浦和フットボール通信

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VIPインタビュー:橋本光夫代表 公開インタビュー全文(1)

ホーム浦和と浦和レッズが膝を交えての交流を図る「URAWA TOWN MEETING」の第1回が、さる3月7日夜に『酒蔵力本店』にて開催されました。本誌は会の開催主旨と橋本光夫代表の発言の重要性に鑑み、その議事録全文を無料配信にて公開いたします。 (浦和フットボール通信編集長・椛沢佑一)

第1回 ~2012年の浦和レッズについて~
参加者:橋本光夫代表、畑中隆一本部長、松本浩明広報部長
司会:椛沢佑一、豊田充穂

椛沢:橋本代表は就任以来、このような規模で公募のファン・サポーターの方たちを集めた会合でホームタウンと交流を持たれるのは初めてではないですか?

橋本:(深く頷きながら)はい、初めてですね。

椛沢:(力に集まった聴衆を見渡して)それでは今夜集まったレッズのファン・サポーターの皆さんは、特にその場に立ち会えた精鋭部隊ということになりますね。さて早速ですが、シーズン開幕を前にして2月23日に「Talk on Together」(以下TOT)が開催をされました。橋本代表としては5回目の登壇になったと思いますが、今回の会についてどのような印象を受けたでしょうか。

橋本:実はこれはTOT開催前のことなのですが。いつも大原練習場に練習を見に来てくださっている年配のサポーターがおられまして、その方たちと埼玉スタジアムに来て頂いて事前にお話をする機会があったのです。その時に「TOTは普通の会社の株主総会ではないのだから、経営の話とか数字的な話はやめた方が良いのでは?」という助言を頂いていました。(同意できる部分もあったので)よって今年はなるべく数値の話などはしなかったのですが、そうしましたら最後の質問のコーナーでサポーターの方から「数値の目標はないのか」との指摘を頂いてしまいました。

椛沢:そうでしたね。

橋本:私は2009年夏のTOTから参加させて頂いています。その過程で去年のシーズン途中開催分は別の意味で大変な会でしたし、シーズン開幕前に開催するTOTとシーズン途中に開催するものは、折々のチームの状況によってニュアンスが違うのだと感じました。そこで、今年のTOTにおいては、何より私が皆さんに伝えなければいけないのは「去年のシーズンは申し訳なかった」という思いでした。しっかりと私の言葉でお詫びをしなければいけないと思った。それだけは挨拶をさせてもらったら、あとは基本的にサポーターの方もミシャ監督やチームの(現場の)話や言葉を求めているだろうから、そこを主体にしたら良いのではないかと位置づけて臨んだ「Talk on Together」だったのです。

椛沢:その「申し訳ない」と代表が思われた反省部分なのですが、昨年は残留争いに加わり、監督をシーズン途中で解任するという苦しいシーズンでした。

橋本:去年の9月段階でGMを変え、強化部長として山道君に就いてもらいました。とにかく昨季はチーム一丸となって(臨機応変に)しっかりとクラブの中にゼリコ(ペトロヴィッチ前監督)を盛り上げる体制を作らないといけないと考えていましたから。クラブとして監督にどういうことを要求するかということをクラブの中で事前に協議をし、それぞれの部門が監督の就任時に話をしようとゼリコの来日前に内部でかなりのコミュニケーションを取ったつもりだったのです。その部分において、ゼリコはしっかりとやってくれたと思うし、感謝もしています。

椛沢:具体的には?

橋本:例えばメディア対応においてフレンドリーなメディア対応をしてくれないとレッズとして新聞紙上などにおいてうまくいかないことがあると。そこにおいて監督とは話をした上で理解をしてもらってうまくやってもらったと思います。また、(指摘されている「継続性」という意味においても)成績がうまくいかなかったから監督を変えるという考えは私の中には存在しないし、実績においても行なっていないはずです。2009年にチームが連敗した時に周りから監督を変えろと言われましたけど、チーム状況を見て「チームは前進しており、変わってきている」と言い続けた。天皇杯で松本山雅に負けた後も同じようなことを述べたつもりです。私の中には勝敗だけで監督人事を決めるという心づもりはないということです。

椛沢:ではその意識の中で、現実には昨季途中の監督交代が起こったことについてはどのようにお考えでしょうか。

橋本:去年のゼリコは戦略的に悩んでいるという形跡が外から見ていても分かりました。そこを把握するためには強化部長にしっかりと見極めてもらうしかないという話を(クラブ内部で)し、そのポジションは中立でニュートラルな目で物事を見られる人が適任であろうという結論に至りました。しっかりとチームを盛り上げる体制は何とか維持しなければならないという思いで、まずは強化部長から変えさせてもらったわけです。

