浦和フットボール通信

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浦和レッズ2011シーズンを振り返る 河合貴子(前編)(12/16)

ゼリコ・ペトロヴィッチを招聘した今季は、クラブが掲げた優勝という目標とは程遠い15位に終わった。一時期は降格圏内に沈み、残留争いを演じることとなるが、なんとか残留を決めてシーズンを終えた。長くレッズの取材を続ける“タカねえ”には今季がどのように映ったのか今シーズンの振り返りを訊いた。

Photo by (C) Kazuyoshi Shimizu

【なぜペトロヴィッチ新体制はうまく行かなかったのか】

UF:今シーズンはクラブが優勝を掲げてゼリコ・ペトロヴィッチを迎えてのシーズンとなりましたが、結果は降格争いに巻き込まれて、なんとか最後に残留を決めましたが15位という厳しい成績が残ったシーズンでした。

河合:今シーズン振り返ってみて、ベストゲームは何だろうと考えると、ホームの名古屋グランパス戦です。これはペトロが帰国する前に話した時も彼も同じ意見だった。名古屋に対してあれだけのサッカーが出来たのであれば、相手が引いてきたり、選手の状態などで状況が試合によって変わることはあっても、シーズンを通して選手もあのパフォーマンスが出来たはずです。それが、あの試合の後は全く勝つことができなかった。あれで満足してしまったのではないでしょうか。あの名古屋戦は、誰もが夢と希望を描いたゲームだったと思います。

Photo by (C) Kazuyoshi Shimizu

UF:名古屋戦は、今年は面白いサッカーが見えると確かに思いましたね。昨年の王者に対して完璧な試合をしてくれた。しかし河合さんのおっしゃる通り、そのあと、福岡戦まで勝利がないということで、実に2ヶ月間勝利から見放されてしまいました。

J/第7節 vs名古屋グランパス○ 3-0
J/第8節 vsベガルタ仙台 ● 0-1
J/第9節 vs横浜F・マリノス ● 0-2
J/第10節 vs柏レイソル ● 1-3
J/第11節 vsセレッソ大阪 ▲ 1-1
J/第12節 vs鹿島アントラーズ ▲ 2-2
J/第13節 vsアルビレックス新潟 ▲ 1-1
J/第14節 vs大宮アルディージャ ▲ 2-2
J/第15節 vsサンフレッチェ広島 ▲ 0-0
J/第16節 vs清水エスパルス ● 1-3
J/第17節 vsアビスパ福岡 ○ 3-0

河合:仙台戦もあり得ない負け方だった。仙台の諦めない気持ちに対して、宇賀神は今でも言っていますが、相手に当ててスローインからマイボールだと考えていたところで、当たり具合が悪くて、誰もがゴールラインを割ると思っていた所で、ボールに変化が掛かっていて、ボールがラインの外に出なかった。それをリャン・ヨンギだけがしっかり追っていて、それがゴールに繋がってしまった。

UF:序盤はそのような不用意な失点が散見されました。その後、徐々にそれが改善をされて失点も減ってくると負けることはなくなってきました。

河合:その時は前半0に抑えれば、後半点が取れると選手もずっと言っていた時期ですね。しかし、こんなに引き分けの多いシーズンはなかった。負けないが勝てないという時期が続いていました。それだけに得点力のあるFWがペトロは欲しかったと思う。ペトロもいる選手でなんとかしようと、色々な組み合わせを変えて、ランコとセルの2トップにしてみたり、色々な形を試していましたが、なかなか上手くいきませんでした。

UF:その意味でもペトロが求める選手をクラブは用意出来なかったのだと思います。

河合:監督が決まる前に補強は動かざるを得ない部分もあるので、今季に関しては難しい部分もあったと思う。それでも、しっかりしたチームは、クラブにビジョンがあって、その中での分析があるから、足りない戦力をしっかりと精査出来る。それがあるから監督が新しく来ても戦力についてのズレは少ないのだと思いますね。浦和レッズには、チームとしての柱、クラブの土台がない。あるとしても土台に沿った監督人選ではなかったりするので、監督はコロコロ変わる。GMは変わるということが起きてしまう。

【若手の台頭が目立った2011シーズン】

UF:今季の明るい材料といえば、若手選手の台頭があったシーズンだと思いますが、これについての印象はいかがでしょうか?

