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「スポーツは日本の元気玉」 さいたま市のスポーツ都市としての可能性を探る。 池田純(さいたまスポーツコミッション会長)ロングインタビュー全文記事


東京五輪開催を翌年に控える中で、日本はスポーツブームの時代。大切なのは2020年以降の日本社会とスポーツの盛衰。地域活性化から社会課題の解決まで、スポーツが果たせる役割は大きい。スポーツの力をもっと活かさなくてはならない時代が2020年以降は日本各地域にやってくる。今年3月、さいたまスポーツコミッションの会長に就任し、横浜DeNAベイスターズも大変革した池田純氏に、さいたまのスポーツ都市の可能性、サッカーの街としての可能性を訊いた。

Interview & Text by 椛沢佑一(本誌編集長)
Photo by 橋立拓也(ラプター・フォトプレス)清水和良

池田 純 Jun Ikeda プロフィール
1976年横浜市生まれ。早稲田大学を卒業後、住友商事、博報堂等を経て独立し有限会社プラスJを設立、2011年、株式会社横浜DeNAベイスターズ初代社長に就任。2016年まで5年間社長をつとめ、観客動員117万人から197万人へ、横浜スタジアムの友好的TOBにより球団と球場の一体経営化を実現し、球団単体での売上が52億円から110億円超へ倍増し、黒字化を実現した。退任後はスポーツ庁参与やJリーグ特任理事、日本ラグビー協会特任理事、明治大学学長特任補佐等を務め、現在は、Jリーグアドバイザーの肩書き以外は、スポーツビジネス改革実践家として、これまでの経験を活かし大学スポーツや地域のアリーナを活かした「スポーツで地域創生」の日本の最先端モデルを構築するために自らが経営を担う立場に復帰。2019年3月から、さいたま市と連携してスポーツ政策を推進する一般社団法人さいたまスポーツコミッションの会長に就任した。
Twitter; ikejun Web; Plus-j.jp

さいたまスポーツコミッションとは?

さいたま市がこれまで毎年数億円の公金を投じて6年間実施してきた世界的にも有名なツール・ド・フランスのクリテリウム(都市型レース)の日本大会、「ツール・ド・フランスさいたまクリテリム」を今年からさいたま市から移管されて実施運営を担う。同時に、さいたま市とともに自転車の街づくりや文化づくりを企画運営し、その中から収益化の可能な領域の事業化も企図する。また、スポーツイベントの誘致と開催支援を通じて観光や交流人口の拡大を図り、 スポーツの振興と地域経済を活性化することを目的として、2018年12月に一般社団法人として設立。現在は数名の民間職員のみで、市から派遣された職員が大半だが、5年をめどに、大半を民間人材と民間思考で担うことを企図して組織化された、さいたま市が産み落とした“スポーツで街づくりと事業化”を担う会社組織。

サッカーを中心とした多様なスポーツの可能性を秘める

浦和フットボール通信(以下UF):今年3月にさいたまスポーツコミッションの会長に就任されましたが、横浜を中心に全国を見てきた池田氏が感じるさいたまのスポーツ都市としての可能性はどのように感じていますでしょうか。

池田:これだけの大都市にも関わらず、さいたま市はスポーツにおいてはまだ手付かずの状態だと考えています。際立ってサッカーの人気だけが突出している印象。多くの方々が浦和レッズが大好きな背景も理解しましたし、浦和の街中で飲んでいても会話の中に出てくるのは野球よりもサッカー、というのは日本全国様々な都市をスポーツ関連の仕事で訪れましたが、ある意味特殊な街だなと思いました。逆に言うとサッカー以外がない。さいたまの人は“東京に行ってしまう”と揶揄されるような表現もよく耳にしますが、逆に東京が近く色々な情報に触れられる環境が存在しています。それゆえに本来は、スポーツやエンターテイメントなどのリテラシーが高い市民性、土地柄だと考えられます。それにも関わらず、それらの中でアイコンやアイデンティティとなり得るものや、もっと目立つもの、もっと楽しいものというものがまだまだ少ない。

