浦和フットボール通信

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「レッズ2012月刊ライブディスカッション」Vol.3

レッズ密着取材を続ける河合貴子氏に、本誌・椛沢編集長が浦和レッズの現状や選手達の思いを毎月訊く「レッズ2012月刊ライブディスカッション」。開幕からリーグ戦10試合が経過。ここまで4位につけ、まずまずの結果が出ている、浦和レッズは、現在どのような状況なのか。お話をお訊きしました。(浦和フットボール通信編集部)

椛沢:リーグ戦10試合が終わって5勝2分3敗の4位(14得点11失点)です。ここまでは予想以上の結果が出ていると言って良いのではないでしょうか?

河合:けっして圧倒的な強さで勝ったり、引き分けているわけではないけれども、ミシャのサッカーがすごく浸透してきていることとチーム全体が一丸となって同じ方向をしっかりと向いていることが大きいと思います。前回のライブディスカッションで、まだレッズのサッカーは、つぼみでこれから花が咲くよという話をしましたけど、やっとそのつぼみが膨らんできている最中と思う。

椛沢:つぼみが開くための要素、課題はどこでしょうか?

河合:現状での課題がはっきりしてきている。まずは、ゲームの入り方。嫌な時間に失点をしているよね。ゲームの入り方が悪いので、チーム内でも、まず最初はしっかり行こうぜという話はしていると思うのですが、繰り返している。ただ、連敗をしていないのは大きい。ミシャ監督は「必ず敗戦から学ぶことは大きい」という話をしています。敗戦から学んだことを次のゲームに活かすことが出来なければ意味が無い。次のゲームで活かしていく安定感まではないので、同じことが起きてしまったりしているのではないかな。もうひとつは引いた相手をどう崩すか。もうひとつは自分達が攻めている時に簡単にボールを失って、ショートカウンターのような形で、3バックと、平川選手、梅崎選手のサイドハーフの裏のバイタルエリアを使われてしまう。戻りきれない時にどうするのか。チャレンジして縦パスが入らない時にセカンドが拾えないと苦しくなるけれども、なぜセカンドが拾えないのかということをゲームの流れの中で選手達が考えて修正しながら動けるとミシャサッカーは完成をしていく。そこはまだまだの部分ですね。セットプレイで失点をしてしまうのも課題。ミシャさんは、セットプレイは選手達の集中の部分で、人対人の問題なので、崩されているわけではないから、大きな問題ではないと言っています。

Photo by(C) Kazuyoshi Shimizu

椛沢:ここまでの試合を1試合ずつ振り返ると、アウェイ鹿島戦では先制点を許すも、電光石火の逆転劇で久しぶりの敵地での勝利でした。

河合:気持ち良かったね。鹿島戦は、すごく良い試合でした。ポポとマルシオの幼馴染コンビがやってくれました。ディフェンスラインも安定をしていたと思う。鹿島が前に出てきてくれたということもあるのですが、良い展開で試合を運べました。

椛沢:続く神戸戦では、マルシオが彼の本領発揮といった見事なFKを見せてくれました。マルシオは、ここまで5得点と好調です。好調の要因はなんでしょう?

河合:ようやくマルシオの力をみせてくれた。よくあのFKを決めたなと思う。シーズン始まる前に怪我をして出遅れたのですが、少しずつ調子をあげてきた。この試合で足を踏まれてスパイクが破けてしまって、試合後にスパイクが破けたんだ!足が痛い!と言っていたのが印象的でした。ポポの加入がマルシオにとって大きかったし、陽介がすごく良い形で動けているので、マルシオが活きている。良いリズムの時は、良いコンビネーションが出来ていると思う。

椛沢:ダービーでは、悔しい敗戦を喫しました。大宮の気迫に押されたと言ってもいい内容でした。

河合:大宮はレッズのことをよく研究をしていて、平川の所をどのように抑えるかということが良く出来ていたと思う。そこを狙われていたし、あのサイドハーフの裏を狙われるところをどうするかは、今後の課題ですね。