椛沢:現実にはその異動も「降格」が目前に近付いた非常に危険なタイミングでした。

橋本:はい。そこがシーズンを乗り切って「残留」を果たすこととあわせ、2012シーズンに繋げる限界のタイミングではないかと考えました。従って、(ゼリコ退任の)以降にクラブの中で協議を重ね、監督選びに入ったわけです。このプロセスはTOTの際にも説明しましたが、もっとクラブが一丸となって新監督のもとに今後を考える際に、強化部の関係者が候補をリストアップして私のもとに推薦監督を上げるよりも、最初の段階からいろいろなメンバーを加え、どんな候補がどんな戦術を持ち、どんな実績や長所があるのか。あるいは呼んだ時のリスクとして何を見るのかということを、もっと多くのメンバーを集めてクラブの中で議論をしたほうが良いと考えました。最後は9人くらいを集めての議論をし、候補を絞り込んだつもりです。

椛沢:では、その会議による新監督決定までの背景と要因は?

橋本:監督とクラブの契約は縁みたいなところがあり、難しい状況がありました。最後にミシャさんが来てくれたというのが実情ですが、監督人事においては成果があったと思っているし、これを続けていかなくてはと思います。その際の議論の中で、監督とかチームを強くするというだけではなくて、クラブの運営体制を良くしていかなければならないというテーマが浮かび上がった。それが公式サイトでも総括の部分で申し上げた“強化部の強化”という表現です。今も十分な体制とは思っていませんが、方法や人を増やすことも含め、改善の余地があると考えています。

椛沢:当然のことですが、その部分の改善はよろしくお願いします。続いて昨季最終戦後にサポーターとの討論となった部分でもあるのですが、代表任期がシーズンの始まった後すぐの4月に終了してしまうこと。このタイミングを変えられないのかという懸案です。これについては三菱自動車へ話を通していただけたのでしょうか。

橋本:その案件については私自身、心に受け止めております。代表の任期および交代のタイミングについて昨年12月に本社に出向き、その旨を伝えてあります。(クラブ代表の交代タイミングは)他のクラブを見ると確かに12月に変わっているクラブも山形とかセレッソが該当しています。定例会とは別にそのような株主総会を開くことは出来るかもしれません。あの折のサポーターの皆さんの想いに応えるなら、仮に4月に代表が変わるとしてもしっかりレッズのことを理解している人材に変わらなければならないという条件が最低限必要と思います。さらにタイミングが合わせられればなお良い。そういう話を人事担当の役員に伝えました。この要望は三菱自動車社長に伝えられたはずです。

椛沢:サポーターが求めているのは「トップ意向継続の重要性」と思います。クラブ代表に監督人事権があるのですから、監督を呼んだ強化の継続性も含めて代表交代の折に方針もブレてしまっているのでは?と危惧するサポーターが多いと思います。ミシャ監督招聘はクラブ総意で決めたとする公式コメントは、「代表が変わっても他の人間がミシャ監督を選んだ主旨を継続する」という意味合いが含まれているのでしょうか。

橋本:代表が変わったりしても、監督に対してサポートするというクラブのスタンスは変わらないということははっきりしています。

椛沢:その体制作りは橋本代表の中でも同意の上で行なわれたのでしょうか。

橋本:今回のクラブ改革に関しての私の役割は、ずっと浦和レッズで頑張ってきた人を組織の要所において重用することでした。そんな存在の人間に浦和レッズを盛り上げてもらわなければ浦和レッズはうまく復活できないだろうと感じています。従来の要職のポジションは三菱自動車からきた役員が兼務していましたが、運営やパートナー営業、マーチャンダイジングという分野はレッズの収益を稼ぐ部門であって、そこは地元の企業や地元のファン・サポーターの支持がなければ通用しないセクションでしょう。その部分においては、一番うまくホームタウンとの関係を築ける人物を据えました。レッズは社員数35人レベルのクラブ。三菱自動車から来ている人が大半と考えている人もいるかもしれませんが、それは違います。私と取締役の他には(三菱自動車から)求職派遣として来ている人間がいるのは事実ですが、それは数人のみ。私と取締役は三菱自工とは縁を切って就任しています。クラブがダメだったら戻れるのでは?と言われますが、戻るところなどありません。現状で本社に関係している人はほとんどいませんし、要職の所を地元の人としっかり関係を築ける人物にしなければ、レッズはいくら口で地域の人達と絆を深めると言っても実現は難しいと考えます。