スポーツやエンターテイメントの領域においては特に、東京の影にさいたまが、誰からともなく追いやられて、特殊性や独自性の発展を敢えて抑えられている地域のような印象を感じてしまう。東京を追いつけ追い越せとばかりに、多様なスポーツやエンタメ文化を発展させてきた横浜と比較すると、首都圏では横浜の次はさいたまであるにもかかわらず、その差がものすごくよく分かります。県民性などの違いがあるにしても、さいたま市には130万人ものマーケットがあるので、サッカーは突出したアイデンティティとしてさらに発展を遂げるとともに、それ以外のスポーツやエンターテイメントやそれに伴う施設など、またまだ本来は「さいたまアイデンティティ」となるものがこの街に多様に発展していってもいい環境やマーケットが存在していると思っています。

UF:埼玉県民は地域への愛着が薄いと言われたりもしていますが、映画「翔んで埼玉」が埼玉を中心に大ヒットするなども良い例ですが、地域への想いは確実にあると思います。

池田:日本全国どんな地域でも、地元に対する愛着は必ずあると思います。横浜でも「3日住めばハマっ子」という言葉がありますが、実際は3日過ぎでも全然認めてくれない市民性や地域愛が、実はその土地で生活する人々の心の奥深くに共通するものがあることをベイスターズの仕事を通して実感させられましたし、さいたまの場合、これまであまりに東京に文化圏が近いというか、色を出さないできたために、切り出して人物像とか市民像というものが語られてないだけであって、(実は横浜の人も根の奥深くでは“横浜はこういうものだ”と深く思っている魂みたいな言葉で簡単には言い表せないものがある。さいたまの人は横浜の人ほど我が強くないのかもしれないですが。)共通した意識とか、地域愛いうものは心のどこかに必ず持っていると思います。それが集約されているのが、浦和レッズでもあるのではないでしょうか。さいたまの人たちの魂の結集のカタチとして「レッズの浦和」「浦和はレッズ」を超えて「さいたまの魂」のようにまで、一つのアイデンティティとして突出してきたのだと思います。

レッズ、アルディージャの頑張りが、サッカーだけではなくスポーツにも刺激を与える

UF:サッカーの街・さいたまの側面からみた、さいたま市の可能性はどのように感じますでしょうか。市内には、浦和レッズ、大宮アルディージャが存在しており、歴史的にも、サッカーの街さいたまという歴史、地域資産があります。

池田:私はもともと野球界で仕事をしていた人間ですが、Jリーグの特任理事も務めましたし、Jの複数クラブの社長のオファーも以前いただいたこともあり、それも含めてJリーグのクラブ経営に関与していたこともあります。今はJリーグのアドバイザーを務めさせて頂いている中で、客観的に見ていて、さいたまとファンとサッカー界のためという視点で正直に申し上げさせて頂けるならば、部外者が勝手に言うとお叱りを頂くかもしれませんが、レッズはもっと頑張らないといけないと思いますし、アルディージャももっともっと頑張らないといけないと思います。

レッズは本来Jリーグの中で圧倒的No.1であり続けなくてはならない存在と歴史のクラブですし、アルディージャはレッズをパリ・サンジェルマンと例えるとマルセイユのような、対局感のある個性の際立つ存在になれるクラブだと個人的には思います。その二つの要素がもっと強く成長するだけで、さいたまは「日本一のサッカーの街」として更に発展することができる。なんとなく今は、鹿島の“メルカリアントラーズ”や神戸の“楽天ヴィッセル”の勢いや経営のほうが、元気がある感が、サッカー界を超えて日本中に広まってしまっている。サッカーの街として、鹿島や神戸といった地域がより元気になっていくことでしょう。

