浦和フットボール通信

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元日快晴の天皇杯決勝。浦和レッズは、またしてもガンバに屈する。【島崎英純の試合レビュー】2015天皇杯決勝・ガンバ大阪戦レビュー(2015/1/2)

9年ぶりの制覇を目指した、天皇杯決勝のガンバ大阪戦。今回は特別企画で、「浦研」との共同企画で、島崎英純さんの試合レビューを掲載いたします。

序盤からプレーリズムが悪かったいくつかの要因

試合開始からしばらくの浦和レッズはプレーリズムが悪かった。その理由はいくつか考えられる。

前線トライアングルの先発は1トップ・興梠慎三に2シャドー・李忠成&武藤雄樹のユニットだった。準々決勝のヴィッセル神戸戦の布陣である。この前線トライアングルは神戸戦でフレキシブルなポジションチェンジを繰り出して『ミラーゲーム』を仕掛けた相手を幻惑した。ガチガチのマンマークで対峙する相手を外すのに効果的と考えたからだ。この効果は絶大で、パニックに陥った神戸は前半だけで3失点して敗戦への道を辿った。

しかし元々ミハイロ・ペトロヴィッチ監督が標榜するサッカースタイルは各選手の受け持ちエリアが明確に定められたポジションサッカーを基盤とする。そして準決勝の柏レイソル戦では興梠と李が温存され、1トップ・ズラタン、2シャドー・梅崎司&武藤の組み合わせでポジションチェンジをしない定型プレーを実行した。その筋道もあり、今回のG大阪戦では前線トライアングルがポジションを動かさないと予測したのだが、実際は興梠、武藤、李が流動的にポジションを入れ替えた。

今回の対戦相手であるガンバ大阪は4−2−3−1システムで、浦和に対して『ミラーゲーム』で臨んでいない。G大阪の守備隊形はセンターバックの丹羽大輝、キム・ジョンヤと両サイドバックの米倉恒貴、藤春廣輝、そしてダブルボランチの今野泰幸、遠藤保仁がユニットを形成し、受け渡しで浦和攻撃陣をマーキングする(前半早々に米倉が負傷交代したため、右サイドバックに今野がシフトし、井手口陽介が交代出場でボランチに入った)。すなわちゾーンで防御する相手に浦和が流動的なポジションチェンジを繰り出しても、相手の守備戦術に変更点は生じない。

興梠、武藤、李がポジションを動かしても、常に相手がエリアを監視して穴を埋めている。こうなると、後方からビルドアップする浦和の選手はパスの出し所に窮してしまう。ただでさえ味方選手がエリアを逸脱して動き回って的を絞りきれない中で、相手の守備陣形も崩れないのでは八方塞がりである。

こうなれば、浦和は単純にサイドから攻撃構築を図るしかない。G大阪の守備隊形の不備を突くとすれば、浦和の5トップに対して相手が4バックで防御することによる横幅のギャップである。浦和はここを突くべく狙いを定めたはずだが、良好な攻撃構築を果たせなかった。梅崎が語る。

「相手が4バックなのでサイドから攻めることは狙いとしてありましたが、単純にサイドへパスを供給しても手詰まりになってしまいます。やはり、まずは相手ゴール中央へボールを入れて、そこからサイドへ展開する形じゃないと相手の守備が崩れない。その意味では、前半はリズムが悪く、縦パスも入らなかった」

柏木陽介が膝の負傷で欠場を強いられたのも攻撃面の閉塞に繋がった。代役は青木拓矢が務めたが、彼の持ち味はスペースケアとセーフティなプレーバランスの機微にある。一方で柏木には相手の急所を突くパス、抜群のボールキープ力を駆使したオーガナイズ、巧みな敵陣への入り込みによる味方攻撃陣との連動など、アタック能力で秀でた部分がある。その柏木が不在ならば必然的に果敢な縦パス供給が減る。それは自明の理なのだが、今回に関してはそのプレーリズムの変化がピッチに立つ選手たちの焦燥を誘った感がある。

長谷川健太監督の浦和対策

またG大阪の長谷川健太監督は明確な浦和対策を用いていた。最も顕著だったのは相手エースFWの宇佐美貴史がパトリックとの2トップを形成せず、4−2−3−1の左ウイングを務めていた点だ。しかも1トップのパトリックまでもが左サイドに寄る変則的なポジショニングである。これは明らかに浦和の右サイドを攻略する意図であろう。浦和の右ストッパー・森脇良太のエリアを突く。これまでもG大阪は森脇の周囲を狙いに絞ってきたが、今回は極端なまでの攻撃シフトで襲いかかってきた。ただ、G大阪は当初、関根貴大が右サイドアタッカーで先発すると踏んでいたかもしれない。しかし関根は準決勝の柏レイソル戦で延長戦を含め120分間フル出場していたため、ペトロヴィッチ監督は温存の名目で彼をベンチに置き、代わりに梅崎を先発させた。ただし森脇が受け持つ右サイドは誰がコンビを組んでも守備組織の破綻が起きる。マークの受け渡し、コーチングが適切に果たせず、相手を外してしまうのだ。案の定、G大阪は宇佐美と左サイドバックの藤春が果敢な縦突破を仕掛けて浦和陣内へ突進していった。開始4分に宇佐美が仕掛けたドリブル突破は圧巻で、浦和は複数人がエリアに留まっているにも関わらずにクロスを放たれてパトリックのボレーシュートを許し、ボールがバーに直撃して肝を冷やしている。