Photo by (C) Kazuyoshi Shimizu

椛沢:名古屋では、敵地で見事に競り勝ちました。

河合:大宮戦で一騒動があり、それが選手達を発奮させたところもあるのかなと思う。名古屋が出てきてくれたのが一番大きかったかな。前に出てきてくれるチームには点も入れられるし、体も張れる。カウンターの部分で点が取れるのは、後ろからのゲームの組立だったり、この名古屋戦では加藤が起点になったりしている。彼を含めた後ろからの繋ぎということは安定をしてきたと思う。カウンターで決まるのはその要素も大きい。

椛沢:横浜は、先制を許して引かれた相手に対しての攻略という課題がはっきり見えた試合になりました。

河合:そうだね。相手に読まれるような単調な攻めではダメだし、誰かが思いっきりミドルシュートを打つといったことがあっても良かった。マリノス戦のゲームを左右したのは前半8分の槙野のフリーで飛び込んだヘディング。あれが決まっていれば試合展開は全然違っていたと思う。大宮戦もそうだったけれどもCKに怖さがない。それは選手も言っていて、相手がセットプレイを与えたくないと思われるようなものがないと。マリノスは、俊輔が引き気味でボランチの中盤くらいに下がってきてゲームコントロールをしていたのはうまかった。やられましたね。マリノスには勝ちたかったなあ。マリノス戦は前半特に足りなかったのはアイディアで、相手が予測出来ないパスがなかった。もっと工夫のあるパスが欲しかったとミシャさんは言っていました。

椛沢:先ほども話題になった通り、引かれた相手をどう攻略していくかということは課題ですね。

河合:引かれた相手の攻略はセットプレイで点を獲ること。焦らず慌てず攻める。槙野は「サイドを制するものはサッカーを制する」という名言を言っているんだけども、確かにそれはそう。さらにサイドに振ったら逆サイドに大きく展開できるロングパスが出来ると良いんだけど、なかなかそのような展開は難しいですね。

Photo by (C) Kazuyoshi Shimizu

椛沢:練習では、そのようなロングキックを試したりもしているんでしょうか?

河合:ボランチに繋ぎながら、当てて落として逆サイドに出して、3バックが開いてということはやっていますけど、そのあいだに相手が対応をしてスライドをしてくると、また作り直さないといけない。そこを一発で大きく展開することが出来ると、引いた相手を揺さぶることが出来る。あと、練習では引いてボールを貰いに来るふりをして裏に抜けるとか考えながら走るのはミシャサッカーのテーマなので、常に考えながら判断良く走るという部分はしっかり練習をしています。

椛沢:磐田戦は、得点を奪い合って引き分けました。リスタートからファーサイドの選手がフリーになって決められる、同じ形の失点がなかなか改善されません。

河合;これは防げる失点ですね。そこに課題があるのは確か。逆転までしたから、勝ちたかった。左サイドハーフは、宇賀神が出ると思ったら、急遽野田を起用した。磐田戦の監督の「ディフェンスを考えて野田を起用した」というコメントを聞いて、宇賀神と野田のディフェンスに何が違うのか。宇賀神が出場した、この前のナビスコの磐田戦を見て考えました。私なりに考えたのは、攻守の切り替えをするために、野田の足の速さを買ったのではないかと思った。野田と宇賀神では野田の方が足は速いです。相手について行って遅らせることもできるし、先に戻ってコースを消すことも出来る。ナビスコでのミスもあったので、そのリベンジを果たさせることもあったのかな。あとは、宇賀神のディフェンスの際の身体の向きに問題があるということもあります。