さいたまは、この2つのクラブが頑張ってさいたまのサッカー熱がさらに上がれば、ファンを超えてさいたまの地域全体がより盛り上がって、さいたまのサッカー熱が勢いを増して、日本全国や日本中のサッカーファンの憧れの地域に発展し続けると思います。レッズがJリーグの中でNo.1として突出するととともに、浦和レッズと大宮アルディージャが良い意味でもっともっとライバル関係が出てくると、それはさいたまと日本のサッカーにとっても素晴らしく良いことに違いないと私は思います。

一方で、その二つの要素を元にさいたまのサッカーがより一層盛り上がってくれば、サッカーの街としてより一層発展するとともに、その裏で、スポーツブームの時代だからこそ、サッカーが牽引するかのごとく、さいたまにより一層様々なスポーツ文化が出来てくるはずです。サッカーに触発されてスポーツ文化が多様に育まれる。そうなってくれば逆にサッカー自体も刺激を与えられるので、相乗効果で、「さいたまのスポーツ」がさらに盛り上がると思います。物事は一辺倒では刺激が少ないのです。もっともっと多様な刺激が発展を促すのです。サッカーでも、スポーツでも多様な刺激が地域を元気にするのです。この街はもっともっと多様な刺激があったら、さいたまで生活している多くの方々の毎日が楽しくて、豊かで、幸せになるのにと思います。

ローカルスポーツの拠点の重要性

UF:さいたま市には、埼玉スタジアム、さいたまスーパーアリーナの大規模施設なども点在しています。

池田:埼玉スタジアムは少し街から遠いですが、既にアイコン的な場所になっているので、それはそれで素晴らしいと思います。スーパーアリーナは立地条件もいいですし、施設としても名前の通りスーパーだと思います。それにそぐうだけの施設だと思います。ただ非常に大きな施設ですので、そこで行われるものは大規模なコンテンツに限られますし、全国規模、関東圏全域から集まってくるような“ナショナルコンテンツ”にならざるをえませんので、ローカルスポーツの集約点の場所という意味では違うのかなと思います。ローカルスポーツで、3万6千人のアリーナを埋めるのは至難の技です。さいたまで生活する方々が、スポーツをきっかけに集う、さいたまのスポーツを新たに“観にくる癖”が生まれるきっかけとなる場所、身近で馴染みの深い“ローカルアイデンティ・地域のアイコン“にはなりにくい。

UF:サッカーは、浦和レッズ、大宮アルディージャ。女子フットサルに、さいたまサイコロ。野球は、埼玉西武ライオンズ、埼玉アストライア、卓球はTT彩玉、バスケは埼玉ブロンコスなど、スポーツチームがそれぞれ存在をしていますが、まだまだサッカーだけの色は強いかと思います。

池田:130万人もの大都市の中で、なぜBリーグが盛り上がっていないんだろうというのが不思議なぐらいで、神奈川や千葉では、Bリーグがもっとファンが多く、多くの方々がアリーナに観戦に集まっています。バスケットボール一つを考えてみるだけでも、もっと地域の人たちが集うようなスポーツのランドマークみたいなものがあっても良い。さいたまスーパーアリーナはナショナルコンテンツの象徴であるので、さいたまのローカルスポーツチームのホームにはなり難い。個人的には、むやみに箱物(ハコモノ)を作る時代ではないですし、地域間格差もあるのでハコモノ建設を一様に唱えるのは好きではないのですが、さいたまには、この大都市マーケットの中でまだサッカーしかないイメージが強すぎることも、余地の裏返しであり、もっと多様なスポーツやエンターテインメントなどのコンテンツを生み出していくための“装置・ハード”、具体的には、さいたまスーパーアリーナよりもう少し小規模の、さいたまの人たちがスポーツをきっかけに集う、ローカルスポーツ拠点のアリーナなどがあっても良いと考えるのは自然のことだと思います。

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