「全北vs浦和。白熱の攻防を追う」ACL全北現代戦、韓国遠征レポート
2007年以来の全州ワールドカップスタジアムでの対戦となった全北現代戦。ホームで1-3と逆転負けを喫して、リベンジを誓ったアウェーゲーム戦。敵地でもロスタイムで追いつかれて2-2のドローで終わった。現地まで馳せ参じたサポーター、戦ったチームで共有した思いは、悔しさ、そしてこのままでは終われないという気持ちだと思う。残りホームでの広州戦、アウェーでのムアントン戦を残す戦いとなったが、2戦必勝の気持ちでアジアを闘いぬきたい。ホーム広州戦は、一人でも多くのサポーターが埼スタに駆けつけて、スタンドを赤く圧倒的なホームを作り出してレッズを最大限サポートしよう。今回は、この韓国でのアウェー戦をゴール裏に参戦した椛沢と、メディアとして取材した豊田により、詳細レポートする。(浦和フットボール通信編集部)
ライバル韓国を相手にリベンジを誓っての遠征
椛沢:中国・広州に続くアジアアウェーの舞台は、全州市をホームタウンとする全北現代でした。全北現代とは2007年にも対戦をして、この時は2000人以上のレッズサポーターが敵地を埋めて、2-0の快勝。レッズサポーターのサポートを含めて、韓国全土に大きなインパクトを残した試合でした。また今大会もホームゲームを前節に行い、1-3と逆転負けを許して悔しい結果となっている。このリベンジを果たそうと意気込んだ韓国への遠征です。浦和レッズをサポートするために、アジアに遠征をする時はいつも興奮をします。アジアにURAWAを轟かせようという気概を持ちますし、フットボールがワールドワイドであることも実感できます。
豊田:全州はACLアウェー戦の緒戦となったシドニーとともにレッズサポーターの記憶に刻まれる地となりました。ホーム浦和においては他のスポーツをさしおいてもサッカー観戦時間が突出して長い。ゆえに日韓戦としての全北戦は多くの世代の地元ファンの耳目を集めるのだと思います。
日韓のクラブ対決を追うカメラの砲列。当夜の全州は凍える冷え込みだったが、取材陣も気迫で熱戦のシャッターチャンスを待った。
椛沢:今回のツアーは2泊3日の工程で、試合の前日にソウル入りをしました。成田空港から仁川空港まで2時間半フライト。ソウルで一泊をしてから全州のスタジアムに向かい、試合後にすぐにソウルに戻り、翌日の午前便で岐路に着くというプランでした。初日は12時過ぎに成田を飛び立って15時には仁川空港に着陸しましたが、その後のイミグレーションでは1時間以上の時間がかかり、ツアーのオプションに入っているDUTYFREEにより、ホテルについたのは20時でした。ヘトヘトになりながらも、韓国といえば、焼肉だろうということで、ホテルにチェックインするや否や、焼肉屋に直行をしました。カルビ、タン、そのお店の名物だというホルモンなどに舌鼓を打ちました。非常に美味しい食事が出来た試合前の前夜祭になりましたが、会計を見てびっくり。少々考えていたよりも高い金額を提示されてしまいましたね(苦笑)。
豊田:まあ、サポーターが感じたアベノミクス効果の裏面でしょうか。私が感じたのは、まだ日本の統治時代に由来する“議事堂桜”も開かない彼の地の寒さ。そして対照的に咲き誇っていたレンギョウの色彩。加えてやはり時勢を引き継いだ韓国情勢です。仁州からのエアポートバスが走る高速道路では、レッズのレプリカ姿のガイド嬢が引き潮の海岸線に続く山向こうは北朝鮮であり、偶発的な衝突は見わたせる島々で少なからず起こるというエピソードを淡々と話す。これが印象的でしたね。こういう空気感のもとで、サッカーというコンテンツは韓国民衆にどのように捕らえられているのだろうという思いがこみ上げた。
震災を揶揄するメッセージで物議をかもした全州・ホーム応援席。キックオフ前とはいえ、ACLでこの雰囲気……。
椛沢:試合当日は13時にホテルからバスで出発をしてスタジアムに向かうということで、午前中はフリー行動となりました。私は“韓国の渋谷”といわれる明洞に地下鉄を使って向かいました。韓国の地下鉄は、交通カードというものを買って乗車をします。販売機は日本語表記のサービスもあるので、比較的簡単に購入をすることができます。ホテルのある梨泰院から明洞は、乗換えをして行くわけですが、30分弱の距離を200円程度で移動をすることができました。明洞は若者の街という雰囲気で、ファストファッションのブランドなどのお店が軒を連ねており、平日に関わらず若者が多く見受けることができました。現在の日本との情勢や、北朝鮮ミサイル問題で揺れている時期ですが、特に街中ではそのような物々しさは感じませんでした。明洞では日本語が堪能で「ニセモノのバックがあるよ」と話しかけてきた、おじさんを捕まえて、美味しいお店を教えてもらい、『長寿カルビ』というお店に入りました。昨晩のお店とは打って変わってご飯付きで10,000ウォン(約1000円)で食べることができました。特製のタレにつけられたカルビが、牛型の鉄板の乗せられた定食でした。40年以上の歴史のあるお店だそうで、美味しく頂きました。