椛沢:それは強化の部分でも同じような考えをお持ちということで宜しいでしょうか。

橋本:私はサッカーに携わったことのない人間ですから、強化の人間に相談するのが当然と考えます。私の就任時にはTD職の人材がいましたが、体を壊して翌年を継続することが叶わなくなりました。その際にレッズの歴代代表の先輩たちに、後任の相談に伺ったのです。結果は「適任者は見当たらない」という結論だった。やむなく内部で強化責任者を選びましたが、そこは難しい課題です。本当に難しくて適任者がいないのであれば、経験やノウハウを持っている人物をクラブ内でうまく活用するしかない。だから強化の経験者、スカウトの経験者を強化本部に招集しました。そして決定はクラブ全体の総意で行こう、との結論のもとに体制変更を実行しました。

椛沢:TOTにおいて「3年間の中期計画」を作られたというコメントがありました。具体性に欠けるとの指摘もありますので、内容の解説をお願いします。強化に関しての3年計画に関しては、具体的に3年後の目標は立てているのでしょうか。

橋本:それについては今日もクラブで会議をしたばかり。その中期計画をどういうタイミングでアナウンスするかを検討する時に4月には株主総会が控えています。そこを過ぎたあたりのタイミングが妥当ではないかとの話をした所。まだ具体的な解説が出来ないのですが、少なくとも3年後にはACLに出られるくらいの実力をもつチームを作らなくてはなりません。そのためには投資効率アップが必要ですが、チームによい選手を集める意味でも人件費投入は必要との考えを持っています。経営の収支も黒字確保が目標。皆さん新聞報道でご存知かもしれませんが、今季補強したメンバーの他に更にFW獲得に動いていました。実現はしませんでしたが、実現したらかなりの費用が派生していました。そういう投資のもとにチームを建て直す意向は持っているのです。監督を選んだ内部メンバーからは「その額の投資は大丈夫か」という話になりましたが、その経費を回収できるくらいの改革が出来なければ落ちていくだけだと。その分を皆で挽回をするんだという気持ちで今季を戦い、経営も乗り切れるようにすれば良いじゃないかと……。そのためには相当努力してもらなければならないということを皆に納得をしてもらって投資の意向を伝えました。3年間の計画の中でも上乗せ、上乗せで行こうという決意を持っております。

椛沢:クラブもしかり、ファン・サポーターもしかりなのですが、ここ数年は最終的な目標がボヤけてしまっているように思います。サポーターもACLが創設されていない時代からレッズをアジア、世界を目指そうと努力を重ねてきました。2007年にそれが実現したことで、逆に思いがボヤけてしまった所があるのではないかと考えます。再びアジア、世界を掲げてクラブとサポーターの結束を促す発信をして頂ければ、サポートも熱を帯びると考えますが。

橋本:そのポイントからも「監督と選手をどういう考えのもとで構成するか」というテーマについてはクラブとしてはっきりした上で実行しなくてはなりません。2009年も2010年もJ1の中で一番の人件費を計上しているクラブが浦和レッズであることは事実です。しかし同時にユースから上がってきている選手も多く、従来までのレッズは戦力として劣っ

ていないとの評価でした。事実、去年も優勝を目指す戦力にしようとしていましたが、現実はあのような結果になった。そういう経緯を踏まえ、私自身で加入した選手と退団した選手を洗い直しております。2009年はユースからたくさん上がってきたけれども、シーズン途中にクラブを離れる選手も出ました。しかしクラブは経営収支のために選手を移籍させたという考えはありません。当時は監督を全面的にサポートしようと思う時に「監督を選ぶか選手を選ぶか」という選択肢となり、監督を選んだということです。しかし冷静に考えれば、経緯はどうあれクラブの核となる選手が出て行き過ぎたという現実は認めざるを得ないでしょう。だからこそ今年の補強は必要と判断したし、核になる選手とユースから上がってくる若手のバランスも考えながらやっていかなければなりません。サポーターの皆さんに夢を与えると言いながら、夢を与えきれないクラブである現状は非常に残念に思います。

椛沢:今季のレッズ誕生20周年を経過点と捉えて原点に戻り、レッズを築く運営をしていく。地域・ファン・サポーターとの絆を作るというお話もされていましたが、具体的な施策などはあるのでしょうか。