また25分には遠藤から浦和の右サイド裏へハイスピードのフィードボールが放たれ、抜け出した宇佐美からオーバーラップした藤春へとパスが渡され、最後は藤春のクロスからパトリックのヘディングシュートが炸裂した。幸いパトリックのシュートはゴール枠を外れたが、この時の浦和は森脇と梅崎のふたりが同時に裏を取られて宇佐美のランニングを許している。

G大阪が実践した浦和バックラインの背後を突く戦法は常套策だ。パトリックや宇佐美が槙野智章、森脇の両ストッパー、もしくはリベロ・那須大亮の裏に生まれるスペースへ走り込み、遠藤、倉田秋、今野(井手口)らがフィードボールを打ち込む。浦和は前がかりに相手を押し込んでゲームを進める姿勢を露わにする。ならばその隙を突くのは当然で、浦和としてはそのリスクをGK西川周作のプレーエリア拡大で埋めるしかない。しかし自陣コーナーフラッグ方向へフィードボールを放たれれば西川も飛び出しを自重せざるを得ない。G大阪は浦和の対処策を十分に認識した上で、これまで通りの浦和対策を施して窮地に追いつめた。

そして34分、浦和は左サイドでボールを奪われてカウンターを浴びる。倉田から繰り出されたバックライン裏へのパスにパトリックが反応し、必死にカバーリングした森脇を突き放して豪快に右足で蹴り込んだ。中盤での局地戦から高速攻守転換で相手守備を破りゴールゲットする形は浦和も目指す理想形だ。それをG大阪に体現されてしまったのだから堪らない。

しかし、この時の浦和はまだまだ意欲がたぎり、失点から4分後の36分に同点に追いつている。梅崎が素晴らしい縦突破を図って右クロスを送り、今大会を通して絶好調の李がヘディングシュート。これはポストに弾かれたが、そのこぼれ球を興梠が技巧的な左足シュートで打ち込んだのだ。

お互いのチームが戦略リニューアルを図った

後半に入ると浦和、G大阪ともに戦略をリニューアルしている。まず浦和は前線トライアングルのポジションチェンジを止めた。これが指揮官の指示か、選手の独自判断かは分からない。ただし複数の選手が「前半はリズム、バランスが良くなかった」と発言しているので、チーム全体の総意として前線トライアングルのポジションを定位させたと考える。そもそもポジションチェンジの狙い相手が仕掛ける『ミラーゲーム』への対策であり、ゾーンで守る相手には浦和本来のポジションサッカーを基盤にした連動性あるパターンサッカーが効力を発揮するはずである。

また後半からはリベロの那須が中盤に入り込んでビルドアップするようになった。これは縦パスが入らずに攻撃構築できない不備を改善するために前線の選手との距離を縮める狙いがあったと思われる。この手法は柏木不在の中で良策だったと思うが、その後、ペトロヴィッチ監督が施した選手交代によってチーム全体の攻撃パターンに変化が生じたため、得点を導くきっかけにはならなかった。

浦和は53分にセットプレーから痛恨の失点を喫する。遠藤の右CKがマイナス気味にグラウンダーでゴール中央へ送り込まれた。これにパトリックがフリーで反応して右足シュートを決め、浦和ゴールを破った。パトリックのマーカーは槙野だったが、「阿部(勇樹)選手と今野選手の完全なブロックにやられてしまった」。G大阪がセットプレー時にスクリーンを仕掛けるのも常套策だ。浦和はセットプレー時にマンマークで守備するため、G大阪の選手はマーカーを引き剥がすためにDFの進行方向に誰かが入り込み、そこから遠藤のキックを受けるレシーバーが自由を享受して決定的なシーンへ飛び込む。浦和は守備対策を訓練しないチームなので、この対処策を持ち合わせず、あくまでも選手個人のスキルや判断に頼るしかない。スクリーンされた際の槙野の個人判断、技術の問題もあるだろう。しかし根本的な課題はチームとして守備面の不備をどう考えているかにある。

