浦和フットボール通信

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サッカーと暮らす、 URAWAの空気を お届けします。『サッカーデイズ』著者 杉江由次ロングインタビュー Vol.1

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「このストーリーがウチのホームタウンのお話だったら良かったのになあ」
マニアックな業界フリークたちが集まって刊行を祝った席上。ジェフひとすじのマスコミ人も、柏サポーターの編集者も、この本につづられたサッカーファミリーに心なごませた心情を明かした。ひとつのボールを起点に絆を確かめるサッカータウンの家族風景に、惜しみないエールを贈った――
今回VIPインタビューは、レッズサポーターの間にも確かな波紋をひろげている新刊をご紹介する。熱烈なレッズ支持者にして、出版界に存在感を示す「本の雑誌社・炎の営業」こと杉江由次氏の最新作、『サッカーデイズ』。舞台はもちろん我らがホーム、URAWAである。
インタビュアー/豊田充穂

Profile 杉江 由次
1971年埼玉県生まれ。本の雑誌社勤務の傍ら、スタジアムに足しげく通うレッズサポーター。著書に『「本の雑誌」炎の営業日誌』(無明舎出版) 2013年8月にサッカーで笑いサッカーで泣く家族の日々を熱く描き出す、全てのサッカー人に捧げる感動エッセイ『サッカーデイズ』(白水社)が出版された。

豊田:今回インタビューにあたっては、またしても木村元彦さんに感謝しなければなりません。杉江さんの出版を祝う催しへのお誘いを彼から受けるまで、不覚にも『サッカーデイズ』が出版されるニュース自体を知りませんでした。レッズ支持者という素顔はさておき、やはり杉江さんには出版界を席巻する「炎の営業」というイメージが強かったので。

杉江:いえいえ、内容的には単にサッカー大好き家庭の親子日記を綴っただけの本ですから。むしろ毎回Jや浦和のサッカー史を築いた重鎮の方々が登場する(『浦和フットボール通信』の)インタビューに、私とか私の本が出てよいのかと迷ったのですが……。

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豊田:杉江さんおっしゃるその“日常”にこそ、いまのレッズ支持者が省みるべきポイントがあると思うのです。私たちはトッププロとして輝くレッズのサポートにのめり込むあまり、ともするとURAWAが伝統的に持っている「サッカーと暮らす」という特性を見失ってしまう。この『サッカーデイズ』には、私たちのホームタウンが本来的に持っている空気感をほのぼのと思い出させる描写がふんだんに登場します。

杉江:なるほど。

豊田:すでに多くの知り合いに紹介したのですが、現役、年配、ファミリー層といった立場を超えて出てきたサポーター評価は「こういうURAWAの側面を描く本がもっとあっていい」、「レッズではなく、浦和の日常が書かれている」というもの。個人的に受けた反応としては「『争うは本意ならねど』もそうだったけど、こういう視点こそ豊田さんや椛沢編集長が持つべきだったのでは?」という辛らつなものもありました。

杉江:木村さんの著作(『争うは本意ならねど』 集英社インターナショナル刊)も、我那覇選手(当時川崎フロンターレ)の冤罪を晴らしたレッズの仁賀(定雄)ドクターの尽力を追うドキュメントでしたね。

豊田:自戒を込めて言えば、私たちは華やかなプロのスタジアムに通いつめるあまり、身近にあるサッカー愛をポロポロと見落とします。しかもその愛情は陽の当たらない場所にあっても意味が深く、我々の将来にかかわる思考であったりするわけです。そこを俯瞰の位置から、ジャーナルな嗅覚で追っているプロたちにまんまとさらわれる……。

杉江:さすがに木村さんと並べられてしまうのは(笑)。

豊田:いや、現在進行のホームタウンの一面として見ても、『サッカーデイズ』に描かれたテーマの重みと鮮度は見逃せませんね。レッズとURAWAの将来に繋がる重要要素を含んでいますので……。勝手ながら概要から紹介させてもらいますね。

杉江:了解です。

豊田:ふとしたきっかけから少女サッカーチームのコーチを引き受けた杉江さんは、愛娘が日々触れているURAWAの子どもたちのサッカー風景に溶け込むことになる。そこでサッカーの上達やゲームの勝ち負け、レギュラー争いにとどまらない子どもたちの葛藤を目の当たりにします。父として過ごす家庭生活やビジネスの日常に、家族ぐるみで関わり始めたサッカーがガッツリと幅を利かせて乱入して来るわけです。

杉江:子どもの時からサッカー好きでプレー経験もありますが、指導経験はゼロ。正直、子ども相手とはいえ私がサッカーを教え、しかもそれが自著のテーマにまで拡がる経験になるとは想像もしていませんでした。

豊田:そこから始まる杉江コーチのドラマチック体験は、ひとまず本著を読んでのお楽しみとしましょう。さらなるヤマ場のお話がある。娘のサッカーチーム入団で一気にめまぐるしさを増した杉江家の暮らし。その休日場面にさらりと……本当にさらりと、レッズのために家族で埼スタに駆けつけるシーンが登場します。それも自転車で!……すみません、ここ、仲間うちで合意なんですけど(笑)ピンポイントでグッと来ます。

杉江:アハハ、浦和住民として外せませんよね。出版社キャリアばかりのサラリーマンというのに、水曜日も含めたホーム戦の参戦は入社面接時点から根回しを利かせて完全消化。二人目の子どもが生まれた時に妻のサポートに回らなければならなかった一時期を除き、ほぼ皆勤して参りました。

豊田:この業界に身を置きながら、よくぞ……というか、素直に敬意と感謝を示します。お住まいも当然にスタジアム近くとか。出身はどちらでしたっけ?