河合:若手の台頭は大きいですね。原口、高橋峻希、山田直輝、濱田水輝が台頭してきた。あとは野田君の活躍も目を見張るものがありました。彼はスピードが魅力のプレーで、コツコツ努力をしていて、宇賀神が怪我をした時にチャンスをしっかりモノにした。腐らずにずっといられたのは、堀之内、坪井、山岸のお陰だと思う。あの三人が試合に出られなくてもチームのために働き、しっかり支えていたと思う。それがベテランの役割であったと思うし、出られない選手が、彼らの姿勢を見て腐らずにしっかりとやれていたという背景があります。

Photo by (C) Kazuyoshi Shimizu

UF:そんな中で、原口が練習後に、岡本拓也とふざけ合う中でケンカになり、全治3週間の怪我を負わせてしまう問題が起きてしまいました。

河合:浦和レッズは1年目からサッカー選手である前に一社会人であれというものを掲げているんですけどね・・・。元気も怪我をさせるつもりでやったわけではないだろうし、岡本拓も元気を傷つけるためにやったわけではないと思う。しかし悪意なき悪事になってしまった。どんなことがあっても蹴ってはいけない。それは子供でも分かること。やった方もやられた方もお互い傷ついていると思う。謹慎処分のやり方で、それで良いのかと思う部分もあります。ボランティア活動とか社会貢献もするべきではないか。幼稚園に行って子供たちに接してくるとか。元気も拓也もこれで変わらないといけない。

UF:試合だけで頑張れば良いという考えは間違っていると思っていて、色々なことがピッチ上では見えると思います。選手の普段の行い、頑張りとかが出るので誤魔化せないと思う。全てにおいてサッカーに向きあう姿勢が問われていると思います。

河合:本当にそう思います。濱田水輝は去年の最終戦に初のスタメンにも関わらず、自分のミスで失点に絡み、交代もさせられてしまった。本人は情けなくて悔しくて、その思いがずっと残っていて、3日間くらい悩んで眠れなかったそうです。私は練習場でわざと「良かったね。良い経験した。お金を出してもあんな経験は出来ない。良い経験をしたと言うことは本当は今ではない。この経験を良い経験にするのは悪い経験にするのかは、水輝次第。水輝はこの経験を活かせると信じているからそう言う」と言ったら、「同じ事を土田尚史コーチにも言われたんです」と言っていて納得してくれました。そして今年は、なかなか出番もなくて、「自分は出番がなくても去年の悔しい思いがあるから試合に出たいんです」と常々言っていました。普通はレッズで活躍して、五輪代表に呼ばれるというのが普通の形ですが、水輝はレッズで試合には出ていなかったけれども、五輪代表に選ばれ続けていた。それは何故だろうとずっと思っていた時に、原博実(日本サッカー協会強化部長)に埼玉スタジアムで会った時に、疑問をぶつけたら「水輝良くなっているだろう」と嬉しそうに話をしてくれて、「今年初めに埼玉で合宿をする時に人がいなかったんだ。人数あわせてピックアップした選手の一人だったのだけど、合宿での練習態度、スキルなどを見て、関塚監督と二人で濱田は良い。彼は伸びると意見が一致して、何度も練習に呼んで、試合も出るようになった。コツコツと練習に臨む姿勢。人の話をきっちりと聞いて吸収していくクレバーさが彼にはある。自分の特長を理解しながらも求められることは何かを考えて、それを融合させてプレーできるタイプの選手なんだ」と教えてくれました。水輝は、最終戦の出来事が本当に良い経験になって、それを力にした。リーグ戦の終盤にチャンスが回った時も試合勘の心配をしたけれども、彼は「五輪代表で試合をしてきたから大丈夫です」と自信たっぷりに話をしてくれた。声を出して指示をしなかったけれども、今ではしっかりと声を出すようになった。1年で本当に彼は変わった。悔しさをバネにメンタル的にも強くなった。だから最終戦に「去年の最終戦とは違う自分をみんなに見せたい」というコメントを出していたんです。元気にしても直輝にしても峻希も岡本拓もレッズの若手の選手は失敗しながらもそれを良い経験にして力に出来る選手達だと思っています。

Photo by (C) Kazuyoshi Shimizu

【監督交代で残留への起爆剤となったのか?】

UF:今季はシーズン途中にペトロヴィッチを解任して、ユースの指揮を取っていた堀孝史監督に替えました。結果、残留もすることが出来ましたが、あの交代によって、クラブ内、チーム内の雰囲気は変わったのでしょうか?