戦況が動いた直後、G大阪の長谷川健太監督は宇佐美を最前線に上げてパトリックと1トップを組ませる布陣へ変更している。これは明らかなカウンター戦法への移行だ。自陣を固めて浦和の猛攻を受け止め、一撃必殺の速攻で息の根を止める。これに対し、浦和のペトロヴィッチ監督は相手の土俵に乗るように超攻撃的布陣を敷いた。梅崎に代えて関根、宇賀神友弥に代えて高木俊幸、武藤雄樹に代えてズラタン。いわばアタックのユニットを総入れ替えして総攻撃を開始したわけだ。

ペトロヴィッチ監督の判断もこれまで通り。そしてこれまで通りに結果を得られなかった。最近のG大阪戦で連続ゴールを挙げているズラタンの起用は理に適ってもいるが、その影響で興梠のプレーレベルが減退する弊害をもたらした。興梠は悔しさを噛み締めながら、試合後に持論を述べている。

「ズラ(ズラタン)が入ったことで高さは出たけど、向こうのCBも高さがあるし、ハイボールに対して強さがある。それよりもいつもの形で崩したほうが良かったのかなと思うし、後半の終わりぐらいは本当に難しい試合だった。いつも自分たちがやっているサッカーをやりたいなというのはあった。(いつも以上に下がってボールを受けることは)別に意識はしていないけど、ひとり引き付けたかったし、ズラが入って、シャドーに入ったあとはズラに縦パスを入れたくて、下がって受けようと考えていた。でも自分はもっと前にいるべきだったかなと」

興梠は李、武藤とのユニットに自信を持っていたのだろう。実際、このトリオは連動性が抜群だったし、ゴール前でのアイディアも豊富だった。しかしズラタンが入り、関根と高木がシンプルなクロス供給を行い続けた後半半ば以降、興梠の持ち味が発揮されることはなかった。

ペトロヴィッチ監督の判断は尊重すべきだ。一方で、その結果を精査し、検証し、改善すべきでもある。しかし指揮官は一貫して同じような采配を行い、タイトルマッチで結果を残せずにいる。

猛攻も虚しく、浦和は1−2でG大阪に敗戦し、2015シーズン最後のタイトル奪取の機会を逸した。この敗戦を2016シーズンに活かせるか否かはチーム次第だが、4年間に渡り同様の結果に甘んじている事実は重く受け止めねばならない。

ポジティブな意味での変身を成せるのか。2016シーズンは1月中旬に早くも始動する。短期間のオフを挟んで、浦和は早々に課題に取り組まねばならない。

選手採点

GK 1 西川周作 5.5
パトリックのスピードとパワーに抗えず、ニアサイド、正面からシュートを浴びて失点を喫した。

DF 4 那須大亮 5.5
ビルドアップで工夫が見られた。だが守備ではマーカーが定まらずに浮いた存在となった。

DF 5 槙野智章 5.5
掌を20針縫う裂傷を負いながらも奮闘。しかしマーカーのパトリックに2得点されてしまった。

DF 46 森脇良太 5
徐々に宇佐美を抑えたものの、パトリックの独走を許すなど、個人守備で相手に凌駕されてしまった

MF 16 青木拓矢 5.5
予想通り、彼の先発によって守備の安定が生まれたが、攻撃面の減退が露わになった。

MF 22 阿部勇樹 6
左右両サイドへの展開などでチームバランスを整え、バイタルエリアの守備でも奮闘したが、思いは叶わず。

MF 3 宇賀神友弥 5.5
守備に重きを置き、味方選手との連動で攻撃構築を図るも、インパクトを残せず途中交代。

MF 7 梅崎司 6
守備では味方選手との連係に苦慮したが、攻撃面では興梠の得点を導くなど、キレのある動きを見せた。

MF 19 武藤雄樹 6
献身的な動きで攻守両面に関与していただけに、後半途中での交代は無念だっただろう。

MF 30 興梠慎三 6
さすがの動きで先制ゴールをゲットも、ズラタンが入った後半途中以降は苦悩し続けた。

FW 20 李忠成 6
ポスト直撃のシュート、ゴール枠を外したが打点の高いヘディングシュートと、好調さを見せつけたがゴールはならず。

MF 24 関根貴大 6
果敢な突破で右サイドを切り裂いたが、ラストパスの精度を欠いてスーパーサブの役割を果たせなかった。

MF 31 高木俊幸 6
左サイドで起点となって挑戦的な突破を仕掛け、相手守備網を押し込んだ。しかし関根と同様にラストパスの精度を欠いた。

FW 21 ズラタン 5.5
味方からのクロスを受けてヘディングシュートを放つもゴールはならず。厳しい態勢を強いられていた。

ミハイロ・ペトロヴィッチ監督 5
攻撃陣刷新による総攻撃は、あまり良い結果を生み出したことがない。チームスタイルに間違いはないが、采配、戦略は見直すべきだ。

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