【This Week】週刊フットボールトーク Vol.153(8/21)
4-3 大分戦の大逆転勝利の裏に感じたこと
椛沢佑一(浦和フットボール通信編集長)× 豊田充穂 (コピーライター)
椛沢:先週末の大分戦は、まさかの激しい打ち合いになりました。前節の名古屋戦で破れ、この試合は負けられないと挑んだはずの大分戦でしたが、最下位の相手はどこかやりにくさがある気がします。試合前から嫌な予感はしていましたが、それが現実になってしまいました。FKで先制を許すと、立て続けにCKから若狭選手にマークの甘さから抜け出されて追加点を許します。この選手は浦和学院出身の地元プレイヤーです。さらにアーリクロスから大学生の強化指定選手に那須がかわされて見事なヘディングゴールを決められて、前半20分の内に3失点を喫しました。
豊田:結果的には、これが「何年に一度味わえるか否か」のエクスタシーに繋がって行くわけですが(苦笑)。プロセスを振り返れば、これは笑ってはいられません。あきらかに集中力の盲点を突かれた名古屋での敗戦をミシャじきじきの叱咤激励で建て直し中と各紙が伝えたというのに、あの立ち上がりの20分間は言葉も出ませんでした。ニアクロスを想定した練習メニューだって、ああまできれいな3点がすべてゴールに収まるシーンって滅多にないんじゃないですか?
椛沢:レッズの悪い癖で、一度崩れると建て直しがなかなか効かない状態。しかし、この日のスタンドは「ここで切れるな!」と我慢をしてレッズを後押しし続けました。
豊田:勝てたとはいえ、守備陣は反省して欲しい。最下位に低迷するチームでも、相手だってプロ。ウルグアイの2トップほどではないにしろ(苦笑)体ごと押し込む気迫で当たって来る。一目で分かる当たり負けも、フリーでクロスを上げられ放題の混乱したレッズ陣内も見たくはないですから。それにしても若狭選手って浦学なんですか? ずいぶんと刺激的なゴールで、私たちの甘さを突いてくれたものだと思います。
椛沢:それに応えたのが、興梠の追撃の一発。その後もチャンスを幾度か作るものの、1-3で後半に折り返すことになりました。しかし、興梠のゴールで、さあ引っ繰り返すぞという気持ちが出たように思えます。
豊田:密集して立ちはだかる大分ディフェンスの群れを前にして、瞬間的にあの間隙を通したキックの精度には脱帽。まだ点差はあっても、あのシーンだけでもチケット代金の何パーセントかは取り戻した気分になりました。嵌ったときの彼のゴール場面は独特と思う。同じ一点ですが、ポテンシャルを見せつけてくれた。「まだまだ終らないよ」というメッセージというか……。大分のディフェンスに与えた心理的な負担やダメージは特別であったと思います。
椛沢:後半に入り早々のマルシオのFKが決まり、1点差。早い時間帯で2点目が入ったことで、これは行けるぞ!とさらにスタジアム一体が雰囲気を変えたのではないでしょうか。
豊田:3点差になった後、ただただ追いつくまでのシナリオを妄想し続けました。前半で1ゴールが最低条件。後半出アタマで取るべき駒で追いつめて……と。その筋書きが目の前で展開されて行けば、当然に埼スタのボルテージは大きくなっていきます。
椛沢:55分には宇賀神が倒されてPKを獲得。阿部がしっかりと決めて、同点に追いつきました。その後、一進一退の展開になりますが、残り10分に入り、スタジアム全体に響き渡る「We are REDS!」コール。さらに続いた「PRIDE OF URAWA」の大チャント。これに押されるように、右サイドからの森脇のクロスを那須が頭でねじ込んで逆転。ついに3点差を引っ繰り返しました。優勝戦線に残りためには大きな一勝。3点を引っ繰り返したのはレッズ史上初めての出来事です。
豊田:やはり史上初ですか。個人的にサッカーでは「3点差をつけた後に追加点を3つ取る」というのは大した意味を持たないと思うんです。レッズはそれを時おり見せてファンを喜ばせてくれますけど。3点先行されてひっくり返すのは全然意味が違いますから。
椛沢:諦めずに戦うことの尊さを学びましたが、3失点はそれぞれ頂けない。いずれもリスタートからで、選手の守備意識の低下が要因ではないかと考えられます。夏場の苦しい環境下ですが、さらに集中力を高めて、守備の場面でも粘り強く負けない気持ちを強く持って欲しいと思います。
豊田:同意ですが、私の周辺で言えば「こんなゲームで勝ったのに、嘆いたりしてちゃレッズは応援できないっしょ?」というクールな論評も多いですね。下位や降格圏に甘んじるチームに対する勝負弱さに限らない。逆の立場で派手にゲームをひっくり返された経験なら複数回あります(苦笑)。03年でしたよね、敵地の長居で10分あまりで3点を取りながらセレッソに4-6でケリをつけられたゲームなどはその典型。大久保ひとりにかき回されてオフトが描き始めたゲームプランを木っ端微塵にされた。クラブとホームタウンの長期視点で考えるなら、人も設備も変遷しているのに、かくなる習性からチームが抜け出せない要因は何かを考えなくてはなりません。まあ議論をそこに持っていくと、それこそ『浦議』並みの論戦に沸騰してしまうでしょうけど……。
椛沢:セレッソ戦の大逆転負けは現地で観戦をしていました。崩れかけた時に締める存在の重要性を当時も感じました。古くは国立での横浜戦でのロスタイム大逆転負けなんていうこともありました。今回は崩れかけた時に興梠選手など、経験値ある選手がチームを締めることができる存在があったのではないかと推測します。先日は、次号のフリーマガジンの特集取材で、浦和南高校サッカー部の野崎正治監督に久々にお会いをしてインタビューをさせて頂きました。熱い最中でしたが、さらに熱い情熱で長時間に渡るインタビューに答えていただきました。我々の期待通り、『赤き血のイレブン』復活に向けて、野崎監督の意気込みは強かったですね。
豊田:言葉少なでしたけれど、ご自身の意気込みは相当なものがあると思います。野崎さんの就任に関しては、南高の先輩である元祖・赤き血のイレブン永井良和さんから激励メッセージをいただいています。本誌およびWEB版にてご紹介しようと思っています。
椛沢:さて、今週末は、古くからのサッカーライバルの敵地に乗り込んでの清水戦です。ホームではワンチャンスに沈められた悔しい敗戦を喫しているだけに、敵地でこの借りは返さねばなりません。サッカー王国のプライドに掛けてもこの相手には負けられません。その後に続く、首位に浮上したマリノス戦への足がかりとなるためにも、この清水戦はしっかりものにしたいところです。