椛沢:原口選手が今季初ゴールを決めました。

河合:原口はようやく今季初ゴールで、しかもハタチ最後のゴールでうれしそうでした。名古屋戦で決めたいと言っていたけれども名古屋では決めたい気持ちが強すぎた。磐田戦でのゴールは4人くらいに囲まれた中で、よく打ったなと思った。試合後に彼に聞いたら、「うまく左足でコースで狙えた。ゴールを決める時は特に考えていなくて、感覚で蹴った」と言っていました。横にいた陽介が「打て!」と言ったのが聞こえたそうです。「このゴールが大きな一歩で、これから二歩、三歩進んで行かないといけない。ここまでしんどかったですよ。」と言っていて、自分にかけるプレッシャーが大きいんだなと思った。今季はドリブルで突っ掛けることは減らしてミシャサッカーをやろうとしている姿が見えます。

椛沢:原口はもう少しドリブルで突っ掛けるシーンがあっても良いんじゃないかなと思う部分もあります。

河合:ここからステップアップしていくんじゃないかな。ドリブルで突っ掛けるところと、パスをしっかり繋ぐところの判断をしっかりと出来るようになってくると面白い選手になってくる。

Photo by(C)Kazuyoshi Shimizu

椛沢:直輝も退院をしたそうですね。

河合:直輝は「待っていて下さい」と言っていました。彼はすごい勉強家で、ちゃんと練習を外に出てきて見ている。見ると蹴りたくなる思いもあるけれども、それを上回るサッカーを見ていても面白いという探究心がある。彼は本当にサッカーが好きなんだなと思う。

椛沢:直輝は、生粋の浦和のサッカー小僧なんですね。さて、ここまで10試合を終えての印象は?

河合:ここまでの10試合をみてチームがやろうとしていることが分かった。皆も見えている方向がわかってきた。そして課題も見えてきた。あとは激しいポジション争いをして、戦力にも厚みが出てくることを期待したい。夏場は、ミシャサッカーには厳しいと思う。これからの季節は色々な選手が絡んでこないと厳しくなると思うよ。

椛沢:スタメン選手以外の台頭が欲しいですね。セレッソ戦では、スタメン以外の選手の差というものが、まだ大きくあるということを感じてしまいました。

河合:それはある。夏場を乗り切るためには、色々なところでポジション争いが激しくなってこなければいけないと思う。ボランチでは、秀仁は台頭を見せているし、水輝もボランチで使える。トップは、まだ固定されていない。セルヒオも全然試合に絡んでいない。水戸のトレーニングマッチでは結果を出して、水戸の柱谷監督が「浦和が使わないんだったら、ぜひオレに預けてくれ」と言うくらい惚れ込んでいました。今のレッズでは、ドリブルで持ち込むだけではダメで、組織で動く部分の人の使い方をもっとミシャさんは求めている。セルヒオの身体の強さという良いところプラスチームサッカーが加わっていけば、もっと良い選手になる。私は苦しい時にセルが戦力となってくれることを期待しています。ミシャさんも夏場の話で、「いつでも選手を起用する準備はしてきたと。我々はもう少し伸びてきて欲しい選手がいるが、試合のスタートから使える選手に伸ばしていかないといけないと。トレーニングから意欲を持ってやって欲しい。ひとつのポジション以外では、大きなポジションで変わって出来てきている」とコメントしています。その、ひとつのポジションは、私はディフェンスラインだと思っている。若手で、このポジションを埋められる選手が現状はいない。ここに本当だったらスピラが加わってこないといけない。右のストッパを練習試合でやっていたけれども悪くはなかったです。

椛沢:この部分は、これからの夏場、シーズン終盤、先を見据えた上での課題になってきますね。

河合:ナビスコカップは忘れたものを取りに行かないといけないし、ここで普段スタメンで使われない選手がどのようなパフォーマンスを見せるか。今後を見据えた課題を考えても、その部分をしっかりと見ていきたい所ですね。あと鳥栖戦では引いた相手に対してどうやるかということを見られる相手になると思う。そのような楽しみ方もあります。

