浦和フットボール通信

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【取扱説明書コラム】ブランコ・イリッチ「3バックの中央が主戦場になる可能性が高い」(河治良幸)(2016/1/7)

浦和レッズに2016シーズンから新加入する選手はどんな選手なのか。取扱説明書的コラムをお送りします。第2弾は、Jリーグから欧州リーグ、代表戦まで、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る、河治良幸氏がカザフタンのアスタナから移籍してきたブランコ・イリッチ選手を解説する。

率直に浦和はタイトル奪取に向け、効果的な補強をした。これまで母国スロベニア、セルビア、カザフスタンのアスタナでリーグタイトルを獲得した経験を持つスロベニア代表DFが、UEFAチャンピオンズリーグ15−16のグループリーグ6試合にフル出場したことはすでに多くのメディアで伝えられるが、移籍してすぐに迎えた予選2回戦から先発し続け、安定したパフォーマンスを披露している。

アスタナでのハイライトがグループリーグ第4節のアトレティコ・マドリー戦。右サイドバックで出場したイリッチは相手サイドハーフのスペイン代表MFコケをマークしながら、ワイドに流れてくるフランス代表FWグリーズマンの仕掛けを封じ、逆サイドからのクロスに飛び込むフェルナンド・トーレスに厳しく寄せてシュートを外させるなど、獅子奮迅の働きでスペインの強豪とスコアレスドローを演じる立役者となった。

この試合で見られた様に、本職はセンターバックだが必要に応じて右サイドバック、またボランチもこなすことができる。そのベースにあるのが188cmの長身に似合わない機動力と確かなボールスキルであり、前からのプレッシャーに動じずボールを捌ける能力はビルドアップを重視する浦和の攻撃スタイルにもフィットする期待が高い。

スロベニア代表ではズラタンらと共に、主力として欧州選手権を戦い、強豪スイスを相手に1−0の勝利を支えるなど、プレーオフ進出に大きく貢献したイリッチ。32歳という年齢が不安視される部分はあるが、ここ数年で大きな怪我もなく、局面での1対1や90分の運動量に身体的な衰えは感じられない。うまく環境に適応できれば、念願のタイトル獲得を狙う浦和でも主力としてチームを支える存在になれるはずだ。

注目は主にどこのポジションで起用されるかということ。欧州では4バックの中央で守備のリーダー的な役割を演じてきたが、右サイドバックの経験をうまく活かせれば3バックの右ストッパーも十分に務まる。ただし、浦和は新シーズンに向けて湘南から日本代表DFの遠藤航を獲得しており、森脇良太も健在であることから、遠藤が中央で起用されれば右ストッパーで起用の可能性もあるが、3バックの中央が主戦場になる可能性が高い。 

メリットは常にゴール前の中央で高さと機動力を発揮できることだが、ここまで那須大亮あるいは永田充を中心に柔軟なライン統率をしてきたところに新加入の選手がすんなりフィットできるのかは未知数な部分がある。特に浦和の場合はビルドアップ時に左右のストッパーがワイドに開くため、カウンターのリスク管理をボランチの選手と細かく協力しなければならない。

その意味ではキャンプのスタートから良い状態で入り、プレシーズンマッチを通じて新しいチームメートとコミュニケーションを取っていくことが重要になる。実はカザフスタンリーグは日本と同じ春秋制を採用しているのだが、イリッチは夏の市場でセルビアのパルチザンからアスタナに加入しており、12月9日までチャンピオンズリーグを戦っていたことから、おそらくキャンプイン時のコンディションに問題ないはずだ。また欧州内とはいえスペイン、ロシア、キプロス、イスラエル、セルビア、カザフスタンと多くの国を渡り歩いてきた経験は新天地でも活かされるはずだ。

欧州から移籍してきたDFにとって、もう1つネックになるのがJリーグやACLのレフェリングだ。FIFAの基準を忠実に守る形で公正なジャッジを目指すJリーグのモットーは実際のところ、欧州のスタンダードより厳格であり、手を使った守備はもちろん、正当なチャージに見えるプレーでも笛が吹かれることが良くある。その一方でACLは主審によって基準が異なり、ボール保持者が転倒すると簡単に笛を吹いてしまう主審もいれば、全く吹かない主審、流すべきプレーで止めてしまう主審など、欧州のジャッジに慣れた選手にはかなり難しい状況になりがちだ。

最初は大なり小なり戸惑いがあるはずだが、そこでカリカリして自分を見失ってしまわずに、しっかり順応できるかどうか。試合の中で味方とそうした基準を共有して適合できるかどうか。DFとしての能力に疑いの余地はなく、リーグタイトルを何度も獲得している経験も年間タイトルから遠ざかっている浦和の助けになる期待は高いが、JリーグやACLの環境に早くフィットすること、周りがそのサポートをしっかりしていけるかがイリッチにとって、またクラブにとっても重要なポイントになりそうだ。

河治良幸(かわじ・よしゆき)

サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCFF』で手がけた選手カードは5,000枚を超える。 著書は『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)、『日本代表ベスト8』(ガイドワークス) など。Jリーグから欧州リーグ、代表戦まで、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。サッカーを軸としながら、五輪競技なども精力的にチェック。

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