河合:堀さんをユース時代からも知っている選手もいて、全然知らない選手もいたので全てが堀さんを理解していたわけではありません。成績が出ずに監督が交代したのは、選手達も責任をすごく感じた部分があり、取材をしていて悲壮感を感じました。ペトロさんのためにも頑張らないといけないという気持ちを持った選手もいて、より勝たなければいけないという追い込まれた状況になっていたと思います。ペトロが解任される前も一丸となるんだということを確認して、やるんだという気持ちがあったので、なぜ今、監督が替わるんだというクエスチョンマークが選手達にはあったと思います。今のタイミングは違うのではないかという戸惑いはあったけれども、クラブが決定をしたことに対して何を言っても仕方がないので、切り替えて、それを受け入れて必死にもがいているように感じました。私自身もペトロを今切るのは違うのではないかと思っていました。堀さんには追い込まれた中でよく引き受けてくださったという感謝の想いはありますが、堀さんに替わったから残留が出来たとは思わないです。クラブ内は、リスクマネジメントの部分や、なぜ柱谷GMを解任したとか、明確な答えを出せていないですし、ちゃんと説明をされていない。結果として柱谷さんもペトロも切ってしまった状況です。

Photo By (C) Kazuyoshi Shimizu

UF:クラブとペトロがしっかり連携してやっているようには見えませんでした。

河合:ペトロが一番欲しがっていたのは、FWの部分だったけれども、強化に関してもペトロが思うようには出来なかった。クラブチームでは、いる選手の特長や個性をいかに引き出して、選手同士にハーモニを奏でさせるかが重要になってくる。これはオジェックが言っていた言葉なんですが、それがクラブチームのあり方でもあると思う。

UF:基本的に監督は自分の色があるので、その色を押し出そうとするのは普通のことなのかと思います。そういう意味ではペトロはスタイルがしっかりとあって、それにハメようとし過ぎたために、上手くいかない部分もあったのではないでしょうか。フィンケでやった2年間を経験した選手達が、真逆のサッカーをすることになり、戸惑いもあったでしょうし、ペトロからもしても自分がやりたいサッカーを表現できる選手が少ないと感じたのではないでしょうか。クラブは現有戦力で戦って欲しいと思っていたので、そこの食い違いもあったと思います。

河合:ペトロもそれでは困るという意思表示が出来ずにいた。クラブと現場サイドのコミュニケーション、意見交換をしていると言っていたけれども、それは上辺だけで本音でのコミュニケーションが出来ていなかったのではないかと思う。これは憶測ではあるけれども、起きてきた現象をつなぎ合わせて検証をしていくとそうとしか思えません。

UF:最終的には、柱谷GMを解任してペトロで行くと覚悟をしていたはずでしたが、ペトロが大宮戦に破れた後、来季は指揮を取らないと発言したこともあって、突然の解任が発表されました。

河合:今季限りで監督を辞めると言ったのは、自分が矢面に立つためにやったのではないかと私は思っています。大宮戦の後に選手に批判の矛先が行くのは避けたかったんじゃないかと思う。岡田さんもワールドカップ前に「ボクでいいのかな」と言ったのは、大会前に選手に批判の矛先を向けて自信を失わせたくなかったから、自分に批判が来るようにうまくメディアを利用した。ペトロも同じ事をしたけれども、メディアをうまく利用出来なかったのかもしれないですね。

UF:堀監督になって、坪井を起用したことが最後の追い込まれた試合の中では彼の経験が活きてチームに安定感をもたらせた所はあると思います。苦しい中で非常に頼りになるプレーを見せてくれました。

河合:坪井を起用したのは大きかった。坪井の経験値は代えがたいものがある。世界と戦ってきた経験。絶対に負けられない中でやってきた経験値を使うのはここだろというタイミングでした。その力をすぐに発揮出来たのも、坪井自身が腐らずにずっと準備をしてきたからですね。彼はまたここから這い上がってくると思う。彼は井原さんの背中をずっと見てきた人なんです。井原さんのメディアに対する姿勢、サポーターに対する姿勢、練習での姿勢、試合中の言動をずっと見てきた。
坪井に井原さんはやっぱり凄いと言われたことがある。それは負けた後に自分が失点で絡んで負けた後にでも必ず止まって話をする。逆に勝った時は、今日は若手に聞いてあげてくれよと言う。そのように振舞っていたことなんですね。身体のケアでも手を抜かずに真剣にサッカーを取り組んでいた。そういう井原さんを坪井は見ていた。やっぱりそういう先輩の存在は大きいですね。そういう意味では坪井は井原を越えているんじゃないかと思いますね(笑)

Photo by (C) Kazuyoshi Shimizu

(後編に続く)

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