杉江:春日部なんです。浦和じゃないところが悔しいところ。自分の子ども時代から、偏差値の高い高校があったり(笑)なんとなく地元でいちばんカッコイイと思える街が浦和だった。だからレッズのホームタウンはサッカー好きとしてはもちろん、少年期からの自分にとって「目ざす場所」でした。

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豊田:しかし、杉江さんはサッカーにおける浦和の全盛時代はオンタイムでは見れていない世代でのはずですが。

杉江:はい。僕の地元サッカーの原点といったら武南時代。だから例えば駒場に掲げられた「王国浦和」の弾幕あたりは、本来的な意味をまったく理解できていませんでした。後にベテランサポや浦和オリジナルの仲間たちの解説をドップリと聞かされ、うなづけるようになりましたけど。

豊田:お察しするけど、今日はそのあたりのお話をさらに突っ込んで(笑)。たとえばお嬢さんのサッカーチームをとり巻く熱気。このストーリーで明かされているような、指導者や父母、ご近所まで巻き込んでの入れ込み方は、杉江さんとしては練習風景からして未体験の感覚だったのでは?

杉江:ズバリそれです。小学生、それも試合でもない女の子の練習時間からグルリとグランドを囲んで見守る父母の列……「何なんだ、これは?」と思いましたよ。春日部では到底ありえない光景だった。

豊田:後でお話しますが、ここって昔からそうなんです。

杉江:さらに驚きだったのが、子どもたちを見ているうちに始まる父親同士のミニサッカー(笑)。初参加のときから「良かったらごいっしょに」なんて誘われる。しかもそれ、レッズ戦のナイターとTV中継がある日の夕方ですよ! レッズ命の自分には信じられなかった。このパパたちにとってのサッカーはJでもレッズでもなく、このグラウンドなのだと……。

豊田:それも順番にお話しますが(笑)、当WEB読者の皆さんはそういうエピソード、嫌いじゃないし、共感部分もあると思う。

杉江:(深くうなづきながら)やっぱりそうなのかあ。

豊田:でも杉江さんとしては体感されたのでは? 自分が幼い頃から親しんだサッカーにわが子が染まっていく。グラウンドの土の匂いとか子どもたちの息づかいとともに幼かった自分の記憶も甦っていく……そういう感動というのは、何物にも代えがたいですよね。地元少年団の指導者の方々がそろって口にする言葉があるのですが、「少年団指導は始めたら最後、やめられない」と。

杉江:そこは同意です。本にも書いたとおり。レッズがあって仕事を持つ一家の主としては、子どもたちのサッカー指導って危険ですよ。あまりにも魅力あふれる体験ですから。

豊田:先ほど杉江さんが言われたとおりなのですが。現状で残念なのは、そういうURAWAのサッカーファミリーにとっての理想のサッカーライフの行く手に、浦和レッズというトッププロが必ずしもマッチしているわけではない、という現実です。

杉江:同意です。たとえば本著に書いた少女サッカーチームの父母の方たちって30人くらいおられたのですが、レッズのシーチケ保有家庭がせいぜい3組くらいしかいないんです。あれはショックだったな。レッズ愛を目ざしてホーム浦和に引っ越して来たのに、あれほど老若男女がサッカー愛に満ちている人たちが浦和レッズとの一線を画している。何か古くからの浦和の人たちは、けっこう冷めた目でレッズを見ているという印象を強く持ちました。

豊田:私はホーム浦和と浦和レッズがその一線を越えて連携する努力を実らせれば、埼スタの雰囲気は一変し、クラブが目ざす動員回復は果たせると思っています。本誌は、そのギャップを埋めるために刊行を続けている意味合いが大きいわけで。

杉江:本当に惜しいというか、もったいない温度差がありますよね。

豊田:たとえば件の会のスピーチです。木村元彦さんが『サッカーデイズ』を評して「等しくサッカーに触れているJタウンであれば、普遍的に、皆が共有できる感動をとらえてた本」と言われましたよね。全くその通りと思うのですが、私としてはひとこと付け加えたかった……。

杉江:と言いますと?

豊田:あの席では同業者の方々とはいえ、J各チーム支持者の方いたので控えたのですが(笑)。レッズのホームタウンであるURAWAは、木村さん言われた「誰もが共有できるサッカーの感動」を70年間に渡って受継いできたということ。この蓄積だけは、他のJタウンは果たしていません。

杉江:なるほど! フットボール通信らしい話になって来た。

豊田:狙っていますので(笑)。先ほどの「昔」の話なのですが。当WEBのバックナンバーでご覧いただけるとおり、犬飼元代表は轡田隆史さんとの対談の中で「いままでの客席からの声でいちばん怖かったのは、浦和市立と対戦した時(浦和高vs浦和市立高:いわゆる元祖・浦和クラシコ)に、校庭に集まった市民の最前列にいた割烹着のオバサンから飛ばされた叱責でした」と言われていました。

杉江:凄いですよね、それって。本当にロンドンみたいだと思う。確かにホーム浦和がレッズを支えるモチベーションって、そういう大人が子供たちを育ててきたホームタウンの経験値を抜きにしては、盛り上がって来ないものと考えます。
(以下、次号に続く)

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