橋本:このような会の開催は代表的な(例に上げられる)ひとつですし、色々なレベルでファン・サポーターとの話し合いもしていかなければと思います。(経済的には)厳しい状況下とはいえ我々はレディースというイレブンを持ち、重要な意味を持つハートフルクラブの運営にも携わり、かけがえのない財産であるレッズランドを持っております。これらをいかに有効に活用して地域の皆さんと触れ合う場をつくるか……これが非常に重要なテーマです。例えば昨年までレッズは様々な数値を落としてしまいましたが、落ちていない数値がある。それがレッズランドの年間利用者なのです。去年に関していえば実は利用者数は上がっている。私の就任時にレッズランド担当者は収益を上げる目標を立てていましたが、自分自身の感触では収益よりも使ってもらうことの方が意味があるんじゃないかという思いが強かった。去年からようやく利用者が増加に転じ、クラブ現状では珍しい右肩上がりの数値になっています。ここを伸ばしていく努力を続けなければと思っています。

椛沢:それは地域の方に利用してもらうという方策に繋がるのでしょうか。

橋本:特に地元桜区の行事に使っていただいたり、小学校の遠足に使ってもらうとか様々な拡がりを作ろうと考えています。不具合のある諸設備の改修もしなければならないでしょう。最近のレッズは収支にこだわり過ぎていると言われるが、使うべき所は使います。もちろん運営面の経費等で下げる所は下げなければいけないが、それは双方のバランスを考えなければいけないはずです。

椛沢:レッズ全体の収支を改善させる要素がそこに隠されている気がします。レッズランドも地域の人がレッズランドを我々の施設だということが芽生えたことで利用者が増えたのでは? このタウンミーティングも然りですが、レッズ全体が皆のクラブだと思えるような施策が各方面から見えてくれば、また輝ける時は来るのではないでしょうか。

橋本:そうですね。アカデミーに関しても私たちは未対応でしたが、去年からジュニアプログラムを行なって60人くらいの子供たちを指導しました。将来的なジュニアチームの展望についてもこの3年間の中で方向性を出していかなければいけないと思う。レディースについても2009年まで動員は増加傾向でしたが、去年は落ちている。どうやって皆さんに応援してもらえるクラブにするかという課題を、あらゆる側面から考えていかなければなりません。

椛沢:今回のタウンミーティングを第1回とさせて頂き、このように育成の問題、ホームタウンのためのレッズとURAWA双方の取り組みなど、様々なテーマに関してクラブサイドと膝を交える話し合いを行なう。その継続が20歳のレッズを復活させるきっかけとなるはずです。

橋本:その通りと思います。今回は私自身の紹介等に時間を使っていただき恐縮でしたが、私の方からばかりが話していてもしょうがない。ぜひ、皆さんとの交流を深めていければと考えています。

椛沢:今回は橋本代表からも皆さんとの交流を第一に…とのお話をもらっています。ここで参加者の皆様から質問を頂く質疑応答へと移りたいと思います。

参加者1:浦和はサッカーの街ですから、レッズが頑張らないと盛り上がらないので、その思いを受け取って、ぜひ頑張っていただきたいと思います。

橋本:ミシャ監督を選んだ大きな条件のひとつは日本のJリーグで実績を持っている人で、出来れば日本語でコミュニケーションが出来る人ということでオファーに至りました。その意味においてミシャ監督は広島時代での実績も十分。日本のことも理解されてチーム作りをやってもらえると確信を持っている。そこは期待頂ければと思います。

参加者2:私は「レッズ応援宣言」のイベントにおいて鳩ヶ谷開催の折に関わっていたのですが、個人的にあれは失敗であったと思います。街並みにクラブ旗を掲げただけで、イベントも選手が来るだけ。昨年においては選手も来ずに盛り上がりもありませんでした。今季に応援宣言をした川口は人口も多く、大きな街。これからクラブと街がギブ・アンド・テイクしていく関係でなければならないと思いますが、市民などにどう盛り上げて欲しいか。また、サポーター有志などもスタジアム沿線の駅や街で様々な活動をしていますが、クラブのサポートが少ない現状があります。その活動も知って頂きサポートをして頂きたいと思います。

橋本:いろいろな地域の人から応援宣言して頂いていることは、非常に有り難いことだと思っています。その中でひとつレッズとして応援宣言という形と、ホームタウンさいたまという位置づけをどうするかはしっかりと整理しないといけないと考えています。私がレッズに就任する時に「まず軸足を浦和に」と明確に申し上げております。こういう会合も他のエリアで進める話はまだしていないはず。まずはURAWAから、という考えです。

≪以下、次号(3月23日配信予定)に続く≫

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