浦和フットボール通信

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大住良之ロングインタビュー(2) 「URAWAは、いまあるレッズを創った努力を思い起こすべき」

元サッカーマガジン編集長で、サッカー黎明期から長くフットボールを見続けてきたサッカージャーナリスト大住良之氏。言わずと知れたサッカージャーナリスト界の重鎮で、浦和レッズについてもオフィシャルイヤーブックの監修に創刊から立ち会われるなど、愛情深くJ開幕からレッズを見続けてきている。氏に今季の浦和レッズについての期待。理想のクラブ像に近づく方策などを訊いた。(浦和フットボール通信編集部)

Jリーグをいかに魅力的なリーグにするか

UF:大住さんは海外のクラブも数多く見てきて、優秀なクラブの現状も把握しているかと思います。優秀なクラブとは、ご自身ではどんなクラブと考えますか。

大住:面白いと思ったのは、ポルトガルのポルト。クラブ財政が破綻した状態で、今の会長が就任。4万人収容の陸上競技場だったホームスタジアムを7メートル掘り下げ、トラックをなくし、そこにスタンドを作りました。収容人数を2万人アップしたサッカー専用の本拠地ができあがり、サッカーも見やすくなった。その後はカジノを作って財源を拡大し、補強にも成功したのです。要はクラブ経営を安定させるのが一番のテーマで、それによってしっかりとしたクラブを完成させたということです。ライバルである、ベンフィカのような派手な選手は獲れないけれども、地味でもしっかりした選手を獲得をして安定軌道を確保していますね。

UF:なるほど

大住:クラブ経営は安定をさせなければいけないことは事実。しかしだからといって経費を切ることで黒字を出すという路線に走るのは安直です。例えば、この部門の予算は戦うプロ組織として削ってはいけない。だからみんなで稼がないといけないから、スポンサーを見つけるとか、新しい収入の道を模索しないといけないという考えの下で動くべきなんです。そのためのアイディアが泉のように湧く感性を持たなくては。それこそがクラブ運営を担うスタッフというものなのですから。チームが変わることなく強豪であることは難しい。強くなる時もあれば、弱くなる時もあるのです。けれどチーム運営のアイディアなら無限にあるはずでしょう? 現在のJクラブを見ていると、アイディアを出しきっているようには見えない。ルーティンワークをノルマのようにこなしているだけでは、クラブのスタッフをやっている意味はありません。毎日毎日新しいことを考えて、仕掛ける。やってみたらすごい失敗をしたとか、笑われるくらいのことをしないといけないのです。

UF:観るサイドやホームタウンのファンを見てもフットボール支持者がマニアック化している印象があります。好きな人は好きだけれども、興味が無い人との二極化が進んでいるのでは?

大住:J全体から言うと、リーグ全体が好きな人なんてほとんどいないでしょう。各チームが好きな人を集めれば、何百万人といるかもしれないけれど。それが一番の問題と思います。Jリーグの方向としては、Jリーグは地方文化であって、それぞれのクラブが地方の文化に貢献をして喜ばれればOK。それが重要テーマろして強調されてきたけれども、それによってJ自体が興味を持たれないというジレンマに陥った。そこにはリーグ自身も無関心だったわけです。たとえば2006年時点でJ1はゲーム平均1万9000人くらいの入場者数がありました。鬼武チェアマンが就任した時に何か問題を感じているかと聞いたら、今は上手く行っていると言われるのね。そこで私は異を唱えたわけです。誰がJリーグに興味を持っているのかと……。ブンデスリーガは、ドイツでワールドカップがあり、テレビ放映権で550億円の契約をしていたけれども、新たなペイチャンネルが850億円を用意するという話をもってきたらしい。しかし契約条件に「ダイジェスト番組をやるのは、試合が終わった後の夜10時以降」という事項が含まれていたそうです。当時は夕方くらいから2時間くらいのブンデスリーガのダイジェスト番組が始まって、良い大人が全試合について熱い議論をする。その番組がめちゃくちゃ人気があって、ドイツのオジサンたちは、スタジアムで応援をした後、家に帰ってきて、その番組を見てビールを飲むのが生活スタイルだったのです。つまりペイチャンネル局の条件はその慣習を潰してしまう内容だった。ブンデスリーガは結論として放映権の切りかえを見送りました。「文化はお金では代えがたい」という認識を示したわけです。それだけ、ブンデスリーガというもの自体にみんなが関心を持っているということなんですよ。それに比べてJリーグは?と申し上げたら、チェアマンもそれは問題だという話になり、イレブンミリオンというものをはじめたわけです。

