河合貴子のレッズ魂ここにあり!「勝利を呼ぶ思い ~那須大亮選手」
J開幕から浦和レッズを追いかけ、ケーブルテレビのパーソナティなどで活躍をしている”タカねえ”こと河合貴子さんによる浦和レッズコラム。毎週、タカねえの独自視点の浦和レッズを語ります。
仲間を思い遣る気持ちと仲間を信じる気持ちが如何に大切なことであるかを、那須選手は厳しい試合を通じて教えてくれた
容赦なく降りつける雨が、ピッチの中の選手たちを襲った。激しい水しぶきが上がり、水溜りに止まったボールを奪い合う。
10月5日、徳島戦のピッチの状態は、台風18号の影響で最悪だった。ボールが止まると予測しても、ボールが流れたり、思ったようにコントロール出来ない。激しい雨で視界も遮られ、自陣に引き籠った徳島を相手に崩せないイライラが募る。水を含んだスパイクとボールが重たい。心が折れそうになりながらも選手たちは、勝利へと突き進んだ。
前半37分、ロングボールから一瞬の隙に先制点を許し、益々厳しい状況へと追い込まれた。だが、そんな状況の中でも仲間を思い、仲間を信じて勝利を呼び込んだのは、逆転ゴールを決めた那須大亮選手であった。
那須選手は「一瞬だった。相手GKからのロングフィードが、DFラインまで来なくって、高崎に逸らされて、拾われて、DFの裏を走られた」と試合後に冷静に淡々と失点シーンを振り返り「でも、そこでメンタル的にも集中が切れなかった」と笑った。
今シーズン、3勝しかしていない最下位に沈む徳島が、浦和に勝つために狙っていたことは、那須選手の頭の中に試合前から嫌というほど叩き込んであったのだ。分かっていた徳島の攻撃パターンからの失点に、チームで一番熱い闘争心を持つ那須選手が、更に熱い闘争心を剥き出しにした。徳島のロングボールをことごとく跳ね返す。何度も何度も訪れるCKのチャンスに、相手のマンマークを外そうと鬼のような形相でゴール前へと飛びこむ。
そして、西川周作選手がFKを蹴る時は、しゃがみ込んで必死に水をかき出した。
「アップの時に、水溜りの中で蹴るとボールが飛ばなかった。一瞬でも良いから水が、無くなれば良いと思った。周ちゃんに良いボールを蹴ってもらいたかった」と那須選手は、少し照れながら話した。
ロングフィードに定評がある西川選手だったが、最悪なピッチコンディションに苦しんでいたのだ。「後ろは、リスクを負わない。バックパスは、禁止。味方のDFの背後には出ない。ボールは止まる。いつもと違う意識は、もどかしかった。考え過ぎて、キックミスばかりだった。一番、難しい試合だった。チームメイトに助けられた」と西川選手は安堵の表情を浮かべ、嬉しそうに「大ちゃんがねぇ~気を遣ってくれた」と笑った。
降りしきる雨の中で、思うようなプレーが出来ないでいた西川選手の気持ちを那須選手は感じていたから、キーパーグローブをしている西川選手に代わって、少しでもボールが蹴り易くなるようにと水をかき出していたのだ。あの状況だったら、自分自身のプレーで手一杯になってしまい、他を思う気持ちの余裕などなかなか生まれない。現に、徳島の選手たちは誰ひとりとして、味方のGKのために水をかき出すことなどしていなかった。どんな状況下におかれても、味方を思いやれる行動が出来るのが、那須選手なのだ。
西川選手は、その那須選手の気持ちに応えようと必死にボールを蹴り、ゴールを守っていた。味方を思い遣ることが、勝利への近道であることを那須選手は、知っていた。
前半の終了間際に柏木陽介選手のFKが決まり同点としたものの、勝利のための1ゴールがどうしても欲しかった。悪天候で拮抗した試合展開の中、柏木選手のFKに相手DFを背負いながら李忠成選手が胸で逸らした。そこへ那須選手が飛びこみ、勝利への執念のゴールが決まったのだ。
アシストした李選手は「身体を張るのは、このチームなら前線の選手では、自分が一番張れる。そこで活躍しないといつ活躍するのか?!得点こそ決まらなかったけど、決勝点をアシスト出来た。あそこまで、上手く決まると思わなかった。那須さんが、いるとは思わなかった。誰かが触ればと思っていた」と、那須選手がゴール前に飛びこんで来てくれたことに驚いた。
那須選手は「陽介から良いボールが来て、チュンが逸らしてくれた。最近、逸らしたボールへの反応を自分としては、信じきれていなかったり、読み切れていなかったりして、勢いを止めてしまったことが結構あった。今日は、走り込めば必ず来ると思っていた。いろいろな反省を生かした走り込みだった。良い逸らしが来て、集中して押し込むだけだった」と仲間を信じてゴール前へと勢いよく飛び出していたのだ。そこには、迷いは無かった。「絶対に、チュンが逸らしてくれる」と李選手を信じる思いがあった。
那須選手は、心は熱く、頭は冷静にピッチで勝利への闘争心を剥き出しにしていた。フットボールにおいて、仲間を思い遣る気持ちと仲間を信じる気持ちが如何に大切なことであるかを、那須選手は厳しい試合を通じて教えてくれた。仲間を思い遣り、仲間を信じることが、勝利を呼び込む。フットボールの神様が、雨でずぶ濡れになり那須選手の重く疲れた身体を労わるように、優しく微笑んだ。
追記
10月10日は那須選手のお誕生日です。大学3年生の時に横浜FMでプロデビューして、紆余曲折しながら、いままで様々な経験を積んで来た。その経験が、浦和で輝いています。33回目のお誕生日を浦和で迎えられることに誇りに思います。これから、もっと那須選手が輝きますように・・・願いを籠めて~那須選手、お誕生日おめでとうございます。
A.要因はいろいろとありますが、膝の関節を怪我すると最初に膝の裏が痛くなる患者さんが多いです。関節の中に1本だけ腱があります。外側の半月板の後ろにある膝窩筋腱(しっかきんけん)の周囲で炎症を起こすと、膝の裏が痛くなります。腱の周囲は、炎症を起こし易いので、過度な運動は気を付けた方が良いです。
川久保誠 profile
1981年慶應義塾大学医学部整形外科教室入局。93年医学博士。94年英国リーズ大学医学部大学院へ留学、修士課程修了。96年より慶應義塾大学病院膝関節・スポーツ外来担当。東京歯科大学市川病院整形外科講師を経て2004年4月より川久保整形外科クリニック院長となる。浦和レッズレディースのチームドクターも務めた。 川久保整形外科クリニック 整形外科・スポーツ整形・リュウマチ科・リハビリテーション http://www.kawakubo-clinic.jp/