いざ、敵地の全州へバスで乗り込む
椛沢:13時にホテルの集合をして、ツアーのチャーターバスは全州市にある全州ワールドカップスタジアムに向かいました。途中サービスエリアに立ち寄り、バスに揺られること3時間強、インターを降りるとすぐワールドカップスタジアムが見えてきます。スタジアムに到着をすると、17時の開門にあわせて、既に多くのレッズサポーターが長い列を作っていました。レッズサポーターは2007年には及びませんが、バス10台以上で、500人以上のサポーターが敵地に駆けつけました。
全州スタジアムは2007以来の再訪。強い日差しがあった前回・9月末のトーナメントラウンドとは一変した寒風の中で、レッズ援軍は開門を待った。
椛沢:選手バスもスタジアムに到着をして、レッズサポーターが「浦和レッズ」コールで選手を迎え入れます。開門時間と同時に列の先頭が入りましたが、その後トラブルが発生をしました。レッズサポーターが2階席に張った幕を撤去しなければ、外にいるサポーターを中に入れないという駆け引きを相手クラブがしてきたようで、開門から1時間以上、入場がストップすることになります。結局サポーターが幕を取り外し、入場が再開されますが、今度はチケットのバーコードを読み取る際に再入場になったサポーターがいると入場が再度ストップします。スタジアムでは、練習に登場したレッズの選手に対して「浦和レッズ」コールが起きて、外にいるサポーターからは「どうなっているんだ!早く開けろ!」と、罵声が飛び交う事態となりました。浦和レッズ運営スタッフも中に入り、字滝は収束して、そのまま入場をさせることになり、キックオフまでには全てのサポーターが入場をしましたが、これも、少しでもレッズサポーターの一体感を削ぐという、ひとつの駆け引きなのではないかと勘ぐりたくなる相手クラブの運営の不手際さでした。このような対応を受けて、逆に、多くのサポーターが今日の試合は絶対に勝つという反骨精神が芽生えたのではないかと思います。
豊田:私はプレス受付に向かったものの、例によって韓国では英語アプローチは絶望的。クラブ広報の方々に機動力でカバーして入場し、早々に反対サイドから入場する全北ファンの表情を見ることができました。明確にレッズに敵対視する意図はアップした。ことごとく振り向いて声を上げるなど、赤のレプリカに対する反応は鮮明でした。
キックオフ直後から圧倒して2点を先制するも……
因縁の敵地に再来したレッズサポーター、第一声のタイミングを計る。
椛沢:全州ワールドカップスタジアムはサッカー専用スタジアムなので、ゴール裏からピッチまでの距離は非常に近く、GK加藤順大の息遣いが聞こえるほどの距離です。選手入場にあわせて、ゴール裏のサポーターからは『赤き血のイレブン』が発せられます。「世界に見せつけろ、俺たちの誇り」。まさにこの歌にある思いをこめて選手を迎え入れます。また、赤に白いのハートの12が縫い付けられた『デカ旗』を浦和から持ち込み、ゴール裏に翻しました。前大会に比べて、発炎筒などのアイテムの使用は厳しく規制をされることになり、2007年にはお互いのゴール裏から燃え上がっていた発炎筒の姿はありませんでした。レッズサポーターは、その代わりとして、キックオフと同時に紙ふぶきを行い、試合が始まりました。
豊田:太鼓を中心に気合いはじゅうぶんだった。頼もしかったですね。ピッチサイドにいると、音響に合わせて選手のアップが上がって行くのが分かるんです。間近に編集長以下のゴール裏にカメラを向けましたが、水しぶきを投げかけられる洗礼もちゃんと受けましたよ。
椛沢:韓国アウェーでヒートアップをする中での出来事でしたね(苦笑)。先週の試合と同じく前半はレッズのサッカーがはまり、ボールが繋がり、全北現代を押し込みます。そして開始早々の3分に那須がセットプレイからヘディングで先制点を決めると、立て続けに7分に追加点。左サイドから攻撃が繋がると、逆サイドの宇賀神がシュートを放ち、GKが弾いた所を、梅崎司が詰めてゴールを決めて2-0としました。