UF:反面、日本代表は世間的な注目があり、Jリーグとは別の所での盛り上がりを感じる部分もあります。

大住:その意味での、もうひとつ問題はヨーロッパサッカーの存在。ヨーロッパサッカーが日本に入り込んできて、若い人はヨーロッパサッカーにしか関心がない。「Jリーグはださい。ヨーロッパに比べると遅いし、全然違う」なんて言っている(苦笑)。それによって何が起こるかというと、Jリーグのマーケットがヨーロッパに吸い上げられる現象が起こるわけです。それはヨーロッパの世界戦略ともいうべき成果なんです。ある種、帝国主義的な侵略なのね。日本だけではなく中国も東南アジアも世界中でお金を吸い上げて、それによって何百億円という収入を得てさらに世界中のスーパースターを獲得。クラブのブランド力アップを目ざすという情況。そこに拍車がかかっているわけです。このままでは、日本のプロサッカーの市場は荒らされていく一方でしょう。

UF:マンチェスターユナイテッドがアジアツアーの中で、マリノスと対戦をすることが発表されて、自由席でも7000、8000円するということが話題になっています。

大住:それでも売れてしまうよ。ヨーロッパサッカーしか見ていない人が来るから。でも、彼らはサッカーの見方を知らないね。テレビで独りじっと見ている感覚でスタジアムに来るんです。日本におけるヨーロッパサッカーは現状ではバーチャルなもの。実際にスタジアムに行って見る試合の方がずっと楽しいのに。スタジアムでサッカーを生で見たり感じたりすることの意味を彼らは知ろうともしないし、知りたくもないんだと思いますね。そのような現状が、浦和レッズや水戸ホーリホックが好きな人がいてもJリーグに興味が有る人はほとんどいないという現象を増幅させていると思います。よってJリーグの放映権料も上がらない。悩ましい傾向と思いますよ。

UF:ヨーロッパサッカーとの大きな違いは、Jリーグは身近な存在であって、我々のものという認識が持てることがひとつの魅力だと思います。その上でもクラブは地域に根ざした活動を通じて、身近な存在になることが重要なことなのだろうと思うのですが。

レッズがクラブの理想形を常に目指す存在であって欲しい

大住:レッズも小学生を招待するとか、社会科見学の中にレッズの練習見学があっても良いよね。練習場で、選手たちは何をやっているんですか?と質問をしてもらっても良いし、実際にスタジアムに来てもらって試合を見てもらってすごいな、楽しいなという体験をしてもらえれば変化も起きてくるのでは? 確かに、レッズの試合に行くと、年配の方ばかりで、Jリーグが開幕した時から応援をしている人が多いのではと感じます。もっと中学生とか小学生とか、サッカーをやっている子だけではない子どもたちに身近な存在になってもらって、試合をやるなら勝って欲しいなと思うくらいの存在になって欲しいです。

Photo by(C)Kazuyoshi Shimizu

UF:サッカー少年団の父兄の意識としても、サッカーはやるものだという意識の人たちとしては、Jリーグの試合と自分たちのサッカーと時間が重なっているし、今日はレッズは勝ったの?くらいの意識というコメントも聞きます。

