特別企画:ベルリン五輪代表キャプテン・竹内悌三を語る【浦和・埼玉サッカーの記憶】
クラウドファンディングで実現した浦和埼玉のサッカーの歴史を残す書籍「浦和・埼玉サッカーの記憶 110年目の証言と提言」が 浦和フットボール通信SHOP、(須原屋書店浦和本店、コルソ店、武蔵浦和店、松田青果、WAベーグル)にて1500円(税別)にて好評発売中です。このコーナーでは書籍で掲載している内容をご紹介します。
父の「浦高鉢巻」の思い出。照明デザイナー・石井幹子
シベリア鉄道で辿ったベルリンへの道。
UF:石井さんから父上である竹内悌三さん(旧制浦和高校OB)のお話を伺うことは、本誌の永年の目標でした。取材をお受けいただきありがとうございます。
石井:スポーツは大切な文化です。その歴史はどなたかが記録しなければ価値も人々の想いも散逸してしまいます。父を語る機会をいただき、こちらこそ嬉しく思っております。
UF:古い地元ファンの間では、ベルリンの奇跡を起こした日本代表主将が浦和高校出身であったことは伝説です。当然のことですが、現在のサッカーを取りまく状況からは想像もできない世界への挑戦だったようですね。
石井:私の生まれる前のことですから父から聞いた話も断片的ですが、下関から韓国・釜山に渡ってシベリア横断鉄道でベルリンに向かう行程は延々と列車に揺られる大変な旅だったそうです(注:代表チームは6月20日に東京駅発。ベルリン到着は2週間後の7月3日)。当時を知る方たちによれば「代表チームでさえキーパーチャージのルールを知らず、キーパーへの体当たりが反則であることを五輪に出場して初めて知った」とか(笑)。そういう日本のスポーツ黎明期の出来事だったのですね。
UF:この日本対スウェーデン戦のゲーム内容はライターの竹之内響介さんが「ベルリンの奇跡 日本サッカー煌きの一瞬」(東京新聞出版 2015年刊)で詳細に再現され、ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞しています。
石井:父や私、日本と世界のサッカー状況を、当時の国際社会までを背景にして丁寧に綴ってくださりました。サッカージャーナリスト賀川浩さんの監修もいただき、素晴らしい著作を上梓されたと思います。
日本イレブンを牽引した頭脳派ディフェンダー
UF:我々も今回企画で改めて父上のプレーぶりを古い資料から調べたのですが、頭脳派のDFで試合展開の読み、前線への配球に冴えを見せる典型的なリーダー型の選手であったとか。
石井:はい。日本選手団の宿舎入村式の際には旗手を仰せつかっている写真が残っています。
UF:竹内さんを調べる中途で分かったことなのですが、その賀川さんの情報によれば、東京大学サッカー部時代には浦和市立高サッカー部草創期の名将・鈴木駿一郎さんの指導を受けられた時期もあったとか……。
石井:浦和は昔からサッカーが大変盛んだった場所。浦和高校でプレーした父も思い入れがあったようです。父と過ごした生家には鯉を飼う池がありましたが、その庭の手入れをする時に決まって「浦高」と大書きされた水色の手ぬぐいでハチマキをした父が張りきって作業をしていたことを思い出します。
UF:そのハチマキ、おそらく浦高サッカー部のチームカラーの水色と思われます。私たちにとってはなんとも嬉しい逸話です。
石井:あ、そうなのですか。私は「浦和レッズは赤なのに、どうして父の浦和は水色だったのかしら」と不思議だったのです(笑)。
UF:浦和のサッカーが赤で認識されたのは、浦和南をモデルにした「赤き血のイレブン」から。レッズはその経緯も踏まえてクラブカラーを赤としています。
石井:TVで拝見していますが、赤く染まった浦和ホーム戦の応援スタンドは本当に美しいし熱気に溢れていますね。さすがはサッカーの街、理想のホームタウンを体現する雰囲気と思います。
Jの四半世紀を未来へ繋げる。
UF:石井さんは欧米の舞台でも活躍されています。本場のサッカー環境にも数多く接した経験から、誕生から四半世紀を経た日本のプロサッカー界をどのように見ておられますか。
石井:欧米のプロクラブの現場を見るたびに、素晴らしいスポーツの環境づくりに目を奪われます。創設当時のJリーグ理事も務めさせていただきましたが、何よりサッカーの発展に必要な要素はクラブとホームタウンの連携。これからも高い志しを共有して発展していただきたいです。
UF:それは竹内悌三さんの願いでもあるでしょうね。
石井:そう思います。人口減少や休眠地問題も表面化している現在、各ホームタウンがクラブと共に環境を再整備し、自前の選手や指導者を育成してサッカー界を盛り上げていただきたいと思っています。
(2018年8月、都内にて)
Profile
石井幹子 照明デザイナー
MOTOKO ISHII LIGHTING DESIGNER
東京芸術大学美術学部卒業。フィンランド、ドイツの照明設計事務所勤務後、
石井幹子デザイン事務所設立。都市照明から建築照明、ライトパフォーマンスまでと
幅広い光の領域を開拓する照明デザイナー。日本のみならず海外でも活躍。
主な作品は、東京タワー、レインボーブリッジ、函館市や倉敷市の景観照明等。
周年事業の光イベントとして、ベルリン・ブランデンブルク門ライトアップ、
ローマ・コロッセオライトアップ、パリ・エッフェル塔ライトアップ等。
2000年、紫綬褒章受章。国内外で受賞多数。
竹内悌三賞を設立し、母子家庭のサッカー少年少女を支援している。
なぜ浦和はサッカーで盛り上がるのか?「浦和・埼玉サッカーの記憶 110年目の証言と提言」好評発売中
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