豊田:真正面から高速で飛び込んでくる那須を、全州守備網は全く捕らえられていなかった。公式戦初ゴールですよね。追加点を生んだ宇賀神のシュートパターンから梅崎が詰める連携も磨きをかけて来たスタイル。大舞台でよくぞ表現したと思います。
梅崎の強烈なグラウンダーが決まってレッズ2点目。序盤の連続弾は、URAWAを待ち受けていた全州ゴール裏を沈黙させた。
椛沢:ゴール裏もイケイケの雰囲気になりましたが、2点入ったところで落ち着いてしまったところもあるかもしれません。ピッチ上もそのような所があったのか、徐々に全北現代にリズムを作られると、セットプレイを中心に苦しい展開が続きました。それでもなんとか相手の攻撃を凌いで、ハーフタイムに入りました。
この悔しさをバネに残り2戦必勝の思いを強くする
椛沢:後半に入る前にはコールリーダーから「俺たちの声で相手を跳ね返すぞ」という声があがり、ボルテージを上げて挑みました。しかし後半に入っても全北現代の流れは変わらず、強烈な圧力をかけてレッズにプレッシャーをかけ続けます。ゴール裏からもなんとか落ち着かせようという声はあがりましたが、なかなかレッズはその圧力に対していなすことが出来ず、相手の攻撃に対して跳ね返すのが精一杯な状況が続きます。後半5分にエニーニョにループシュートを決められて1点差。その後もプレッシャーを強める全北現代に対してレッズはパスを繋ぐことが出来ずに、押し込まれる展開が続きます。場内の時計を見ても、まだ20分しか経過していない……。苦しい時間が続き、時間が経つのが非常に長かった。審判のレフェリングも相手寄りになり、ちょっとしたチャージでファールになるために、リズムが全く作れず、相手の脅威となっていた、セットプレイでピンチを幾度も作られてしまいました。
豊田:何よりボールが収まらなくなった。出足を加速させてパスカットし、エリア近辺まで押してファールをもらいに来る全北の狙いは明白でした。FKの連続になって、そこからエニーニョ、イン・スンギらにミドルレンジから打たれる形勢が固まってしまったと思います。
椛沢:レッズも阿部、興梠が裏に抜け出してビックチャンスを迎えましたが、そこで決めきれなかったことも最終的な結果を良くないものにしてしまったかもしれません。
80分、交代投入のマルシオ(中央10番)が残したボールを後方から上がった阿部がスライディングで狙うが、きわどくポスト右へ。死力を尽くしたレッズの攻めは後半も生きていたのだが……。
豊田:交代カードとしては柏木に変わったマルシオが意地を見せてくれました。サイドチェンジで揺さぶられる展開が増える状況下で、槙野や那須の守備力でしのいでマルシオに当ててセカンドボールを拾う時間帯を作った。興梠の逸機は右サイドのスローインから鈴木啓太の縦パスが入り、マルシオとのヒールキックのワンツーで抜け出したものでしたが……。完全に全北DFの裏を掻き、GKと向かい合った場面だっただけにキメたかったなあ。
椛沢:虎の子の一点を守りきろうと、ゴール裏のサポーターからはお馴染みの『PRIDE OF URAWA』が力強く発せられますが、その思いも空しくロスタイムに同点ゴールを決められて、2-2のドローで終了のホイッスル。ゴール裏は静まり返り、各々奥歯に噛み締めますが、選手たちが挨拶に来ると、「まだ終わってないぞ!ここからだ!」などの声がかかり、選手たちも力強い目つきで、頷き応える姿を数多く見受けられました。
原口の突破から生まれたチャンスを渾身のキックで狙うマルシオ。柏木に変わって投入された背番号10は、苦しい終盤で存在感を示した。
豊田:同点場面までの相手攻勢は、イ・ドングを狙って放り込むワンパターン。そうと分かっていても彼にフィードが入った時点で全北はペナルティエリア内に8人がなだれ込む総力体勢だった。で、あの混戦の中でもラストパスは戻りソサンミンはシュートコースを通して来る。韓国お家芸のロスタイム手法だったというしかありません。
椛沢:タイムアップ後、“浦和はこのままで終われない”という思いはピッチもスタンドも共有したのではないかと思います。残り2戦必勝を強く思い、浦和レッズ総力戦で、このアジアの闘いを闘い抜きたいと思います。特に次のホーム埼スタでの広州恒大戦では、一人でも多くのサポーターにスタジアムに駆けつけてもらい、スタンドを赤く圧倒的なホームでレッズをサポートしましょう。アジアを勝ち抜くためには、もっともっと盛り上げていかなければなりません。広州にはアウェーで0-3と負けているので、その借りを返すくらいのスコアでの勝利を目指しましょう。「世界に見せつけろ!俺たちの誇り!」