大住:Jリーグが始まる時に大枚をはたいてファン調査をし、試合時間は何時が相応しいかを模索した。それは土曜日の18時半という結論になったわけです。土曜日の昼間は部活などサッカーを実際にやっている時間で、夜は遅くしたくないということで、土曜日の18時半だったら見に来てくれるという調査結果です。テレビ局サイドは難色を示したけれど、チェアマンだった川淵さんは「テレビは二の次でスタジアムに来てもらうことが大事」と18時半スタートで押し切った。ところがある時期からその決定がどんどん崩れて、時間が変わって行きました。結果、テレビ放映をやったけど客も減って行くという循環に陥っているのです。一回、原点こ戻るべきと思うな。私自身も18時半にやってもらいたい。自分が指導をしている女子チームの練習が土曜日に必ずあって、その時間のキックオフなら練習に行った後に試合に行けるからね(笑)。

UF:サッカーをやっているファミリーの人とJリーグの時間は合っていない現状があると思います。ベストは昼間に練習をしたら、その後スタジアムにみんなで行くという流れですよね。Jリーグも1993年に始まり、20周年ということで、クラブとホームタウンの理想像を再検証する時期に来ているはず。ホームタウンのファンが、どう自分たちのクラブだと思えるようにするかを追求するべきなのでは?

大住:伝統としてみんながそういうものだと思える蓄積があり、次に来た人もそれを受け継ぐ。要はクラブの伝統を受け継ぐということが必要だと思うけれども、現状ではそれを感じることが以前よりも希薄になりました。ある時期からクラブスタッフは、ただのサラリーマンになってしまったように感じます。新しいアイディアを出すこともなく、クラブの伝統はこうだと思うこともなく、仕事を淡々とやっているところもあるのでは? 浦和レッズが浦和レッズであり得たのは、クラブがどうあるべきかを常に考えて動いているスタッフが存在していたからだと思う。サッカークラブは、車などのモノを作っているわけではなく人との関係を作っているのです。キーとなるのは「人」。クラブスタッフが言われたことだけをやっていて、自分の考えも理念も持たずにやっていたら、クラブ周辺やホームタウンの熱も冷めて行ってしまいかねません。

UF:昔に比べるとクラブスタッフの顔が見えず、街に出て交流する機会がなくなっているという現状がありました。本誌も「URAWAタウンミーティング」を参加型のイベント形式で開催して、実際にクラブスタッフとファン・サポーター、街の人と膝を付けあわせて話をする会を設定して活動を行なってきました。

大住:そういう交流の中で得たヒントを大切にして欲しいと思います。たとえば地域の子どもたちが楽しめる場を提供したいなら、キッズスペースのような場を大きく作って、そこでは赤い身に付けるものをプレゼントして「応援してね」と伝える。さらにキッズサポートタイムがあって、その子たちだけに応援をさせる時間を作るとかね。色々なアイディアはあると思うんです。それで失敗することもあると思うけれども、もっともっと仕掛けていくべきでしょう。仕事が、ルーティンワーク化していることが多いのではないか。それぞれのスタッフが「自分たちで創りだす」という意識を持たないとだめ。クラブの構成員はクリエイティブでなければいけないんです。Jリーグの中では、川崎フロンターレあたりは、様々なことをチャレンジしている様子があるな。等々力は昔の駒場に通じる空気を感じます。あそこはお祭りのような雰囲気があったけれども、埼スタは大きすぎてそのような雰囲気が作りづらいのかな。

UF:大住さんが考える理想のクラブはどのようなものでしょうか。

大住:サッカークラブのスタッフには色々な仕事があります。でも、各事業に精通した人材をそこに配置してアシスタントの一人もいれば、部署は完成するはずですよ。色々な仕事をやらなければいけなかったら、地元にアウトソーシングすれば良いわけです。そうすればスタッフは20人もいれば回ってしまう。少し前のヨーロッパのクラブは有名なクラブでも10名くらいでやっていた。今は事業が拡大して、人数が増えたけれども、原型は10人から20人いればOKだったわけです。サッカークラブの仕事は面白いもののはずなんです。だからこそ、自分が常に新しいことを考えて、成果を出して周りを触発されるような活力を組織内に作らなければいけない。浦和に深くかかわってきた身としては、いうまでもなくレッズがそういうクラブ理想形を目ざす先端にあって欲しいですよ。

(2013年2月 都内にて)

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