椛沢:ここまでの試合で、ミシャの目指すサッカーが、どのくらい表現されているのでしょうか。

河合:開花宣言まではいかないね(笑)。目指すべき道がはっきりしてきて、課題もはっきりしてきた。その課題をどう修正をしていくか、これに尽きる。チームに伸び代がまだあるから、ここからだなと思う。すごく手応えを感じられています。

椛沢:改めてミシャが目指しているサッカーはどのようなものか。練習をみて、現在はどのような段階に来ているのでしょうか。

河合:練習では、スモールフィールドの練習をずっとやっていて、その中で2タッチでやろうとか。対戦相手にあわせて、Bチームを数的有利な状況を作ったり、システムを変えたりをして、練習をしていてすごく分かりやすい。次の相手の分析をして、その中で自分達のサッカーをどうやっていくかということを合理的に考えてやっていると思う。そのあとは、スモールフィールドをフルコートになった時にどこで作るか。押し込まれたら、しっかりと下がって、ビルドアップをするとか。押し込んだ時は、ラインを上げて、セカンドもしっかり奪って押し込むとか。その判断も必要になってくる。どこまで完成しているのかを説明するのは難しい。それは、やろうとしていることが90分を通して、どのくらい表現できているかということが、判断するところなのかな。ミシャさんのサッカーは、全員攻撃で、全員守備。パスを繋いで、相手を揺さぶって崩す。セットプレイで点を獲るのは邪道ですよと言うくらいのサッカーをミシャは考えている。相手を崩して点を獲るのは気持ちいいですからね。

椛沢:それは理想ですが、逆にリスタートでしっかりゴールを決められていることで、勝ち点を積み上げているということもあります。結果が出ていなければ、同じことをしていても違う評価をされてしまうでしょうから、そこは重要な部分ですね。

河合:プロだから結果を求められる。ミシャさんも勝つためのサッカーをやってくれています。

椛沢:試合の後の練習で、しっかりと修正は行えているのでしょうか。

河合:ミーティングではしっかりとしていると思う。練習中でも動きに問題があると止めてミシャさんが細かく説明をしている。クオリティは高く求めている。今のパスの選択肢はどうだったか、違う選択肢の場合はどうだったかとか。良いチャレンジをした時はすごく誉める。チャレンジをしない時は怒りますね。

椛沢:昨季を考えてもチームは好転している。ミシャにおける影響力をどのくらい感じるか。クラブの変化した部分はどこでしょうか。

河合:私はミシャさんの影響力は大きいと思う。彼を連れてきたのはクラブですから、そういう意味ではクラブも変わろうとしているんだと思う。ミシャさんからは人間愛を感じる。選手ひとりひとりを大事にしている。接し方からしてもそれを感じる。直輝が退院をして初めて練習を見てメディアに囲まれた時に、ミシャさんがやってきて、からかいながら「直輝、私の足より君の足の方がよっぽど良いよ」と冗談を言ってみたりする。あと、私が感服する姿勢は、敗戦した後に「全て私の責任だと。ファン・サポーターに悲しい思いをさせて申し訳ない」と心から言ってくれる。だからこの人のためについていこうと思える。だからこその一体感もありますね。磐田戦では、宇賀神はスタメンかと思ったら、野田になった。当日に野田も言われたらしいんだけど、宇賀神からするとショックを受けていたと思うし、監督会見を見て、守備の部分で出られなかったのかと思ったと言っていたけれども、彼はそれで終わらずに監督に聞いて、具体的にどこか足りなくて、どうすれば良いのかを考えれば、自分のステップアップになって良い選手になると思う。そのように各々が明確な課題をもって取り組んでいる。それはミシャさんのマジックなのかもしれない。ボールも動かして、人も動かして、心も動かしている。心が動かなければ、人は動かないですからね。心を動かして、サッカーを楽しませてくれる何かを提供しようとしてくれている。サポーターも心を動かされ始めているんじゃないかな。一気にチームは変わらないけれども、この過程を楽しんで欲しい。同じ方向に向かっていって欲しいと思います。

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