所を作って発信すれば、さいたまにお金を落として帰ってくれる。何人呼べただけの効果指標ではなく、さいたま経済圏でいくら落としてくれたかの効果指標で、地域も潤いに加速度が生まれる。マーケティングに基づき、ターゲッティング、その先の戦略。そういう大会を戦略的に誘致していくことになればネットワーク型のシューレというものが、これからの時代に持続力のある健全運営と収益で成り立っていくと思います。

「ツール・ド・フランス さいたまクリテリウム」で街を盛り上げるためには?

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